異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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本心か虚勢か

 依代の少女が目を覚ましたのだが、第一声から思った以上に重症だった。太陽の姫とは殆ど同調しており、こんな世界はいらないだの、邪神により世界が破壊されていく様を見てせいせいしただの、誰に殺されても変わらないから早く殺してくれだの、心が歪みに歪んでいる。

 覚悟はしてきたものの、その言葉を聞いて私、陽炎と一緒に来た村雨は、どうにもこうにも許せない気持ちでいっぱいになっていた。私も村雨も、太陽の姫に何もかもを奪われた。依代の少女にその罪が無いとしても、そのことについて邪神はよくやったなんて言われれば、本当に救うべきだったのかと疑問を持ってしまう程である。

 

「悪いが、アンタの身体を検査しないといけない。大人しくついてきな」

「おお怖い怖い。逆ろうたら殺してもらえるんじゃろうか。一刻も早う、こがいなクソッタレな世界からオサラバしたいんじゃが」

「死んで逃げるなっつってんだよ。前も向けないのかいクソガキが」

 

 空城司令も少し口は悪いが、一度たりとも手を上げることはしなかった。そうされたがっているような雰囲気があったため、奴の思う壺になるくらいなら、口だけで行動は耐えることを選択。

 それがおそらく一番いい方向に繋がるはずだ。手を上げたらもう止められなくなる。だから私達も我慢している。

 

「……陽炎」

「なに?」

「救出されたばかりの私もあんな感じだったよね……」

 

 村雨の苛立ちはそこにもあるのかもしれない。侵食のせいで心が歪んでいた当時の自分を見ているようで気分が悪いと。一種の同族嫌悪か。

 

「どっちもどっちかな。あの子、あれだけ宣うだけで、しーちゃんを人質にとったりしないから」

「うっ……それはちょっと忘れない?」

「いやぁ、忘れたくても忘れられないよ。あんなことやったの村雨だけだもん」

 

 依代の少女への怒りを振り解くように、少しおちゃらけた会話に。この辺りを話題に出来るくらいには村雨も開き直れているので、お互いにこの苛立ちを弱めるために別の話題で気を取り直す。

 それくらいしないと危なかった。あれ以上の暴言を吐かれたら、震える拳が抑えられない。ダメだとわかっていても依代の少女を引っ叩いてしまいかねない。

 

 空城司令も私達のことを考慮してか、あまり視界に入れないように依代の少女を医務室に連れて行ってくれた。それについていくのは諜報部隊と颯元帥。元凶の依代の情報なのだから、いの一番に知っておきたいだろう。私達はそこまで深入りしようとは思っていなかったため、ここで別れる。

 眼前から依代の少女の姿が失われたことで、私も村雨も大きく息を吐く。お互いに同じような気持ちだ。

 

「ダメだぁ……アレはちょっと今までと違うね」

「ぶん殴りたくなるの我慢するとか初めてよ……。あの時の萩風の気持ちわかっちゃったわ」

 

 なんだか一気に疲れてしまった。ミコトも心配そうにこちらを見てくるので、大丈夫だと頭を撫でてやる。

 

「お母さん、すごく辛そうだった。あの人のこと嫌い?」

 

 本質をついてくる質問。好きか嫌いかで言ったら、今は嫌いに傾いているだろう。あの子の中では、私達の家族を奪ったことはとてもちっぽけなことになっている。それが気に入らない。

 

 だがそれでも、あの子は被害者なのだ。そもそもはあの子の父親が邪教に傾倒してしまい、それに巻き込まれたことが問題だ。一番罪深いのはあの子ではなくあの子の父親。それに、元凶はやっぱりあの邪神なのだ。

 私があの子の言い分を妥協するための要因には出来る。それで理性は保てる。かなりギリギリだと思うが。

 

「大丈夫、嫌いじゃないよ。少し許せないことを言ってたけど、それは全部があの子が原因なわけじゃないから」

「そうだね。悪いのはほら、あのとき倒した太陽の姫だから」

「うん、僕もそう思う。あの人も利用されてただけなんだよね」

 

 利用されるだけのモノを持っていたというのはあるが、それを言い出したらキリが無い。

 

「何か本心を隠してるみたいだし……今は進展を待つしかないよ。いきなり変わることは無いと思うし」

 

