異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
仲間達の猛攻を回避し続けた太陽の姫だったが、沖波と磯波の連携『屈折』により、ついに艤装に傷をつけることが出来た。まだそれだけと思われるかもしれないが、一切の傷すらつけられなかった最初と比べたら、大きく戦況が変わった証拠でもある。
太陽の姫は邪神かもしれないが、完全無欠の存在では無い。果てしなく高い壁かもしれないが、乗り越えられないわけではない。相当数使っているとしても、手が届いたことには間違いない。
「まだ止まるな! 撃ち続けろ!」
これで満足なんて出来やしない。あの小さな小さな傷は、勝利への足掛かりになるのだ。長門さんの咆哮でさらに攻撃は激化していく。
そして私、陽炎の中では、何かが脈動を始めていた。クールタイムで力が半減している中、みんなが邪神に立ち向かう姿を目の当たりにして、私は今までにない程に昂っていた。身体が熱い。力が漲る。みんなの魂の一撃が、私の魂を震わせる。
気付けばクールタイムも終わっていた。これでまた『蜃気楼』が可能。だが、いつもよりもクールタイムが短くなっているような気がする。身体が慣れてきたのか、それとも何か別の要因があるのか。
「陽炎、もう大丈夫なの?」
ここで私の側に衣笠さんが来てくれた。あの艦載機を本当に全て墜としてしまっていた。代わりにかなり消耗していることがわかるが、まだまだと言わんばかりに全自動防衛を続ける。
「オッケー。クールタイム終了」
「なら良し」
私が大丈夫そうと分かった時点で、今度は霧島さんの側へと動いていた。今この戦場で一番傷付いているのは、近接戦闘のための鋏が破壊された霧島さんだ。この場で最も傷付いたものを守ることを優先するので、衣笠さんの動きはそれが当然。
衣笠さんは自分の使命を全うするために、黙々と、的確に、確実に動く。守護者の力を全て出し切るため、感情すらも全自動防衛に捧げてしまっているかのように見えたが、その実、一番燃え上がっているのも衣笠さんに思えた。
静かに、だがメラメラと燃え盛る魂に触れ、私の鼓動は、力の脈動は、最高潮に達していた。
みんなが世界を守るために戦っている。選ばれし者とか関係ない。艦娘として、人間として、この世界を邪神の手から守ろうと奮起している。その力を全身に受け、私の内側から力が湧き上がってくる。
「貴様ラハ苦シミタイノダロウ。ナラバ、ソノ望ミヲ叶エテヤロウ。今、スグニ」
艤装に傷が付いたものの、それは擦り傷に過ぎない。艤装が機能不全を起こすわけでもなく、性能が落ちているわけでもない。光背に至っては未だに無傷。奴から攻撃手段は一切失われていない。代わりに、言葉の節々に苛立ちが感じられた。能面の奥にある瞳には、もう明らかな怒りの色が見えた。
長門さんと陸奥さんの一斉射を軽々避けながらも、衣笠さんが破壊したであろう艦載機がまた発艦されていた。何処まで無尽蔵なのだ奴は。
近付けばアレに蹴散らされ、軽い砲撃ならば阻まれてしまう。一度傷は付けることが出来ても、また振り出しに戻された気分。だが、まだまだ諦めない。
「愚カナ人ノ子ハ、ココデ滅ビヨ」
「そんなことさせるわけないでしょ!」
すかさず反論したのはミコトだった。
「僕はまだ生まれたばかりだけど、こんなに楽しい世界を、こんなに優しいみんなを、壊させるわけにはいかない!」
「ナラバ、貴様ガマズ散ルガイイ。貴様ノ身体ハ我ノ手元ニ置クツモリデアッタガ、モウ構ワヌ」
元は自らが一から作り上げた巫女だった存在に今の自分のやり方を反論されたことで、より一層怒りを露わにした。口調は何も変わっていないが、確実にミコトを集中砲火する構え。
対するミコトは、恐怖も焦りも感じておらず、真正面から睨み付けていた。手数だけならミコトは太陽の姫とほぼ同じだけ持っている。主砲も、魚雷も、艦載機も、全てがこの戦場に適した兵装だ。故に、簡単には負けない。
「死ヌガヨイ」
