異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
太陽の姫の引き起こす謎の攻撃のタネは理解出来た。ステルスのような機能でそれそのものが見えなくなっている主砲と、火力が無い代わりに『蜃気楼』下でも通常の挙動に見えるほどの速度を誇る魚雷。
この2つがどうにか出来れば、太陽の姫は攻略出来る。超低空飛行の艦載機はもう二の次。全ての攻撃を防ぐ水柱を発生させる魚雷は、最優先で処理しなくてはいけない。
それがわかった途端、太陽の姫は見せしめとして木曾さんを始末しようと水柱により孤立させ、主砲を放つ定番の攻撃を仕掛けてきた。実際これをされると、簡単には回避出来ない文字通りの必殺技だ。空中で姿勢を変えられるのは夕立しかいない。
だが、木曾さんは一味も二味も違った。空中で魂を込めた一撃により、軍刀と引き換えに、その砲撃を斬り払ってしまった。
「……人ノ子ハソコマデ成長スルノカ。侮レヌモノトハ思ッテイタガ、ソウカ、ソウカ」
能面の奥の瞳が、楽しそうに歪んだ。あの邪神のことだ。成長した人間をさらに上から叩き潰すことに愉悦を感じているとかそういうことなのでは無いだろうか。とことん性根が腐っていそうである。
「貴様ラガ、コノ世界ノ希望デアルコトハ理解出来タ。ナラバ、ココデ貴様ラヲ滅ボシテシマエバ、我ノ思ウガママトイウコトダ」
再び視線が木曾さんの方を向く。軍刀を失ってしまったので同じことをもう一度やれと言われたら無理。そこを狙って、木曾さんを再度始末するために動き出した。
太陽の姫にはプライドも何も無い。如何に勝利を収めるか、そして
心が折れたらその時点でおしまい。1人崩れたらそのまま総崩れ。その起点を木曾さんにしようとしているのは一目瞭然だった。こちらが奮起するのも木曾さんが起点だったからか、こちらを崩すのも木曾さんからと。
「ヤハリ、貴様ヲ手折ルコトヲ始マリトシヨウ」
再び木曾さんの足下から水柱が立ち昇る。軍刀を失った今、先程と同じことをされたらまず間違いなくやられる。木曾さんに残された武器は魚雷しかなく、敵砲撃に対する行動は、回避以外存在しない。
故に、ここからは全自動防衛が動き出す。
「同じことを二度も通すと思っているのかな」
木曾さんがかち上げられる寸前に、衣笠さんがその襟首を引っ張って範囲外に退避させた。急なことだったので軽く首が絞まったようだが、アレを喰らうよりはマシ。
「もう同じことはさせない! 木曾が光明を齎してくれたんだ! 意地でも魚雷発射管を破壊するぞ!」
長門さんが叫ぶ。この場にいる全員が、それに呼応して邪神を睨みつけた。
あの木曾さんの行動が、全員に火をつけていた。元より誰も折れていなかったが、より一層前向きに、相手が例えインチキまみれの邪神でも、この場で負けるつもりは無い。
勿論私、陽炎にも火がついた。木曾さんの魂のこもった斬撃を見て、私の中に生まれようとしている何かの鼓動が強くなったのを感じている。
「ヤレルモノナラヤッテミルガイイ。ソシテ、自ラノ愚カサト無力サヲ知ルノダ」
「無力かどうかは、まだわからないわよね」
ここで陸奥さんが伊良湖さんの模倣により一気に接近。水柱を上げる余裕など与えずに、間宮さんの模倣でゼロ距離砲撃を放つ。守護者の力総動員である。
しかし、移動の段階からスローで見えているのなら、近付いた時点で『空』の回避が実行されており、ゼロ距離で放ったはずの砲撃はすでに回避済み。小さく間合いを取られた瞬間にまたもや艦載機が放たれる。
「むっちゃんさんはやらせないっぽい!」
そこに今度は夕立による守護者の力。放たれた艦載機を瞬時に全て墜とす。艤装を破壊するそれを応用したようなものなのだが、数が多い分、降りかかる負荷もかなり大きめ。あの夕立とて、この一回の攻撃で少しだけ顔を顰めた。
「ソウカ。ダガ無意味ダ」
しかし、その隙に陸奥さんが水柱でかち上げられる。艦載機と同時に魚雷も放っていたようだ。常に『蜃気楼』の状態ということは、無意識の狭間の中でもあらゆる攻撃が出来てしまうということでもある。陸奥さんが近付いた時には艦載機を発艦させ、それと同時に回避行動を取りつつ魚雷も放っていたと。
