異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
謎の艦載機の謎を解明するために、長距離哨戒任務に参加している私、陽炎。領海のギリギリまで駆け抜けたことでもうお昼というくらいだが、まだ片道行ったくらいである。ここからさらに入念に調査してから帰るため、鎮守府に帰投するのはもう暗くなった時くらいになるだろう。
そんな中、たった1体だが潜水艦の急襲に遭う。その潜水艦は、攻撃するでもなく私のことをジッと見つめた後に潜航し、すぐに手が届かないところまで逃げてしまった。対潜装備を持っていたのは私だけだというのに、逃してしまったのは情けない。
「一旦休憩にしましょう。もうそろそろ太陽が直上ですから」
流石補給艦。そういう部分の補給もしっかり気にかけてくれていた。大袈裟なものは持ってこれないにしろ、1人1つの
「わ、このお漬物美味しい!」
「自家製なんですよー。糠床からお手製です!」
周りは海ばかりという場所でも、楽しく美味しく昼休みが取れるのはよかった。座れないくらいではあるが、艤装のおかげで疲れは今のところ感じない。戻ったら痛い目を見そうではあるが。
「ここから少し領海の外を確認しましょうか。長居は出来ませんが、やはりさっきの潜水艦は気になるところです」
「そうね。出来ることなら早く素性を知っておきたいものね」
旗艦の天城さんと霧島さんは、少しだけでも先程の謎の潜水艦を調査したいと言っている。
それは私も同じ気持ちだ。私を見つめていた潜水艦なんて気分が悪い。しかも頭半分だけ出てきているとか、完全にホラーだった。せめてもう少し外見が良ければいいのだが、よりによって黒髪ロングとか、何処かのホラー映画かと。
「夜になるまでに帰ることが出来ればいいんじゃね? 提督にちゃんと連絡しときゃさ」
「僕も賛成だ。あんなものがいるとわかってしまった以上、すぐにでも対処した方がいい」
全員の意思として、もう少しここを調査したいということになった。昼休みが終わり次第、潜水艦が逃げたほうに調査の手を拡げる。哨戒ではなく調査としてもう少しここに居座ることに。
逃げた方向はギリギリのタイミングでソナーを使った私のみのため、先頭に立つわけではないが、調査しながら向かう方向を私が指示する形になる。一番の後輩が後方指示とか少し緊張する。
「2回目の哨戒任務にして、長距離な上に臨時旗艦の真似事なんてね」
「緊張するから言うのやめてほしい」
ケラケラ笑いながら言う加古さんに苦言を呈する。ただでさえ、ここで色々あったというのに、そこでさらに精神的に追い詰められるのは勘弁してほしい。
昼休みを終えた後、時間の許す限り探し回ったが、何の収穫も得られず。これ以上続けたら、帰投する内に夜を迎えてしまいそうな程の時間に。
私もソナーを使って周辺警戒し続けたが、あの時の潜水艦は勿論のこと、新たに現れるようなことも無かった。基本的にあった反応は、速吸さんのコントロールする潜水艦ラジコンのみ。
「もう帰らないとまずいですね。引き揚げますか」
「ええ、今回は仕方ないわ。領海の外に出ているのに見つからないんだもの」
潜水艦が逃げていった方に向けて、鎮守府の領海の外、未開の海にまで足を延ばしたのだが、痕跡すら見つからなかった。少なくともこの辺りに巣は無く、あるのならさらに遠いところにあるという結論となった。
このことは天城さんが先んじて鎮守府に連絡済み。領海外に出るのも許可を貰ったから出来たことである。何も得られなかったようなものだが、現状
「では、帰投します。ここから真っ直ぐ戻りますね」
「了解。何もわからないのは残念だなぁ」
とにかくホラーな感じに見つめられていたのが気になったし、あの時の視線は簡単には忘れられそうにない。というか、ぶっちゃけかなり怖かった。女の子の出す声じゃない悲鳴が咄嗟に出たくらいである。
それが対処出来なかったことは少し悔しい。時間があるのなら見つかるまで調査しているところなのだが。
「今見つからないのなら、また来りゃいい。あたしゃとっとと帰って早く寝たいね」
