異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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陽炎の行く末

 依代の少女、日奈との散歩は一旦終了。不治の病が失われ、自由に飛び立てるようになったことで、ようやく明るい未来に歩み出す決心がついたようだった。

 その第一歩は、私、陽炎と友達になること。私だけじゃない、異端児駆逐艦全員がそれを望み、日奈は私達の手を取った。これでもう友達だ。夕立のおかげで少しとはいえ笑顔も取り戻すことが出来たため、これからも安泰だと思う。

 

 とはいえ、罪悪感や世界への恨みは払拭出来たわけではない。今後も悪夢に苛まれるだろうし、何度も踏み出すのを躊躇うことにもなるだろう。それを支えるのが私達だ。友達なんだから。

 

「ちょっと歩いただけで、ぶち疲れたわ……」

「速吸さんが体力は衰えてるって言ってたし、仕方ないでしょ」

「運動なんてやってきとらんけぇ、仕方ないんかな」

 

 鎮守府の外を軽く歩き回っただけで音を上げていた。これは本当に体力が無い。私達は鍛えているから何も問題無いが、今までに一度も運動と言えることをしたことが無いのだから、こうなっても仕方ないか。

 私も艦娘では無くなったことで体力が見る見る内に減っていくだろう。今後どういう扱いになるかはわからないが、ある程度は体力を維持していかなくては。

 

「なら、ピヨ姉も僕達と運動しようよ。海防艦の子達と体育したりするの楽しいよ」

「子供達と体育とは、わしにも丁度良いかもしれんのう」

 

 子供達の体育は、そんじょそこらの体力ではついていけないくらいハードなので、まず確実にへばる。というか倒れる。全く丁度良くない。

 誰も何も言わないのは、日奈にも洗礼を受けさせようとしているのだろうか。私もそれに対して何も言わないので同罪か。これはちゃんと伝えておいた方がいい気がする。

 

 しかし、それを言う前に磯波が危なかった。ただでさえ夕立のつけた仇名で一度破裂していたのだが、ミコトのピヨ姉発言は同じ場所を抉るには充分すぎた。倒れ込むほどでは無かったが、肩を震わせて耐えている。

 

「艦娘をやるのなら、速吸さんの訓練もありますよ。短期間で体力をつけられるスパルタですけど」

「そりゃどがいなことをするんじゃ?」

「倒れるまで持久走と遠泳ですね」

「ま、まぁ、わしゃあまだ艦娘やるとは言っとらんけぇ」

 

 艦娘をやるかはまだ考え中のようだが、今の萩風の脅しみたいなものでちょっと引き気味になってしまった。

 私としては、艦娘としてみんなと戦ってもらうのもアリかなとは思っているが、やっと掴めた幸せな生活に命懸けの戦いを加えるのは酷ではないかとも思ってしまう。

 やはりそこは日奈に決めてもらおう。その選択に私達が口出しをするわけにはいかない。今まで生き方を選ぶことすら出来なかったのだから、そういうところから明るい人生を楽しんでもらいたいのだ。

 

「……艦娘か。わしゃあ……やった方がええんじゃろうか」

「私達は何も言わないよ。自分で決めるべき」

「ケジメのためにゃあ、わしも艦娘として戦場に立った方がええと思うんじゃ。わしにも艦娘の才能があるらしいし、わしのせいで陽炎の力がのうなってしもうたんじゃろ。それなら……と思うてな」

 

 深海棲艦が生まれたのは自分のせいだと思ってしまうのは仕方ない。だから、罪滅ぼしで戦いに身を投じると考えるのも無理はない。

 

「……いや、あまり暗い理由でやるのは良うないな。わしも、みんなと世界を守りたいと思ったんじゃ。じゃが……今更艦娘になったところで、足を引っ張るだけになり得んか」

「別にそんなことないよ。早く戦いを終わらせるためには、人数が必要だから」

 

 そういう方向で抵抗があるのなら、何も考えなくていいと思う。誰もそんなこと気にしないし、懇切丁寧に教えてくれるだろう。才能があるということは、戦える技術を覚えることが出来るんだし。

 言い出したら、ミコトはさておき村雨もかなり最近の加入だ。元々のセンスもあるかもしれないが、1週間やそこらで決戦に参加しているくらいなのだし、日奈もきっとすぐに戦えるようになる。

 

「ほんなら……艤装が見つかったらわしも艦娘をやってみようかの。命懸けってのも、みんながおりゃあ大丈夫なんじゃろ」

「勿論。艦娘は、破壊者じゃなく守護者だからね」

 

