異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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心の奥底には

 目を覚ましたものの軟禁状態となった依代の少女と話をするために、部屋に赴いた私、陽炎と異端児駆逐艦。空城司令と、監視役として部屋の前に立つ神州丸さんに許可を貰い、拘束服に包まれた依代の少女と面会を果たしたのだが、こちらの言葉は聞く耳持たない状態である。

 そこに現れたのは颯元帥。この少女に対しては因縁の相手だ。顔を合わせたことは無いだろうが、客船襲撃を実行した正義の者。

 

「わしゃあ、われとも話す気はない。帰っとくれ」

 

 颯元帥を相手にしても態度は改めない。人間全てに嫌気がさしていると言わんばかりに見向きもしない。

 

「どこのどいつかはしらんが、何を言うても無駄じゃ。こがいなゴミみたいな世界も、クズのような人間も、全部いらん。考えは変わらんぞ」

「君には聞いてもらいたいことがあるから、私はここに来た。一言だけ聞いてくれればいい。顔を合わせずとも、耳だけ傾けてくれればいい」

 

 何を話すのかは、私達にはすぐにわかった。それ故に、次の颯元帥の言葉で、依代の少女の表情が大きく変わる。

 

「客船を襲撃し、沈めるように指示をしたのは私だ。何人たりとも生かすなと」

「なんじゃと?」

 

 直接的では無いにしろ、その作戦を指揮し、客船にいた教団員を鏖殺したのは自分であると、依代の少女に明かした。さらに言えば、全員始末する予定だったが、1人だけ、この少女だけが生き残ってしまったことも。

 この国を守るため、正義を執行したに過ぎない。今でこそ、その行き過ぎた正義を悔い改め、結果的に完全な被害者となった私達の前で謝罪をしてくれたが、この依代の少女相手にはどう出るのだろうか。一瞬で喉が渇く程に緊張感が漂ってくる。

 

 私達に対しては無視や無関心を貫いていたが、途端に颯元帥の方を振り向く。この時ばかりは、とても感情的に見えた。何もかも諦め、世界を恨んでいた中に、一筋の光が射したかのようだった。その光は正しいものでは無いが。

 これがこの子の本心を曝け出すための手段になるのかどうかはわからない。だが、一石を投じることは出来るかもしれない。

 

「ほいじゃったら、われがわしのおとんをやったんか」

「ああ、そう考えてくれて構わない。直接手を下していないにしろ、作戦を立て、指示を出し、揉み消すところまで私がやった。全ての責任は私にある」

 

 虚な瞳に光が灯る。それは激しい怒りと憎しみの色をしていた。ギリッと歯軋りの音が聞こえた後、ブルブルと震え出す。

 

「……なんでじゃ。なんで皆殺しにしたんじゃ」

「この国を、世界を守るための、苦肉の策だった。君のお父上……邪教の教祖を野放しにしていれば、この国は滅んだだろう」

「うちのおとんは国賊じゃけぇ、殺されても仕方ない言うんか!」

 

 初めて声を荒げる依代の少女。空城司令を前にしていても、ただただ嫌そうに皮肉と暴言を連ねるだけだったのが、親のことを出されて激昂。

 そうなってもおかしくないのは私にだってわかる。親を殺されたのだから、どういう理由であれ、何かしら思うどころがあるに決まっている。その親に裏切られたことで余計に荒んでしまっているのだが。

 

 対する颯元帥は一切表情を崩さず、依代の少女を見据えていた。初めてこの鎮守府に来た時のような冷酷な表情。感情が全くわからないくらいのポーカーフェイス。今までずっとこの事実を隠し続けてきたことによって得た無表情を、これでもかと活かしている。

 激昂に対して無表情で返すというのは、神経を逆撫でするような行為に他ならない。依代の少女の表情はより一層怒りに染まっていく。

 

()()()

 

 ハッキリと、依代の少女に返答した。この子の親は、国賊であるが故に始末されたと。当時の颯元帥ならそう考えて作戦を立てていただろう。国を滅ぼされるくらいなら、少数の命を奪った方が未来があると。

