異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
合図と同時に、ここにいる全員が太陽の姫に向けて攻撃を放った。主砲と魚雷が一斉に向かっていき、そして回避する間もなく、太陽の姫はその攻撃に呑み込まれていった。
「コノ我ガ、愚カナ人ノ子如キニ……!」
爆音と爆炎の向こう側から、太陽の姫の最期の言葉が聞こえてきた。それでも攻撃はやめない。ここで手を止めていては、勝てるものも勝てない。ここで消え去るまで撃ち続ける。
奴も邪神とはいえ深海棲艦のトップみたいなもの。例に漏れず倒せば消滅だろう。必要以上に撃つことで、絶対に終わらせる。
しばらく撃ち続けても反撃が来なくなったことで、一旦砲撃を止める。慢心しているわけではなく、もうおそらく大丈夫だろうと感じたことで、1人また1人と砲撃を止めていった。あまり撃ちすぎても、奴がどうなったかがわからなくなる。
残酷なことを言うようだが、出来れば消滅するところをその目で見ておきたかった。撃っていたのに実は海中に逃げており、不意打ちでいきなり現れるという可能性も無いとは言えない。
「これで……終わり……?」
全員で狙いを定めていた場所から爆炎が引いていき、その詳細が露わになる。
そこには、これ程の砲撃を受けていてもまだ身体が残っている太陽の姫が鎮座していた。しかし、光背も艤装も粉々に破壊されており、能面も半分が砕け散って、その表面を骨の手で隠すように押さえ付けていた。服もボロボロで、如何にも瀕死であると誰が見ても理解出来る程。
よく見れば、骨の指の先からチリチリと消滅しているのが確認出来た。深海棲艦を撃破した時と同様の現象。
「……我ハ……マダ終ワラヌ……」
この状態になっても、まだ負けていないという。目の光は衰えておらず、動くことも攻撃することも出来ないのに、絶望など感じておらずこちらを睨みつけてきていた。
「アレ、依代じゃなくて影だから、倒してもまた出てくるのよね……」
ここでそれを一番よく知る村雨の言葉。そう、ここで依代の存在が関わってくる。
村雨が言うには、この海底に沈んでいる客船の中に太陽の姫の依代が鎮座しており、それがある限りこの太陽の姫は無限に蘇るという。あくまでも本体は依代であり、今まで戦ってきたモノはあくまでも影だ。
私、陽炎が覚醒し、仲間達全員をM型異端児扱いにしたことでここまで有利に戦えているのだが、それでも苦戦はしている。霧島さんと木曾さんは近接戦闘のための装備が破壊されているし、艦載機を撃墜するために衣笠さんは大分消耗してしまった。今のような戦闘がもう一度出来るとは到底思えない。
影が蘇ってしまったら、今までやってきたことが全て台無しとなる可能性が高い。最悪な消耗戦じゃないか。
「『雲』ハ……ヨクワカッテイルヨウダナ……。我ハ依代ガアル限リ不滅……貴様ラ愚カナ人ノ子ニ……屈スルコトナドアリ得ヌ」
私達が手を出すことが出来ない場所に本体を置いているのだから、ここまでやられても太陽の姫は敗北を感じていない。そもそも負けが無い戦いなのだから、抵抗する私達に怒りを覚えているとしても、一切諦めることはない。
ゆっくりと消滅しながらも、太陽の姫の目には昏い灯火が灯ったままだ。今ここで散っても、すぐに戻ってくるからなと目で語っていた。
「なら、依代自体どうにかしちゃえばいいわよね」
ここで、今まで戦場にいなかった者の声。
その声に釣られて振り向くと、そこには五十鈴さんが立っていた。大分疲れているようだが、対潜部隊が合流。私達がここで激戦を繰り広げている間、こことは違う場所の激戦を終わらせてきてくれたのだ。
「五十鈴さん!」
「潜水艦隊を沈没船に送り届けたわ。あっちのコピーも全部沈めておいたから」
五十鈴さんの後ろからは、物凄い笑顔の占守と大東がVサインを作っていた。松輪も大分お疲れ気味ではあるものの、2人に負けないくらいの笑顔。
「今回はイヨ1人だけじゃない。5人全員が入れたの。あとはあの子達に任せるしかないわね」
