異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
両親の墓前に決意表明をすることも出来たことで、改めて提督としての道を歩くことになった。
まず、艦娘から提督になるにあたって、私の本名を公開するかを聞いてみたものの、それは別にどっちでもいいんじゃないかという何とも締まらない話になった。長い時間慣れ親しんだ名前、艦娘としての名前の方が定着しているのは確かである。
ミコトからはお母さんと呼ばれ続けるし、萩風からは姉扱い。夕立や磯波は後遺症による様付けは取れないまま。そうでなくても、今更そちらで呼べと言われても難しいかもしれない。強いて言うなら、幼馴染みであり最初から私の本名を知っている沖波くらい。
故に、提督としても私は陽炎と名乗ることとなった。というか、誰も私のことを提督と呼ぶものすらいない。立場は提督であっても、元艦娘という経歴のせいで提督感が薄すぎるというのもある。まぁその辺りは私も気にしていないのでいい。いきなり畏まられても困ってしまうし。
そして、私が提督として正式に採用されたのは、それから僅か3日後である。颯元帥が手続きをさらりと終わらせてくれたおかげで、早々に私はそういう立場を手に入れた。
そこからはトントン拍子。執務室が少し拡張されたかと思いきや、空城司令の側に私のためのスペースが作られ、忙しい日々が始まった。艦隊運営の基礎を叩き込まれ、鎮守府にいる艦娘の約半数を管理する手腕を嫌でも覚えることになる。
「思った以上に筋がいいじゃないか。物覚えがいい子は嫌いじゃないよ」
「艦娘の経験が活きてるのかなぁ。戦場を知ってるから、何処にどういう戦力入れればいいかは何となくわかるし、何が必要かもわかるし」
「こりゃあ艦娘が提督をやる時代なんじゃないかい。アタシゃ引退まであるよ」
「それは言い過ぎ」
などと冗談のように言っている空城司令だが、実際に結構わかることが多いので覚えるのも早い。ここでの艦娘としての経験もそうだが、孤児院で子供達を支えてきたまとめ役の経験などまで活かせるため、自分で言うのも何だが、提督業は天職なのではと思えるほどだった。
「この調子で、いつかアタシを追い抜いておくれ」
「それが一番の恩返しになるかな」
「ああ、アタシゃそれが一番嬉しいねぇ」
それならば、もっと力をつけて空城司令を楽させたいところだ。せっかく2人がかりで鎮守府運営が出来るのだから、今このチャンスを有意義に使わなくてはいけない。
そんなこんなで、陽炎提督として働き始めてからおおよそ3週間の時が経過した。艦隊運営にも少しずつ慣れてきて、異端児だけの部隊を作りつつ、空城司令の艦隊と交互に哨戒や実戦に向かってもらっている。
例の海域は、この3週間で少しずつ静かにはなってきているものの、元々の怨念の量が凄まじかったこともあり、まだまだ深海棲艦が発生していることが哨戒でわかっていた。そのため、定期的に部隊を送りその場を浄化するように深海棲艦を斃している。
「えぇと、今のところどんな感じだっけ」
「前回が2日前で戦艦2、空母1、駆逐3……だったかな。その前がその1日前で潜水艦5。法則性は無いね」
秘書艦を務めてくれている沖波と一緒に次の出撃のことを考えている。午前の部は空城司令側の艦娘で哨戒をしてもらっているため、午後の部はこちらの艦娘で哨戒を行なうように分配していた。
深海棲艦の発生は完全なランダム。出てくる時間や種類は毎回違うため、対策がかなり取りづらい。そのため、艦種の選定は結構大事。
「空城司令、午前中の哨戒のメンバーは?」
「加古が旗艦、隼鷹、木曾、五月雨、占守、大東だね。海防艦も一応出してる」
「だよね。やっぱり対潜は必要だよねぇ」
部隊編成は空城司令にも意見をもらいつつ。近しい部隊で向かった方が、対応力が出るはず。考えるのをやめて配置を真似ているわけではない。
「よし、じゃあ旗艦は衣笠さんで、天城さん、由良さん、夕立、磯波、松輪で行こう。磯波には対潜装備でいいかな。衣笠さんには対空で三式弾使ってもらおう」
「おやおや、大分似せてきたじゃないか。それは自分で考えてのことかい」
「も、勿論だし。戦艦が来ても天城さんの空襲があるでしょ。あと夕立も率先して前に出るし。それに、潜水艦が出てきたときは松輪で、磯波にも対潜装備させてるからオッケー。水雷戦隊だったら衣笠さんと由良さんでどうにか出来るよ」
ちょくちょくこうやって空城司令が意地悪な質問をしてくる。これも提督となるための勉強の1つ。ただ部隊編成をコピーしているのではなく、自分の考えを持って部隊を編成するためである。
私はみんなの命を握っている提督なのだ。この選択をミスった場合、最悪出撃した全員が命を落としてしまうまである。それ故に、今はこうやってテストをしてもらっていた。納得出来る説明なら合格。
「あちらが空母隊だった場合の防空は」
