異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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逃れられぬ悪夢

 それから私、陽炎は、時間を見つけては依代の少女の部屋へと訪問した。また来たのかと煙たがられるものの、来るなとは言われなくなった。それを言われたところで私が来るのをやめるわけでもないので、早々に諦めたようである。

 まだまだ心を開くには時間がかかるとは思うが、きっかけがあれば仲良くなれそうな気はする。それこそ、村雨と萩風のような悪友みたいな仲でもいい。お互いに心の内をさらけ出せるくらいがちょうどいい。

 

「飽きんのか」

 

 お昼の訪問も3回目くらいになったところで、ついにそんな言葉が。この時は珍しく私1人で来ている時。周りに他の者がいないからか、私だけにはそんな言葉を口にした。

 

「飽きないね。ちょっかいかけるのが結構楽しくってさ」

「迷惑じゃ。こっちの身にもなれ」

 

 口は悪いものの、今回も直接的に来るなとか帰れとかは言われない。私がここにいても、これ見よがしに大きな溜息をついた後、無視を決め込むのみ。鬱陶しいと思っているかもしれないが、それを口に出さないということは、そこまででもないと考えてもいいかも。今の迷惑という言い方も、だから来るなとは繋がらない言い方だったし。

 

 弄るときも、太陽の姫の依代だった頃に触れることは決してしない。人間としての新しい道に、その記憶は不要。それでも乗り越えなくてはいけないものではあるため、自分から口に出せるくらいにまで開き直ってから初めてそういうことが出来ると思う。

 だから、私から話せるのはここでやっていることとか、これからどうしていくかとか、前を向ける内容ばかり。聞いていないわけでも無いだろうから、独り言になっても続けた。

 

「私以外は誰か来た? 多分だけど、海防艦の子供達は押し掛けてきたんじゃない?」

「……ああ、ぶち喧しい砂利共か。われがおらん時に来たわ」

 

 あの子供達がここに来ないわけがない。確実に仲良くしようと動き出す。案の定、私がいない間に突撃してきたようだ。それを思い出した途端、仏頂面がさらに疲れたような顔になる。

 

「あの占守と大東っちゅう砂利は、わしがやめろ言うても、ベタベタベタベタ引っ付いてきよる。その度に、松輪っちゅう砂利がアワアワ取り乱してのぅ」

「ああ、もう光景が目に浮かぶようだよ。あの子達はそういう子達だから」

「ちゃんと手綱握っちょれ」

 

 悪態も、ここまで聞いてきたら柔らかく感じるようになってきた。明らかな拒絶は少し抑えられているし、質問次第ではこうやって返答してくれるようにもなっている。回数をこなせばあちらも慣れてくれるという例か。

 最初は本当に怒りと憎しみばかりで、口を開けば呪詛を吐くように敵意を振り撒いていたが、颯元帥と話して罪悪感を感じさせる発言をしてからは少しずつ人間味を帯びてきているような感覚。

 

「あの子達は最たるものだけど、みんな仲良くしようとしてくるでしょ」

「……ああ。わしみたいな人類の裏切りもんの何処がいいんだか。わしはまだこの世界を許しちょらんぞ」

「みんな、アンタに幸せになってもらいたいんだよ」

「なんじゃ、同情か。そういうのが一番迷惑じゃけぇ、放っといてくれ」

 

 同情が無いと言えば嘘になる。境遇が可哀想であるというのは、誰が聞いたって明らかだ。だからこそこうやって仲間達に慣れてもらって、笑顔を取り戻してもらいたいのだ。

 迷惑と言われてしまっても、私は図々しく近付いていく。ここにいる仲間なのだから仲良くしてもいいだろうと思うわけで。特に私達異端児駆逐艦は同年代なわけだし、孤独よりは楽しく生きた方が心にイイと思うのだが。

 

 まぁその決め付けが鬱陶しいと言われそうなので、近付くにしてもある程度の距離感は保つ。

 

「まあまあ。私はアンタと友達になりたいわけよ。同年代って少ないしさ」

「……んなこたぁ知らん。わしにはその資格が無い言うちょるんじゃ」

「そんなことはないよ。人類皆友達でいいじゃない」

「わしゃあ、その人類に滅んでもらいたいんじゃ」

 

