異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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鍛錬の時

 長距離哨戒任務でわかった私、陽炎の課題は、単純に体力が無いこと。普通の艦娘としての訓練も重要だが、基礎体力が必要であることを理解した。この1ヶ月で鍛えてきたものの、まだまだ全く足りない。同じような時間で戦場に出たという夕立がまともに戦えてるのが信じられない。

 ということで、夕食後、寝る前に空城司令にその件を話しておく。私の勝手な言い分なので、ダメと言われても仕方ないこと。体力作りは休日に時間を作ってやることにする。

 

「生き残るための訓練になるのなら、アタシゃ何も文句は無いさね」

 

 体力作りの訓練のことは、空城司令も快く許可してくれた。生存性能に直結しているのだから、自発的に鍛えたいというのなら許すと。

 鎮守府にジムとかそういうのは無いため、器具を使ったトレーニングは出来ないとのこと。昨日それをオススメしてくれた霧島さんは、そこにあるもので何とかしているのだとか。例えば工廠で出た端材をバーベル代わりにしたり。そもそも体幹トレーニングは器具が無くたって出来る。

 

「すぐにやれることは高が知れてるだろうね。速吸にプランを組んでもらうというのも聞いてるよ」

 

 哨戒の結果を話す時に、霧島さん経由で私のことも伝えられていたそうだ。明日でもいいという話だったのに、お風呂上がりにそのまましっかり伝えたらしい。真面目な霧島さんらしい行動である。

 

「でもいいの? 艦娘としての訓練ほっぽって」

「体力付けるのも艦娘の訓練だってことさ。アンタは自分で艦娘として無いものを見つけたわけだろうに」

 

 確かに、私は艦娘をやっていく上で、一番足りないのは体力だと痛感した。だから進めていきたいと思って進言したわけで。

 

「それに、別にアンタだけじゃないんだ。体力作りに時間割いたのは」

「え、そうなの?」

「そもそも海防艦には体育の時間使ってるだろう。それに、駆逐艦は大概通ってる道だよ」

 

 それなら少し安心。私だけ特別というわけで無いのなら負い目も無い。

 

「速吸も張り切っていてね。明日からトレーニングするんだって言っていたよ。プランが組まれているだろうから楽しみにしておきな」

「うん、協力してもらえて嬉しい」

「前にも言ったが、甘えればいいんだ。特にアンタはまだ新人なんだからね」

 

 それに、と何かを言いかけたが、何でもないと話を切った。言いたいことは何となくわかる。潜水艦に見つめられていたことに繋がるだろう。

 もしかしたら私という存在を狙ってきているのかも知れない。そうなると、自衛の手段をいくつも用意した方がいい。体力作りがそこに繋がるのだから、否定する理由もない。

 

「今までと違って今回は自分で決めたことだ。しっかり成し遂げな」

「うん、勿論。もっと強くなるよ」

「その意気だ。頑張んなよ」

 

 空城司令も応援してくれるのならやる気も出るというものだ。どんなトレーニングでもかかってこい。

 

 

 

 翌朝。しっかりと朝食を摂った後、速吸さんに呼び出される。運動をするための服装で、鎮守府の外に集合と。まるで体育。海防艦達と一緒にやるのではないかと想像するが、その辺りはどうなのだろう。

 本来ならいつもの制服の方がいいと思うのだが、運動するとわざわざ言われているため、かなりラフな姿で出向くことに。ガッツリ身体を動かすことになるのだから、Tシャツとスパッツくらいで大丈夫だろう。スポーツタイプの下着などなどもしっかり取り揃えられている辺り、私のような訓練は意識されているようである。

 

 以前休日に歩いた小道の方へ行くと、準備万端な速吸さんが待ち構えていた。いつもの制服がジャージなのでそのままで来るかと思いきや、私と同じようなラフな姿。一緒に体力作りをするのだろうか。

 

「速吸もトレーニングは必要な身体ですし、一緒にやっていきましょう。午後からは霧島さんと陸奥さんも合流しますからね」

「はーい。基礎体力ってくらいだし、まずはランニングとか?」

「そうですね。持久力アップのために鎮守府外周をランニングしましょう」

 

 やはりその辺りは来ると思っていた。短距離ならいいが、長距離となるとあまり経験が無い。孤児院にいた時は歩いて買い物に行くこともよくあったものの、それを走ってこなしていたわけではないし。

 

「ああ、あと他にも参加者がいますから」

 

