異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
体力をつけるトレーニングも訓練に取り入れ始めてから数日。毎日プランクやら腹筋やら腕立て伏せやらをやって少しずつでも強くなろうと努力している私、陽炎。早朝のランニングとかもいいかもしれないなんて考えつつ、日々訓練や哨戒任務で艦娘としての活動を続けている。
ここ数日中に変わったことは今のところ無い。私を見つめる艦載機や、私を見つめる潜水艦が突然近場に現れるようなことは無くなっている。ただ無いだけなのか、あちらがタイミングを図っているのかは定かでは無い。
そんな中、珍しいことに鎮守府に客が来ることになった。それを朝食後に発表され、少し騒がしくなる。
私がここに所属してから1ヶ月ちょっと。その間に外部から誰かが来ることなんて無かった。ある意味閉じたコミュニティなので、そういうのが基本とのこと。稀に外部の鎮守府と演習なんてことをするらしいが、今のところ私はそれを体験していない。
「陽炎、アンタは客に会ってもらうよ」
突然言われて流石に驚く。新人のお披露目でもするつもりなのだろうか。
「え、新人だから挨拶必要とか?」
「それもあるがね。今日来る客は、前に話題に出したと思うが諜報部隊だ。
例の件とは、悪夢の中で見た赤い深海棲艦のことだろう。あの姿を知っているのは私だけ。それがまだ思い出し切れていないとはいえ、あちらが持っている情報と照らし合わせた結果、姿を思い出すことが出来るかもしれない。
「了解。どんな人達が来るかは知らないけど、面と向かって話をするよ」
「ああ、これについては拒否権が無いからね」
ですよねー。私の精神的な部分にも関わるが、実際この情報は今後の深海棲艦との戦いに役立つ情報である可能性が非常に高い。最初に襲撃をしてきた深海棲艦がどれかとわかれば、それを叩けば以降の深海棲艦の発生などの調査がしやすくなる。
「午前中に来るって話だから、陽炎は今日の訓練は休みだ。急で悪いね」
「あ、そうなるんだ。結構時間かかる感じかな」
「かもしれないね」
もしかしたら丸一日使った話し合いになるかもしれない。すぐに終わる可能性もあるが、長丁場は覚悟しておいた方がいいだろう。
その後少しして、来客登場。事情が事情なので陸路である。むしろ海路なんて使っていたらどれだけ時間がかかることやら。艦娘だけで来るのなら海路の方が早かったかもしれないが、司令官同行となるとどうしてもこうなる。そのため、艦娘の方は制服姿ではあるものの艤装無しのただの人。
何でも、この鎮守府とは真反対の場所にあるため、陸路でも数時間かかるという苦行だったらしい。真っ暗なうちからあちらを出て、ようやく今到着のようだ。それでも迅速に動いた方なのだとか。
「お久しぶりです空城大将」
「ああ、遠路遥々よく来てくれたね」
あちらの司令官、
「恐縮です! 諜報部隊の青葉ですぅ!」
「同じく秋雲さんだよ!」
その後ろの艦娘、重巡洋艦の青葉さんと駆逐艦の秋雲。青葉さんは何処となく衣笠さんに似た制服に見えるが、スカートではなくショートパンツなのが特徴的。秋雲の方は沖波と同じ制服。もしかしたら夕立と五月雨のように、艤装的な姉妹なのかもしれない。
「そして本艦が艦娘諜報部隊隊長の神州丸であります。ここまで皆を送ったのも本艦であります」
そして最後にここに現れたのが、かなり異質な何処かの星で戦争をしてそうな黒いフードの女性。この人は運転手としてここに来たらしいが、揚陸艦という補給艦などと比べるとさらに特殊な艦種らしい。陸に揚げると書くくらいなのだから、荷物でも運んだりするのだろうか。
「お久しぶりです物部提督。応じていただいてありがとうございます」
「久しぶりしーちゃん、ここでは上手くやれているみたいだね」
「はい。空城提督には本当にお世話になっています」
しーちゃんの手でコンタクトが取れるくらいなのだから、元々の顔見知りのようだ。本当にしーちゃんは謎の存在である。調べたところで何もわからなそうだし、おそらくそこまで考えなくてもいいようなことだろうから、今は深追いしないことにする。