私も常に『蜃気楼』状態ならば、それが全て判断出来るのだが、申し訳ないがもう少しだけクールタイム。まだあちらは使えない。
「陸奥姉は、やらせなぁい!」
そして今度はミコトが飛び込んできていた。水柱の陰から主砲を構え、太陽の姫が砲撃に移る前に主砲を放つ。
このタイミングで放ったことで、水柱は霧散。砲撃自体は太陽の姫が繰り出し続けている『蜃気楼』によって回避済み。そしてそこから砲撃。かち上げられた陸奥さんには回避する術は無いのだが、まだ間宮さんの模倣がある。
「どうせ撃つんでしょう! だったら、その背中の輪っかごと吹っ飛ばしてあげるわよ!」
先程の木曾さんと同じ。かち上げられ、姿勢がどうにも出来ない状態からでも、瞬間的に連射が出来れば、砲撃を回避しながら光背まで撃ち抜ける。
これは陸奥さんの渾身の一撃だった。艦載機から誰かが守ってくれることを信じ、かち上げられることも想定し、ここで光背に存在する見えない主砲を撃ち抜く手段に打って出たのだ。
「小賢シイ真似ヲ」
しかし、それも見えている太陽の姫には傷一つつけられなかった。砲撃を放った直後にすぐ回避に転じることが出来るというのは本当にインチキ。ある意味、いない場所から砲撃が飛んでくるようなものである。
幸い、陸奥さんの砲撃が太陽の姫の砲撃と空中でぶつかりあったことで致命傷は免れることが出来た。しかし、無傷とまでは行かず、どうしても露出している肌には衝撃と爆風でビシビシと傷を作っていく。
「うおおおっ!」
そして太陽の姫の回避先には、高速移動により回り込んでいた長門さん。陸奥さんが作り出した一瞬を使い、咆哮しながらの砲撃。狙いは光背であり、魚雷発射管も当然厄介なのだが、最も火力があるであろう主砲を潰しに行く。
「マルデ獣ダ。吠エレバ力ガ出ルトデモイウノカ」
それも当たり前のように回避。回避後に即移動出来るのは、常時『蜃気楼』である特権とも言えるだろう。
皮肉めいたことを言われたとしても、避けられても、長門さんは止まる様子は無い。太陽の姫の言葉を無視するように砲撃をやめない。
「陸奥! 一斉射だ!」
「了解! てぇーっ!」
すかさず連携による一斉射。陸奥さんは体勢が崩れている上にまだ着水したばかりだが、長門さんの合図にしっかり合わせて一斉射を開始。いつもは隣同士で乱射するような必殺技だが、今回は向きが違う一斉射。縦と横からの猛烈な砲弾の雨で、回避方向を失わせる。
しかし、脱力回避と同様の回避が可能なのだから、一斉射であろうとも潜り抜け、一斉射の発起人である長門さんに接近する。こうなってしまうと一斉射を続けるのは難しいのだが、そんなこと気にせずに砲撃を止めず、眼前の邪神を狙い続ける。
「何故懲リナイ。貴様ラノ行イハ、全テ無駄ダトイウノニ」
ほんの少しだけ、太陽の姫の声から苛立ちを感じた。無力だと思っていた私達が抵抗をやめず、片手で捻ることが出来るような小物のはずなのに一向に誰も死なない。認めてはいるが、負けることはないと確信している慢心。
「無駄じゃあ無い! 我々の信念が、魂が、貴様を突き崩してやる!」
「ここで諦めるなんて、美しくないじゃない。私達は艦娘、世界の守護者だもの。邪神の1匹や2匹、必ず押し返してやるわ!」
「これが人間の成長、意地だ! 我々は、貴様をここで、破壊する!」
砲撃の衝撃だけではない、ビリビリと空気が痺れるような振動。その魂の揺さぶりが、みんなを、私の魂の鼓動をより一層強める。
「世迷言ヲ」
「でも、私達はアンタがどうやっても諦めないよ」
「当然です。ようやく得られた安寧を、貴女如きに破壊されるのは気に入りませんから」
その一斉射が飛び交うこの空間に飛び込んでいたのは、村雨と萩風。
「一度深海棲艦になったからこそ、この世界が明るいモノだってわかったのよ。だから、絶対に守る。守り尽くす。アンタなんかに壊させない!」
「全てを失ったけど、得られたものがあった。それをまた失わせるわけにはいかないんですよ!」
一斉射の只中でも、その砲撃を避けながら2人は太陽の姫の真後ろに回り込むことが出来た。今まで取ることが出来なかった背後からの砲撃をついに可能とした。