 おそらく私が一番体力が無いのだと思うのだが、そこに追加で付き合ってくれる人がいるらしい。速吸さんと1対1でやることに抵抗があるわけでは無いのだが、人数が増えれば増えるほど楽しくなるとは思うのでありがたい。

 

「ぽーい、夕立も参加しまーす」

「基礎体力はつけた方がいいし、他ならぬ陽炎ちゃんのことだしね」

「うん、私達も一緒に」

 

 やってきたのは夕立に沖波に磯波。まさかの異端児駆逐艦全員集合である。全員が私と同じラフな姿なのだが、夕立はさておき沖波と磯波がこういう格好をしているのは少し新鮮だった。特に磯波。ジャージとか着込んでそうなタイプなのに、私と同じTシャツにスパッツとは。夕立と磯波は髪が長いのでポニーテールにまでしていた。

 みんな同じ格好なので、私達はそういうチームみたいになっている。一致団結もしやすい。こういう組織に属しているため、仲間意識は大事。

 

「競い合うわけではないですが、ランニングは人数いた方がやりやすいですから」

「うん、ありがたい。心細いわけではないけど、仲間が多い方が続けやすいよね」

「そういうことです。ではまず、鎮守府の周りを3周くらいしてみましょうか。自分のペースでいいですからね。無理してやっていきなり身体壊すとか笑えませんから」

 

 鎮守府って結構な規模あると思うのだが、それを3周って最初からかなり飛ばしてる気がする。

 

「では行きましょう。私が先頭を走りますから、ついてきてくださいね」

 

 速吸さんが先導するランニングが始まった。そのスピードはおそらく普通よりも遅い。だが、ゆっくりでも走り続けることに意味があるらしい。長く走れればその分鍛えられるわけだし。

 夕立は焦れったそうにするものの、私としてはこれはありがたい。これだって楽というわけではないのだから。

 

 そこそこの時間をかけて鎮守府外周3周終了。案の定私が一番体力がなく、ゼエゼエ言いながらぐったりしてしまった。沖波と磯波も疲れを感じているようだが、私ほどでは無い。速吸さんと夕立は息を切らしてもいない。

 トレーニングが必要な身体と公言したものの、速吸さんも尋常ではない体力の持ち主のようである。あの戦場で周りをサポートする補給艦なのだから、他より使う体力が違うのだろう。

 

「10分休憩しますね。そこから今度はストレッチで身体をほぐした後、プランクで体幹を鍛えていきますからね」

 

 プランクって確か話には聞いたことあるけどかなりキツイっていうやつじゃなかったっけ。いろいろなトレーニングを詰め込むものだから、本当に全身が鍛え上げられるわけだ。

 

「はぁ、さ、最初から、はぁ、結構、飛ばすなぁ」

「少なくとも艦娘になった影響というのがありますから、これくらいならすぐに慣れますよ」

 

 艤装を装備することで、髪の色が変わるくらいに人体へ影響があるわけだが、それにより体力作りもサポートされるらしく、こういった鍛錬の影響は人間とは比べ物にならない早さで身につくそうだ。

 私はマイナス同期値のせいで艤装側に影響を与えてしまうわけだが、その辺りは他と同じなのだろうか。同じであってほしい。

 

「ゲロちゃん体力無いっぽーい」

「アンタが、はぁ、異常すぎんの、ひぃ」

 

 汗一つかいていないというわけではないが、疲れを一切見せていないのは流石としか言いようがない。古参の磯波ですら軽く息切れしているというのに。

 

「陽炎ちゃん、お水」

「あ、ありがと、沖波、ひぃ」

 

 ペットボトルの水を沖波がくれたので、がぶ飲み。潤されてまたどっと汗が出る。まだ訓練開始からそんなに時間が経っていないのにこの消耗。10分で回復出来るかはさておき、もう暑いと思えるほどに身体が火照っている。運動がしっかり効いている証なのかはわからないが、訓練してるって気持ちにはなる。

 汗のせいでシャツが湿っていろいろと透けてくるが、まぁ今は女しかいないような場所だから羞恥心とかはそこまで感じない。どうせ下に着けているのはそういうためのものだし。

 

「はい、では今度はストレッチですよ」

 

 もう10分経ったのか。休んだ気にならないが、ストレッチで身体をほぐしていけばまた休まるだろう。

 

 そこから午前中は基礎的な部分を延々とやり続けた。テレビとかで見たが、あのプランクとかいうのは本当に身体に来るものがある。外でやらずとも寝る前とかに部屋とかでもやれると聞いているので、今日から毎日やろうかと思う。

 

 

 

