異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
艦娘の力を失った私、陽炎は、颯元帥からの推薦により提督業の道を歩むことになった。艦娘から提督への転身というのは勿論、今までに例の無いこと。 D型異端児だったりM型異端児だったりした私は、提督としても本来の意味通り異端児となる。
提督となったからと言って鎮守府を与えられるわけでもなく、空城司令と共にこの鎮守府で働くことも決まっている。そこで私は異端児の仲間達を統括する役目を与えられるとのこと。
この決定はすぐに鎮守府内に広められた。管轄の切り替えなども必要なため、先んじて該当者には伝えておく必要があるとのこと。それに伴い、ここにいる全員がそれを知ることになる。
私が受け持つのは、この鎮守府に所属している異端児全員だ。そうなると、おおよそ半々くらいになる。とはいえ、結局2人の提督による共同運営みたいなものなので、管轄は違えど任務は一緒にやってもらうことになる。
まずは空城司令の下で提督業を学び、よくよくは独立なんてこともあるかもしれない。私が成人したらそういうことも考えられるかも。そんなに長々と戦いが続いてほしくないものだが。
「ゲロ様提督さんになるっぽい!? ならずっとここにいられるね!」
「だね。異端児全員の上司扱いになっちゃうみたいだけど、今まで通りに付き合ってほしいな」
全員にその話が行き渡った夕食時の食堂、早速夕立が騒ぎ出していた。夕立も異端児であるため、私管轄の艦娘になる。というか、いつも一緒にいるようなものである異端児駆逐艦は全員そのままだ。
万が一、私が鎮守府を与えられることによってここから出て行くということになったとしても、みんな一緒にそちらに移動することになるだろう。そういう意味でもずっと一緒。
「じゃあ、あの部屋も引き払っちゃうの? 司令官は別室使ってるよね」
「それは無いんじゃないかな。わざわざあの部屋から離れるのも面倒だし、まだまだ提督見習いだからね。半端者の内は、今までと同じだよ」
沖波の心配は何処を向いているのかはわからないが、少なくとも私はあの部屋での生活はまだまだ続けていくつもりだ。立場が変わっても、生活から急に変えるのは簡単ではないし、そもそも私のための部屋というものが作られるかと言ったらそうでもない。
そもそも私の執務は空城司令と同じ部屋で行う。1人の部屋を貰えるわけでなく、空城司令の隣で学びながらの仕事になるのだ。それなら全てを今まで通りにしたままの方がいい。
「ほんなら、わしも陽炎の部下っちゅうわけじゃ」
「艦娘になれたらね。艤装、まだ見つかってないんでしょ?」
「そうじゃのぉ。絶賛捜索中とは言われとるが、わしに合うモノかどうかはわからんそうじゃ」
日奈も異端児。つまり、漏れなく私の管轄になる。この辺りは都合がいい。今から艦娘としての道を歩もうとしている友達を見届けることが出来るというのは、私としても嬉しいことだし、是非ともやりたいことである。
まだ日奈に合う艤装は見つかっていないが、なんでも近日中にあの沈没船付近の探索に出ることも考えられているらしい。もしかしたら D型艤装がドロップしている可能性がある。
「ま、立場は変わるけど、今までと何も変わらないから、今後ともよろしくね」
食堂にいるみんなに聞いてもらえるように、大きな声で宣言する。それに対して、みんなは歓声を上げた。艦娘としてではない、提督としての私も、みんながすぐに受け入れてくれたのだ。
艦娘であろうが提督であろうが、私は私だ。関係性を変えるつもりはないし、変わってもらいたくない。年齢が変わるわけでもあるまいし。
だから、今までと同じように、みんなと付き合っていきたいと思う。ちょっとやることが違うだけ。それ以外はみんな一緒だ。
そして翌朝。ついにこの時がやってくる。
戦いが終わったのだから、この鎮守府所属ではない者達は、あるべき場所に帰っていく。かなり長い間付き合ってもらったので、この帰投は少し名残惜しく感じてしまう。
