異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
太陽の姫との最後の戦いが始まった。今回はもう滅ぼし合いだ。こちらが勝てば世界は救われる。あちらが勝てば世界は滅ぼされる。中間はもう無い。これが本当に最後である。
太陽の姫曰く、依代の少女自身が滅びを望み、巫女は友人が欲しいという願いを歪んだ形で叶えたもの。柵を断ち切るために巫女の手で最愛の者を殺させるのは、太陽の姫が愉しむためと曰った。
これはもう絶対に許せない。私、陽炎がこんな思いをすることでは無い。コイツが愉しむためだけで私の父さんが死んだのかと思ったら、虫唾が走った。
「アンタはもうダメだ。ここで滅ぼしてやる」
「ヤッテミルガイイ、対トナル者。人ノ子ガ我ニ何処マデ手ガ届クカ、見セテモラオウカ」
こちらは12人だが、あちらは太陽の姫たった1体。しかし、あちらは困ったことに邪神、すなわち神である。本来ならば、私達人間では勝ち目が無いとすら言える敵だ。
それでも、私達は勝たなければならない。艦娘として、世界を守る者として、例え勝ち目が薄かろうとも立ち向かうのだ。
「みんな、やるよ!」
私の言葉でみんなを鼓舞出来るかはわからない。だが、今ここで一番前を向かなくてはならないのは、この部隊の旗艦であり、太陽の姫の対となる者である私だ。だからこそ、ここで私が声を上げた。
敵が神であろうが関係ない。それは深海棲艦の親玉なだけであって、今までやってきたことと変わらないのだ。どれほど威圧してこようが、やることは今まで通りに戦い、目の前の敵を殲滅するだけ。
「やるわよ。やってやるわよ。私だって、太陽の姫に全部壊されたんだから!」
私の声に真っ先に反応したのは、巫女であるミコトでもなく、好戦的な夕立でもなく、年長者である長門さんや陸奥さんでもなく、因縁の強い村雨だった。
ここにいる者の中でも、私と並んで、むしろ私以上に被害が大きいのが村雨だ。私と同じ10年前に同じように全てを破壊され、私はそもそも対となる者だったおかげで最後の段階までは行かなかったが、村雨はそのまま巫女にされているのだ。本人を目の前にして、その恨み辛みは爆発していた。
「ぽい! 全部終わらせてやるっぽーい!」
「おう、やってやるぜ! 刀の錆にしてやらぁ!」
それに触発され、次々と声を上げる。相対したことで植え付けられかけた恐怖を振り払い、一歩二歩と踏み出した。
「慄カズ前ニ歩ミ出タコトハ認メテヤロウ。ダガ、愚カナ人ノ子ノ手ハ、我ニハ届カヌ」
奴はやたら強い水柱を攻防一体に扱う曲者。あれが何かは未だにわからず、それの突破方法もわからない。そもそも砲撃を止めるという謎の力まで発揮するそれは、どう使われても不利にしかならない。
それを回避するには、常に動き続けることと、何度もフェイントをかけることくらいしかない。止まっていたら確実に足下からやられる。
「動き回って! 攻撃を止めないで!」
出来ることは今はそれくらい。全員が『影』と戦ったことで成長出来たのだから、そこで得た力を存分に発揮し、全ての力を出し切って
「まずは私達だ。景気良く行くぞぉ!」
「勿論!」
まずは長門さんと陸奥さんが並んで構える。的は大きく、一斉射でも狙いやすいだろう。あの勢いがあれば、あのわけのわからない強度を持つ水柱もブチ抜けるかもしれない。
「行くぞ、陸奥! 一斉射、てぇーっ!」
そして、間髪入れずに撃ち放った。今までよりも強烈な勢いで、火力すらも上がっているような一斉射。あんなものに巻き込まれたらひとたまりもない。私も脱力回避で避け切れるかわからないような量である。
それに対して太陽の姫は、相変わらず持っている棒を小さく振るった瞬間、一斉射の砲撃を遮るかのように水柱が幾重にも立ち昇った。まるで何度も何度も魚雷が爆発したかのような衝撃。
その水柱に包まれるように、一斉射は全て防がれてしまった。1つの弾丸も届くことなく、太陽の姫はその場から動くことすらしていない。
「相変わらずD型の攻撃は避けることすらしないね!」
「それなら、夕立突撃するっぽい!」