「天城さんに艦戦多めに使ってもらって、制空権を確保する。あとは由良さんに水戦かな。そうしたら、残りのメンツでどうにか出来るでしょ。松輪はどうしても対潜専門になるけど、磯波の対潜は最小限にして、高角砲積んでもらう」
「ふむ、及第点だね」
このテストがなかなか厳しい。今まで一度も満点を貰ったことが無い。空城司令の考え方が100%正しいとは限らないものの、今までの作戦指揮が9割以上の成功を収めているのだから、信用度は高い。そのため、空城司令に教えてもらうのが一番正しいところに行けるはず。
「ミコトを使わなかったのは何故だい」
「昨日と一昨日に行ってもらってるから、いくら万能戦力でも3日連続はダメだよ。あと、あまりにも万能だからって頼りすぎるのもダメ」
「よろしい。休息とモチベーションのこともあるからね。よくわかってきているじゃないか」
やはりこう言われるのは嬉しいものだ。褒められて嬉しくない者がいないわけない。
「それじゃあ、みんなに報告してくるよ。午後からだし、報告待ってるかも」
「ああ、行ってやんな」
全体放送で異端児を会議室に招集してもらった後、編成を纏めた書類を持って執務室から出る。勿論、秘書艦である沖波も一緒に。
「ひーちゃん、本当にすごいよ。もう提督って言われても誰も文句言えないくらいに出来てると思う」
「そうかな。私としてはまだまだだと思うんだけど」
「自信を持って。艦娘から見たら理想の上司だと思うからさ」
秘書艦沖波の言葉に、謙遜はするものの内心大喜びだったりする。そうやって私のモチベーションも上がっていくのだ。
会議室にはきっちりみんな集まってくれていた。元々空城司令の教育が行き渡っているおかげか、こういうところはしっかりと守っている。私もそうだったが、時間とかそういうところは守らない理由が無いし。
だが、会議とはいってもその雰囲気は和やかなものであり、シーンと静まり返った空間での話ではない。
「はい、午後からの哨戒の編成決めたから話しておくね。旗艦は衣笠さん。いつも通りよろしくね」
「はぁい。今回も衣笠さんにお任せ!」
衣笠さんが哨戒部隊旗艦になるのはいつものこと。これはもう満場一致。
「随伴は、天城さんに由良さん、夕立、磯波、あと松輪ね」
「ぽーい! 今日は敵出てくるかな、出てくるかな」
「松輪ちゃんは……私と由良さんが保護者でいいのかな」
「よろしくおねがいします、いそなみおねぇちゃん、ゆらおねぇちゃん」
名前を呼ばれた者が返事をしていく。嫌そうな声でもなく、私の選択に異議も無し。最初から文句が出るようなことは無かったのだが、今はより強く信頼してもらえていると思う。
名前を呼ばれた時点で夕立はやる気満々。磯波と松輪はこの時点で連携を取ることが確定。松輪のためにも誰かしら保護者で置きたいと思っていたので、由良さんと磯波がいれば大丈夫だろう。
「由良さんは、水戦を積んで制空権確保の補助をお願い。それ以外は主砲と甲標的で」
「了解。天城さんと2人でってことね」
「うん。傾向がまだ掴めないけど、2日前に空母出てるから、その時よりも空母が増えてるかもしれないしね。だから、天城さんも艦戦ちょっと多めで」
「はい、かしこまりました」
ツラツラと指示を出していく私を、ニマニマしながら眺めてくる艦娘達。やってる内にだんだん恥ずかしくなってくる。
「……なに?」
「いやぁ、ここ最近は様になったなぁって」
「冷やかさないでよね、もう」
などと言うのは阿賀野さん。最初は緊張感がどうしても払拭出来ず、この編成発表とかで声が裏返ってしまったりもしていた。やはり命を預かる身、自信があったとしても僅かな可能性のせいで命を落とすかもしれないと思うと、緊張感がバカにならない。
空城司令はこの緊張感を毎日のように浴びながら長年提督業を務めていたのだと思うと、本当に尊敬出来る大先輩だ。
「残りはいつも通り自由ですか?」
哨戒には出ない萩風から質問。だがその視線は、私の隣でしっかり秘書艦をこなしてくれている沖波の方へと向かっていた。
空城司令は秘書艦を置かず、常にしーちゃんと一緒に仕事をしているが、私の場合はそうはいかない。呉内司令のアクィラさんや、影野司令の香取さん、颯元帥の大和さんのように、自分が管轄する艦娘から秘書艦を選別しなくてはいけなかった。
しかし、これが少し難航。秘書艦は結構みんながやってみたいものらしく、立候補が続出。決定権は私にあるのだが、そうなると選ぶのは難しい。そのため、くじ引きを介した順番制を取り入れた。
今日はたまたま沖波だっただけで、明日は磯波の予定。萩風はもう少し後になるため、沖波のことが羨ましい様子。
「そうだね。最初の指示通り、訓練を続けてくれればいいよ。休日なのは……長門さんかな。やっぱり食堂の手伝い?」
「ああ、なんだかんだ落ち着くのでな。そうだ、今日からスイーツに新商品が入る。みんな食べに来てくれ」