 午後は聞いていた通り戦艦2人も参加。つまり、筋トレ絡みになるようだ。それを裏付けるように、霧島さんが運んできたのは鉄アレイ。しっかり人数分取り揃えてあるのが流石。

 なんでもこの鉄アレイ、工廠の整備員の人に頼んで、艤装整備の際に不要になった端材を加工して作ってもらったらしい。妖精さんも手を加えているそうなので安心設計。鉄というのも少し違うのかも。

 

「うわ、これ見た目より重い!」

「艤装の一部を集めたものなんだもの。私や霧ちゃんはずっと使ってきてるから軽々だけど、初心者のゲロちゃんには辛いかもしれないわね」

 

 陸奥さんにまでゲロちゃんが浸透しているのはもう諦めた。夕立め、覚えてろよ。磯波も破裂することが無くなるくらい聞き慣れてしまっているし。

 

 そんな陸奥さんも霧島さんも、いつもの制服とは違うスポーツウェア。元より露出度がかなり高い制服の陸奥さんはさておき、霧島さんは制服が巫女服のような和服のため、動きやすいピッチリしたウェア姿はすごく新鮮である。さっきから新鮮しか言ってない気がするが、本当にそうなのだから仕方あるまい。

 

「親分! これでいいっぽい?」

「上出来。本当に身体を使うことは得意よね夕立は」

 

 そんな鉄アレイもモリモリ上げたり下げたりしているのが夕立である。霧島さんが言う通り、身体を使うことは万能。おそらくそれ以外はボロボロ。

 あと親分呼びにより磯波が破裂。ゲロちゃんは聞き慣れているが、こちらは聞き慣れていてもダメらしい。女性にいう渾名ではないな確かに。霧島さんがまるで否定しないところもツボに入るようである。

 

「この子、腹筋だけはやたら鍛えられてるのよね。笑い上戸だからかしら」

 

 破裂した磯波を後ろからやんわり抱きかかえた陸奥さん。磯波のシャツをめくり上げてお腹を撫でる。別に腹筋が割れているとかそういうのではないのだが、引き締まっているのは確か。駆逐艦の中で一番なのではないだろうか。

 

「む、陸奥さん、触り方がいやらしいです……」

「あらごめんなさいね。でも貴女、腹筋(シットアップ)とかすごく得意でしょ」

「ま、まぁ、はい、確かに……人よりはやれるかもですが……」

 

 鉄アレイの次は腹筋なのだが、陸奥さんの言う通り磯波はやたらそこの持久力があった。あの夕立にも勝つレベルで。夕立が悔しがったのは言うまでもない。

 

「うぎぎぎぎ……」

「女の子がしていい声じゃないわよー」

 

 鉄アレイを支えにした腕立て伏せ(プッシュアップ)。普通の腕立て伏せよりも深く下ろすことになるため負荷がヤバい。しかもそれをゆっくりやれと言いだしたのでこんな声も出る。いくら艦娘といえどもこれはキツい。沖波や磯波もこれは相当キツいらしく、悲鳴すら上がらなかった。

 そんなことを言う陸奥さんは、私の苦労を他所に片手で腕立て伏せをやっていたりするので何も文句が言えない。わざわざ自分で負荷を上げて同じことをやっているのだから、相当鍛え上げられている。

 

「ゆ、夕立も、これは結構キツいっぽい」

「駆逐艦は手で主砲を持つのだから、上半身の鍛錬は他より重点的にやらないとダメよ。というか全身が必要ね」

 

 霧島さんも陸奥さんに負けず劣らず凄まじいトレーニングっぷり。倒立してからの腕立て伏せまでやってしまっている。あんなの真似出来ない。

 

「うあー! もう暑いっぽい!」

 

 腕立て伏せを終えた夕立がシャツを脱ぎ捨てた。下にちゃんと見せてもいいものを着けているからいいが、女所帯でもそれは控えた方がいいと思う。今の時間にここに現れることは無いだろうが、一応整備員には男性もいるわけだし。だが暑い気持ちはすごくわかるので、私も力いっぱい脱ぎ捨てた。

 

 

 

 ここからさらにトレーニングが続くのだが、終わった頃には疲労困憊。いつも以上に筋肉が悲鳴を上げているのが痛いほどわかる。

 だが、これが強くなっている証だと思えば苦ではない。むしろ気持ちいい疲れだ。今後もこれを続けていこう。自分のためにも。

 




三つ編みの長さからして、ポニーテール磯波はかなり似合う気がします。というか今回の磯波はぱっと見磯波には見えませんね。スポーティーな磯波、新感覚。
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