異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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艦娘で無くとも

 私、陽炎から艦娘の力が失われたことが、医務室での計測で確定した。もうこれで艤装を動かすことも出来ず、当然海の上を駆けることも出来ない。私はもう艦娘ではない。

 だが、志半ばで散ったわけではなく私のやるべきことは全て達成することが出来たのだから、これはいわば()()退()()みたいなもの。両親の仇討ちも、選ばれし者としての役目も、何もかも全てを終えたことで、艦娘では無くなったと言われても名残惜しかったとはいえ悔いはなかった。

 

 そうなると鎮守府に私の居場所は無くなるかと思ってしまったものの、その辺りは颯元帥がどうにかしてくれるとのこと。何か考えがあるらしい。どういう形になるかは見当も付かないが、少なくともこの戦いが終わるまでは鎮守府にいられるようにしてくれるらしい。

 力を失うことよりも、戦いがまだ続くのにここから離れることの方が私としては辛かったので、大本営のトップが直々にそれを保証してくれたのはありがたかった。

 

「すぐに検査したから、身体が休まっていないだろう。陽炎はミコトと風呂にでも行きな。速吸もだよ」

「あ、そうだね。私は帰投中にミコトに支えてもらいながらちょっと寝ちゃったけど、まだ身体ガタガタだからね」

「うん、僕も疲れちゃった。お母さん、お風呂行こう行こう」

 

 お言葉に甘えて、私はミコトと一緒にお風呂に向かおうと医務室から出る。速吸さんは少し片付けてから向かうとのこと。速吸さんも陸上防衛部隊として戦っていたため、当然ながら消耗しているのだ。ちゃんと休まなくてはいけない。

 

 と、医務室を出た瞬間に異端児駆逐艦の一同が医務室の前で待機していた。私が工廠で口走ったことが気になって、検査の結果をずっと待っていたらしい。あまり褒められることではないが、心配してくれたことは素直に感謝。

 医務室に飛び込もうとしていた夕立を沖波と村雨がどうにか押さえつけていたようで、戦闘後の消耗状態もあってかなりお疲れの様子。何というか、ご苦労様。

 

「ゲロ様! 本当に艦娘じゃなくなるっぽい!?」

 

 開口一番、響き渡るくらいの声で叫ばれた。勢いに気圧されそうになる。どうせこれは全員の休息が終わった時点で公表されることなのだが、この面々には先に伝えておいてもいいのではと思う。しかし、ここはまだ医務室の前。その中には司令も元帥もいるため、あまり騒がしくするのはよろしくない。

 

「お風呂まだでしょ。私達も行くから、そこで話すよ」

「そうだね。夕立ちゃんそろそろ勘弁して。ひーちゃん出てきたんだから抑えて抑えて」

「夕立……私も限界だから……」

 

 沖波も村雨もそろそろ限界ということで、ひとまず落ち着かせる。夕立としては私の近況が気になって仕方ないようだが、お互いに落ち着いた状態で話すべき。

 私のことが心配でお風呂もまだだったという異端児駆逐艦の面々を連れて、私達は改めてお風呂に向かう。ようやく身体を落ち着かせることが出来るというものである。

 

 

 

 お風呂で疲れを取りつつ、太陽の姫との決着をつけ、それによって私は力を失うまでのことを掻い摘んで話した。ミコトの力でみんなの力を使うことが出来たことも勿論伝えた。

 ミコトは余程疲れていたのか、お風呂に入った瞬間に船を漕ぎ始めていたので、私がしっかり支えてあげる。そうしてあげたら、すぐに私の胸を枕にして眠り始めてしまった。

 

「むー……ゲロ様がそれでいいなら、夕立も良しとするっぽい」

 

 好戦的な夕立としては、私と組んで戦えなくなったことの方が残念なようだが、ひとまずは納得してくれた様子。無言で聞いていたものの、萩風も複雑な表情をしていた。

 こればっかりはどうにもならない。同期値が0なのだから艤装は動かないわけで、やりたくてもやれない。なので、納得してもらうしかないのだ。

 

「確かに匂いが薄くなってるっぽい。今は残り香ってくらいなのかな」

「言われてみれば確かに……大分薄く感じる……」

「ああ、魂の匂いね。私にはよくわからないけど、多分明日には全くしなくなるんじゃないかな」

 