 人類が、世界が憎い。この思考はいつまで経っても変わらない。少しは和らいでくれるかと思ったが、それが根幹にあるため払拭は簡単には出来ない。それこそ、この子はまだ今日の朝に目を覚ましたばかりである。時間がまだまだ必要だ。

 この鎮守府でなら、この気持ちを徐々にでも和らげることが出来るのではないかと私は思っている。こうやって話している内にも、ほんの少しずつとはいえ、私達に慣れてきている言動が垣間見えるのだ。

 

「っと、そろそろ面会時間も終了かな」

「誰もそんなもん決めちょらんが、出てってくれるんなら止めやせん」

 

 軽くだが話し込んでしまった。大概私が一方的なのだが、それでも今のようにある程度対話をしてくれる時が出てきている。これを続けていけば、一歩ずつでも明るい道へ向かっていけるはずだ。

 ちゃんと距離感を保って接していけば、いつかは手が届く。急いじゃいけない。焦っちゃいけない。でも、回数だけはこなしていきたい。まずは私から慣れていってくれればいい。

 

 抜け駆けとかそういうのは考えてないから。

 

 

 

 そして、その日の夜。丸一日の休日で、心身共にみんなが休まっている。明日からは平常運転に戻っていくだろう。

 ただ、私はその中には加わることは出来ない。戦う力を失った私は、今後の扱いが決まるまではお休み。その間も依代の少女にちょっかいをかけ続けることになるだろう。

 

「姉さん、結局今日は何回面会に行ったんですか」

「んー、まぁ結構な回数。でも、出てけとは言われなくなったよ。溜息は吐かれたけど、嫌そうな顔では無かったかな」

 

 今日の戦果を萩風に聞かれたため、それなりにと答えておく。まだ初日、良くもなく悪くもない。私の新しい戦いは、始まったばかりだ。

 

「明日も続けていくよ。頻度は落とした方がいいかなとは思ってるけど」

「今日で掴みはいい感じ……ってことかな」

「まぁね。あの子はどう思ってるかはわからないけどさ」

 

 あちらもそう思ってくれればいいのだが。話しやすい相手、親しみやすい相手と感じてくれれば、そこから徐々に仲間達と打ち解けられるはず。

 別に私から始める必要はない。喧しいとは言っていたものの、海防艦の子供達から始めてくれても構わない。誰からだっていいから、明るい道の一歩目に立ってもらいたいのだ。

 

「でも……今日は初めての夜……だよね」

 

 磯波の言葉で思い出した。あの子は今日の朝に目を覚ましたばかり。つまり、夜眠るのは今からが初めて。

 私もそうだったし、今まで救ってきた者達全員が、その日の夜に酷い悪夢を見ることになる。それこそ眠れないくらいに。

 

「そこはちょっと心配かな……眠ったこと確認して神州丸さんも監視から外れるんだっけ」

「流石に神州丸さんだって寝ずの見張りとか出来ないですから」

「出来ればここに呼んであげたいくらいだけど」

 

 私の言葉に、沖波も磯波も萩風も無い無いと首を振る。今までと経緯が違うので、今日の今日招き入れるのには抵抗があるようである。その気持ちはわかる。というか、それが普通なのだと思う。

 村雨の時とは訳が違うのだ。今でもまだ滅びを望んでいる相手を簡単に受け入れることは出来ない。多分そこは私がおかしいのだと思う。自分で言うのはアレだが。

 

「僕はお母さんがそうしたいって言うなら別に構わないよ」

「ありがとうミコト。でも、ミコト自身の気持ちとしてはどう?」

「……うーん」

 

 自分の考えを聞くと、どうしてと頭を捻ってそれ以上の言葉が出てこなくなる。

 

 ミコトの唯一の欠点がこれな気がする。陽炎の巫女であるが故に、自分の意思より私の意思を優先してしまう。故に、自分の意思をほとんど持たない。

 これは今から成長してもらうためにも必要なこと。こちらもゆっくりでいいので、()()()()()成長してもらいたい。反抗期とか来たら泣いてしまうかもしれないが。

 

「でも、悪夢を見るのは心配だね。本当に辛いし……」

 

 経験があるものは全員が項垂れる。依代の少女は私達よりも重い悪夢に魘されかねないので、今から少し心配だ。

 私達のように、最初からみんなで寝るとかが無い上に、本人がそういうことを拒絶しているというのもあるので、ただでさえ回避不可能な地獄を孤独に耐え忍ぶことになる。なまじ人間に戻ったことで罪悪感も戻ってきているのだから、悪夢によってより一層思考が歪む可能性だってあるのだ。

