異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
翌日、謎の艦載機の出所を探すための哨戒任務が開始されることになった。鎮守府に飛んでくる艦載機というのは別に無いわけでは無いのだが、今回は妙な感じがすると空城司令が考えたからである。言ってしまえば勘なのだが、確かに1機だけがこちらを調査するためだけに飛んできたというのは何かおかしい気がする。
それにもう一つ。私、陽炎が視線を感じたこと。艦載機が墜落するときに私を見つめていたように思えたからだ。たまたまなのか意図的なのかはわからないが、とにかく私を見ていたのは確かだ。こちらの艦娘をそこまでしっかり見つめるようなことはあまり無いらしく、そこも空城司令が怪しく感じているところ。
哨戒任務に抜擢されたのは、その艦載機を確認した私と初月、そして天城さん。そこに戦闘に入ってしまった時のことを考えて戦闘力の高いメンバーとして霧島さんと加古さん、そこにかなり遠いところまで行くことを考えて速吸さんが参戦。補給艦ではあるものの、天城さんと同様に艦載機を使えるらしく、戦闘力自体も無いわけではないとのこと。
「昨日の飛んできた方向から考えた方へ向かいます」
「了解。旗艦をよろしくお願いしますね」
旗艦は天城さん。しかし霧島さんが先陣を切る状態。いざというときに即座に戦闘行為に移れるように、最も火力のある戦艦を先頭にしている。その後ろには加古さんと天城さん、さらに後ろに私と初月、そして最後尾に速吸さん。
陣形としては少し変形している複縦陣といったところ。陣形なんて話にくらいしか聞いたことないので、私は成り行きでやっている。
「陽炎は私と加古で守ります」
「うーい。初心者にこんな任務行くなんて無いからねぇ。ボチボチやりますよーっと」
哨戒任務というか任務というもの自体が2回目の私には、なかなかに重荷。訓練で戦闘力は鍛えられているつもりだが、実際の戦闘はまだまだ。
故に、私にはサポーターが付いてくれる。部隊の中での最高戦力である霧島さんと加古さんが守ってくれるというのなら安心だ。だが、自分の身くらいは自分で守らなくては。
「それでは行きましょう。旗艦天城、出撃致します」
前回の哨戒任務とはまた違う緊張感。艦載機の持ち主探しということは、あの時の戦闘よりは確実に強力な深海棲艦と相対することになる。駆逐艦とは比べ物にならないだろう。それ相手に私は通用するのか。
鎮守府から離れてしばらく進む。本来の哨戒コースとは全く違う方向であり、さらには速さも違う。あっという間に鎮守府は水平線の向こう側へと消えていき、周辺が海一色になった。
私達の鎮守府の領海が何処までかというのは羅針盤の妖精さんが教えてくれる。少なくともまだまだ先までは行ける。領海の端まで行くためにはかなりの時間を要するため、昨日の哨戒では流石に端まで行くことは無かったそうだ。
今回はそこまで行くため、補給艦まで動員した。そうでもしないと、消耗した状態での戦いを強いられる可能性があるからだ。
そもそも今回は午前中で終わらせるつもりもない。丸一日使っての長期の哨戒遠征といったところ。そんな任務に抜擢されるのは、運がいいのか悪いのか。
「遠いねぇ。哨戒じゃあまずここまで来ないとこじゃんよ」
「だからこそしっかり確認する必要があるの。あちらも頭を使うタイプだとしたら、簡単には手が届かないところに巣を作るものでしょう?」
「確かに。あたしも誰にも邪魔されず寝てたいからそういう考えになるねぇ」
加古さんがボヤく通り、前の哨戒任務ならもう半分近く進めた時間をかけて、まだ片道にも満たない。しかも、今回は立ち止まっての確認などもやっていない。ただただ真っ直ぐ、延々と駆け続けている。
「ここまで何の姿も無し……艦載機も飛ばしていますが、反応は何も無いようです」
「なら方向が違うとか?」
「その可能性も無くはないと思います。もしくは海中に隠れているかですね」
一応例の潜水艦ラジコンも持参しており、それは速吸さんが運んでいる。あまりにも見当たらない時は、それを使って海底の巣も探す予定だ。まずはそれを実行する場所、領海の端まで辿り着かなくてはならない。
そしてまたしばらく進んだところで、一旦ストップ。羅針盤の妖精さん曰く、ここが領海の端のようである。
当たり前だが周りには何もない、一面海だけの風景。水平線の向こう側には空と雲しか見えない。こんなことをする日に持ってこいのいい天気である。
「こんな見晴らしのいい場所でも何も見えないということは、海中に潜んでいるか、そもそもの方向が違うかになりますね」
というわけで、速吸さんの持つ潜水艦ラジコンが始動。海中に潜らせて何かないかを探っていく。
「真下には何もありませんね。巣の痕跡も見当たりません」
「ならここよりも前か、違う方向になるか……ですね。いや、ちょっと待ってください。アレは……」
天城さんが見ている方向の空。水平線の近くに、小さな小さな黒い点が見えた。鳥のようにも見えたが、動きがそれではない。
ならば間違いなく、私達が今求めているもの。鎮守府を監視しようとしていた艦載機の仲間で間違いないだろう。こんなところで見かけるのは普通はあり得ない。
「あっちって、アレじゃね?