勿論迎えが必要なため、各々司令達が勢揃いとなる。物部司令も呉内司令も、影野司令までもがこの鎮守府にやってくる予定だ。
私は早速提督見習いとして、空城司令と共にその手続きなどに参加させてもらっている。お出迎えくらいは艦娘の時からやっていたが、書類の管理までは流石に初めて。提督としての第一歩だと思うと俄然やる気が出るというもの。
「話にゃ聞いたぜ。陽炎、俺達の後輩になるんだってな」
まず最初にやってきたのは呉内司令。人数が多いというのと、規模が大きい艤装が多いため、早めに事を終わらせるつもりだそうだ。
私の件は、呉内司令には既に伝わっていたらしく、ここに到着するや否やすぐにその話題を切り出してきた。艤装の積み込みやら何やらで時間がかかるし、それくらい話す時間はあるだろう。
「うん、今は仮だけど、後日正式に決定が通達されるって」
「力を失ったって聞いた時ゃ驚いたもんだが、そういう形で関係を続けていくんだな。なら、まだ俺達との縁も続くわけだ」
退役していたら、そこで縁が切れていただろう。だが、提督としてやっていくのならまだまだ縁は続く。今回のように支援艦隊なんてことは無いかもしれないが、同業者ならまた一緒に戦う可能性は普通にある。それこそ、今度は呉内司令からお呼びがかかるかもしれないし。
「あーっ! 陽炎ちゃん!」
などと話している内に影野司令も到着。本当は呉内司令とかち合わないようにもう少し遅めになるはずだったのだが、いてもたってもいられなくなったようで、香取さんの制止も聞かずにここまで来てしまったらしい。
まぁここは元々顔見知りなので、こういうことをしても気にしないとは思う。声が聞こえた時点で呉内司令が小さく苦笑したのが見えた。
私の姿を見つけるや否や、空城司令や呉内司令がいるにもかかわらず、猛ダッシュで近づいてきて私の手を握り、ブンブンと手を振る。
「聞いたよ! 艦娘の力無くした上に提督になるんだって!?」
「う、うん、流れでそんな感じに」
「私は先輩になるから、なんでも聞いてくれて構わないからね! いっぱい頼ってくれていいからね!」
勢いがすごい。相変わらずこの人は感情の幅が激しいなと思っていたら、後ろからスタスタとやってきた香取さんが一発引っ叩いて私から引き離してくれた。このままだと話が終わらないだろうし。こういうストッパーがいるから、影野司令はやっていけるのではないかと思う。
「相変わらず騒がしいお嬢ちゃんだ」
「あ、呉内大将! いつもお世話になってます!」
「申し訳ございません……うちの提督が毎度毎度……」
表情がコロコロ変わる影野司令と、制御役の香取さん。久しぶりに見ると、最早漫才師にすら見えてきた。電話越しですら凄まじかったが、直だともっと面白い。
「アンタ達の援軍、本当に助かったよ。おかげで最高の戦果を得ることが出来た」
「これでいい感じに貸しが出来たと思うんでな。こっちが厳しくなったら手ぇ貸してくれ」
「お役に立てて良かったです。また何かあれば、お手伝いさせてくださいね」
司令同士の友情も育めたようだ。ここで出来た縁は、確実に今後に生きてくる。お互いを助け合って、この戦いを早く終わらせるのだ。
そして、そこに私も加わることになる。提督として戦っていくのだから、こういう縁は大事にしていきたい。
司令2人が到着したことで、支援艦隊の艦娘達もぞろぞろと帰り支度を終わらせてやってくる。艤装を積み込むのは整備班の面々にお手伝いしてもらい、艦娘当人は部屋の片付け。とはいえ、そこまで荷物があるわけでもないので、さくっと終わらせて帰投になる。
支援艦隊にも長々と付き合ってもらったため、この別れも少し名残惜しい。アクィラさんやネルソンさんには特にお世話になったような気がする。というか、ネルソンさんはいろいろと引っ掻き回してくれたのでやけに印象が強い。磯波は何度も破裂させられてるし。
「カゲロー、これで一度お別れね」