言いながらも、一片の不安も無い様子。ここまで来たら、潜水艦隊がしっかりやり切ってくれると信じている。むしろ、自分がここまで手伝ったのだから、成功してもらわなくては困ると言わんばかりにニヤリと笑う。
「依代、手に入れたでちー!」
そして、少しした時点でゴーヤの声。その言葉に騒然となる。流石の太陽の姫も、この言葉には耳を疑っていた。その時にはもう腕が全て塵となっていた。
5人の潜水艦達が次々と浮上して頭を海面に出す中、ゴーヤとユーとウィーの3人がかりで、人型の何かを海上まで運び上げてくる。
「馬鹿ナ……何故、何故ソレヲ……!」
消滅間際で、ついに狼狽える邪神。それほどの反応をするということは、潜水艦隊が運んできたそれは、間違いなく奴の依代となっている少女なのだろう。
真っ白な肌に白い髪と、見た目は殆ど深海棲艦ではあった。私達が深海棲艦化させられた時と殆ど同じ外見。より人間らしくして、少し幼くした太陽の姫というイメージの少女だった。むしろ太陽の姫がこの少女に寄せられた外見を使っているだけなのかもしれない。
私達の時と違うのは、依代として10年以上を海の中に沈められていたからか全裸であり、この場に運ばれても目を覚ますことが無いこと。
身体が深海棲艦化しているが故に、海中でも海底でも死ぬことはなく、そこから離しても何の影響も無かったわけだ。やはり、潜水艦隊に全て任せるのが大正解だった。
「沈没船の中はマジで危なかったでち。でも、何とかなったでち!」
「うん……みんなで頑張った」
「中に入って、ビュンビューンって依代見っけてここまで運べちゃったよ」
沈没船内での激戦は潜水艦隊が勝利。妨害を潜り抜けて依代の元へと辿り着き、それを奪取してきたそうだ。防衛は激しかったものの、手が届かないように壁に囲われているとかそういうことも無かったようなので、辿り着いてしまえばこちらのもの。戻りに関しては、そこに依代があることにより敵の攻撃が緩くなったとのこと。
とはいえ、向かっている段階で大分消耗したらしく、全員がボロボロ。海底には太陽の光が届かないように、私の溢れ出す力は届かなかったようで残念である。代わりに今、ここにいるだけで癒されているらしいが。
「ゴーヤは
「笑えない冗談やめな」
「事実だから仕方ないでち。でも、今回はそれが役に立ったんだから」
依代自体には浮力が無いようで、3人がかりで支えてくれている。あとはこれをどうにかすればこの戦いは本当に終わるのだ。
「ひーちゃん、この依代の子は」
「勿論救うよ。それが今回の命令だからね」
救えるのは私だけ。相手は邪神そのものと言っても過言ではない依代のだが、元はただの人間。だったら、私の分霊も通用するはず。今までと違って、分霊で邪神そのものを排除することになる。
太陽の姫からの分霊が私には効かなかったように、逆も然りかもしれない。だが、やってみなければわからない。今の私にはみんなの魂が宿っているのだ。いわば、ここにいる全員でこの少女を救うために分霊を施すようなもの。
「コノママデハ……終ワラヌ……!」
完全に消滅する寸前、太陽の姫は何かを思いついたように瞳の奥に狂気を浮かべ、そのまま全てが塵となった。
ここで太陽の姫が消滅したということは、依代から新たな太陽の姫が蘇ってもおかしくない。消滅から復活までのタイムラグがどれだけあるかはわからないが、時間をかければかけるほど不利になるのは間違いない。
「すぐに分霊する。その子、ちゃんと支えてて」
「了解でち。5人で支えれば、びくともしないよね」
ここに運んできたのは3人がかりだったが、ここからはヒトミとイヨも少女の身体を支えるために尽力してくれる。ヒトミはただ分霊を間近でみたいだけだという感じに見えたが、今ここでその辺りを指摘するのは無粋なので、ひとまずはスルー。全部終わって大団円となったらまた話題に出せばいい。
「邪神を追い
少女の胸元に指を突き立てる。入らないということも無いようで、いつも通りツプリと指先が中へと入っていった。それでも少女はピクリともしない辺り、完全に眠りについていると見て間違いない。