 諦めているわけでは無いが、私達がどうこう出来る問題では無い気がする。カウンセリングとかメンタルケアとかに入る段階ですら無い。あの自暴自棄みたいな状態から抜け出せば、私達の言葉も耳に入ってくれると思う。

 

 

 

 医務室での検査の結果、依代の少女は見事に D型異端児であることが判明した。長年深海棲艦だったのだから当たり前のこと。M型だから狙われたというのも、その段階からしてあり得ないし。

 太陽の姫が依代としての身体を捨てたという経緯のせいで艤装すら持っていないため、まだこの鎮守府での名前は決まらず。これに関しては後日、適合しそうな艤装を手に入れてからとなる。

 

 しかし、今の状態では艤装を与えられることは無いだろう。ただでさえこちらに反抗的な態度……というか、邪神と同調している心境なのだ。その状態で武器を手にしようものなら、まず間違いなくこちらを攻撃してくる。駆逐艦でも手がつけられないのに、それ以上の艦種だった場合どうにもならない。ミコトに常に監視してもらわなくてはいけなくなる。

 

「いやぁ、すごかったよマジで。あの子、暴言の嵐だもんさ」

 

 今は食堂に集合し、異端児駆逐艦一同で医務室での流れを全て見てきた秋雲に話を聞いていた。秋雲は諜報部隊としてその一部始終を全て見てきたが、あの暴言は同期値検査の時ですら止まらなかったらしい。

 世界と人間が信じられないから、何処にいても苛立ちを覚えると考えるべきか。そうなると、口を開けば呪詛を吐くというのも頷ける。

 

「アンタから見てさ、あの子はどうなのさ。ほら、司令が本心隠してるみたいなこと言ってたじゃない」

「あー……確かに、それはあるかもしれない。なんていうか、不自然なんだよねぇ」

 

 そういうのに気付くのが一番得意なのはヒトミとイヨであるため、本心を探るために交流させることを画策しているそうだ。

 同じ諜報部隊として、秋雲もその辺りは私達よりも長けている。その秋雲から見ても、依代の少女の態度には違和感があるらしい。

 

「そりゃあ全部に絶望するような出来事だと思うよ。本人も言ってたからね。治らない病気が長年続いた挙句に親に裏切られるとか、ぶっ壊れてもおかしくない。でもさ、その奥にちゃんと罪悪感があるように見えたんだよね」

 

 言葉だけで見れば、罪悪感なんて何処にも無いように聞こえた。世界の滅亡は自分が望んだことであるため、邪神によるあの侵略を嬉々として応援しているように思えた。そう、言葉だけでは。

 だが、自分の願いでこうなってしまったことに、私や村雨、みんなの家族が死んだことに対して、罪悪感を持っているのではないかと秋雲は言う。こちらの神経を逆撫でする暴言は全て虚勢ではないかと。

 

「まぁあの言い方は無いと思うけどね。虚勢でも言い方ってもんがあるとは思う。あれは漫画でもヘイト買うセリフだよ」

 

 暗い雰囲気に持っていかないように、ちょっとおちゃらける秋雲。そのおかげで少しは空気が和らぐ。

 

「今はあの子、どうしてるっぽい?」

「何処かの部屋で軟禁状態だってさ。服もないから妖精さんが拘束服みたいなの作ってたよ。お世話役は神州丸さんがやるから安心して」

 

 夕立の質問に秋雲が即答。私室のどれかをあの子の部屋として、今はそこに閉じ込めておくそうだ。しかし、施錠をするとかそういうこともしないとのこと。私達と交流したいのなら、自由に動き回ってくれて構わないとした。

 代わりに監視役は24時間態勢で置く。それが神州丸さん。艤装が無くても陸戦では最強の力を持っているため、何かしらの不穏な動きをした場合は取り押さえることが可能。夜は流石に眠らせることになるため休めるが、おはようからおやすみまで監視し続けるそうだ。

 

「部屋で軟禁ということは、面会とかも出来るんだ」

「いつでも出来るね」

 

 態度が和らぐことがあるかはわからないが、いずれまた顔を合わせるくらいはしてもいいかもしれない。それこそ、あの暴言が虚勢だったとして、本心を包み隠さずに話すことが出来るようになったなら、しっかりと面と向かって話がしたいものだ。

 

「じゃあ、早速行ってみようかな。虚勢かもって思えば、あの言葉はまだ聞いていられると思うし。ちゃんと話せば何か変わるかもしれない」

「本当に大丈夫……? また嫌な思いするんじゃないかな……」

 

