異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
「悪夢が更新された?」
朝の執務室。悪夢を見た時は言えと空城司令に言われていたため、律儀にそれを話しに来た私、陽炎。今までに見たことのないところまで夢として思い出してきたため、その辺りも伝える。おそらくは深海棲艦との戦闘を経験したことが原因だろうとも。
空城司令としては納得はしているようである。私が艦娘としての道を一歩ずつ進むにつれ失われた記憶も蘇ってきているのだから。
私の見た深海棲艦は、赤いとだけしか言えなかった。だが、今回の夢ではそこが更新され、少しだけ先に進んでいる。その深海棲艦は何かを持っていた。そして、艦載機を使っていた。そしてその爆撃で。
「艦載機による爆撃……確かに、アンタのいたっていう街は、砲撃だけでなく爆撃も受けているような痕跡はあったらしいね。空母の艦爆じゃないかと思っていたが」
「私もそう思ってる。あの群れの親分が空母なんじゃないかなって」
私も、あの群れを率いていたのは、天城さんや隼鷹さんのような空母なのではないかと推測している。それ以外に艦載機を使う艦種を知らないというのもあるが。
速吸さんも艦載機を使えるらしいので補給艦という線もあるのだが、言っては悪いが補給艦があの群れの中心にいるとは少し考えづらい。
「1つ聞きたいんだが、その赤い深海棲艦ってのは、どう赤いんだい。全体が赤いのか、一部が赤いのか、それとも赤く感じる
一番最後のは、深海棲艦特有のオーラ的なもののことを指している。今のところ私は見たことが無いのだが、強力な深海棲艦はオーラを身に纏っており、普通のものとは違って赤や黄、青に淡く発光しているらしい。
だが、私が見たものはそういうものではなかった。赤い、全身真っ赤というわけでは無いが、ぱっと見で赤いと思えるくらいのもの。
「全体が赤く感じた。その時は泣きじゃくってたから、どうしてもボヤけて見えてたんだけど」
「全体的に赤く、艦載機を使う深海棲艦か……。しー、何か思い当たる奴はいるかい」
今までに出現した深海棲艦はデータが纏められ、資料室に置かれている。私も休日を使って一通り目を通したが、写真があるものと無いものがあるため、私の知識量ではさっぱりわからなかった。
赤い深海棲艦というのもいくつかはあったものの、私がピンと来るようなものはいない。データとして存在しているにしても、写真が残されていないような
「その艦載機が何かというのもありますが、艦種は絞れますね。空母、航空戦艦、水上機母艦、あとは一部の重巡洋艦や軽巡洋艦でしょうか」
「その中で赤いのは」
「私も直に見たことがあるわけでは無いので、資料の文面頼りになります。群れを統率する巣の主となると、頻繁に現れる空母棲姫や戦艦棲姫以外だと写真もなかなか残されていませんし」
やはり。そもそも写真なんて撮っている余裕がないのが戦場だ。私が資料室で見たデータも、ピントが合っている写真の方が少ないくらいだった。イラストのものまである程である。諜報活動を生業にしている部隊がどうにかデータを掻き集めているらしいが、それでも手が足りないのが現状。
そもそも、巣の主が同型で現れるというのもよくわからない。倒したと思った姫が別の場所で当たり前のように活動していたとか、同じ姫が3体同時に現れたとか、深海棲艦の生態があまりにも意味不明であることが如実に現れている。
「こちらで諜報部隊にコンタクトを取ってみます。もしかしたら陽炎さんの証言から何かを導き出してくれるかもしれませんから」
「ああ、頼んだよ。だがその前に。陽炎、それは思い出したいことかい」
あの時の記憶を取り戻した場合、私は忘れてしまっている両親が死ぬ瞬間まで思い出してしまうことになるだろう。あの悪夢も、母さんが吹き飛ばされる瞬間で終わっている。あれが続いていたら、まず間違いなく私の目の前で母さんが死ぬ様を見せつけられることになるだろう。
それを思い出して私はどうなってしまうのだろう。悪夢から目覚めた時でも大きく消耗したのに、核心に迫ったのならあの程度では済まないのでは無いだろうか。
