異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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影を乗り越えて

 艦娘のコピーである『影』は全て撃破することが出来た。自分と全く同じ能力を持つ相手ということで苦戦したものの、今この場で成長することで切り抜けた。

 私、陽炎は、今まで出来なかった『蜃気楼』による移動の隙間時間、無意識の狭間を認識することにより、超高速移動中に別の行動をすることが出来るようになった。

 

「全員無傷!?」

 

 一応旗艦なので、仲間への確認。『影』との戦いで損傷があるようなら、最悪撤退してもらうまである。ここまで来て戦いを終わるわけにはいかないのだが、怪我人が進むわけにもいかない。

 パッと見、疲労はあれど傷付いた者は見えない。一番疲労が溜まっていそうなのは長門さんと陸奥さん。戦闘中にクールタイム度外視で守護者の力を連続使用していたため、少しだけ休憩していた。私も無意識の狭間に意識を向けた『蜃気楼』を使ったことで、大きく疲労している。クールタイムは必要なのだが、その時間は僅かで済みそう。

 

「大丈夫だよお母さん!」

「うん、よくやったねミコト」

 

 戦闘終了直後に私に抱きつくように飛びついてきた。緊張感が無くなるものの、大喜びなのは構わない。初陣で精神的に嫌な目に遭わされたわけだが、木曾さんの叱咤激励のおかげで吹っ切れ、見事勝利を収めた。

 やはり精神的にかなり幼い。生まれて今日で3日というのもあるだろうが、元々がレ級であるために性質的に幼いということも考えられる。『黄昏』もそうだったが、凛としているように見せて実際は感情的だった。ミコトも例外では無かったようだ。

 

「お母さんは大丈夫なの? なんか凄い動きしてたけど」

「ちょっと疲れてるけど大丈夫。少しだけ休憩したいってくらい」

「それには賛成だ。太陽の姫には万全な状態で行きたい。クールタイムが終わるまで待ってもらえないだろうか」

 

 長門さんから言われ、みんながそれに同意。怪我はしていないが弱体化はしているとなったら、さすがにそのままで向かうわけにはいかない。長門さんも陸奥さんも、残り数分で大丈夫だというので、その時間だけはその場で待機とした。

 しかし、ここは戦場。ここから少し先に行けば、敵防衛線と戦う強襲部隊と合流することになる。私達の仕事は防衛線と戦うわけではなく、そこを突き抜けて太陽の姫と決着をつけることだ。あまりここで待機していても、強襲部隊の戦闘に支障が出てしまうかもしれない。

 

「ここで留まっているのも良くないと思うから、先には進もう。予定よりもゆっくりでいいから」

「そうね。私達のせいであっちの邪魔になっても困るもの」

 

 休憩したいのは山々だが、それはせめて防衛線を抜けてからにしよう。息をつける時間があるかはわからない。向かっている途中でも襲われる可能性は充分にある。

 

 

 

 私達が戦っていた向こう側でも、同じように『影』との激戦を繰り広げていた。しかし、私達が木曾さんに活を入れられたように、あちらも1人が中心となっていた。

 そうなれる人物は他でも無い、というかそうとしか思えない人物。ネルソンさんである。

 

「如何に我々と同じ姿であろうとも、我々では無いのだ! 敵である時点で、それに余が負けるわけが無かろう。ならば、貴様らも負けるわけが無い! 進め!」

 

 敵もネルソンタッチを仕掛けてくるのにもかかわらず、ネルソンさんはそんなことお構いなしにネルソンタッチを仕掛けている。サウスダコタさんとプリンツさんも、ネルソンさんに引っ張られていた。

 

「そうだ、負けるわけが無い! アタシに勝てる奴はキリシマくらいだ!」

「Feuer! Feuer! 私のそっくりさんなんて簡単だよ!」

 

 似たような顔の敵が出てこようが、あのネルソンタッチには関係無かったようだ。常に自信満々であるというのは、こういうところで大きな利点になる。

 ネルソンさんの勢いがあまりにも強いので、同じ力を持つにしても周囲の鼓舞が出来ない『影』もそれに気圧されているようにすら見えた。

 実際、周りには『影』以外にも防衛線を守る深海棲艦達が群れを成しているのだが、それすらも巻き込んでネルソンタッチを繰り出しているため、敵は次々と薙ぎ倒されていく。

 

「あたし達は常にアクィラの艦載機で対空訓練してたんだから、Imitation(模造品)だろうが関係無いよ。でしょ、ハツ」

「当然だ。全く同じな分、当てやすいだけ余裕がある」

 