その魂に向かう少女の中は、今まで見てきたものの中とは比べ物にならないレベルで混沌としていた。ヘドロまみれの側溝を掻き分けているような、おどろおどろしい感覚。魂どころか全てが蝕まれ、それそのものに分霊が必要と思えるほどに穢れている。
これだと、魂だけを浄化しただけでは足りないかもしれない。まずは魂を探し当てるところからだが、それでもダメなら出来る限り分霊をし続ける方がいいだろう。私の体力が保てばいいのだが。
「穢れすぎてて魂が見つからない……もう少し探す」
「お母さん、僕も手伝えるかな」
「ミコトも分霊出来るもんね。もう少し探してみて、難しそうならお手伝いお願いね」
「はぁい」
私は弾き飛ばされないでいるが、ミコトの場合は指を突き入れることすら出来ないかもしれない。だが、その気持ちを無下にするわけにもいかない。むしろミコトならすぐさま魂を見つけてくれるかもしれないし、実際どれだけ探しても見つからないとなった場合は、2人がかりでの分霊をする方がいいかも。
しかし、そんなことを言っていられなくなる事態が発生する。
分霊する私の手を、依代の少女が掴んでいたのだ。
「なっ」
「我ハマダ終ワラヌ」
眠り続けていた依代の少女が目を開き、邪神の言葉を紡ぎ出す。影が消滅したことで、邪神はこの依代の身体を使ってこちらへと干渉を始めてきた。
「モウコノ依代ハクレテヤル。ダガ、代ワリニ
殆ど不意打ちだった。依代の少女のもう片方の腕が、私の胸に突き刺さっていた。だが痛みはない。まるで分霊をされるときのような感覚。
「影ニヨル分霊デハナイ、我手ズカラノ
「っざけんな! アンタなんかに私の身体をくれてやるもんか!」
「貴様モ謂ワバ
「アンタはこの世界じゃないだろう! 放せぇ!」
突然の衝撃に身体が大きく震えた。久しぶりのこの感覚。分霊と似たような、それでいて段違いの激しい衝動。私の魂を蝕もうとする、邪神の侵食の力。
「いぎっ!?」
「お母さんから離れろ!」
私の反応がおかしくなった瞬間に、ミコトが依代の少女を私から離そうと体当たりをしようとしたのだが、私の腕を掴んでいた手を放し、ミコトの身体そのものを片手で止めてしまう。
依代は邪神そのもの。艤装は装備していなくとも、これくらいなら出来ると弾き飛ばしてしまった。
「対トナル者デアッテモ、貴様ハ端末。ソレヲ乗ッ取レバイイ。最初ニ気付ケバ良カッタモノダ。貴様ノ魂、我ガモノトシテヤロウ」
依代の少女が人間へと戻っていく。同時に、私の中に強大な何かが入り込んでくる。それは分霊の時とは比べ物にならない快楽を伴い、私の心を折ろうと蝕んできた。
少女は解放されるかもしれないが、代わりに私が依代になってしまっては意味がない。対トナル者は消滅し、対抗出来る者がいなくなってしまう。そうなったら最後、もう世界は滅んでしまうだろう。
ある意味、私が覚醒してしまったばかりに、邪神は私を器として使おうと考えてしまったようなもの。敗北を喫したことで、思考が拡がってしまったことも原因か。
邪神は
「っあっ……!?」
もう少女に突き入れていた指も離れてしまっていた。少女は邪神が身体から抜け出したことで深海棲艦では無くなり、ただの人間に戻っていた。
代わりに私の身体がどんどん書き換えられていくような感覚。邪神の依代として最適化され、再び深海棲艦化させられていく。
「お、お母さん……!?」
「ひーちゃん、気をしっかり持って! そんな邪神なんかに乗っ取られないで!」
ミコトと沖波の声が聞こえる。勿論私は抵抗している。だが、身体中がそれを拒否している。髪が白く染まっているのも確認出来てしまった。
ならば、私が完全に依代になる前に、殺してもらった方がいい。私を犠牲に邪神も失われ、これで戦いが終わる。世界が滅ぶより、そちらの方がマシだ。
『まだ、諦めちゃいけないよ』
何者かの声が、私の頭の中で響いた。
同時に、私の身体が勝手に動き出し、手が私自身の胸へと突き入れられた。
「分霊ノ、儀、執リ、行ワン」
勝手に口が言葉を紡ぎ出す。分霊、今私は分霊と言ったか。自分の魂に対して。今まで考えたこともなかった、
気付けば私は、何もない空間にいた。