異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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両親の墓前で

 援軍として来てくれた仲間達が帰投していく中、司令達の提案により私、陽炎は両親のお墓参りに行けることとなった。空城司令は少し手が離せないらしく、私だけが外出することになる。一応物部司令がついてくれるため、1人で行動しても問題ないらしい。

 

「すみませんね、初めて向かうところなので道がわからなくて」

「いやいや、行かせてもらえるだけでもありがたいよ。鎮守府で戦い始めてから、孤児院に電話することはあっても外出は出来なかったからなぁ」

 

 助手席で道を案内しながら物部司令と話す。こうやって話すのは初めてなので、少し緊張する。

 

 最後にお墓参りに行ったのは艦娘となった日。その時から考えると、実際はそれ程でなくとも私の周囲の環境が目まぐるしく変化したことで、もう結構な月日が経っているような気がした。それだけ濃密な戦いの日々だった。

 月命日には毎月お墓参りに行っていたのに、長々と空けてしまった。どうせならと、お墓を綺麗にもしていきたい。物部司令を待たせることになってしまうのだが、せっかくだからやってきなさいと満場一致で許可を貰えた。この機会、ありがたく使わせてもらおう。

 

「君だけで良かったですか。誰か便乗して来るかと思っていましたけど」

「便乗するって言われても断ってたよ。私の親のことだし、出来れば1人でね。それに、みんな艦娘としての仕事もあったから来ることも出来なかったよ」

 

 私は提督見習いの仕事始めとして出迎えをさせてもらっていたが、他の者は大概何かしらやることがある。一番微妙なのはミコトと日奈だったが、日奈が艦娘になるべく体力作りを開始し、ミコトはそちらの手伝いをしている。

 ミコトは来たいと言いそうだったが、おそらく私のために一旦距離を置いてくれたのだと思う。そういうことを察することが出来るのは、本当にいい子に育ってくれている。

 

「でも、このタイミングでお墓参りに行けるのは嬉しいや。丁度いい区切りになるし、そのことを報告したかったんだ」

「そうですね。ここを逃すと、さらに行きづらくなるでしょうから。提督業、思った以上に暇が無いですよ」

「うん、空城司令の働き方見てると、そんな感じしてた。次に外に出られるのは、いつになることやら」

 

 出来れば毎月行きたいのだが、それはもう叶わないだろう。だから、今日は今まで以上に綺麗にしていきたい。あとは手抜きとは思われたくないが、枯れない造花を用意した。戦いが終わり、また毎月行けるようになったら改めて生花をお供えしたい。

 

「何か協力出来ることがあったら手伝いますよ。こんなに若い提督が生まれるのは、経歴も込みで前代未聞ですからね。皆、興味津々です」

「助かるなぁ。呉内司令も影野司令もいろいろ頼らせてもらうだろうし」

「縁は大事にしなくてはいけません。それに、君は英雄ですから」

「なんだか恥ずかしいよ英雄ってのは」

 

 物部司令も、私の提督業で困ったことがあったらサポートしてくれると約束してくれた。こういう時に縁があるとありがたい。

 

 

 

 お墓に到着。物部司令は車で待っているとのことで、私1人で両親のお墓の前に。長いことほったらかしにしてしまっていたから、お供えの花も見たことがないくらいに枯れ果てており、墓石そのものも汚れてしまっていた。

 新品同様とまではいかないまでも、ある程度凝視してもとても綺麗と言えるくらいにまで洗い流したい。都合の良いことに、今この墓地には私しかいないため、どれだけ何をやっても恥ずかしい思いをすることはないし。

 

「約束通り、来れたよ」

 

 水を汲んできて、早速柄杓で墓石に水をかけながら独りごちる。今までもこうやって、お墓に話しかけながら供養をしていたのだが、今までとは少し心持ちが違った。

 仇が討てたというのもあるのだが、それ以上に、戦いの中で両親と話せたことが大きい。

 

 艤装に取り憑くことで、私をずっと支えてきてくれた父さん。死にかけた私の命を救い、対となる者へと覚醒させてくれた母さん。今は亡き2人がそんな形でこの世にいなければ、私はここまで戦ってこれなかった。とうの昔に命を落としているし、そもそも覚醒も出来ていない。最後の戦いにも負けていただろう。

