異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
魂の中での太陽の姫との戦いは私、陽炎の勝利となった。その時にやられた魂への侵食は、私自身の力で浄化が完了。その瞬間、目が眩む程の輝きに呑み込まれて、そのまま現実の世界に戻ってきた。
どれだけの時間が経ったのかはわからないが、まだあの戦場となった海域に留まっていたらしい。しかし、真っ赤に染まっていた海は青く戻っていた。太陽の姫が本当に消滅したというのが、それで実感出来る。
「お、起きた! 起きたよ! お母さん起きたーっ!」
私を支えてくれていたのはミコトだったらしく、目を開けた瞬間に抱きついてきた。その時に大きくバランスを崩しかける。
「危ない危ない。っと、あれ、艤装は?」
抱きつかれるのはいいのだが、いつもある艤装の感覚がない。生身になっていたため、ミコトのハグがちょっと痛かった。
「こちらで確保している。分霊中に装備が外れてしまったようだからな」
私の艤装は長門さんと陸奥さんがしっかり持ってくれていた。いくら戦艦のパワーアシストがあるにしても、艦娘が装備していない艤装は重いだろうに。それを2人で持てるというのは流石だと思う。
「一時的にでも身体が深海棲艦化していたから、その時に外れちゃったんだと思うよ。再装備は、鎮守府に戻らないと出来ないね」
沖波が少し涙目で説明してくれた。大分心配をかけてしまったようで申し訳ない。
外側では、殆ど深海棲艦化していた私が自分の胸に指を突き入れて静止しているという何とも不思議な状態だったようだ。たまにビクンと震えつつ、宙空を見つめ、浄化を続けていたとのこと。それは誰でも心配する。
そしてその時に私の艤装が剥がれたそうだ。そして、しばらくして私自身が水没しかけたため、ミコトが尻尾で支えてくれていた。そのままにしていたら私は溺死していたかもしれない。ミコトには感謝。
そして、少しして突き入れていた指が弾かれるように抜かれ、今に至るという。その時には私の身体はまた人間に戻り、海が青く染まっていったと。
「そっか……じゃあ、太陽の姫はあれで完全に消えたんだ。よかった……」
どっと疲れが出てきた。正直、今すぐ眠りたいくらいに疲れ切っている。今までは艤装のサポートもあったので、疲れは鎮守府に戻るまでは殆ど感じないくらいになるのだが、今の私にはそれが無いので相当キツい。
「お母さん、僕もお母さんに分霊してたんだ。役に立てた……かな」
「うん、本当にありがとう。ミコトのおかげでみんなの力を私が使うことが出来たんだ。陽炎の巫女として、立派に戦ってくれたね」
抱きついてくるミコトの頭を撫でると、嬉しそうに頬擦りしてきた。あの分霊があったからこそ、私の魂にみんなの力が宿ったのだ。実際、ミコトは功労者としてMVPを上げたいレベル。
私は今、海上で立つことが出来ないので、ここから帰るのもミコト頼り。ここからもう少しだけ、陽炎の巫女として私のお手伝いをしてもらおうと思う。
「じゃあコレで、夕立達の戦いは終わりっぽい?」
「あー、そうだ、その辺りはちゃんと話さなくちゃ。最後の戦いでさ、私もいろいろ知ったことがあるんだ。司令にも話さなくちゃいけないし、元帥にも知ってもらわないといけないことが多いから、その時に全部話すよ。とりあえず言えるのは、まだ完全に終わったわけじゃないってことで」
元凶がいなくなっても、残党狩りみたいなことをしなくてはいけないと聞いている。こればっかりは仕方ない。生み出したのは太陽の姫だが、そこから増える原因を作っているのはこの世の怨念やら何やら。もう管轄からも離れているようなものだ。
なので、この後もしばらくは戦いが続く。とはいえ、終わりは見えたというだけ。
それに、私もそうだがこの依代の少女の件もある。太陽の姫が消滅したことで、この子も完全に人間に戻っている。流石に目を覚ましてはいないが、今でも潜水艦達が支えているような状態。早く戻ってあげないと。
防衛線がどうなっているかも気になる。元凶がいなくなったことで無限に湧いてくるようなことは無くなっているとは思う。赤い海も失われたため、一気に弱体化しているだろうし。
「とにかく帰ろう。この戦いは、私達の勝ちだから!」
それは自信を持って言えた。この戦いは、私達の勝利。太陽の姫を倒し、依代の少女を救出した。そして、誰も失われていない。疲れや怪我があっても、命に繋がるものは1つも無い。