加古さんの言葉に、心臓が跳ねるように鼓動が激しくなる。
方角だけで言うのなら、それは確かにそうかもしれない。あの襲撃が何処から生まれた深海棲艦が引き起こしたものなのかは、10年経った今でも不明なのだから明確な位置はわからない。わかってたら私達の鎮守府、もしくは何処かの鎮守府が対処に当たっているはず。
しかし、あの艦載機の持ち主が私の両親の仇である可能性が無いわけではない。昨日私と初月で撃墜した艦載機は、悪夢で見たものとは別物だったように思えたが、この10年で何かが変わっているのかもしれない。
バクバクと波打つ心臓を止めるために胸を押さえる。そんなことで、この煩いほどの鼓動がゆっくりになってくれたらありがたいが、そんな簡単に行かないのはわかっている。
「陽炎、どうした。具合が悪いのか?」
「顔色が悪いです。いったん休みますか?」
「だ、大丈夫。大丈夫」
初月と速吸さんに心配されたが、この海のど真ん中でどうやって休めと。
ひとまず心を落ち着けるために深呼吸。今から私の復讐の相手に出遭うかもしれないとしても、冷静にならないとみんなに迷惑がかかる。私1人が暴走して、結果的に艦隊全滅なんて引き起こしたら目も当てられない。
「私の滅ぼされた故郷の方って言われたから、ちょっと緊張しただけ。大丈夫だから、行こう」
「キツイならちょっと下がってなよ。きっかけ作っちゃった手前、あたしがしっかり守ってやっから」
ニカッと笑う加古さん。いつも寝てるから寝たいと訴えるくらいはぐーたらしてる感じがするが、戦場ではイケメンになるタイプか。こういうのがギャップ萌えとかいうやつなのかも。
「あの艦載機の出所を探ります。陽炎ちゃんは無理せずついてきてください」
「了解。ちゃんとついていくから、普段通りでいいよ」
まだ鼓動は速いままだが、ついていけないわけではない。むしろ足止めしている方が良くないだろう。無理しているわけではないし、今は進んでほしい。
私もあの正体を一刻も早く知りたかった。私の復讐の相手なのかそうでないのか。それが判断出来ればまだマシ。
小さな艦載機を確認した地点まで移動。私達が向かう間にその艦載機は姿を晦ましてしまったが、すぐに天城さんが周囲を確認し、速吸さんが潜水艦ラジコンで海底を調査。この下に巣があれば破壊を考えなくてはならないし、無いのならまた別の場所を調査しなくてはいけない。
「あのタイミングで艦載機があの位置……そこから飛んだ方向は陸の方ですが……形状からしてまた爆撃するようなタイプじゃ無かったです。昨日と同じ、深海の哨戒機のようなものでした」
「すぐに姿を消した辺り、私達でいう彩雲のようなものかしら」
「はい。哨戒というか偵察ですね。何を偵察しているかはわかりませんが」
陸の偵察をしようとしているのなら、侵略の算段を立てているというのが妥当な線。しかしそれだと気になるのが、私を見つめていたことである。
「
「あり得ますが、深海棲艦がそういう性質を見せることは今までにあまりありませんでしたよね。侵略以外の明確な目的があるのかも」
あまりということは、今までにも無かったわけではないようだ。深海棲艦がこちらまで艦載機を飛ばして何かを探すとか、理由がわからない。
深海棲艦は未だに生態系すら解明されていない謎の生命体だ。こちらに攻撃的であり、侵略行為をやめないということくらい。まともな意志を持っているかも不明である。少なくとも化け物の方は意志なんて持たない野生の動物みたいなものに思える。
それが明確な目的の下、何かを探しているとなったら話が変わる。私の悪夢にも出てきた人間の形をした深海棲艦は、その形故に意志をハッキリと持っているのかもしれない。