 死して尚、私を守ってくれた2人には、感謝だけでは済まないくらいである。やれることなんて、誠心誠意、感謝を込めてお墓を綺麗にすることだけ。

 

「またしばらく来れないだろうからね、しっかり綺麗にするよ」

 

 父さんとは話したいことを魂の中で大概話してしまっているため、ここで伝えることはそんなに無かった。今までの戦いを見届けてくれていたし、最後の戦いは声をかけるまでしてくれている。最後に迎えには来たものの、母さんも全て知ってそう。

 だから、伝えるのはこれからのこと。私の新しい道。それも見守っていてくれて知っているかもしれないが、私の気持ちをこめて。

 

「私、艦娘じゃ無くなった代わりに、提督になれるみたいなんだ。今までの仲間達と一緒に、世界の平和を取り戻すよ」

 

 ボソリと、だが気持ちを込めて呟く。この報告のためにここに来たようなもの。仇討ちも終わり、最大の敵を倒すことも出来た。

 今までは復讐という形で自分の道を決めてきたが、ここからは何の柵もない自由な私が、自分の意思で決めた道。

 

「この選択はきっと間違いじゃない。私がそうありたいと思った姿なんだから。これまでの経験を活かして、2人に繋いでもらった命を使うよ」

 

 この選択は、きっと喜んでくれる。仲間の命をその手に置くような責任重大な仕事ではあるものの、こんなにやりがいのある仕事は無いと思う。

 

「よし、こんなところでどうかな。大分綺麗になったと思うんだけど」

 

 丹念に磨いた墓石は、これまでに無いくらい綺麗になっていた。復讐心ばかりだった今までの私から一皮剥けた、澱みのない魂をそこに表しているかのようだった。

 これならきっと父さんと母さんも喜んでくれる。私の新しい道、明るい未来を願ってくれる。

 

「造花でゴメンね。枯れちゃうよりはマシかなって思って。でも、とびきり綺麗なもの選んできたから」

 

 花を供えて、心を込めて拝んだ。前に来たときは死なずに全てを終わらせられますようにと願ったが、今日はもうそんなことを願う必要は無い。全てを終わらせた私の新しい道を祝福してほしいという、そんな明るい願い。

 海の、世界の平和を取り戻したら、また今日のようにお墓を綺麗にしに戻ってこよう。そうで無くてもどうにか時間を作って定期的に来たい。その時は仲間達も連れてこようか。ミコトとか確実に来たがるだろうし。私のことがお母さんなら、父さんはお爺ちゃんだし母さんはお婆ちゃんだ。私にはまだそういう相手もいないというのに、娘が出来てしまった。

 

「よし、今日はこの辺で終わりにしようかな。絶対にまた来るからね。だからさ、私のこれからの戦いを、あっちで見守ってて。私、まだまだ頑張るから」

 

 拝み終わって立ち上がる。綺麗に磨かれた墓石は何も言わない。当たり前なのだが、あの戦いの最後に聞くことが出来た2人の声をもう一度聞きたいと思ってしまった。もうこんな奇跡は二度と無いと父さん自身から言われたことだけど、願うだけならタダである。

 

 その時、少しだけ強い風が吹いた。その中に、小さく、本当に小さく、呟きが聞こえたような気がした。

 

 

 

『ちゃんと見ているよ』

『頑張りなさいね、陽向』

 

 

 

 声のした方を見ても誰もいない。当然のことなのだが、少し寂しい。でも、私のことを見てくれているのはわかった。それなら俄然やる気が出るものだ。

 自然と笑みが溢れた。もう私は戦えないけど、父さんも母さんも私のことを見守っていてくれる。それなら戦える。一番良い結果を掴み取れる。

 

「うん、見てて。平和にして戻ってくるからさ!」

 

 誰もいないことを良いことに、私は空に向かって叫んだ。これは提督としての決意表明だ。両親に顔見せ出来るような立派な提督になって、この世界に平和を齎すのだ。

 あの魂の中での最後とは違い、晴れやかな笑顔で。今度は泣き顔なんて見せない。明るい明日に向かって、私は歩みを止めない。

 

 

 