だが、休日に天城さんにも話したが、思い出せないことが辛いのだ。なら、思い出したい。両親の仇の姿を。決着をつけるために。
「うん、思い出したい。全部」
決意し、空城司令を見据えて言った。それを聞いて、空城司令は満足げに、だが少し悲しそうに微笑んだ。
「いいだろう。後悔もしないようだしね」
「後悔なんてしないよ。父さんと母さんの仇の顔を思い出したいんだから」
「復讐に呑み込まれるんじゃないよ」
耳が痛くなるほど言われているが、そのおかげで艦娘の心得はしっかりと身に付いている。それに、命を投げ出してまでする復讐の方が親不孝になるということだって理解しているつもりだ。
私の目的は復讐。だが、この鎮守府にいるのだから、そのルールに則った復讐をしていく必要がある。それに私は艦娘だ。復讐より優先しないといけないことが沢山ある。
「理解してるならそれでいいんだ、その気持ちを忘れずに、今日の訓練に行ってきな。今日の予定は何だい?」
「今日は防空訓練。初月とだね」
都合がよかった。悪夢の中で母さんを吹き飛ばそうとしていた艦載機を撃ち墜とす訓練だ。私の仇の攻撃手段を削ぐための技術なのだから、俄然力が入るというものである。力が入りすぎていつものようにいかない、なんてことが起きないように、ちゃんと落ち着いて訓練しなくては。
防空訓練。艦載機は天城さんが発艦し、それを私と初月が撃ち墜とすという、初めてやった時から基本的には変わらない訓練内容。だが、哨戒任務を開始したということで若干のバージョンアップ。それは、艦載機からの爆撃が追加されることである。
今までは飛んでいるだけの艦載機だったが、あちらからの攻撃も来るようになったことで、回避も一緒に訓練することになる。上から降ってくる爆弾は当然ダミーのものではあるのだが、本物と同じように爆発し、周囲にペンキをバラまく特別製。
「本来はこれが当たり前なんだよね」
「ああ。仲間達への空襲を防ぐのが僕達の仕事だ」
爆撃の怖さは悪夢で理解している。あんなものを喰らったら、いくら強化されている艦娘と言えども致命傷になりかねない。生身の人間なら尚更だ。
あの瞬間を思い出し、手に力が入る。訓練だというのに実戦のような感覚に陥る。昨日までは何とも思わなかったのに、今は艦載機に憎しみすら感じるようになってしまった。
爆撃を回避しながらの対空砲火は、割と上手くいった方だった。爆撃を回避しきれずにバラまかれたペンキが身体の一部に付いてしまったが、飛ばされた3機の艦載機はしっかりと撃ち墜とすことが出来た。
回避という追加の行動があったものの、照準を定めることが出来れば艤装がしっかりと当ててくれるので、撃墜自体にはそこまで影響は無かった。
「陽炎、何かあったのか?」
しかし、初月には何か思うところがあったようで、訓練終了と同時に訝しげな表情で尋ねてくる。
「何かって?」
「前に見た時より、対空砲火が荒かった。回避しながらだから多少は雑になってもおかしくはないが、それとは別のものを感じた」
艦載機に対する感情が対空砲火に表れてしまったらしい。別に今までがスマートに出来ていたわけではないのだが、それ以上に今回は雑になっていたと言う。私にはそんなつもりが無かったが、客観的に見ればそうなのだろう。特に防空に精通している初月だからよくわかると。
「……うん、まぁ、ちょっとね」
「話せるなら話した方がいい。楽になるだろう」
意外とグイグイ来る。天城さんも合流して私が話す流れになっていく。
隠すことでもないので、掻い摘んで説明することにした。私が悪夢に悩まされていることは鎮守府内の誰でも知っているようなことだし、それが私が封じた過去の記憶であることも理解してもらえている。その話だと言えば納得してもらえるだろう。
艦載機により親が殺されたことを思い出したと端的に説明した時点で、天城さんが悲しそうな顔に。初月も複雑な表情をしている。
「そうか……陽炎
「初月も?」
「ああ。仕事に出ていた父がな、深海棲艦の空襲でやられた」
初月も深海棲艦の手で片親の命が奪われている。艦娘になる動機にもなり得ることだ。