諜報というので、深海棲艦の情報を秘密裏に探りを入れるための部隊なのだろうが、どうもそんな感じがしない。艦娘3人が3人、何処となく面白キャラなイメージがある。そんな後ろ暗さを感じさせないのは好感触。
「この子が例のですか?」
「ああ、始まりの襲撃を一部始終見ている最後の生存者だよ」
マイナス同期値とかそういうのではなく、あの街の最後の生存者ということで紹介されているようである。
やはり始まりの襲撃はどの界隈でも調査したい内容のようで、知り得ることは何でも知りたいというのが実情。封じられているとはいえ。
「陽炎よ。よろしくね」
「あ、じゃあ秋雲さんのお姉ちゃんってことになるのかぁ」
少し予想外な反応。どう見ても私とは似ても似つかない。
「沖波の姉妹なんじゃないの?」
「制服だけ夕雲型なんだよね。秋雲さんは陽炎型の末っ子なのさ。つーわけで、よろしくねゲロ姉」
「その呼び方はやめて」
制服は沖波と同じなのに、私と同じタイプの艤装を持っているらしい。何とも複雑な生まれで本人も少し気になるようだが、だからといって活動に何かしら影響があるわけでもないので、考えないようにしているようである。
あと陽炎だけにゲロ姉というのは定番なんだろうか。夕立といい、秋雲といい。
「外で長話も何だから、ここからは中で話そうかね」
「あ、すみません、ありがとうございます」
やってきた物部司令と艦娘3人を連れて鎮守府内に入り、そのまま真っ直ぐ会議室へ直行。私はこの部屋に入るのは初めて。任務の話も工廠でさらりと話される事ばかりなので、会議室を使うまでも無かった。今回の話がかなり真面目な話になりそうなので、少し緊張する。
着席したところですぐに話が始まる。青葉さんが鞄からメモ帳を取り出し、この話の議事録を残していく。なんだか新聞記者みたい。
「早速だが、協力してもらいたい。この子が悪夢という形で当時の記憶を思い出しかけているんだ。赤い深海棲艦だったと言っている」
「赤い……ですか」
早速本題からしてこの反応。私が知る限り、そんな深海棲艦は知らない。知っているけど思い出せないというのが正しいか。いくら諜報部隊といえど、そんな深海棲艦は見たことが無いのかも。
「青葉、秋雲、赤い深海棲艦は見たことがあるかな」
「そうですねぇ、青葉は諜報活動を始めて今年でもう4年目になりますが、赤い深海棲艦なんて……いや、1度だけありますよ」
目を見開いてしまった。一番望んでいた回答だが、来ないと踏んでいたというのもあり、実際にあると言われたら驚いてしまう。
「秋雲ちゃんも一緒に見ましたよねぇ、その時。神州丸さんは別方向見てて確認出来なかったっていう」
「あー、そうだったそうだった。あのちょこっと姿を見せてすぐに姿消した奴っしょ。青葉さんが写真撮れなかったーってすごく悔しがってた奴」
「なるほど、思い出した。本艦が見られずに悔しい思いをしたものだ。半年前辺りでありますか」
長く諜報活動をやっていると、一度だけ見て姿を消してしまった深海棲艦というのも何体かあるらしい。そしてそれが後日姿を現すなんてこともざら。
そういう時に、事前に見ていたという事実があれば、多少なり対策が出来るというもの。武装や他の仲間とかまでわかればベスト。最高なのは諜報部隊がそれそのものを沈めることではあるが。
「陽炎、アンタの夢ではどんなやつだったか教えてやんな」
「う、うん……」
諜報部隊が見たという深海棲艦と、私の頭の中に思い描いている深海棲艦が同一であるかどうかを確かめるため、悪夢で見た赤い深海棲艦について話せる限り詳細に伝える。私自身がまだ朧げというのもあるため、細かいと言ってもかなり抽象的。赤い、何かを持っている、そして艦載機を操っていたということ。
「青葉達が見たのも、何か持ってましたよ。何でしょうアレ、扇子? 棒?」
「雛人形のお内裏様が持ってるヤツみたいなのだったよ。秋雲さんには卒塔婆にも見えたけど」
赤い深海棲艦の情報が次々と。それが私の悪夢に出てきているのと同じなのかはさておき、私の出せるほんの少しの情報から次々と情報が溢れ出る。
「写真が無いのが惜しいですねぇ。秋雲ちゃん、あの時のヤツ、イラストに起こせますか?」
「ん、出来るよ。念のためスケブ持ってきててよかったーっ!」