これは誰が何と言おうと、これ以上無い大勝利だ。それが、私の力が代償であっても。
防衛線の仲間達と合流し、そのまま陸を守り続けてくれた仲間達とも合流、ここからは大人数で鎮守府へと勝利の凱旋。
鎮守府の前では颯元帥の大和さんが仁王立ちで鎮守府を守っていた。その近くにはいくつかの深海棲艦の残骸のようなもの。私達が戦っている間に、本当に鎮守府の襲撃があったみたいだが、小さな敵部隊だったらしく、大和さんが1人で守り切ることは余裕だったらしい。何せ無傷である。流石大戦艦、その実力が恐ろしい。
大和さんに連れられて工廠に入るや否や、整備班や残っていた人達からの大歓声が響いた。私達の表情はどう見ても勝利した者の顔。何も話さずとも、この戦いの結末は予測出来た。
「よく戻ってきた! その様子なら、全て終わったんだね」
「うん、依代の救出も出来たし、見ての通り人間に戻ってる」
潜水艦隊に運ばせるのは酷だということで、今は木曾さんが運んでいた。お姫様抱っこで空城司令に見せると、何とも複雑な表情を見せた。ちなみに颯元帥は一歩引いた位置から眺めているだけ。依代の少女が全裸であるという状況のせいで、男性は少し居心地が悪そう。
「消耗をしているのかしていないのかもわからないね。ひとまずは入渠させておくかい」
「ならドックまで運ぶぜ」
「ああ、よろしく頼む。他に怪我人はいるかい! これだけの大人数なら、多かれ少なかれ怪我はしているだろう! 重傷者はすぐに入渠しな!」
私達の中でも、衣笠さんがかなり消耗しているため、すぐにでも入渠が必要とされた。防衛線で激戦を繰り広げた強襲部隊は誰もが傷だらけだし、潜水艦隊はボロボロであることを確認している。陸上防衛部隊も防衛線までとは言わないが深海棲艦がかなり湧いていたらしく、結構な消耗をしていたため、傷が深い順に入渠することに。
「陽炎、アンタはどうした。艤装が剥がれてるってことは、何かあったんだろう」
「うん、そのことは詳しく話す。ただ……すぐにやってほしいことがあって」
「なんだい」
「私の同期値を測ってほしいの。多分……
ミコトに下ろしてもらった直後の私の発言に、ここに集まった仲間達全員が驚いたように振り向く。ドックに向かおうとしていた木曾さんも足を止めてしまった。
これについては、ここに帰投する間も話すことはしていない。というか話すことが出来なかった。みんなのご厚意で、ここに来るまでは眠らせてもらっていたので。そのおかげで私は疲れがある程度取れている。
「どういうことだい」
「後から話すけど、私、艦娘の力を失ったと思うんだ。太陽の姫を倒すための代償っていうか……倒したらそうなるのが決まってたっていうか」
詳しく話すと少し長くなるので掻い摘んで。決戦後の事後処理を早急に終わらせるために、余計なことは今は省略。
さっき以上に騒然としてしまった。今まで一緒に戦ってきた仲間が、突如戦線離脱となったらこうなってもおかしくはない。騒つくみんなを空城司令が黙らせた後、少し考えた後にこれが重要なことだと信じてくれたようで、小さく頷く。
「……わかった。アンタが大丈夫なら、すぐにやろう。速吸、アンタは大丈夫かい」
「はい、幸いなことに消耗は少ないです。すぐにやりましょう」
陸上防衛部隊に参加していた速吸さんは、激戦の中でも無傷に近かったようなので、すぐに私の計測に乗り出してくれた。
この結果次第では、この戦いがまだ終わっていない可能性すら出てくる。急いでくれた方が私としてはありがたい。
すぐに医務室で同期値の検査。速吸さんが手際良く装置を使って計測してくれる。私はもう何度目だろうか。
ここにいるのは空城司令としーちゃん、颯元帥、そして心配だからとミコトが私の側から離れなかった。自分は陽炎の巫女だからの一点張り。1人増えるくらいなら支障は無かったため、空城司令も颯元帥も、良しとした。
「……陽炎ちゃんの言う通り、今まで計測不能だったM型の同期値が0になっています。D型も前回と変わらず0です。陽炎ちゃんは、艦娘では無くなっていますね」
速吸さんが少し悲しそうに結果を話してくれた。
こういう事態はこの長い戦いでも無かった事態らしい。そもそも艦娘の同期値は変動するにしても僅かな値。私があまりにも特殊すぎた。そうであっても、同期値が完全に0になってしまうというのは異例中の異例。
