異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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対話を続けて

 依代の少女と話した後、颯元帥と大和さんは帰投することとなる。依代の少女が目を覚ましたことと、謝罪をすることが出来たということで、本来空けておいた日程通りに行動することが出来るようだ。

 依代の少女にはまた日を改めて顔を合わせに来ると話をしていたため、ここで帰投し、またどうにか時間を作ってからこの鎮守府に来るとのこと。客船の唯一の生存者と言える存在であるため、颯元帥も気にかかって仕方ないようだ。

 

 私、陽炎はその最後のお見送りに参加。艦娘でもない今の私には、それくらいしか出来ない。

 

「任せてしまってすまない。空城君、彼女を頼む」

「ああ、任せておくれ。次に来たときは開き直ってるなんてことになっててくれりゃあ、アタシも嬉しいねぇ」

「……ああ、私もそれを望む。私の顔を見たら、嫌でもお父上のことを思い出してしまうだろう。私が言えたことでは無いのはわかっているのだが……彼女には明るい明日を歩いてほしい」

 

 その道を途絶えさせたのは私だが、と呟く。それでも、依代の少女の歩く道を、どうにか明るく照らしたいとも考えているようだった。それがあの客船を沈めた自分に出来る、唯一のケジメであり謝罪の気持ちだと。

 

「陽炎、君の処遇はこちらでもどうにかしておく。最終的な選択肢は、君に与えることになるだろう。それまでは、この鎮守府の予備戦力という形で所属しておいてもらいたい」

「了解。よろしくお願いします」

「ああ、君はこの戦いの英雄だ。絶対に悪いようにはしない」

 

 英雄と言われるとこそばゆいが、私の存在を保証してもらえると言ってもらえるのはありがたい。大本営のトップ直々の保証なのが頼もしい限りである。

 

「それでは、また来させてもらう。大和、行くぞ」

「はい。それではまた」

「ああ、大和も鎮守府防衛よくやってくれた。助かったよ」

「いえいえ、それが私の仕事ですので」

 

 大和さんは深くお辞儀をし、颯元帥は少し神妙な表情で、鎮守府を去っていった。

 大和さんのおかげで、私達は鎮守府のことを気にせずに最終決戦に臨めたのだ。流石は最強の艦娘。実際に小粒とはいえ襲撃があったのだから、来てくれて本当によかった。

 

「さて、戦いは終わったんだが、アンタ達はどうする。諜報部隊は違う意味でここに残ることになるんだが」

 

 支援艦隊代表のアクィラさんと、対潜部隊の五十鈴さんと龍田さんに問いかける。戦いが終わったのだから、もう撤収でも問題ないところまで来ていた。

 諜報部隊は、依代の少女を最後まで見届け、その情報をまとめるためにも残ることが確定している。しかし、戦うためにここに集まってくれた仲間達は、仕事が全て完了したのだ。赤い海も全て消え去っていることを確認出来ているため、もうこの鎮守府の戦力のみでどうにか出来る。

 

「そうですねぇ。まずは提督に連絡をしなくてはいけませんね」

「うちもひとまず連絡してみるわ。喧しく泣きじゃくりそうだけど」

 

 呉内司令はさておき、影野司令はまた受話器越しでもわかるレベルで泣きそう。長かった戦いも終わったわけだし、私の決着もついたのだから。

 

「ゴーヤはうちが貰っていっていいのよね」

「そのように移籍済みだそうだよ。作戦終了でそのまま連れて行ってくれて構わない」

「了解。司令も喜ぶわ」

 

 颯元帥が連れてきたゴーヤだったが、帰りはそのまま影野司令の鎮守府のようだ。ブラックな鎮守府から抜けることが出来た上に、トントン拍子で次の道が見つかったゴーヤは、これが必ず転機になるはずだ。

 

「なら、その件を進めていこう。陽炎はしばらくは自由にしてくれていて構わないよ。今日は全員休日にしてあるが、そうで無くても今は渡す仕事も無いんだからね」

「それはそれで何だか寂しいけど、ちょっと長めのお休みが貰えたってことで堪能するよ。あ、でもあの依代の子のところには足を運ぶからね」

「……ああ、構わないよ。好きにしておくれ」

 