「うん、でも今生の別れってわけじゃないし、また会えるよね」
「勿論! 今度は一人前の提督になったところを私達に見せてちょうだいね」
代表でアクィラさんが私のところへ。他のみんなも各々別れを惜しみつつも再会の約束を取り付けてきたらしい。
「だから、名残惜しくするのはやめておくわ。
「うん、また会おうね」
最後の挨拶は思いの外あっさりと。だが、それくらいが丁度いい。長々と別れを惜しむのはよろしくない。後腐れなく、再会を望んで。
まだまだ戦いは続くため、死に別れなんてことだって考えられるのだが、この人達にそれは無いと確信出来る。それだけ強い。心身共に。
「君が伊58……ゴーヤちゃんだね。元帥閣下から聞いての通り、君の所属は私のところに異動してるから、このまま私達の鎮守府に来てもらえるかな」
「はいでち。よろしくお願いします!」
「うんうん、元気でよろしい! 潜水艦が入ってくれると助かるからね。これからよろしくね」
ブラックな鎮守府から抜け出し、影野司令の鎮守府へと移籍することになったゴーヤは、ここで影野司令と初顔合わせ。この人のことだから、絶対に大事に使ってくれる。疲労困憊で正しい判断が出来なくなるようなことはもう無いはずだ。
「海防艦の子達に泣かれかけたわ。結構長く付き合ってきたものね」
「そうねぇ。また来なくちゃいけないわねぇ」
五十鈴さんと龍田さんも帰投の準備を終えてこちらに。予定よりも早く影野司令が到着してしまったのだが、その辺りも考慮して早めに行動していたらしい。流石としか言えない。
その2人も、ここにいる間は大鷹と一緒に海防艦の保護者をやってくれていた。そのせいか、占守や大東が別れを惜しんで泣きそうになっていたらしい。最初は疑いの目を向けてしまっていたが、今になってはこんなに深い仲になっている。
「お、艤装の積み込みも終わったみたいだね。これで終わりかい」
「ああ、そうだな。それじゃあ、これで終わらせてもらうぜ。また何かあったら連絡くれや。俺としては陽炎の成長が気になるんでな」
「私もです! 陽炎ちゃん、さっきも言ったけど、私のこと頼ってくれていいからね。先輩だからさ」
先輩風はすごいが、実際に私よりも提督としての経験が長いに決まっているのだから、頼らせてもらおう。空城司令もそうだが、同性であるというのが気を許して頼りやすい。それに、こう言ってはなんだが位がやたら離れているわけでも無いので気軽に話せるのも大きかったりする。
何かあったら影野司令にも相談させてもらおう。そうやってもっと仲良くしていきたい。
2人の司令とその艦娘が鎮守府からいなくなるだけで大分静かになるのだが、さらにここで物部司令も到着。ここはあの2人が先んじて来ることを見越して、少し遅めの時間を選択したようだ。流石諜報部隊、動向の観察は得意。
これで諜報部隊も帰投するとなるのだが、その前にやることがあると準備はすぐには行なわれなかった。
「帰投の前に、お願いされたことをしなくちゃいけないですね」
「ああ、アタシは少し手が離せなくてね、アンタに頼むよ」
「了解です。陽炎、少し時間を貰えますか」
「私?」
帰投直前になって私に用とは。
「ご両親のお墓参り、今から行くべきだと聞いています。時間もありますし、どうですか」
「……そうだね。うん、司令がいいって言うなら、今から行ってもいいかな」
「そのつもりで物部に頼んでんだ。こっちのことは気にせずに行ってきな」
あの魂の中でも、お墓参りに行くと伝えたくらいなのだ。ここで逃したら、今度は提督業務にかかりっきりになって行くに行けなくなりそうだ。
空城司令の後押しもあり、私は今から鎮守府を出て、お墓参りに向かうことになった。
こうなったことを伝えておきたいし、これは丁度いいタイミングだと思う。
支援艦隊、対潜部隊は共に帰投。ここから鎮守府は一気に静かになると思います。残る諜報部隊も、お墓参りイベントが終わったらそのまま帰投となりますからね。