相変わらずミコトの足下から水柱が立ち昇ろうとしていた。かち上げて、姿勢を崩し、光背からの砲撃で撃ち落とす常套手段。だが、私達はそれをもう飽きるほど見てきているのだ。この戦場でも多用しているため、殆ど初陣であるミコトですら、この手段は対策を講じていた。
「そんだけ見せられたら、僕だってどうしたらいいかわかる!」
今まで誰もやってこなかった回避方法に打って出る。ミコトにしか出来ない手段。それは、
ミコトの、陽炎の巫女だからこそのこの一撃は、かち上げられる前に真下にまで来た太陽の姫の魚雷を撃ち抜くことになり、水柱は完全に霧散。体勢を崩しかけるが、少なくともいつも通りのやられ方はしていない。
「下から来るんだから、下に撃つだけ! 僕にはあんなのもう効かない!」
下に放った直後に、さらに真正面へと砲撃を放つ。かち上げられなかったとはいえ、太陽の姫は主砲をミコトに向けて放っていたのだから、それを回避するために逆に撃った。
太陽の姫の狙いは良くも悪くもわかりやすかった。確実に殺すため、照準を急所にしか合わせない。そこに直感的に砲撃を放っていたのだ。ミコトの砲撃と太陽の姫の砲撃は、見事に空中でぶつかり合う、僅かにミコトの砲撃の方が威力が低かったようだが、ぶつかり合ったことにより本来の狙いからズレた位置に飛んでいった。そのため、ミコトは無傷。
強力な威力を持つ主砲、元レ級としてのフィジカルと直感力、そして、陽炎の巫女という選ばれし者の砲撃だからこそ、思惑を崩すことが出来た。
ミコトは太陽の姫の天敵にもなり得るようだった。だからあの時に身体を回収しようとしたのでは無いだろうか。『黄昏』を復活させるというのもあっただろうが、今のように陽炎の巫女になることを危惧していたとも考えられる。
「よく言ったっぽい! ミコトはもっと、この世界を楽しまないとね!」
水柱を崩したミコトがここから反撃する。そこには夕立も参戦し、即席のコンビとして立ち向かった。
陽炎の巫女と、天賦の才を持つ狂犬。2人は当然連携訓練だって経験済み。お互いの長所と短所もわかりきっている。
「当たり前! お母さんと、みんなと一緒に! 僕はこの世界を楽しむんだぁ!」
純粋無垢なミコトの、全身全霊の魂の叫び。これが最後の一雫。
飽和した私の中の魂の脈動は、さらに膨れ上がり溢れ出してくるような感覚。身体が熱い。力が漲る。世界を守るためにその力を振るえと、私の魂が訴えてくるかのようだ。
この力は何のためにある。世界を、みんなを守るためだ。そのために、私は全てを擲つかの如く、溢れ出す力に身を任せる。
「そうだよミコト。この世界は楽しいんだ。辛いことも悲しいこともあるけど、それ以上に楽しいんだ」
身体が軽い。今なら今まで以上の速さが出せるかもしれない。『蜃気楼』からさらに速く、あの邪神すらも手の届かない速さに。
「だから、もうアンタに、邪神如きに、私達の生き方を邪魔させない!」
タンと、海面を蹴った。同時に『蜃気楼』を発動。だが、今までとは全く違う世界が待っていた。
スローモーションではない。
おそらく人間では不可能な、世界に選ばれし者であり太陽の姫の対となる者だからこそ得られた、光の力。私は今、
「もうこの世界から消えてなくなれ!」
静止した空間の中で太陽の姫に接近。飛び交う砲弾を潜り抜け、その能面に向けて砲撃を放った。放った弾はその場で静止してしまうが、絶対に避けられない場所に置いてきた。外れるわけがない。
そして、光の時間は終わる。私の周囲の速度が元に戻り、正常に動き出す。その瞬間、太陽の姫の能面が爆発。私の砲撃が直撃したことを意味する。
「ヌァ……ッ」
ここにいる誰もが驚いていた。何もしていないのに太陽の姫が突然ダメージを受けたようなものだ。艤装に傷がついただけではない、明確にダメージが入った。
顔面を狙ったのにまだピンピンしているのが気に入らないが、今まで常に上に立ち続けていた太陽の姫が、砕ける能面を押さえながらこちらを睨み付けてくる。
「貴様……何ヲシタ」
「決まってんでしょ。アンタを攻撃しただけだよ」
まだ漲る力は衰えない。1回やっただけでは止まらない。クールタイムすら必要ない。魂の脈動はまだまだ力強く続いている。