その砲撃は駆逐艦のそれなので、深海棲艦の強固な艤装は破壊出来ないかもしれない。だが、村雨の砲撃はM型異端児の、選ばれし者の攻撃だ。太陽の姫はそれを嫌い、必ず回避する。
「貴様ラ……」
「そっちがやってきたことなんだから、文句は無いよね?」
長門さんと陸奥さんの一斉射も、村雨と萩風の攻撃も回避した先には夕立が立ち塞がる。
「いくら神だからって、人様の心に、土足で入ってくるな!」
ついには間宮さんの模倣を魚雷でやってのけた。才能の塊、異端児駆逐艦の中でも最たる天才は、今この場でもますます成長する。
複数の魚雷による狙いは、光背と艤装。D型異端児故に太陽の姫には効かないかもしれないが、少なくともその衝撃は奴にダメージを与えるはずだ。主に精神的なところに。
「無駄ナコトヲ」
魚雷を回避しながら破壊し、何度目かわからない艦載機の発艦。砲撃よりも危険度は低いが、周囲360度を攻撃する範囲兵器。まるで群がる羽虫を払うかのように、近付いた仲間達を駆逐するため、その全てを嗾けてきた。
「無駄じゃない」
それを、時間をかけるごとに冴えていく衣笠さんの全自動防衛が食い止める。発艦した直後から、周囲の仲間達を守るため、絶対的な守護者の力が十二分に発揮されていた。
ここに来て、衣笠さんは今までで最も成長していた。宣言通り、自分以外の11人をこの場で守り通すことを実行している。今この瞬間だけは、間宮さんと伊良湖さんすらも超えた、本当の守護者になっていた。
「ええ、無駄じゃない!」
その艦載機が破壊される爆風の中から、霧島さんが突撃していた。半壊している鋏を突き出し、ついに手が届く。
「人間は、こんなことくらいでは屈しない。貴女は人間を見縊りすぎなのよ!」
ここで太陽の姫は初めて抵抗らしい抵抗を始めた。魚雷発射管になっている艤装の拳を振り上げ、霧島さんの艤装を殴り付けることで完全に破壊してしまった。その衝撃で霧島さんは吹っ飛ばされるが、まだ諦めずに砲撃を繰り出すものの、それは『蜃気楼』により回避。
疲労があるのか無いのかもわからないが、艤装の拳を動かしたというのは、奴も少しだけ焦りが見えたのではないか。そうしないと自分の身が守れないと判断したからこその行動。
「そう、私達は諦めない。一度屈したからこそ、私は二度と諦めない!」
その行動を見た瞬間、沖波が艤装を狙い撃っていた。拳を使う防御は予測出来たかはわからないが、霧島さんが砲撃を放ち、それを『蜃気楼』で回避することは予測済み。その場所に向けて放っていた。
「諦メナイノハ構ワヌ。ソノ方ガ、苦シムダケダ」
相変わらずそこまでしても当たり前のように回避する。
だが、ここで沖波の砲撃が太陽の姫の方へと曲がった。沖波の後ろ側から、磯波も撃っていた。1人では出来ないが2人なら出来る、私の『屈折』の模倣。
「いくら苦しんでもいい。諦めるより、マシだから!」
この一撃は、ついに太陽の姫の牙城を崩す一撃となる。沖波の、選ばれし者の砲撃を捻じ曲げた『屈折』であるため、太陽の姫にも明確なダメージを与えられる魂の一撃。
いくらスローに見えていても、この『屈折』だけは簡単には避けられなかったようだ。霧島さんの時と同じように艤装の拳によって弾き飛ばした。その時、ついに艤装に傷がついたのが確認出来た。
霧島さんの艤装を破壊した時でも付かなかった傷が付いたのだから、やはり選ばれし者の攻撃は効果的であることが実証された。
「ナラバ、思ウ存分苦シメテヤロウ。貴様ラノ望ミヲ、我ガ叶エテヤル」
傷がついたところで、能面の奥の瞳に怒りが灯ったように見えた。
みんなの魂の鼓動が、私の魂の鼓動を強くしていく。これ以上無いくらいに、私の中で何かが脈動を始めていた。
身体が熱く感じる。力が漲るような、世界の
支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/89704697
MMD静画のアイキャッチ風アトランタ。最強の対空要員。今頃は防衛線の『影』と激闘を繰り広げている頃。リンク先に初月に懐かれる姿もあるのでどうぞ。