異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
両親の墓参りも終わり、私は空城司令の治める鎮守府に到着した。今日からはここが私の居場所となる。
昨日のうちにあらゆる手続きは終わっており、私の部屋も既に用意された状態。孤児院から持ってくるものは私服数着やちょっと大事なものがあればそれくらいでいいと言われたが、基本的には何もかも揃っているそうだ。生活には何も困らないようにされているというのが、艦娘という仕事の利点とも言える。
「まずは艤装との同期をしてもらうよ。そもそも艦娘になれるかどうかを調べなくちゃならないからね」
到着するや否や、またしてもズンズン進んでいく空城司令。荷物が少ないからいいものの、初めて来る建物の中を容赦なく進まれるととても困る。しーちゃんがいてくれるからまだ何とか追いつけるが、そうで無かったら迷子になっていそう。
鎮守府というのに来るのは当然ながら初めてだ。艦娘達の拠点であり、ここで鍛え、学び、時には命懸けの戦いを挑む場所であることは知っているが、具体的に何をしているか何て皆目見当がつかない。そもそも艦娘と深海棲艦の戦いがどういうものかというのも、ニュースとかでは一部しか紹介されないのだ。倫理的にまずいシーンが多いからというのもあるが、それにしては秘密主義な気がしないでもない。
あとは元々が人間であるというのもあり、ボランティア活動をしていることも知っている。主に海上護衛のような、艦娘としての在り方を利用出来て且つ普通では出来ないような仕事だ。それがあるから艦娘は一般人とも仲良くやっていける。
「ちょくちょく視線を感じるよ」
「多分皆さんここに所属している艦娘ですよ。あとは妖精さんですかね」
空城司令についていきながら、しーちゃんに説明される。新人故か誰もこちらに話しかけてくることは無いが、部外者である私に興味津々である。
妖精さんというのは、鎮守府で活動している人間以外の作業員だ。手のひらサイズの人型実体とテレビでは言われていた。実際に見るのは当然初めて。一般人の前に出てくる方が稀。
「いい子達ばかりですから、すぐ仲良くなれると思います」
「いきなりハブられても嫌だしね」
「それは絶対にありませんから、安心してください。貴女の住んでいた孤児院に空気は似ていると思いますから」
それなら安心だ。仲良くしてもらえない空間に所属とか、それだけで気が滅入る。
「他の連中は後から紹介するよ。今はこっちが重要なんでね。夕張、いるかい!」
「はーい、ちゃんと用意してますよー」
到着したのは工廠と呼ばれる施設。艦娘が装備する艤装を整備するための施設である。基本的には妖精さんが作業するのだが、一部の人間もそこに加わり、迅速な整備を心掛けている。
その中で、空城司令に呼ばれたのは私よりも少し年上な女性。周りの作業員と同じように作業着を着たその人、夕張さんは、油臭さを隠さずにこちらにやってきた。
「貴女が本日就役の新人さんね。私は夕張よ」
すごく気さくな人。握手をしようと手を差し出してきたが、今の今まで作業をしていた手のせいでやたら汚れていたため、握手はまた後でと苦笑しながらゴシゴシ拭いていた。
この人もまた艦娘であり、それでありながら工廠でも働いている珍しい人らしい。そういう人もいないわけではないようだが、なかなかにレアな存在なのだとか。
「この子の艤装は上がってるんだったね」
「ちゃんとやっておきましたよ。祖父もとい整備長がそれはもう熱心に。勿論私も手を出しましたけど!」
夕張さんの後ろから何やらとてつもない音を立てて機材が運び込まれてきた。それ専用に造られているであろう車を運転しているのは、この夕張さんが祖父と呼んだ整備長その人だろう。夕張さんと同じ作業着を着ている辺り、もしや親バカか。
「KC-KG01-D、こいつで良かったかい真弓ちゃん」
「その呼び方はやめろって言ってんだろクソジジイめ」
憎まれ口を叩きながらも、やたら信頼しているようなやりとり。長い付き合いなのか、お互いにニヤニヤしている。
「こいつが、アンタの艤装だ」
「これが……」
まだ装備出来るかもわからないのに準備万端である。