 防空組であるアトランタさんと初月は、アクィラさんを筆頭とした『影』の空母隊の空襲を全て受け止めてしまっていた。たった2人なのに、防空性能は以前見た時よりも段違いに上がっており、数日前のコピーである『影』の空襲程度なら軽くいなしている。

 そもそもアトランタさんが言う通り、訓練をあの空襲で行なっていたのだから、初めて見る敵の攻撃が見慣れた攻撃であるというありがたい矛盾が発生してくれているおかげで、余計に扱いやすいとのこと。

 

「アトの防空が敵対するってのは、こっちとしては結構heavyだけどさ!」

「違いないねぇ。でも、その分あっちの2人は引き付けられるんだから安心さぁ!」

「私達は、今の動きを続けましょう!」

 

 こちらの空母隊は逆にアトランタさんと初月の『影』にかなり苦戦しているようだが、艦載機が全滅することは無い。空襲が食い止められているのみで、あちらの2体を常に引き付けている状態を維持し続ける。

 空襲で防衛線を崩すことは出来ていないのだが、それはネルソンさん達に余裕が出来るまでの辛抱。むしろ『影』を引き付けている分、他が戦いやすくなる。これが終わるのも時間の問題。

 

「五月雨と組むのは一番やりやすくて助かる」

「私も、菊月ちゃんと組むのは一番慣れてるかも」

「お互い、長く戦っているからな」

 

 五月雨と菊月による自分の『影』との戦いは、最初は戸惑っていたようだが、ネルソンさんのアレで鼓舞されたことで普段のノリを取り戻している。特に菊月は、『心眼』まで発揮して『影』を観察し、その実力をいち早く察知していたようだ。

 

「奴らは我々の『(シャドウ)』といえど、今の複製では無いだろうさ。それに、今生まれたばかりみたいな連中だ。五月雨には100%敵わないだろうさ」

「まだ生まれて数日ってことかな。だったら私は負けないよ。経験が違うんだから」

「ああ、違いない。この菊月も、奴らとは比べ物にならない経験をしてきた。単純に複製出来るわけが無かろう」

 

 五月雨と菊月の経験数には誰も敵わない。いくら強かろうが、2人は今までの経験からその全てを看破し、それを軽く乗り越えてしまうだろう。それが自分の複製であろうと、それは過去に自らが経験したことをやっているに過ぎない。それ故に、2人には勝つ術がもう頭の中にある。

 最古参の心強さはここにもあった。木曾さんも、そういうところから勝てると自信を持って言っていたのかもしれない。実際木曾さんは真っ先に勝ったくらいだし。

 

「阿賀野ってばあんな感じなの!? 結構厄介じゃなぁい!?」

 

 そして阿賀野さんは、自分の『影』と防衛線の深海棲艦に囲まれてギャーギャー言いながらも善戦している。自らと対峙することになっても、その調子を崩すことなく、相変わらずの無反動砲撃で次々と倒していっていた。流石はデキる女。名誉ネルソンタッチ要員として任命されるだけある。

 

「アレの邪魔は出来ないね。クールタイム中にこの防衛線を抜けて、奴の本拠地まで行っちゃおう!」

 

 あれだけの戦いをしてくれているのだから、私達が防衛線を抜けるだけの隙間はしっかり出来ていた。強襲部隊の仕事は充分すぎるくらいに全う出来ている。

 私達が『影』を対処し終えたことが確認出来たようで、アクィラさんがこちらに振り向く。

 

「カゲロー! 今よ今! ここは私達に任せて擦り抜けちゃって!」

「了解! そっちも頑張って!」

Certo(もちろん)!」

 

 クールタイム中であるため最大戦速でもいつもより遅いのだが、なるべく早くこの戦場から離れたいため、全員で纏まって防衛線の隙間を駆け抜けた。

 

「対潜部隊は先に抜けてるわ! あっちもこのImitazione(模造品)と戦ってるかもしれないから、救ってあげて!」

 

 確かに、全員が自分の『影』を相手にしているというのなら、先に向かった対潜部隊も、海中で戦っている潜水艦隊も、私達と同じように『影』と戦っている可能性は非常に高い。というか確実にやり合っている。

 軽巡洋艦として戦いに慣れている五十鈴さんや龍田さんはまだしも、海防艦の子供達にはこの戦いは精神的に負担が大きい。子供にこんな嫌な気分になってもらいたくない。

 

「なるべく急ごう! 対潜部隊のみんなが心配!」

 

 ネルソンさんが止めないほどに暴れ続けているので、防衛線の対処は強襲部隊に任せても大丈夫そうだ。『影』相手でも臆さず、むしろ精神的に余裕まで持っている始末。

 ならば、ここは任せて私達は先を急ごう。さすがは支援部隊。

 