 かつては夕立や磯波を狂わせた魂の匂い。それも私から太陽の姫としての力が失われたことで徐々に失われていくだろう。今でこそ薄くなった程度に感じるようだが、その匂いの根源がもう無いのだから、消えてしまうのは時間の問題。一晩もあれば、私からそれも消失すると思われる。

 だからだろう、最後の一嗅ぎと夕立や磯波が距離を詰めてきた。まぁこれくらいなら構わない。ミコトを起こさないようにしてくれれば。

 

「匂いが無くなっても、ゲロ様はゲロ様だからね。これからもよろしくっぽい」

「うん、よろしく。一緒に戦うことは出来ないけど、何かサポート出来るように頑張るよ」

 

 私から匂いが失われたからといって、付き合い方を変えるということはしないでくれるようだ。それが一番ありがたいかもしれない。長いこと染み付いた性質と言ったら無粋かもしれないが。

 

「ひーちゃんが艦娘じゃ無くなったから、太陽の姫はもう絶対に現れないってことなんだよね?」

「それは保証出来る。だから、今治療を受けてる依代の子も完全に元に戻ってるよ」

 

 依代であった少女も、今やただの人間、もしくは長い間深海棲艦化していたことで、他の異端児と同様に同期値を持ってしまっている可能性があるくらい。

 私を乗っ取ろうとしている時にも、依代の少女に少しだけ残しているとかそういうのは無い。そうだったら、私にはまだ戦う力が残されているはず。それが無くなったのだから、太陽の姫はもうこの世界にはいない。

 

「あの子、順調に治療は進んでるみたいだよ。さっきそんな話をしてるのが聞こえたから」

「そっか。それは良かった」

 

 ただの深海棲艦化ではなく、邪神の依代として長年を生きていたのだから、私達とは勝手が違う可能性もあった。そもそも依代となっているとき、精神的なところがどうなっていたかもわからない。眠り続けていたのか、意識は持ったままずっと同じ場所にいることにされたのか、そもそも太陽の姫と同化していたことにより私達との戦いの記憶も全て持っているのか。

 入渠で治療出来ているということは、身体の機能はちゃんと人間に戻っていることは確定している。ならば、それが終わればどうであれ人間として目を覚ますことになるだろう。

 

「問題は、依代の子の精神状態だよね」

「邪神と同調出来るくらいの精神状態だから……まだ世界を恨んでいるか……もう壊れちゃってるか……」

 

 磯波の言う通り、邪神と同じ思考を持つ人間となっているか、心が取り返しのつかないくらい壊れてしまっているかのどちらかだと思う。どちらにしても解決が難しい問題ではある。

 その境遇を聞いていると、同情出来ることばかりなのは言うまでも無い。私の両親を殺したのは邪神であり、それを撃破することには成功しているのだから依代の子を毛嫌いする必要は無いし、せっかく人間に戻れたのだから今からは幸せな人生を送ってもらいたい。

 

「どうであれ、人間に戻れたんだからさ。上手いことサポートしてあげたいよね」

 

 私の人間としての役目はそれにしてもいいかもしれない。艦娘として戦えないのだから、巻き込まれた者のメンタルケアとかカウンセリングとかが出来るようになれたらいい。速吸さんに弟子入りするなんてのもいいかも。

 

「……私も陽炎みたいに太陽の姫自身にみんな殺されてるんだけどさ、依代の子の意思で私に殺させたってことは無いんだよね?」

「だと思うよ。ほら、太陽の姫は依代の心を反映しているだけで、手段は自分が愉しむためみたいなこと言ってたし」

 

 村雨が少し暗い顔をする。村雨も、太陽の姫の巫女に変えられたとき、私と同じように街ごと全てを滅ぼされ、最愛の者を手にかけることになっている。

 村雨は依代自体に恨みや憎しみを持ってもおかしくはないくらいなのだ。それこそ、世界滅亡を望んだ結果がアレと考えるなら、許せない存在として見ても仕方ないし、誰もそれに対して否定が出来ない。

 

「依代の子は手段問わずに無差別って感じの考えなのよね……全部無くなっちゃえばいいって」

「……そうだね」

「私の家族は……妹は、それにたまたま選ばれちゃったって……そういうことなのよね」

 