やはりそういうところでもモチベーションを維持出来ているのはいいこと。太陽の姫との戦いの時よりは大分心身共に余裕が出来ているのは確かなので、まだ戦火の最中かもしれないが、伸び伸びと生きていけている。
相変わらず長門さんは食堂手伝いを続けているし、磯波は花壇の手入れを欠かさない。最近はミコトと日奈も花壇の手入れに加わっている程だ。特に日奈は、土が触れるようになったことを本当に喜んでおり、花を愛でることに自分の健康体を実感していた。
いや、もう日奈じゃない。日奈という名前を使うことは、軍規で禁止されている。
「
「皆がぶち優しゅうしてくれるけぇ、順調じゃ」
「それは良かった。じゃあ、もう少しで哨戒の初陣行こっか」
「そりゃ嬉しいのぅ。水上機母艦日進の初陣、よろしゅう頼む」
日奈の艤装は、あれからすぐに見つかった。太陽の姫を撃破したことで調査が開始された沈没船の中に、 D型艤装が鎮座していたのだ。それはすぐにサルベージされ、まるでパズルが解かれるように日奈に宛てがわれ、当然のように適応。リンクも即座に終わった程である。
その艤装は、今までにこの鎮守府にはいなかった水上機母艦という艦種。言ってしまえば小型化されたミコトみたいなもので、主砲、魚雷、艦載機まで搭載した万能戦力である。流石にミコトほどの火力があるわけではないが、それでも優秀であることは変わらない。
「やったねピヨ姉! ピヨ姉が出撃するときは僕も出たい!」
「ミコトがおるならわしもやりやすいのぅ」
「はいはい、そのように編成考えておくよ」
この万能戦力というところでミコトと日奈改め日進は意気投合、かなり仲良くなっている。
日進からしたらミコトの出生には思うところがあるかもしれないが、その辺りも吹っ切れている辺り、ここ最近で大分落ち着いてきたと思う。悪夢はまだ払拭出来ていないものの、笑顔を見せるようになっているのは私としても嬉しい。
「それじゃあ、時間までは各々自由に……」
と、会議を終わらせようとしたとき、突然会議室前がバタバタしだした。何者かがこちらに向かって走ってきているのがわかる。
そして、扉が突然強く開け広げられた。そこに立っていたのは菊月だった。おそらく空城司令に言われて伝令役を買って出たのだと思う。
「哨戒部隊が敵軍と接触だ。あちらだけでは対処出来ないレベルで来たらしい。そこで、
今の私達の扱いは、私をトップとする遊撃隊という形。異端児全員が固有の力を持ち合わせているものも多いせいか、適切な指示というものがあまり存在しないため、みんなにその場で考えてもらうのが基本。故に遊撃隊。
援軍を任されるということは、それなりに規模が大きな敵部隊が現れてしまったということか。
「了解。敵の規模は」
「戦艦の姫が2体現れたそうだ。空母もいるらしく、哨戒部隊では手を焼いているらしい」
今までに報告されていなかった姫の出現。残った怨念が強めに顕現してしまったのかもしれない。
だが、出てきた時点で殲滅が私達の役目。そのままにしていたら、陸まで攻められて侵略されてしまう。それだけは食い止めなければ。
「部隊編成変更! 戦艦の姫相手なら、こっちも強めに行かなくちゃいけないから、旗艦は長門さん、随伴はミコト、天城さん、衣笠さん、由良さん、夕立で! すぐに準備して!」
急にバタバタし始めたが、この世界を守るためには必要なこと。私達が海を守り、人類を守るのだ。それを全て背負って、責任を持って戦う。
「陽炎遊撃隊、出撃するよ! みんな、油断せずに行こう!」
提督となっても異端児と呼ばれる私は、異端児の艦娘を率いて世界を守る。
この異端児だらけの遊撃隊は、世界の平和を取り戻すまで戦い続けるのだ。
その日は、もう近い。
陽炎遊撃隊は、これからも戦いが続きます。でも、きっと未来は明るいでしょう。この世界に平和が取り戻される日はそう遠くありません。
それまで懸命に戦い続け、最後はみんなでお墓参りに行けることを願い、『異端児だらけの遊撃隊』は幕を閉じたいと思います。
このお話を始めて今回で284話。約9ヶ月の間、毎日投稿を続けて、最後まで休み無しで来ることが出来ました。投稿時間は前後しましたが、ちゃんと毎日投稿出来たのは、ひとえに読者の皆様のおかげです。ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
次作も構想中。今回は前作、前々作とは毛色の違う話にしていましたが、原点回帰をしようかなと思っていたりします。ということは、暗く暗くが基本になってしまうか。
またその時が来ましたら、よろしくお願いいたします。
最後に、支援絵を戴きました。ここに掲載させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/90112158
MMD静画の最終回エンドカード。陽炎が差し伸べる手の先には、新しい艦娘がいるのでしょう。リンク先にはここに至る経緯までありますのでどうぞ。