その艤装は、いわゆる駆逐艦と呼ばれる艦娘のための艤装だった。おそらく腰に装備するであろう大きなところと、そこに繋がれたマジックアーム。これで武器を掴んで扱うのだろうか。見ただけではさっぱりわからない。
「さすがにそのまま装備するのはまずいね。しー、あれを渡してやりな」
「はい、準備してますよ」
空城司令に合図され、しーちゃんに渡されたのは服一式。下着まで入っていて流石に驚く。上から下まで完全に包まれなくてはいけないと。
艦娘というのは基本的に専用の制服を着ているというのは知っている。私の知る艦娘は大概何かしらの制服を着ていた。それと同じようなものが私に与えられたわけだ。
「中に入っているものを全て身に着けてください。これだけでも貴女の身を守ってくれる役割がありますので」
「そうなんだ。私、制服とか着るの初めてなんだよね。ちょっと嬉しい」
学校に通ったことが無いのだから、制服を着ることだって初めてだ。ましてや艦娘用の制服なんて以ての外。
触ってみると、確かに私が今着ている私服とは肌触りとか色々なものが違う。お金がかかってるというわけではなく、なんというか、私を守ってくれるという
「それじゃあ、着替えてきまーす」
「更衣室に案内するわね。ちゃんと女性用だから安心してね」
工廠組の更衣室があるらしく、そこでささっとお着替え。今回はここで着替えたが、基本的には毎日この制服を着て過ごすことになるということで、朝に自室でこれを着ることになるわけだ。私服なんて使う余裕は無いかもしれない。
与えられた制服を着て、全身鏡で自分を眺める。まるで生まれ変わったかのような感覚。
カッターシャツにブレザーベスト、ミニスカートにスパッツと、孤児院で過ごしていた私には縁のない服を身につけることになり、少し気分が昂揚する。胸元のリボンだけはそもそもつけたことが無いため、夕張さんに教えてもらいながら身に着けた。
「うんうん、サイズもピッタリ! さすが妖精さん仕立て。いい仕事してるわぁ」
「そっか、検査受けたときに身体測定もしてるし、服くらいちょちょいのちょいなんだ」
「そういうこと! 似合ってる似合ってる」
最後に白い手袋をつけて準備完了。これが艦娘としての私の姿なわけだ。手袋の辺りがそれっぽくて良い。
その姿で工廠に戻ると、先程以上に艤装周りが準備されていた。当然武器なんてまだ怖くて備え付けられてはいないが、それ以外は全て準備済み。台座に載せられ、接続部分が私の腰の辺りに来るようにセットされている。
まずはしっかりと同期出来るかを確認する。これでやってみて動かせませんだったら意味がない。ただでさえ同期値マイナスというイレギュラーだ。それすらもあり得る。そのためか、艤装にはいろいろな装置がつけられ、私が装備した時の数値を計測するようだ。
「それじゃあお嬢ちゃん、そこに背中と腰をあてて」
「はーい」
整備長に言われるがまま、接続部に身体を当てがう。専用の車で持ってこなくてはいけないくらいなのだから、これはとんでもなく重たい物。万が一潰されでもしたら、その時点で私は帰らぬ人になってしまう。
今は当てがっているだけなので何事もないと思うが、ちょっとだけ緊張。
「そうしたら、その艤装は自分の身体だって思い込むの。リンクするって感じだからね。一度リンク出来れば後は簡単だから」
そこからは夕張さんが説明してくれる。この艤装は自分の身体である。艤装と一心同体となることで、人間の枠組みを越えて艦娘に至る。そんなイメージか。
適性が無いとこのイメージが出来ないとかそういうことなのかもしれない。もしくは、イメージしたとしても艤装が応えてくれないとかか。そこで私はマイナスの値を叩き出したわけで、イメージしても反応どころかむしろ壊れてしまわないか心配。
「イメージ、ね」
わかりやすくするために目を瞑り、こう、自分の中に艤装の一部が流れ込むような、それでいて自分の何かが艤装の中に流れ込むような、そんなイメージをしてみる。すごく抽象的でふわふわしているが、我ながらかなりいい感じの考え方をしていると思うのだが。
「……おいおいおい、どんな子連れてきたんだ」
整備長の慌てる声。私のリンクで何かしら異常値が出たのだろうか。
「お嬢ちゃん、もう大丈夫だ。動いてみな」