ならばと新たに得た守護者の力の模倣を得た夕立が太陽の姫に肉薄。砲撃が呑み込まれるのだとするなら、そんなこと出来ないくらいに速く撃ってしまえばいいと突撃した。間宮さんの模倣なら、水柱など喰らうことなく攻撃を当てることが出来ると考えた。
正直かなり危険な選択だと思うが、確実性があるのもこの手段。流石に格闘まではしなかったが、ただでさえ目にも留まらぬ早業を、避けるのも難しい超至近距離で繰り出すことが出来れば、当てることが出来るかもしれない。
しかし、撃とうとした夕立の足下が波打ったかと思った瞬間、一斉射を呑み込んだものと同じ水柱が発生。まるで予測していたかのように吹っ飛ばし、その砲撃を不発に終わらせる。
「ぽい!?」
「すぐに避けな夕立!」
打ち上げられたら恰好の的。現に、太陽の姫との初戦はこれで磯波がやられている。夕立はまだ空中で姿勢を変えられるが、距離が近いためにかなりシビアなタイミングが求められる。とはいえ夕立なのだから、その辺りの心配はしていない。
「っらぁっ!」
空中で魚雷を放ち、即座に撃ち抜いた。目眩しと同時に爆風を帆で受けて緊急回避のバックステップ。太陽の姫自体も、さらにそれを予測していたか夕立への迎撃を最初からしていなかった。
「なら、今度は私よ!」
このタイミングで接近していたのは、夕立と同様の技能に覚醒している村雨。こちらは間宮さんの模倣ではなく伊良湖さんの模倣。夕立が魚雷の爆発により作った目眩しの瞬間を狙うように一気に近付いて、超至近距離で撃とうと動いていた。
「『雲』カ」
「その名で呼ばないでくれる? 私には村雨っていう誇れる名前があるんだから」
そして砲撃。夕立と違って村雨はM型異端児による砲撃であるため、太陽の姫の動きは今までと少し違う。
身体を少しだけ動かし、その砲撃をさらりと避けたかと思いきや、またもや棒を小さく振るった。瞬間、何処からか現れた艦載機が数機、村雨に向かって特攻。直撃もまずいが、至近距離の射撃や爆撃もまずい。というか何もかもがまずい。
「無闇に近付かない!」
それを萩風がしっかりとカバー。超低空飛行の艦載機のおかげで、対空砲火が出来ない装備でも何とか出来る。拳のように振りかぶった主砲ですぐさま艦載機を墜としていくが、太陽の姫が一瞥した瞬間、萩風の足下から水柱の前兆。
かち上げて無防備にしてからの集中砲火を浴びせるのが奴の基本戦術。それは近かろうが遠かろうが放ってくる厄介すぎる技であり、隙を突いてどうにかなるものでもなかった。ほとんどノーモーションで使ってくるのもさらに厄介。
「んならコイツでどうだよ!」
ならばと木曾さんがありったけの魚雷を放った。回避しようが無いレベルの数が一斉に太陽の姫に突っ込んでいくのだが、困ったことに太陽の姫には
一応背中にある艤装の拳が支えているような姿ではあるものの、本体は上半身だけの亡霊のような姿だ。故に、本体への致命的なダメージにはおそらくならない。
「磯波!」
「了解です」
だが、木曾さんの狙いは直撃では無い。直撃する前に砲撃によって撃ち抜くことで、一斉射を食い止めた水柱とほとんど同じくらいの爆発を引き起こした。1本撃ち抜いた時点で次々と誘爆し、結果、とんでもない大爆発に。効くかはわからないが、これで視界を塞いだようなもの。
この小さな隙を突くために、魚雷を放った瞬間に木曾さんは急速に接近。自ら作り出した水柱を突き破っての接近戦を考えた一撃。
「小賢シイ」
しかし、ここで主砲を放ってきた。威力がやはり並ではなく、一撃で水柱が全て霧散するレベルの砲撃が2発、3発と放たれる。直撃を喰らったらただでは済まない。掠っても重傷は免れないのは、初戦で実証済み。
これに関しては一度見ているのだから、全員が対策済みというか慎重に回避。大きく回避して衝撃波も喰らわないように動き回ることで、何とか何事もなく終わらせる。流石に木曾さんもすぐさま撤退して事なきを得る。
「目眩しもダメかよ。だよな、それが効いてりゃ千里眼もクソも無いもんな」
「せめて水柱をどうにかしないと!」
効くかもわからないという絶望的な状況かもしれないが、私達は誰も折れていない。一筋の光を探し求めて出来る限りの攻撃を全て繰り出していく。