 司令からの許可も出た。頻繁に顔を合わせに行くと宣言してあるから、私は好きに行かせてもらおう。

 あの子が嫌がらない程度にと行きたいところだが、おそらく行くだけでもあの子は嫌がる。それでは意味がないため、少し強気に行くしかあるまい。

 

 

 

 さて、今日はまだまだお休みであり、各々自由に過ごすことになる。専らみんな依代の少女のことが気になる様子で、ちょくちょく面会を望んでは、拒絶されて帰ってくる。

 どんな反応かはみんな知っておきたいというのはある。まともに話が出来たのは、おそらく颯元帥のみ。監視している神州丸さんですら、門番のように部屋の前にいるだけで話をしているわけではない。

 

「みんな、アンタのことが気になるんだよ。せっかく戻ってこれたんだし、艦娘の素質もあるからさ」

 

 私もまた依代の少女の部屋に来ていた。煙たそうな顔をしたが、私がここから離れることが無いことくらい察しただろう。私を無視するように顔を背けている。

 私と一緒に来ているのは、今回は沖波とミコト。ミコトは私から離れようとしなかったというのがあるが、沖波も太陽の姫に対して大きな因縁があるため、それを振り払うためにもここにいる。

 

 誰がどれだけ話しても、聞く耳持たずの無視一点張り。反応すらしない。誰も責めるようなことはしないが、依代の少女の心を動かすような言葉は誰1人として口にしないというのもある。

 腫れ物を触るかのような存在になってしまっているのは、誰にだってわかることだ。過去のことを思い出さないような当たり障りのない話題しか振れないことで、興味を引くことが出来ない。

 だからといって、怒り任せの論争なんて望んでいない。いくらこの子を論破出来るくらいの力を持っていたとしても、私達はそういうことをしたいわけではないのだ。そもそも私はそんな力持ってないし。

 

「……わしは艦娘なんぞやるつもりはない」

 

 珍しく反応してきた。私の今の言葉が気に入らなかったのだろうか。

 邪神と同調しており、その記憶は全て持っているのだから、艦娘は敵であるという認識も抜けていないだろう。それに自分もなるというのは気に入らなくても仕方ない。

 

 もしくは……先程チラリと見えた罪悪感がそれを邪魔しているか。

 

「えー、なんでさ」

 

 これには返答無し。艦娘にはならないという意思だけはどうしても表示したかったということだろうか。

 

「ひーちゃんが艦娘を引退せざるを得なくなっちゃったし、代わりに入ってもらえるとありがたいよね」

「うん、お母さんが戦えないところ、埋めてもらえると助かるよね」

 

 煽るようにチラチラと見ながら話す沖波とミコト。特に沖波は、表情と口調に似合わず割と痛いところを突いていた。

 私が艦娘を引退することになったのは、太陽の姫を撃破したから。ひいては、この子を救出したからになる。その責任を取ってもらおうだなんて私は思っていないが、沖波やミコトからしてみれば、私がただの人間になったことは惜しむべきことなのかもしれない。だから、ほんの少しだけの嫌味が入ってしまっている。

 

「みんなが話したかは知らないけどさ、アンタにも知っておいてもらいたいことがあるんだよね。深海棲艦はまだまだいなくならないから、元凶を倒しても戦いはまだ終わんないんだよ。だからさ、手伝ってもらいたいってのはあるのさ」

 

 駆逐艦である私が1人減るからといって、戦力に多大な影響を与えるかと言われればそうではない気はするが、作戦立案などの選択肢を多少狭める要因にはなってしまうかもしれない。その分を補完してもらえるととてもありがたかった。

 とはいえ、艦娘になるかどうかは選択式。裏があるにしろないにしろ、やるかやらないかは当人の意思である。ここにいる者達はやるという選択をしただけ。ああは言ったものの、この子が嫌だというのなら、その意思は尊重するべき。

 

「まぁ、嫌なら無理強いは出来ないよね。理由はどうであれ、艦娘なんて命のやり取りなわけだしさ。才能あっても断る人ってのはいるらしいし、仕方ないよ。これは強制じゃない」

 

 こればっかりは、私がどうこう言えるところでは無かった。私の意思としては、この子にも艦娘になってもらいたい。嫌な言い方だが、今までやってきたことの()()()をつけるために。別にこの子が引き起こしたというわけではないのだが、太陽の姫の依代であった経験を活かして、世界を平和に導いてほしい。