今だけは、太陽の姫と殆ど同じ状態なのかもしれない。常時『蜃気楼』状態の太陽の姫と同様、力をどれだけ使っても消耗を感じない。みんなの魂の脈動がそれを可能にしてくれている。
「私だけじゃダメだった。仲間がいるからここまで来れた。今だってそう。みんなが魂を震わせてくれたから、私はこんなにも力が溢れてる」
世界に選ばれた者だからこそ、世界を守ろうとする者達の力を集約出来るのだと思う。ここにいる仲間全員が心を1つにし、この世界を邪神の手から守ろうとしたことを、世界自身が私に還元してくれていると言っても過言では無いだろう。
それが私の、世界に選ばれし者の、
「みんなの魂の力、すごく伝わってくる。世界を守るために、絶対に諦めない。だから、私にもっと力を貸して。今なら絶対に勝てる。負けるはずが無い。アイツは1人だけど、私達には仲間がいるから!」
再び光となる。あまりにも速すぎて私にも制御が難しいのだが、やりたいことを最初から決めていれば、身体が勝手に動いてくれる。これもまた、無意識下での戦闘の賜物か。今でも私の艤装は私に従って動いてくれている。私の最後の仲間であり、私に最も近い場所にいる最高の相棒。
そのおかげで、この光速の空間でも、確実に狙った場所を撃てる。能面を押さえる骨のような手。それごともう一発撃ち抜くことで終わらせる。
「我ガ簡単ニヤラレルト思ウナ! 対トナル者ヨ!」
初めて太陽の姫が声を荒げた。その力の脈動により、私の一撃はその手を弾き飛ばすことは出来たが頭を吹っ飛ばすには至らず。
光速の中でも辛うじて反応してくる辺り、やはり邪神と言ったところか。1発目は不意打ちのようなものだったから命中したが、2発目はわかっている状態での攻撃であるために反応出来たと見える。
「我ハ日。不滅ノ存在、全テヲ呑ミコム者。貴様ヲモ呑ミコミ、コノ世界ヲ、全テヲ滅ボス!」
空気が震え、海が波打つ。本気で戦っていたと思っていたが、太陽の姫は奥の手を隠していた。
真っ赤だった太陽の姫が徐々に蒼くなり、まるで日が沈んでいくかの如く昏い色へと染まる。光背は禍々しく歪み、一部が悪魔のツノのように尖った。破壊したはずの能面は修復され、今まで僅かだが与えていたダメージは全て回復。ある意味生まれ変わったかのような変化を遂げた。
それは、私達でいう改や改二と同じようなものなのだろう。改ならぬ
「日ガ沈ムカノ如ク、貴様ラモ沈メテクレル。コノ世界ト共ニ滅ビヨ、愚カナ人ノ子ヨ!」
「お断りだ!」
しかし、それ程の光景を目の当たりにしても、誰も諦めない。負ける気がしていない。
「アンタがどうなろうと、私達は絶対に諦めない。私だけなら無理かもしれないけど、こんなに仲間がいるんだ。負けない。負けるはずが無い!」
漲る力はとどまるところを知らず、それこそ太陽の光のように私を中心に拡がっていく。
仲間が私にこれだけの力をくれたのだ。同じだけの力を、みんなにあげたい。そう思った矢先にこの現象。
「えっ」
最初に反応したのは沖波だった。私の溢れる力に当てられたかのように小さく身を震わせる。それが始まりとなり、ここにいる仲間達が同様に身震いした。そこには負の感情はなく、心地良さそうな表情。
「何、これ」
「すごい……力が漲る!」
「ゲロ様の本当の力っぽい!?」
この海域にいる仲間達全員を包み込むように、私の光は拡がる。赤い海の上では深海棲艦が強化されるように、この私の力の内側では仲間達が強化されるらしい。
太陽の姫は、私が出来ることは全て出来るだなんて言っていたが、それは逆も同じだった。
「私は侵食なんてしない。アンタの言葉を借りるなら、日の光の如く仲間を照らし、日の熱の如く心を熱くさせて、日の焔の如く魂を燃え上がらせるってところかな」
「ははっ、そいつはいい。なら俺達は、陽炎の巫女……はミコトの特権だから、『陽炎の使徒』ってところか!」
そんなつもりは毛頭無いのだが、木曾さんのこの一言で、仲間達の魂はさらに燃え上がる。
この力の奔流はまだまだ増していく。もう太陽の姫なんかに、恐怖も何もない。