 今でこそもうそんなことは考えないくらいに心持ちを改めてくれているが、当時のままならば、国のためなら死ぬのは当然と極端な考えに至っていただろう。それこそが、颯元帥の行き過ぎた正義だったわけだし。

 

「……いや、今は()()()()()と言うのが正しい。私は、この国の民が平和に暮らしていけることを第一に考えて尽力し続けてきた。君のお父上は、その中でも最も平和を脅かした人物であると、私は考えている」

「殺してええ理由にゃあならん!」

「……ああ、それを知ったのはつい最近だが、私の正義は行き過ぎたものだと理解した。だから私は今、君と顔を合わせに来た」

 

 無表情ながらも、依代の少女を前にして深く頭を下げた。私達にも見せた、謝罪の気持ち。謝ったところで何も戻ってこないけど、無いよりはマシ。

 抱え込んでいたものから解放されたことにより、その秘密を共有出来るものに対しては全てを曝け出してくれる。

 

「……なんのつもりじゃ」

「私が今更謝ったところで何も変わらない。何も戻ってこない。私が起こしたことで、何人もの国民が不幸になってしまった。君もその1人だ。それでも、だからこそ、言葉だけは紡ぎたい。申し訳ない」

 

 そんな姿に、依代の少女の震えは一層強くなった。怒りと憎しみが溢れ出し、目の前の大人に対して負の感情しか湧いていない。

 

 父親の死の真相を知ったことで、殆ど投げやり気味に暴言を吐いていたのが嘘のように感情的になっていた。自暴自棄な態度も今は何処かに行ってしまったようで、目には憎しみの光が宿っている。

 そこから、この子の本心が少しずつ垣間見えてきた。裏切られたと言っていた親のことに触れられてここまで怒るのだ。人間に対して嫌悪感しか持っていないにしろ、父親に対しては違う感情を持っている。

 

「許すわけないじゃろ!」

「許してくれとは言わない。いや、言えない。私は正義と思っていても、これ程までに被害を拡げてしまった。この謝罪も意味がないことくらい理解している。だが、意味は無くとも言葉にはしたかった。口先と言われても仕方ない。申し訳ない」

 

 依代の少女に何を言われても、姿勢を一切変えない。自分がやったことを非と認め、届かなくとも言葉にする。それは決して口先だけではない。ちゃんと心もこもっている。

 

 しかし、依代の少女には届くわけが無かった。

 

「ふざけるな! われが、われがそがいなことしなけりゃ、こんなことにゃならんかった!」

「……ああ。深海棲艦を生み出したのも、私が邪教を滅ぼさなければ、邪神が降臨することは無かったかもしれない。君のような依代は生まれなかったかもしれない」

 

 颯元帥は全く言い訳をしない。言ってしまえば、そもそも邪教に傾倒した依代の少女の父親、教祖が悪い。娘の病気を治すために尽力するのはわかる。優しい父親であることが話に聞いているだけでも理解出来る。だが、そんなよくわからないものに頼り始めた時点で間違っていた。

 なのに、そのことを一言も言わず、全ての罪が自分にあると言うように、何もかも背負おうとしている。それは今までと同じ。責任を1人で受け持ち、だんまりを決め込むことによって悪役を演じる。秘密裏に出来れば騒ぎにならないし、騒ぎになったら自分が首を括るだけ。被害を最小限に抑えようとする、颯元帥の不器用な愛国心。

 

 この後に続くであろう颯元帥の言葉は出てこなかった。『だが、君のお父上が邪教を崇拝しなければ、こうはならなかった』という、とても簡単な一言。

 私達の中では、教祖が悪いという意見で満場一致していた。そもそも邪教が無ければ颯元帥は強行策に出なかったし、邪神が降臨することも無かった。だから、依代の少女も被害者だと。救出すべき相手だと。

 

 頭を下げ続ける颯元帥に対して捲し立てようとしたものの、反論すらしてこないことで、怒りと憎しみの中に別の感情が生まれてきていた。

 