そもそもあの水柱は一体何なのだ。砲撃を食い止め、足下を揺らし、こちらのやることを全て防いでくる無敵の壁。
以前に私がその身で体当たりをして突き抜けることは出来たが、それ以外では越えられていない。質量が必要だとしても、それなら一斉射でどうにかなっているはず。
なら、M型である必要があるのか。オカルト要素が非常に強い、そもそも邪神という斜め上の存在だからこそ、攻撃にも在り方とかそういうものが関係してきそうではある。体当たりで突破したときは私はD型異端児ではあったが、そもそもの在り方が選ばれし者側だったから通用したとかか。
「ミコト!」
「了解ぃ! 撃つよぉ!」
ならば、一斉射と同等の火力を持つM型異端児、陽炎の巫女たるミコトによる渾身の砲撃をお見舞いしてやる。選ばれし者の中で最も攻撃力が高いのだから、これすらも食い止められたら正直打つ手がなくなる。
「……ホウ」
それに対して、奴は水柱を使わずに素直に回避を選択した。当たり前だがミコトの砲撃は戦艦による一撃。掠めるだけでも大きなダメージになる。だからか、太陽の姫はそこそこ大きめな回避。
やはりM型異端児の攻撃は確実に回避を選択する。ということは、水柱はM型異端児の攻撃ならば貫けると考えた方がいい。一斉射はD型異端児と通常の艦娘による連携であるため、水柱により全て弾かれた。夕立の砲撃もおそらく食い止められたのだと思うが、それ以上に効果的なかち上げによる対処。村雨はM型異端児なのでしっかり回避。
「それなら、この質量ならどうかしら!」
回避先を計算した霧島さんが鋏を振りかぶっての突撃。砲撃が効かないであろうことが一斉射で判明しているため、下手したらそれ以上の突破力のある艤装による格闘。
しかし、届かない。接近を許す間もなく、霧島さんの足下から水柱。先程の夕立と同様にかち上げられる。霧島さんは夕立とは違い、空中で姿勢を整えることは出来ないため、これは大ピンチ。
「計算済みよ!」
霧島さんはこの状況も計算しており、かち上げられた瞬間に艤装が変形しており、空中で主砲を構えていた。水柱以上の高さに上げられることまで考慮した、自分の身を犠牲にしかねない諸刃の剣。
「届カヌ」
先程の村雨と同じように、艦載機が群がるように発艦されて霧島さんに襲いかかる。主砲を撃つ瞬間に眼前に現れ、その身で主砲の位置をズラすことで砲撃があらぬ方向へ飛んでいってしまった。
こうなったことで、霧島さんがほぼ無防備に。すぐに救わないと、艦載機にズタズタにされてしまう。それだけは避けなくてはならない。
「霧島姉!」
ここでもミコトが活躍する。艦載機には艦載機をぶつけるのだと、主砲を放った流れでそのまま艦載機も発艦。霧島さんに群がる艦載機に対して、同数の艦載機によって押し返し、霧島さんにどうにか着水してもらう。
「なら、私が行く!」
これだけの猛攻が繰り広げられたのだから、『蜃気楼』による接近で確実に隙を突く。私の攻撃はM型異端児の一撃なのだから、奴には絶対に効果的だ。
脱力した瞬間、無意識の狭間へ。水飛沫も砲撃もその全てがゆっくりと流れる空間で、私だけが普通の動きが出来る。太陽の姫だってこの空間ではスローモーションになり、その隙を突く。
はずだった。
「貴様ニ出来ルコトガ、我ニ出来ヌト思ウタカ」
この無意識の狭間の空間で、太陽の姫も私と同じように動いてきた。
「なっ!?」
「イヤ、貴様モ
ここでようやく私にも気付けた。太陽の姫が予測したかのように動いたのは、常に『蜃気楼』と同じ状態だったからだ。一斉射もゆっくり見えていたのだから瞬時に水柱で対応出来るし、夕立や村雨、霧島さんの突撃も、ゆっくりと見えていたのだからいくらでも対処が出来る。
「貴様ハマダ目覚メタバカリト見エル。ナラバ、先ニ摘ミ取ルトシヨウ」
私が攻撃に転じる前に、太陽の姫から主砲が放たれた。1発どころではなく、何発もが私に向かって伸びてきている。その砲撃もゆっくり見えるため回避することは容易なのだが、近付く事は出来ない。悔しいが、一度これは接近を諦めて離れるしかない。
私の成長した『蜃気楼』、無意識の狭間すらも、太陽の姫には常時発動する技能。こんなもの、どうやって対処すればいいのだ。