加古さんに頭をポンポンと叩かれた。私に若干の焦りがあることを見ぬかれたかのようだった。
「時間かけてしっかりと追い詰めていくわ。あんな登場の挙句にジッと見つめられるなんて怖いのはわかるけれど、焦りは禁物よ」
霧島さんにも言われてしまった。余程態度に出ていたようだ。
一息深呼吸して、少しだけ気持ちを落ち着ける。今は指示通り帰らなくてはいけないわけで、私はそれに背こうだなんて思っていない。解決出来なかったのは残念だが、加古さんの言う通り、また来ればいいだけだ。長い時間をかけてでも探し出せればいい。
念のため追われていないことを意識しつつの帰投。あの場所まで行くよりは遅くなってしまい、結果的に夕暮れを超えて薄暗いくらいの時間になってしまった。
工廠では空城司令としーちゃん、そして私達が戻らなくては仕事が終わらない整備班の人達が待っていた。遅くなる旨は帰投中に伝えてあるため、誰も嫌な顔せずに引き取ってくれる。
「っあ」
艤装を外した途端、今までにない疲労で身体が重くなり、意図せずフラついてしまった。艤装のおかげでこれだけの疲労を無視出来ていたのだと思うと、本当にありがたいのと同時に、恐ろしさも感じる。
「大丈夫かい陽炎」
それを空城司令直々に支えてくれた。私のような子供なら片手で支えられるようである。
「ご、ごめんなさい、すごい疲れがドッと」
「無理もないね。まだ経験不足の艦娘が、領海の外まで哨戒に行ったんだ。慣れていても疲れくらいあるさね」
哨戒でこれなのだ。戦闘まで入ったら何処まで消耗してしまうのだろう。考えるだけでも抵抗を感じる。
「夕飯の前に風呂に入ってきな。ある程度は疲れも飛ぶだろう。アンタ達もだ。腹は減ってるだろうが先に風呂、その後飯。任務中の話は後から詳しく聴かせてもらうよ。明日でも構わない」
こういうところで優しさが滲み出ている。お言葉に甘えて、まずはお風呂に行かせてもらおう。とはいえ疲労で自分の足で向かうのにも一苦労。初月と速吸さんに支えられつつ、ほとんど引きずられるようにお風呂へ直行した。
服も手早く脱がされ、湯船に入った途端に一気に癒される。例の薬湯のおかげまで、疲れが一気に抜けていくような錯覚を起こす。代わりに相変わらずおっさん臭い声が口から漏れ出てしまった。
「お゛あ゛あ゛〜……」
「お疲れ様でした。慣れていないのにあんな長い時間というのは大変だったでしょう」
そのまま崩れ落ちてしまいそうな私を、天城さんが支えてくれた。哨戒任務で疲れすぎたことによるお風呂での溺死とか笑えない。
「陽炎はもう少し体力をつけた方がいいわね。今後はこれよりハードな任務もあり得るもの」
「面目次第もございません……」
苦笑しながら霧島さんに言われる。つい先月まで普通の女の子として生活していた私には、ここまでの疲労なんて感じたことのないものだ。そもそも基礎体力が艦娘の基準にまだ足りていないのかもしれない。そういうところの訓練も必要かも。
今回の哨戒任務で私の足りない部分がいくつもわかった。咄嗟の対潜行動は空振りするわ、今のように帰投してからの消耗が激しすぎるわ、そもそも敵に驚きすぎてるわ。いや、最後のはあんなの見たら誰だって悲鳴を上げるとおもうのだが。
「もう少し海防艦との体育とかもお手伝いしようかな……疲れすぎかも」
「トレーニングなら私達もやっているから、機会があれば一緒にやる?」
これは嬉しいお誘い。これだけハードな哨戒任務をこなした後でも、霧島さんはケロッとしているため、相当なトレーニングをこなしてきたのだと思う。時間をかけてここまでのものにしてきたというのもあるとは思うが、そもそものトレーニングが的確だから力を手に入れているのだろう。
「ちなみに戦艦のトレーニングってどんなものなのかな」
「私達は筋トレと体幹トレーニングが基本ね。ほら、戦艦の主砲は他の子達とは比べ物にならないくらいに反動があるから」