 心配そうにしているミコトだが、ここで足踏みしていても救われないはずだ。

 私はあの子だって救ってあげたい。救われるべき存在なのだから。ここから幸せになっていい。

 

「なら、僕もついてく。何かあったらお母さんを守るから」

「私も行くわ。仮にも元巫女だもの。最後まで付き合う」

 

 そうなると、ここにいる面々は次々とついてくると言い出す。これだけ人数がいれば心強いが、あまり多すぎても迷惑にならないだろうか。まぁ言っていても仕方ないので、全員で押しかけてみよう。

 

 

 

 一応空城司令に許可を貰いに行ったところ、少し渋い顔をしたものの、いろんな相手と話をすることで何か影響を与えることが出来るかもしれないと許可を出してくれた。

 悪い方向に行きそうなら、神州丸さんがかならず止めてくれるとのこと。その前に私達も理性を働かせて面会したい。

 

 私達の部屋から少し離れた場所に、神州丸さんが扉前を陣取っている部屋があった。既に中には依代の少女が軟禁されている状態。

 部屋の中から何か聞こえるということは無く、あの子は部屋の中では静かにしているようだ。拘束服を着せられているという程だし、何かしたくても何も出来ないようにはなっているのではないだろうか。

 

「面会でありますか」

「うん、何か出来るかなって思って」

「難しいでありますな。彼女は思った以上に意固地であります。態度は改めず、あの物言いはやめるつもりが無いようでありますな」

 

 神州丸さんもお手上げに近いらしい。ここに押し込んだときには無抵抗だったようだが、世界に対する恨みや憎しみは垂れ流し状態。周りに悪影響を与えかねない。

 特に、海防艦の子供達には会わせづらい存在だ。その辺りは大鷹にも話がしてあるらしく、この部屋には近付かないように念を押しているとのこと。それでもあの好奇心旺盛な占守と大東は不安ではあるが、今は保護者として五十鈴さんと龍田さんもいる。そう簡単には近付くことは無いだろう。

 

 しかし、依代の少女がこの部屋から出たいと言ったら話は変わる。神州丸さんの監視下であっても、細心の注意は必要だ。

 

「それでも行くのでありますか?」

「……うん、さっきは面と向かっての話じゃなかったからね。正面から話をしてみる」

「了解したであります。心して入るように」

 

 神州丸さんが扉を開ける。

 拘束具を着せられ、窓から出ようとしても出来ないように足枷もつけられた依代の少女がそこにいた。そんな状態でも表情は虚のまま。私達が部屋に入ったことで、視線がこちらにチラリと向く程度。

 

「おうおう、わしらの邪魔をした対となる者のお出ましか。なんじゃ、われも説教でもしに来たんか」

「説教じゃないよ。ただ、話をしに来ただけ」

「わしに話すこたぁ無い。顔を見せんでくれ」

 

 私に対しては拒絶。だが、さっき秋雲の言っていた通り、それも虚勢だとしたら、これは拒絶ではなく私の顔を見るとそれが剥がれてしまうからなのではと思う。本心を見せたくない一心で言い放つ暴言。

 それを先に知っているから、こんな言われ方をしても特段腹が立つようなことは無かった。私以外はどうかわからないが。

 

「というか、他にも説教しに来た人いたの?」

「……ありゃあここの提督じゃろ。好き放題言いおってからに、わしがどう考えようと自由じゃ。わしはとにかく、この世界が許せん。今でも滅びればええ思うとる」

 

 意思は変わらない。私達には変えられない。あくまでも被害者だから。この子は加害者側であり、それに正当性があるとまで思っているのだから、話は交わらない。

 

 

 

「ならば、私と話をしようか」

 

 その堂々巡りを断ち切るため、私達の後ろから現れたのは、颯元帥である。この依代の少女からしてみれば、知ってか知らずか因縁の相手。この面会が、何か変化を齎すことがあるのだろうか。

 




次回は因縁の対峙。依代の少女は、まだ颯元帥が客船襲撃の実行犯であることを知りません。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/89917128
MMD静画のアイキャッチ風異端児駆逐艦。始まりの4人。終わりが近付いてきている今だと、この4人だけだったころも懐かしく感じます。ここに萩風と村雨も加わることになりますね。リンク先には個別視点の静画もありますのでどうぞ。
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