「……なしてじゃ。なしてゆわん。わしのおとんがあんなんやったんが悪いって、なしてゆわんのじゃ」

 

 それは、依代の少女自身も気付いていたことだった。自分の病気を治療するために狂ってしまった父親のしでかした事の重大さに。

 

「われもわかっとるんじゃろ。元はと言えばわしのおとんが全部悪いんじゃと。そんなもん、わしもわかっとるわ。でも、でもな、それでもわしのおとんが、わしのためにやってくれたんじゃ。わしの……()()()()が、わしのために……」

 

 世界の全てを憎み、人間に怒りを覚えているが、元はと言えば自分の父親が邪教に傾倒したことが全ての始まりなのだから、自分にもそれを作ったきっかけがある。

 少しだけでも責任を感じているような素振り。これが依代の少女の本心では無いだろうか。自暴自棄に暴言を吐き続けているのは、もちろんこの世界への怒りと憎しみがあるからだろうが、その奥底にはこうなってしまったことへの罪悪感があるからでは。

 

「そうであっても、正義を執行し手を下したのは私の意思だ。それは言い訳にしかならない」

 

 颯元帥はそれでも態度を変えない。謝罪の姿勢を崩さず、依代の少女には一切の非が無いように振る舞う。それがまた、依代の少女の神経を逆撫でするような行為になっていく。

 罪悪感を刺激し続けているようなものなのだ。依代の少女に罪悪感が無ければ、ここでも投げやり気味になってもおかしくない。父親がどうこう言われても気にも止めずに呪詛を吐き続けるだろう。

 

「もうええ……われと話しとっても気が滅入るだけじゃ。出てけ」

「しかし」

「出てけ言うとるじゃろ」

 

 先程見えた本心のカケラのようなものは鳴りを潜め、また自暴自棄に戻ってしまった。

 こうなってはもう取り付く島も無さそうであるため、颯元帥はまた日を改めてここに来ると言い残し、部屋から出て行った。

 

「……ちょっと」

「うぬらも出てけ。1人にしてくれ」

 

 怒りと憎しみで灯っていた瞳の光はまた消えてしまい、虚な瞳に戻ってしまった。こうなったらもう話を一切聞いてもらえない気がする。悔しいが、私達も一度ここから退散するしかないか。

 

「最後に私達の言葉も聞いてもらえる?」

「……」

 

 聞く耳持たないと言わんばかりにこちらを見ない。聞き耳を立てているように見えない、完全な無視。だったら、こちらは好き勝手に話すことも出来そう。

 

「アンタは被害者だよ。だから、私はアンタを救いたいと思ってる。元帥はなかなか来れないだろうけど、私達は度々来るから」

 

 無反応。ならば、勝手に来て、勝手に話すというのもいいだろう。そうしたら罪悪感をさらに刺激することになるかもしれないが。

 そのまま放置していたら、怒りと憎しみにどんどん呑み込まれていく可能性が高い。だから、頻繁に構ってやることが、改善に繋がるような気がした。

 

「行こう。悪いね、みんなでぞろぞろ来ちゃって。今度はもう少し人数減らしてくるよ」

 

 それだけ言い残して、私達は部屋から出る。神州丸さんによろしく言って、部屋から離れた。

 

 

 

 その気持ちを紐解くのはまだまだ時間がかかるかもしれないが、依代の少女には幸せになる権利はあるだろう。不幸に不幸を重ねた人生に終止符を打ち、ここから新しい道を歩いてもらいたい。

 だが、本人がそれを求めていない場合はどうしたものか。ただ怒りと憎しみに呑み込まれているだけならまだしも、その中に罪悪感が見え隠れしているのがタチが悪い。

 

「みんなでちょっかいかけていくのが一番だね。きっと心を開いてくれるよ」

 

 根拠は無いが、そう思わなくてはこちらが参ってしまいそうだった。

 




自分の父親が悪いと理解はしているけど、世界への憎しみは払拭出来ないので、自暴自棄になっている依代の少女。心を開くことはあるのでしょうか。
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