 結果、日奈も艦娘への道を選ぶことに。自由となり、最初に選んだ道は、私達と一緒に戦うことだった。

 

 

 

 散歩を終えて午後の残りの時間を寛いでいるところで、私にお呼び出しがかかる。なんでも、颯元帥から連絡が来ており、直接私に話がしたいのだということらしい。

 このタイミングで私に用があるとなると、それは当然私の処遇についてだ。艦娘では無くなった私が、今後どうしていくかが決まったのだろう。

 

 悪いようにはしないと言っていたものの、私はもう戦いには参加出来ない。整備班に加わるとかになるかもしれないが、そうなると艦娘以上に覚えるのに時間がかかる。さっきの日奈の不安ではないが、足を引っ張るのではないだろうか。

 

「来たかい」

 

 呼び出された執務室で、空城司令がニコニコしながら待ち構えていた。私がこの部屋に来るまで颯元帥と話をしていたようだが、えらく上機嫌。

 

「元帥、スピーカーにするから、陽炎とは自由に話しておくれ」

 

 電話器を操作して、あちら側の声が私にも届くようにしてくれた。途中ガサガサと音が聞こえたものの、すぐにそれも終わる。

 

『聞こえているか』

「ああ、大丈夫だ。陽炎も大丈夫だね?」

「うん、ちゃんと聞こえてる」

 

 スピーカー越しの元帥の声も、心無しか機嫌がいいように聞こえる。あの感情を押し殺している表情が見えないと、意外と感情は豊かなのかもしれない。もしくは、太陽の姫を討ち倒したことによって精神的にも余裕が出来たか。

 私の処遇が悪い方向には行かなかったというのがこの時点でわかる。そうで無かったら司令もこんなに上機嫌ではないだろうし、怒鳴り声くらい聞こえてきそうなものだ。

 

『まずは、此度の戦い、よくやってくれた。改めて礼を言わせてほしい。ありがとう』

「うん、これで世界が平和に近付いたなら良かったよ」

 

 これは建前ではなく本心。私の力が失われたとしても、それで平和に一歩以上に前進出来たのだから良し。

 深海棲艦を全て斃すことが出来たら、結果的に全員が艦娘としての力を失うことになるのだ。私はそのきっかけを作りつつ、先んじてゴールに辿り着いただけ。

 

『本題に入ろうか。君には2つの道が提示される。1つは退役だ』

 

 そもそも力を失うというのが前代未聞だったりする。一度得た艦娘の力はそう簡単には失われず、艤装が全損して修復も代用も無理となった場合にのみ、()()()()()()ということがあり得るのだそうだ。

 その場合は退役、つまりこの戦いから退くことになる。鎮守府から離れ、実家に帰るなりなんなりすることが推奨されるが、機密を知る者として監視はどうしてもつくらしい。

 

『しかし、君はこの戦いの被害者であり、英雄だ。力を失ったから退役という形では、君に対して失礼だと思う。そこでだ。まず1つ君に問いたい。もう戦うことが出来ないその身でも、鎮守府に居続けることを望むか』

 

 勿論YESだ。ここまで関わってきて、ラスボスも倒すことが出来た。それならば、この戦いの行く末を最後まで見届けたい。終わりに手が届いているのだから尚更だ。

 

「勿論」

『ならば、次の道を提示しよう。君の存在は大本営でも大きく取り上げられている。元々はマイナス同期値から始まったが、太陽の姫の巫女となり、深海棲艦化を経て、分霊という力まで得た。今でこそその力は無いとしても、君は特殊であることを自覚していると思う』

 

 確かに、今でこそ私は何の力も持っていない一般人。

 

『戦場に立っていた経歴、実戦を経て手に入れた戦闘に関する知識、それにこう言っていいのかはわからないが、対となる者としてのカリスマ性も持ち得ている』

「カリスマ性は知らないけど……まぁ、ただの人間とは言えないくらいに経験はあるよね。決戦の時に本隊の旗艦なんてやらせてもらっちゃったし」

 

 カリスマってことは、人の上に立つ才能みたいなことを言っているのだと思う。そういうのは私には無いと思うのだが、ミコトのような存在もあるし、夕立や磯波のような存在もある。自分で言うことでは無いのだが、慕ってもらえているのは感じる。

 いくつかは私が歪めてしまったものなのだが、私がやってきたことの結果が今の人間関係だ。幸いにも誰とも仲違いをすることなくここまでやってこれた。

 