「巣はありません。遠くから飛んできた方向からして、領海の外……ですかね」
「そうなると管轄が変わるわね。いや、誰の管轄でもない海域の可能性もあるわ」
領海は本当に海全域を確保出来ているわけではない。艦娘が行って帰ってくる限界というものがあるため、本当に奥の海域は手が届かない海としてさらに謎が多い場所になっている。
しーちゃんが言っていた諜報部隊というのは、そういう海を調査する仕事もこなしているらしいので、日々未開の海は開拓されているらしいが、それでもまだまだ手が追いつかないそうだ。それ程までに海は広い。侵略により広げられているとも言われている程だ。
「領海の外にいるとしても、あの偵察は不思議です。あんな超長距離を飛ばせる艦載機があるのも不思議ですが、そこまでして何を探しているのか」
話している内に突然視線を感じ、悪寒が走った。ジッと見られているような寒気。それが真後ろから。
普通ならあり得ない。今だって速吸さんが潜水艦ラジコンで海中を調査しているし、天城さんが艦載機で周囲を偵察し続けている。話をしていたため目視による周辺警戒が若干疎かだったかもしれないが、それでも調査を潜り抜けたとしか思えない。
恐る恐るその方を振り向くと、海の上に長い黒髪の女の顔が半分だけ浮き出てきてこちらを見つめていた。心臓が飛び出るかと思った。完全にホラーの類。
「ぎゃあ!?」
「えっ、潜水艦!? 対潜行動!」
初月は防空駆逐艦であるが故に対潜のための装備はしてきていない。駆逐艦故に簡易爆雷くらいは持っているが、威力はお察し。牽制くらいにしか使えないだろう。
対して私はある程度の対潜装備はしてきている。爆雷も正式なもの。ソナーも念のため持ってきているが、今は潜水艦ラジコンによる調査のために起動していなかった。完全に私の落ち度だ。
「この……!」
訓練でやった通り、爆雷をその潜水艦に対して放る。海上に頭が出ている状態なんて想定していないが、やれることはやる。
しかし、その潜水艦はトプンと海中に潜ると、爆雷の効果範囲外まで一気に潜航。ソナーを起動するが、その時には反応は手が届かない位置まで移動していた。
「な、何あれ……」
「あんな潜水艦初めて見るねぇ。タイプは何だっけ、カ級だっけ?」
「そうね。あれは潜水カ級。だけど、あんなに素早く動くタイプは今までに見たことが無いわ」
敵潜水艦なんて初めて見たが、あんなに恐ろしいものとは思わなかった。現れ方があんなだったからというのもあるが、まだ心臓がバクバク言っていた。ホラー耐性があるわけではないので、和製ホラー映画みたいな登場の仕方は心臓に悪い。
「ご、ごめんなさい……ソナー起動してれば対処出来てたかも……」
「いや、ありゃ仕方ないわ。ラジコン動かしてる時はソナーは控えるもんだしさ。つーか、ラジコンの視界も潜ってきたってのなら、アイツは普通じゃない」
だがこれで、この周辺に何かを探している深海棲艦がいることが確定した。先程の潜水艦も、ジッと見つめるだけでこちらに攻撃してくるような素振りは無かったのだ。
そしてその視線は、昨日の艦載機と同様に私を見つめていた。他の仲間達には見向きもせず、私だけを見つめていた。一体何だというのだ。私に何の用があるというのだ。
結果的にこれで今回の哨戒任務は終了となる。ここからは先程の謎の潜水艦のことも調査対象にしていくことになるだろう。
陽炎達の住むのは勿論日本(らしき国)。島国故に周囲は海ばかりです。どうしても届かない場所というのは存在します。そこが領海外の未開の海域ですね。