私だって今でも手持ちの主砲はブレるくらいに反動が来るのだが、戦艦の主砲の反動はその比ではない。とんでもない火力を実現するためには、大きな弾を撃つ必要があり、大きな弾を撃つということは、その分力がいるということ。それが艤装を通して身体に来るのだから、艤装のパワーアシストがあったとしても、基礎体力や体幹がしっかりしていないとまともに撃つことも難しい。
それを可能にしているのだから、霧島さんは相当鍛え上げているはず。見た目は背も高くてスタイルもいい綺麗なお姉さんだが、あの下には筋肉が隠れているのかもしれない。
「速吸も少しプラン練りましょうか? スポーツ医学も少し齧っているので、お手伝いすることは出来ますよ」
「あら、それはいいわね。陽炎でも耐えられるくらいのプランから徐々に基礎体力を上げていくのはいいことよ」
それはありがたい。いきなり戦艦のトレーニングに参加するのは耐えられるかもわからないが、私基準のトレーニングプランを与えてくれるのなら、それをこなしてより強くなっていける。
「課題はいろいろわかったけど、まずは体力作りだなぁ……今後はこれよりももっと疲れることがあるんでしょ?」
「勿論。まともな戦闘が始まったらこれじゃ済まないわ。私だって倒れることがあるんだもの」
霧島さんが倒れる程の戦闘とはどんなものなのだろう。巣の主との戦いとかか。
私が見たことのある、というか相対したことがある敵は、駆逐艦と潜水艦だけ。こちらにいる艦種は敵側にもいると考えるべきなのだから、戦艦だっているだろうし空母だっているだろう。それと戦うとなったら、駆逐艦相手なんて比にならないほど疲れそう。
「陽炎は今後、酷いことに巻き込まれる可能性がすごく高いと思うわ。なるべくなら急ピッチで鍛え上げた方がいいと思うの」
言いたいことはわかる。艦載機や潜水艦に見つめられたという事実は、私の今後に関わる何かの可能性が高い。それこそ、近日中にとんでもない戦いに巻き込まれるかもしれない。
その時にしっかり立ち回れるように、普通以上に努力しなくてはいけないだろう。そもそもは自分の命を守るため。動けなければ自衛すら出来ないのだから。
「空城司令にもちゃんと話しておく。自分の今後がわかったと思う」
「それがいいわね。手伝えることがあれば言ってくれればいいわ。陸奥も貴女のこと、気にかけてるみたいだから」
「うん、よろしくお願いします」
戦艦2人に気にかけてもらえるなんて幸せな身分になったものである。仲良くしてもらえるのならありがたい。
「そういえば、加古さんがやたら静かだけど……」
一緒にお風呂に入ってきたはずの加古さんが何も言葉を発していないことに気付く。初月もだ。
気付くと2人とも思い切り寝息を立てていた。初月は稀に危ないタイミングがあるので速吸さんが支えていたが、加古さんに至っては慣れたものなのか、驚異的なバランスでグッスリである。
「ああ、いつものことですから。加古さんはいつも眠そうにしていますからね」
あの天城さんですら放置するくらいなのだから、本当にいつものことなのだろう。
「加古ちゃん、一度起きてください。寝るのならご飯を食べてお部屋で寝ましょうね」
とはいえ大分長湯になってきたので、そろそろ出ることに。天城さんが加古さんを揺すって起こした。
寝るのはいいが、このままだと逆上せてしまうだろう。そんなことで体調不良とか笑えない。空城司令も確実に怒る。
「うぁ〜……眠たいんだよぉあたしゃ……」
「せめて自分の足で部屋まで戻ってくださいね」
戦場でのイケメンっぷりは何処へやら、今の加古さんはぐーたらなやる気のない人にしか見えなかった。
一方初月はビクンと震えた後、目を擦りながらも何とか目を覚ました様子。寝てない寝てないと言い訳する様子は少し可愛らしかった。
その日の夜は夢すらも見ずにグッスリ眠ることが出来た。例の悪夢は元より、夢に出るんじゃないかと思えるほどに恐怖を感じた潜水艦のアレすらも見ず。余程疲れていたのだろう。
しかし、あの潜水艦は何だったのだろうか。敵だというのに攻撃してこなかったのは何なのか。今の私には何もわからない。
陽炎の今後の課題は体力作り。本来女子高生である陽炎に、いきなり戦場とか普通は耐えられません。