『そういう者を、我々は()()()()()()()()()()()()

 

 話が変わった。これはあまりにも想定外だった。余程私がおかしな顔をしたのだろう、空城司令がクックッと笑いを堪えている。しーちゃんもニコニコだ。事前にこの話を聞いていたから上機嫌だったのだろう。

 

「え、ええっ!?」

『とはいえ、君はまだ若い。未成年の提督というのは前代未聞であり、本来は不可能だ。しかし、君はそれだけの才能を持っている。それを埋もれさせるのは惜しい。故に、君には空城君の提督補佐として、その鎮守府で異端児の部隊を率いてもらいたい』

 

 つまり、この鎮守府を司令官2人体制にし、通常の艦娘と異端児の艦娘を分散して配備するということか。で、通常の艦娘は空城司令が今まで通り管轄して、異端児の艦娘を私が管轄すると。

 実際に私が司令官となるのは難しいだろうから、空城司令と一緒に執務をしながら、この戦いが終わるまでみんなと一緒にここで戦い続けるということになるわけだ。

 

「言っちまえば、今までと殆ど変わりゃしない。アタシにゃ秘書としてしーがいるが、アンタには艦隊運営の一部を任せたいってことさね。基本的にゃ共同作戦になる。流石に未成年のアンタに鎮守府を与えるのは荷が重すぎるだろうからね」

『そういうことだ。とはいえ名目は提督、艦娘以上に責任がついて回るだろう』

 

 結果的には今までと生活は変わらない。何もせずにここでみんなのことを待つわけではなく、上に立つ者としてここで働くわけだ。

 

「強いるわけじゃあ無いが、アタシとしては受け持ってくれると助かるがね。分散で作業出来るってことは、アタシの仕事が多少減るってことにもなる」

「まぁ、うん、そりゃそうだろうけども、私なんかで出来るの?」

『私は、君になら出来ると思ってこの案を提示している。ちなみに、大本営では九分九厘了承を得ている』

 

 実際、私を手放すのは惜しいと考えているのはわかる。元太陽の姫なんて得体の知れない存在を野放しにするのは恐ろしいのだろう。だからこそ、子飼いにして手元に置くと。

 

『それと、決め手になっているのはミコトの存在だ』

「ああ……なるほど。納得した」

 

 私以上に得体の知れない存在、そもそも人間として見ていいのかわからない存在であるミコトが最も懐いている私を司令官にしておけば、突如牙を剥くようなことも無くなる。

 それにまだ向こうには伝わっていないとは思うが、日奈のこともある。あの子は艦娘になる決意をしているのだし、友達である私が導いてあげることが出来れば、より良い方向に持っていけるかもしれない。

 

『だが、最後は君の意思だ。ここまで話しておいて言うのもなんだが、君が首を横に振るのなら今の話は無かったことに出来る。その場合は、また違った形を考える必要はあるが』

 

 それこそ、しーちゃんのような事務業務に入ったり、ちょっと自分でも考えた整備班入りなんて道だってある。

 だが、司令官という道はそれはそれで魅力的だった。この戦いから身を退かず、みんなと一緒に居られる口実も手に入り、空城司令を楽させることにも繋がるというのなら、思った以上に願っても無い立場なのでは無いだろうか。

 

 決心がついた。

 

「わかった。じゃあ、私はその道を選ぶよ。みんなを導くなんてことは出来ないかもしれないけど、やってみなくちゃわからないからね。ポンコツでも後悔しないでよ」

「なんだかんだアンタはちゃんとやるだろうさ。それに、アタシが教えるんだ。ポンコツになんかなるわけがないね」

 

 自信満々な空城司令に安心する。この人の下でなら、私は提督業もうまくやっていけるはずだ。

 

『了解した。ならば、その通りに手続きをしていこう。後日改めて通達をさせてもらう。階級としては少佐ということになるが、そこまで気にしなくてもいい。君には何も不自由させないように努めよう』

 

 階級まで貰ってしまったら、俄然やる気が出るというものだ。

 

 

 

 

「艦娘としても異端児だったが、提督としても文字通りの意味で異端児になっちまったね。これからもよろしく頼むよ、陽炎」

「うん、今後ともよろしくね!」

 

 艦娘である陽炎は失われたが、司令官としての陽炎として今後を生きていくことになりそうだ。深海棲艦がいなくなるまで、私はこの戦いに身を投じ続ける。

 




陽炎少佐爆誕。異端児を導く者として、新たな道が拓かれました。
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