「えっ、あ、はいはい」
言われるがままに一歩。イメージはわずか数秒。それなのに、艤装は私の背後に貼り付いているかのように移動した。重みなど一切感じず持ち上がり、艤装にくっついたマジックアームも意のままに動かせるようだった。まるで
これが艤装とのリンク。艦娘なら誰でもやっていること。同期値がマイナスでも、空城司令が言っていた通り艤装が動かせてしまった。原理はわからないが、0でないなら動かせるというのを私が実証してしまった。まぁマイナス値というのは後にも先にも私しか出ないような気がするが。
「わ、う、動いた動いた!」
「おめでとさん。これでアンタは正式に艦娘としてうちで登録させてもらうよ」
空城司令に言われ、改めて艦娘になれたのだと実感する。念願叶ったからか、歓喜に身体が打ち震えた。
だが疑問も一つある。整備長が言った言葉。私の存在に何か思うところがあるのだろうか。
「いや、私も驚いたわ。初期化の同期が数秒で終わるって」
夕張さんも目を丸くしていた。あちらにしか見えない計測値は、普通ではないらしい。
「お前、何分だったっけか」
「私は2分半。確かそれが普通って言ってたと思うけど」
整備長と夕張さんの会話的に、私の同期の速さは本当におかしなことのようだ。
通常では、速くても分単位の話になるとのこと。同期値が普通ではない値の者が同じことをやったとしても、最速でも1分かかったのだとか。それが私の場合は、言ってしまえば一瞬だった。イメージした時には同期が終わっていたと言っても過言ではない。
「真弓、本当にこの子はどうなってんだ。流石にこれはずっとここで働いてきた俺でも驚くぞ」
「ああ、伝えてなかったかい。この子、D型の同期値がマイナスなんだよ」
「はぁ!? んなもん聞いたこと無ぇぞ!?」
整備長が声を荒げるほどのことらしい。イレギュラー中のイレギュラー。故に、こんな前例の無いことが起きてもおかしくないということだ。
空城司令としては、ここまでとは思っていなかったが、艤装が動かせないとは思っていなかったらしい。だからスカウトしたわけだし、何の躊躇いもなくしっかり整備した艤装を用意しておいてくれた。
「0じゃないなら動かせるだろって思ったが、読み通りだね。マイナスかもしれないが、実はオーバーフローしてるだけなんじゃないのかい?」
「重要なところを符号付きで管理すんなってんだ。それでも同期値がそんなバカでかいのは初めてだけどな」
ちょっと何言ってるかわからないが、とにかく、私は艤装を動かすことが出来て、今後は艦娘として活動出来ることが確定したわけだ。
「よし、じゃあアンタの登録名だが、この艤装の名前をコードネームにすることになってる。艦娘として活動する場合は、本名禁止だ。アタシゃ全員の名前を把握してるが、仲間同士でも知らないってのが当たり前なんだ」
「そうなんだ……渾名で呼び合うみたいな」
「似たようなもんだ。すぐに慣れてもらうよ」
本名で呼び合うと、面倒なことが起こりかねないので原則禁止だそうだ。軍規でそう決められているのだから従うしか無い。
で、艤装の名前となると、確かさっき整備長が言っていたKCなんたらかんたらになるんだと思うが、さすがに覚えられそうに無い。夕張さんもその名前はコードネームで本名は別にあるようだし、似たような感じになるか。
「私は何て名乗ればいいのかな、かな」
渾名を付けてもらえるとか孤児院でも無かったこと。初体験として少し興奮気味。どうせなら艦娘らしくカッコいい名前がいい。
「こいつの名前は『陽炎』だ。陽炎型駆逐艦1番艦、陽炎。栄えある陽炎型のネームシップだよ」
艤装をポンと叩きながらその名前を教えてくれた。
陽炎。妙にしっくり来るような感覚。私の本名に使われている文字が含まれているからかもしれない。
「陽炎、ね。オッケー」
「ああ。改めて、アタシの鎮守府はアンタを歓迎するよ。これからよろしく、陽炎」
「うん、よろしくねっ」
この瞬間から、私は艦娘陽炎としての道を歩き出す。戦いの道は過酷かもしれないが、私のやりたいこと、孤児達の仇討ちを果たすために。
ここがスタート地点だ。
艤装には型番が振られています。今回の場合はとてもわかりやすいですね。