 

「ちょっと顔を見に行った方がいいかな。というか行ってみよう。ちゃんと寝れてれば別にいいし」

「まだ寝てないんじゃないですか? 時間にしては早い方ですし」

「まぁ念のため念のため」

 

 心配事を抱えたままだと私も眠れない。ちょっと顔を見てからにしよう。

 

 

 

 別に私だけで行くよと伝えても、みんなが便乗すると聞かないので、夜ではあるもののぞろぞろと依代の少女の部屋へと向かう。

 部屋の前に神州丸さんがいなかったため、既に眠っているか別件で席を外しているかのどちらか。

 

「お邪魔しまーす……」

 

 なるべく音を立てないように部屋の扉を開ける。中は真っ暗。ということは、既に眠っているようだ。

 耳を澄ませると、小さな寝息が聞こえてきた。眠ってすぐというわけでもないだろうが、熟睡しているようの息遣いなため、寝たフリでもない。

 

「ちゃんと寝られてるみたいだね。なら安心だ」

「じゃあ、起こさないようにゆっくりと……」

 

 またなるべく音を立てないように扉を閉めようとしたのだが、それでは終わらない。

 

「っあ」

 

 急に依代の少女の様子が変わる。グッスリと眠るような寝息だったのが、突然息が詰まるような声に。暗いし位置が悪いので表情が見えないが、息遣いだけで聞いていると苦しんでいるようにしか聞こえない。

 

「っ、あっ……」

「あのさ、私が悪夢見てる時ってあんな感じだった?」

「……そうだね、アレが前兆。夕立ちゃんはアレを見てひーちゃんをすぐに起こそうとしてた」

 

 沖波や磯波は私が魘されているのを最初から見続けている玄人。あの反応だけでも、依代の少女が辛い悪夢を見ているのだと察することが出来た。

 なら、救わない理由が無い。まだ時間も早いのにあの反応を示すということは、村雨の時にも聞いた1日で2回3回と悪夢を見る症状が出ているのと同じだ。苦しみ続けて眠ることも出来ず、消耗を重ねてストレスも溜まり、最後は……と考えている内に早く起こしてやらなければ。

 

 誰も止める者がいないため、私はすぐに部屋の中に入った。電気をつけると、やはり苦しそうな顔。冷や汗をダラダラかきながら、悶え苦しむように首を振り、歯を食いしばっていた。

 その姿を見て、ミコトは不安そうに私と依代の少女の顔を交互に見る。如何に相手が()()()()者でも、こんな姿を見てしまったら心配になるのは当たり前だった。ミコトも陽炎の巫女なだけあって優しい子に育ってくれている。

 

「ちょっと、起きなよ! 起きな!」

 

 私が率先して肩を揺する。それでもしばらく夢の世界から戻ってこれなそうだったのだが、ずっと繰り返す内にようやく目を覚ました。

 目を開いた途端に、何処にそんなに溜め込んでいたのだと思うほど涙が溢れ出し、疲れ切っているように息を切らせる。私もこういうことがあったからよくわかる。

 

「わ、わしゃあ……」

 

 バッと起き上がり、自分の手を見た。勿論人の手なのだが、眠る時も残念ながら拘束服ではあるため、その手は見えない。

 

「嫌な夢を見たんだよね」

「……われには関係無いじゃろ……」

 

 強がりを言っているようだが、身体は震えたままである。こんな相手を放ってはおけない。

 

「落ち着くまで側にいるから」

「構うな……」

「強がってんじゃないよ」

 

 ここは半ば強引に。そうでもしないと、この子はここからさらにダメになる。それはよろしくない。

 

「……勝手にせい」

「勿論」

 

 せめて落ち着けるまでは近くにいてあげなくては。

 

 

 

 悪夢からは逃れられない。ならば、それに打ち勝つために協力してあげたい。

 




どんな悪夢を見ていたかは次回。依代の少女も、人間として蘇ったことによってコレに苛まれることに。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/89978188
MMD静画のアイキャッチ風陽炎。艤装と共にある姿は艦娘としては普通なんですが、このストーリーではこれが実は親子のツーショットになるという不思議な絵。今だからこそ感慨深い絵ですね。リンク先はエンディング風のイラストもあるのでどうぞ。
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