 

 

 防衛線を抜けて少し行ったところで、また戦闘音。しかし、私達の時ほど激しい戦闘ではないようで、そろそろ終わっているのかもしれない。

 この頃には私達のクールタイムは終了。いつでも全力を出せる状態にはなっている。

 

「五十鈴さん!」

「陽炎! ごめん、ちょっと手伝って!」

 

 戦闘中の五十鈴さんを発見。あちらもこちらがここまで来たことが確認出来たためか、すぐに救援依頼。

 特に苦しいのは海防艦の子供達のようで、自分とそっくりな敵が襲い掛かってくるという状況に驚きながらも必死に抵抗していた。今回はほぼ対潜特化の兵装であるため、目の前の敵を攻撃することがかなり難しい。爆雷を放り投げて牽制するくらいしか出来ることが無いのだ。

 

「なんなんしゅか! これ、なんなんしゅかぁ!」

「なんで敵があたいの格好してんだよぉ!」

 

 占守と大東は大混乱。なんとか耐えているが、爆雷を投げてどうにか耐えている状態。

 

「み、みんな、がんばって! あれは、てき、だから!」

 

 その中でも、松輪は健気にも勇敢に戦っていた。覚醒したことで得た危機回避からの攻撃でどうにか応戦しているが、松輪の『影』も同じことをするため、やはり悪戦苦闘。

 

「いいところに来てくれたわぁ。陽炎ちゃん、子供達の目を隠しておいてくれるかしらぁ」

 

 そんな中、龍田さんが自分の『影』と戦いながらも海防艦達のことを私達に任せてきた。どういうことかはわからないが、その言葉は何処か確信めいたものを感じる。

 龍田さん自身、こんな戦闘でも余裕があるようにすら見えた。『影』との戦いも、ただただ主砲の撃ち合いしかしていないくらいである。海防艦の目を気にして本気で戦っていない。

 

「みんな、ちょっとこっちに来なさい!」

 

 子供達をこちらに引き寄せ、龍田さんに言われた通り目を隠す。何も見えないように抱きしめてやるのが一番手っ取り早い。

 松輪は私のところへ、占守は手近だった大鷹のところへ、大東は一番慣れているからか夕立のところへと向かい、視界を塞いだことを龍田さんは確認した。

 

「もう、いいわね。ちょ〜っと、見栄えが悪いから、子供達には見せられないのよね〜」

 

 主砲を艤装に番えて手放したかと思うと、艤装に番えていた薙刀のような武器を手に取った。これは今までに見たことのない龍田さんの兵装。何かあるなと思っていたが、実際は一度も使っていない。

 

「ああ、龍田がアレ抜いたら心配はいらねぇ。戦場では一回も見せてない、龍田の()()()()だ。あのコピー共もそれは知らないだろ」

 

 木曾さんが言うには、龍田さんも木曾さんと同様に近接戦闘の使い手らしいのだが、ここに来てから一度たりともそれを見せていないという。訓練の時に一度見せてもらったそうなのだが、木曾さんでも惚れ惚れする程の技なのだとか。

 そしてそれを今から目の当たりにすることになる。龍田さんが軽く構えたかと思うと、まるで踊るように薙刀を振るった。

 

 瞬間、龍田さんの『影』の首が飛んだ。

 

「えっ!?」

「容赦無いんだよ龍田は」

 

 続けてさらに舞い、子供達の『影』を一刀のもとに斬り伏せる。これは確かに子供達には見せられない。自分と同じ姿の敵の首が次から次へと飛んでいくところは、いくらなんでも残酷すぎる。

 子供の前だからと常に手を抜いていたことが、この『影』との戦いでは役に立った。この戦場での姿しか見ていない状態で『影』を作り出していたのだから、隠していた実力は再現出来ない。

 

「はい、おしまい。私達の仕事は対潜なんだから、こういうことは極力やりたくないのよね〜」

 

 あっという間に全て片付けてしまい、薙刀をまた艤装に番え直す。対潜部隊の一番の実力者は龍田さんだったわけだ。爪を隠し続けていたわけだが。

 

「私達はまた潜水艦の子達の援護に戻るわ。貴女達は決着をつけてきて」

「う、うん、了解。よろしくね」

 

 慣れているであろう五十鈴さんが、改めて対潜に戻る。

 私達は正直、呆気にとられていた。こんなに簡単に終わらせてしまうなんて考えてもいなかったわけで。

 

 

 

 改めて、ここから決着をつけに向かう。決戦の場は、あの渦潮の海域となるだろう。太陽の姫は出てきてくれるだろうか。

 

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