 しかし、こんな心境で戦場に出たら、まず間違いなく大怪我を負うだろうし、最悪死ぬ。それはよろしくない。せっかく得た新しい道を、そんな形で失うのは、他人としても見たくない。口には出せないが。

 

「艦娘になるかどうかは置いておいて、私としては、もう少しお喋りしたいね。友達になろうよ友達に」

 

 これが私の本心。同情とかそういうものが端にあるかもしれないが、せっかく出会えたのだからもう少し和やかにお話がしたい。

 今の心境でそれは無理かもしれないが、せめて私にだけでも心を開くなりしてほしかったりする。ワガママかもしれないけど。

 

「……われとは友達にゃあなれん」

 

 ボソリと呟いたのが聞こえた。

 

「なんで? 私はアンタも大歓迎よ。せっかくここにいるんだから」

「わしゃあ、われの親を殺した神様の()()()じゃ。むしろ憎うて憎うてたまらんのじゃないか」

 

 憎くないかと言われれば、それは勿論多少はそういう感情はある。この子が世界の滅亡を望んだことが、私の両親の死に繋がったのは間違いない。

 だが、それはあくまでも()()()()()()。その望みを勝手に汲み取って実行に移したのはあの太陽の姫だし、そもそもそれを呼び出そうとしていたのはこの子の父親、教祖だ。この子に非は殆ど無い。この子に殺されたわけでも無いし。

 

「アンタに対してはまだ割り切れるんだよ。直接やってるってなったら、私もこんな冷静にはいられないかもしれないけど」

「直接やったようなもんじゃろ。わしは願った。今でも願っとる。こんな世界に意味なんて無い。人間は滅べばいいと」

「望んだだけで、アンタに殺されたわけじゃない。ならアンタは私みたいにみんなを深海棲艦に堕とした感触はあるの? 村雨みたいに街を滅ぼした感覚はあるの?」

 

 あくまでも依代として見ていただけ。実行犯は全て太陽の姫。だから、この子には意思はあっても感触は無い。仲間を分霊して陥れた感触も、罪無き人々を滅ぼす感触も、この子は何も知らない。ただ望んだだけだ。

 

「無いよね。だから、私はアンタのこと殺したいほど憎むようなことは無いよ。その相手は、私がこの手で倒したから、もういいんだ。みんなの力を借りてね」

 

 拘束服で隠れていたが、拳を強く握るような音が聞こえてきた。私の今の言葉に対して、どんな感情を持ったかはわからない。もしかしたら余計に追い詰めてしまったかもしれない。

 

「だからさ、少しだけ、ほんの少しだけでもいいから、近付いてみない?」

 

 本心からその言葉を送った。私はこの子を受け入れる。救いたいのだから。偽善と言われるかもしれないが、それならそれで構わない。私にとってはそれが本心なのだから。

 

「……もうええ。1人にしてくれ」

「そう、じゃあまた来るから」

 

 来るなとは言われなかった。私から近付くことで、少しずつでも心境は変わってくれているのかもしれない。そうであると嬉しい。

 

 

 

 たった1日で心が変わるだなんて思ってはいない。依代の少女は特に深いところまで行っていたのだから。その上、父親が死んだ真相まで今知り、さらにはそれが一番の元凶であることを理解しているのだ。今は簡単には纏められない状態だろう。

 

「ひーちゃん……優しいね」

「うん、お母さん凄いと思う。あんな態度されたら怒っちゃいそうだもん」

 

 部屋から出て大分離れたところで2人に言われるが、私は自分をありのままに出しているに過ぎない。感情も殆ど隠していないのだ。

 

「だから、世界に選ばれたのかもね。ひーちゃんのそういうところ」

「面と向かって言われると照れるなぁ」

 

 時間経過だけでどうにかなるとは思えないので、これからも毎日ちょくちょく話をしていきたいと思う。喧嘩腰でもいいから、こうやって対話が出来れば尚いい。

 




沖波は陽炎よりも怒りや憎しみが強め。邪神のせいで陽炎に対してあの態度を取らされたことを少し根に持っています。ミコトは何が何だかわからないというのもあるけど、お母さんが受け入れてるから受け入れるというスタンス。
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