 お墓参りを終えて鎮守府に戻ってきたことで、諜報部隊も帰投となる。おおよそ鎮守府に到着する時間を事前に連絡していたようで、到着した時には帰投の準備万端だった。

 そのため、私が鎮守府に帰ってきたのを出迎えてくれる形になる。どっちがこの鎮守府所属なのかと錯覚してしまった。

 

「そんじゃゲロ姉、また機会があったら来るわ。意外とすぐだったりするかもだけど」

「かもね。まだ最後の戦いの件、ちゃんと説明出来てないしさ」

「それもだし、ほら、ゲロ姉は提督になるわけじゃんさ。そっちの件でもいろいろね」

 

 最後まで軽口を叩く秋雲だが、それがまた安心出来る。この子からこれが無くなったら破滅に向かっていくようなもの。

 

「あ、でももうゲロ姉とも呼べないのか。実質陽炎じゃなくなったんだよね」

「あー……そうだね。艦娘陽炎では無くなっちゃった。でも、多分私は陽炎のままで行くと思うよ。その方がみんなわかりやすいだろうし、いきなり上下関係なんて出来ないでしょ。本名教えて回るのも面倒だしさ」

「たぁしかに。じゃあ、今後も秋雲さんのお姉ちゃんでいてよね、ゲロ姉提督!」

 

 拳を突き出してきた。そういう別れもいいだろうと、それに私の拳を突き当てる。

 妹というよりも悪友というイメージが強い秋雲だったが、この騒がしさは癒しになっていたと思う。最後の戦いはどうしても所属違いのために一緒に戦うことは出来なかったものの、やはり援軍として来てくれたのはかなり大きかった。

 

「では、空城大将。我々はこれで」

「ああ、長々とすまなかったね。助かったよ」

「いえいえ、諜報部隊としてはこれ以上ないくらいの戦果です」

 

 深海棲艦の親玉を撃破したという情報は、最大最高の戦果と言えるだろう。

 

「また何かしら話を聞くことがあると思います。今回は後回しにしましたが、依代の少女の件もありますので」

「その時はまたよろしく頼むよ。あの子も今は艦娘をやる気ではいるようだからね。落ち着いたらでいいかい」

「はい、その時に。では帰投します」

 

 これで増援としてきていた全員が帰投。鎮守府の艦娘が半分近くがいなくなったため、物凄く静かになったように思えた。何処を見ても大概誰かがいるというのが今までの鎮守府だったのに、今や誰もいない場所もチラホラ見える。

 

「なんだか寂しいや」

「そりゃあ、長々と助けてもらったわけだからね。だが、あくまでもアイツらは増援だ。別れも来る。とはいえ、これは今生の別れじゃあ無いんだ」

「だね。多分また会えるよね」

 

 みんなと再会の約束をしたのだから、絶対また会える。私が提督となったら、出張みたいな形であちらの鎮守府にお邪魔させてもらうときも来るかもしれないし。

 提督業を学ぶにあたって、他の戦い方を見て学ぶことも必要だと思う。そういう意味では率先して会いに行きたい。

 

「それじゃあ、ここからはアンタも平常運転だ。アタシの下で学んでもらうよ」

「了解。まずは見習いが取れるように頑張らないとね」

「ああ、その通りだ。簡単には行かないから、覚悟しておきな」

 

 ニヤリと笑って鎮守府の中に戻っていく空城司令。それについて中に戻る。ここからは艦娘ではなく提督として、私はこの鎮守府の所属になるわけだ。

 朝から提督見習いとして始めていたものの、これが本当の一歩目とも言える。今までずっと使ってきた鎮守府も、何処か別なものに見えた。

 

 

 

「父さん、母さん、私の新しい道、見ててよね」

 

 最後に空に向かって呟いた。お墓参りの時に聞こえたあの声がまた聞こえないかなと願ったが、そんなことは無く。

 だが、父さんも母さんも、私のことを見ていてくれると理解出来ている。

 

 艦娘陽炎から、提督陽炎としての一歩目は、とても明るいものだった。

 




増援は全員帰投、約束のお墓参りも終わり、陽炎は提督としての道を踏み出しました。太陽の姫がいなくなったことで徐々に平和を取り戻していくことでしょう。それに陽炎は何処まで貢献出来るか。

次回、最終回です。



支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/90123694
MMD静画のアイキャッチ風異端児駆逐艦。5話『旧友との再会』での一幕。磯波のキャラ付けが決定した瞬間。
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