艤装が修復不能な程に破壊されることにより、一時的に戦線離脱するようなことは割と頻繁にあること。それでも、新たな艤装が手に入れば戦線復帰も可能である。しかし、私は再起不能だ。あの艤装も私とリンク出来ない。
「こうなった理由はわかっているんだね?」
「うん。太陽の姫が出てきたことで、世界が均衡を保つために私が選ばれた。太陽の姫がいなくなったら、均衡を保つために私の力は無くなる。当然のことだよね」
後から全員の前で説明することになるだろうが、今はここにいる者のみに説明しておく。
私から全ての力が失われたということは、この世界から邪神が完全に失われたことを意味するので、同期値が残っていてはダメだった。0であるからこその、完全勝利。
「だから、私の力が無くなったことはむしろいいことなんだ。私の望みは叶ったしね」
私の望みは復讐だ。両親を殺した太陽の姫を、この手で討ち倒すこと。これが最大の望み。叶ったのだから、嬉しいというか安心したというか、とにかく気持ちは晴れやかだった。
むしろ、それ以上の叶い方をしたと思う。私の手で殺してしまった父さんに会えたことと、最後に母さんまで来てくれたこと。殆ど束縛してしまっていたような父さんが、母さんと共に解放されたこと。私には願ってもないことだ。
そのことも話すと、これ以上ない程のオカルト要素に苦笑しか無かったらしい。だが、数値として出てきている以上、信じざるを得ないというのもある。
今回の戦いは、人間の深海棲艦化やその逆、依代に世界に選ばれし者と、前代未聞の事柄があまりにも多すぎた。
「あの艤装はもう装備出来ないけど、どうにか保存しておいてもらえないかな。あれ、一応私の父さんだから」
「ああ、そうしておこう。アレは……いわば
「うん、よろしく。出来れば、手近なところで」
いつでも見られるようにしてもらいたい。なんなら私が整備というか綺麗にしてもいい。
「お母さん、艦娘じゃなくなっちゃったの……?」
「うん、だから、もうミコトと一緒に戦えなくなっちゃった」
「……お母さんとお別れになっちゃうの?」
確かに、私が艦娘で無くなった場合、私の居場所はどうなるのだろうか。今までは戦うために籍を置いていたが、艦娘で無いならここにいること自体がよろしくないことになるかもしれない。整備班のように仕事をするわけでもない、言ってしまえば無職。
そうなると退役という形になるのだろうか。してしまったら、この鎮守府に居場所は無くなり、ミコトを残してここを去ることになってしまいそう。機密情報とかを知るものとして、監視くらいはついてしまいそうだが。
「それに関しては、私に考えがある。可能かどうかは何とも言えないが、どうにかしよう。陽炎が良ければ……関係者としてこの戦いを最後まで見届けてほしい」
颯元帥がそう言ってくれた。艦娘で無くなっても、この鎮守府に私の居場所はあるらしい。それはありがたいことだ。
深海棲艦の残党の殲滅が終われば、嫌でも散り散りになるのだろうが、まだ戦いは終わっていないのに私だけが一抜けするのは嬉しくない。どういう形でもいいので、この戦いに最後まで参加したかった。それが艦娘としての、陽炎としての在り方だと思う。
「うん、私はもう戦えないけど、出来ることはしたい」
「了解した。ならば、そのように事を進めていこう」
その言葉に、ミコトも大喜びで抱きつこうとしてきた。しかし、まだ同期値チェック用の機材が接続されたままだったため、それを無理矢理速吸さんに止められる。危ない危ない。
これにより、この戦いは本当に終わったのだと改めて実感した。力が失われた私の今後の道はまだわからないけど、せめて楽しい道であってもらいたいものだ。
今までが過酷すぎたのだから、少しくらいは楽をしたい。
太陽の姫は滅び、ついに戦いが終わりました。残すところ、あの依代の少女のことになりますね。
ここからは少しの間は後日談になります。もう少々お付き合いください。
支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/89830562
MMD静画のアイキャッチ風ウィー&ユー。呉内司令の援軍では新参ですが、今回の潜水艦隊の功績にも勿論貢献しております。リンク先に潜水艦隊の交流の様子が描かれているのでどうぞ。