「僕も父を奪った艦載機が憎い。だが、だからといって自棄になったらまず間違いなく破滅する」
「……うん」
「僕らのこの対空砲火の力は、みんなを守るための力だ。憎しみを晴らすためのものじゃない」
何というか、達観している。初月も私よりは当然長く艦娘をやっているわけで、そういうことを考える時間は沢山あったのだろう。この考えに行き着くまでにどれだけ時間を使ったかはわからないが、少なくともこの考えは間違っていない。
艦娘の心得をしっかりと胸に刻む。何度も何度も刻む。私は守護者。破壊者じゃない。艦載機を壊すために対空砲火をしているわけじゃない。その爆撃によって被害者を出さないようにするため、みんなを守るためにするのだ。
「……やっぱり思い出したその時はブレブレになっちゃうね」
「ああ。そういう時は誰かに話せばいい。話しやすい人は何人でもいる。天城さんみたいにな」
悲しそうな顔をしていた天城さんも、すぐに気を取り直して慈悲深い笑みをしていた。資料室で話をしたときと同じ。元保育士の包容力をまたもや発揮しそう。
「陽炎ちゃん、私で良ければまた甘えてくれて構いませんからね。撫で撫でしてあげましょうか?」
「あはは、じゃあお願いしていいかな」
「ふふ、いいですよ。それで落ち着けるのなら」
抱き寄せられて、頭を撫でられる。相変わらず豊満なそれに顔を押し当てることになり、やけに落ち着く。海の上で無ければそのまま眠ってしまいそうなくらいに。
事実、悪夢のせいで普段よりも早く目を覚ましているというのもあるので、いつもよりは睡眠時間が短い。眠気が来るのも当然なのかもしれない。
「ありがとう天城さん。落ち着けた。このままだと多分寝ちゃう」
「そうですか。訓練中に居眠りはよろしくないですね」
苦笑されて身体を離される。気合いは入れ直した。これなら訓練により身が入るだろう。今度はちゃんと守るということを意識して。
だが、不意に初月が全く別の方を向いた。鎮守府とは逆方向、水平線の向こう側だ。
「何かあった?」
「陽炎、電探で確認してみろ。
言われてすぐに電探で空を確認する。目視で見えないところまでその効果範囲を広げると、初月の言う通り知らない
「敵機だ! 陽炎、実戦訓練に移行するぞ!」
私も初月も、今は訓練用のペイント弾しか使えない。だがやらないよりはマシだ。
そのまま進ませたら鎮守府の方に飛んでいく。そこで爆撃でもされたら、今鎮守府の中にいるであろう人達全員が危険だ。それは絶対に回避しなくてはいけない。
「天城さん、制空権取れるか!」
「こちらもダミーですが、制空権くらいなら取れるでしょう。敵機は何機ですか」
「反応からして1機だけだ!」
「なら、すぐにでも」
緊急事態であるということで天城さんも本気。旗竿を振る動きも訓練の時とはまるで違う高速。即座に艦載機が発艦し、敵機1機に向けて猛烈に突き進んでいく。
その頃には目視出来るくらいの位置に艦載機が確認出来た。天城さんの取り扱うものとは形状がまるで違う黒いそれは、そこまでのスピードは出ていないものの確実に突き進んできた。
「陽炎、対空砲火!」
「りょ、了解!」
天城さんの艦載機の攻撃をヒラリヒラリと回避する敵機を墜とすため、私と初月の共同で対空砲火。ダミーとはいえ、当たれば何かしらの反応はあるはずだ。
「今だ、撃て!」
あちらは爆撃とかが無かったため、回避行動をすることなく撃つことが出来た。結果、私の攻撃は当たらなかったものの初月の攻撃が翼を掠め、バランスを崩して落下。着水と同時に消滅した。
天城さんの牽制のおかげで行動を抑制し、対空砲火を当て易くしてくれている。空母との連携は必要不可欠。
「消えちゃった」
「敵機はそういうのもある。ということは、今のは攻撃のための機体じゃ無かったな」
「そういうものなの?」
「ああ。こちらを監視するための艦載機だろう」
だからか。あの艦載機が墜落するとき、やけに視線のようなものを感じたのは。あの艦載機は最後、確実に
このことはすぐに報告され、哨戒部隊にも連絡された。しかし、飛ばしてきたものは結局不明という形で幕を下ろす。
ある意味これが私のこの後の運命の始まりだったのかもしれない。
ここからが、本当の始まり。