 だからこそ悔しいというのはあるだろう。無差別であるからこそ、何故自分なのだと考えてしまうのは理解出来る。

 私のように、世界に選ばれし者であり対となる者であることがわかっているから優先順位が一番上だったというのはわかる。だが、私以外はもう優先順位とか殆ど関係ない。手近にいたM型異端児だったからというだけ。異端児になったのも村雨の意思ではない。

 

「邪神が倒されたんだから……浮かばれるわよね」

「……きっと大丈夫だよ。あるのなら、今度お墓参りに行かせてもらおう。私は父さんと母さんに行くって約束しちゃってるからさ、今度司令にお願いして行かせてもらおうと思ってるんだ」

「……私もお墓参りに行きたいです。兄さんの墓前に花を供えたいですね」

 

 村雨だけじゃない、萩風も長門さんも、一度お墓参りに行った方がいい。戦いが終わったことを報告して、いろいろとケジメをつけるためにも。

 吹っ切れろとは言わないが、ここからは新しい道なのだ。これまでの経験を糧にして、次の道を歩き出していきたい。

 

 

 

 お風呂から上がり、そのまま今度は食堂へ、ここまで疲れているのだから甘いものが欲しい。間宮さんと伊良湖さんもそれを見越してか、しっかりと全員分を用意しているくらいである。

 私達と同じことを考える者達はいっぱいいたようで、入渠待ちの者まで含めてこんな時間でも食堂は大盛況だった。

 

 だが、私がここに足を踏み入れた途端、視線が一斉にこちらに向かったと思えば、一気に質問攻めに遭うことに。

 私がお風呂に入っている間に、私が艦娘の力を失ったことは全員に知れ渡っていたようだ。司令や元帥がこうなるように仕向けたのだろうか。詳しいことは明日話すことになると思ったのだが。

 

「明日にでもいいので、インタビューさせてください。諜報部隊として、今回の事件の情報をデータに纏めておきたいので」

「英雄陽炎の最後の戦いの記録がしたいのさー。写真は残ってないだろうから、この秋雲さんが全部イラストで描いちゃうよー」

 

 ああ、この2人が元凶か。むしろ、司令も元帥も噂の広まり方を考慮して2人に頼んだか。

 

「いいよ。今回のは深海棲艦との戦いの折り返し地点になると思うから、なるべく詳しく話すよ。でも、プライベートなことは詮索しないでね」

 

 流石に魂の中で父さんと母さんに会えたみたいなことは記事にしないでいただきたい。そこは伏せて、あったことだけを話そう。ミコトのおかげで魂の力が使うことが出来たことも、説明が難しいところだが。その辺りは青葉さんのセンスに任せるとしよう。

 

「勿論ですぅ。というか、今回の件はある程度伏せて書きますので、ご安心を!」

「真実をそのまま書くのは必要だと思うけど、それでゲロ姉が嫌な思いするのはねぇ。うちらのやり方に反するわけよ。だから、みんな幸せになれるような記事にすっからさ」

 

 それなら安心だ。この2人なら安心出来る。

 むしろ、ここでやらかされたら、私以外の誰かが黙っちゃいないと思う。主にミコト。あとは異端児駆逐艦全員。さすがにこの面々を敵に回すのは危険極まりない。

 

「というか、ゲロ姉の経験はオカルトすぎて、誰も信じちゃくれない気がする。元帥閣下が目の前で見てたからどうにか通用するってだけでさ」

「はは、それは言えてるかも。邪神だの世界に選ばれし者だの、ファンタジーだからね」

「トドメは神殺しでしょ。漫画かよって話」

 

 この言葉で目をキラキラさせている菊月に関しては少し置いておこう。

 

 

 

 艦娘では無くなった私でも、ここにはしっかり居場所はあるようだ。そしてそれを誰も奪おうとしない。嬉しい限りである。

 




この化物が蹂躙したり、子供達が兵器で戦いを挑むような世界でも、邪神が降臨してくるとかは漫画の世界の話。だからこそ厨二病というのが残ってる。お菊ちゃんは陽炎のことを心の中で神殺し(ゴッドスレイヤー)とか呼んでそう。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/89865087
MMD静画のアイキャッチ風五十鈴&龍田。対潜部隊も依代救出までの功労者ですね。龍田は違う意味でも印象が強いキャラになってしまったけど(影首チョン)
リンク先にはまたもや弄られているあの子の姿が……どうぞ。
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