秋雲は秋雲で持ってきた鞄の中から出てきたのは、スケッチブックと鉛筆。写真が撮れなかったものに対しては、秋雲がイラストにして残しておくらしい。しかし、赤い深海棲艦に関しては、見たのが一瞬だった上にその辺りの調査をしても何も無かったため、その場では描いたが表には出していないのだとか。資料として全鎮守府に渡されるのは、ちゃんと確認したものだけ。
「確かこんなだったよねぇ。チラッとしか見てないから、秋雲さんも曖昧なのさぁ」
「あ、そうそう、そんな感じですぅ。青葉も一瞬でしたからねぇ」
秋雲がさらさらとスケッチブックに筆を走らせ、見たものを簡単に描いていく。持っていたのが黒の鉛筆だけのため、赤い深海棲艦でも黒くなってしまうのは仕方ない。しかし、形を的確に表現する。
「相変わらず、秋雲は絵が上手でありますな」
「ちっちゃい頃からずっと絵ばっかり描いてきたからね。最近は同人活動もやったりしてるし。イベント行けないのは残念だけどさ」
などと話しているうちに、ラフ画が完成。
「こんなだったよね。かなり遠かったけど、秋雲さん的には渾身の出来さぁ」
スケッチブックをこちらに見せてくる。
その深海棲艦は、正直なところ普通ではない外見だった。
まず服を着ていた。そういう深海棲艦がいることは資料を見て理解している。前にちょろっと名前を聞いた戦艦棲姫や空母棲姫も資料室で見てみたが、前者は真っ黒なネグリジェのようなワンピース、後者はボロボロに破れたセーラー服と、まぁ何となくわからなくもない姿をしていた。
しかし、秋雲が描いたそいつは、異質すぎた。振袖のような長い袖口なので和服。真正面から見たわけではないみたいだが、青葉さんも言っていた通り何か棒のようなものを持っている。そして特筆すべきは、背中の
「記憶力はいい方なんだよね。でもこれ、初めて見たら深海棲艦に見えないっしょ」
私の封じられた記憶を激しく刺激されるような錯覚を生じる。忘れているだけで、この外見のそれを見た経験があるのではないだろうか。
「見たことのない深海棲艦だね。というか何だいこの光背は。自分は神だと言いたいのかねぇ」
空城司令もその姿を見るのは初めてだという。こんなに目立つ外見なのに。
「陽炎、どうだい。見覚えは」
話を振られるが、正直それに返答出来るような心境では無かった。指先がカタカタと震える。ただのイラストなのに、本人が目の前にいるわけでもないのに、こうまで震えるのはどう考えてもこれが10年前に現れた深海棲艦、両親の仇であることを裏付けているものだった。
記憶にはない。だが身体が覚えている。両親を殺された怒りと、何もかもを奪われた悲しみと、それに対する恐れ、怖れ、畏れが私の頭をグチャグチャにかき混ぜていくような感覚。
「陽炎、おい、陽炎!」
空城司令に大声で呼ばれ、ハッと我に返る。顔は冷や汗でビッショリ。なのに喉はカラカラ。震えは止まることなく未だに続き、秋雲の描いたイラストを直視出来ない。
「ご、ごめんなさい……多分……コイツ。私が10年前に見たのは……コイツだよ」
痛いほど渇いた喉でどうにか搾り出したが、それだけ言うのがやっとだった。息も荒くなる。指先の震えは身体に伝播し、脚までもが震え出してしまった。ここが会議室で良かった。正直今は立てる気がしない。
「体調が悪くなったのなら休むかい」
言葉が出せそうには無かったが、この話はもう少し聞いていたい。そのため、首を横に振る。
「なら簡単に説明しますね。この深海棲艦は半年前、割とこの鎮守府の近場で発見したものです。数日かけての遠洋航海で未開の海を調査している最中でした。今思えば、あれは始まりの襲撃の海域だったかと思います」
ならば、10年前からこの辺りにずっと潜んでいたということになる。最初からずっと。鎮守府の目が届かないところに。
「こちらの視線を感じたのか、少し高い波が立ったと思ったらその場から消えていました。もう船幽霊の類ですねコレ。何をするでもなく、陸の方を見ていたかと思います」
わかるのはそれだけだと。本当に一瞬の邂逅だったようだ。
だが、それだけでも私はいろいろと感じるものがあった。最初の艦載機、2回目の潜水艦と同じように、この赤い深海棲艦はおそらく、
ならば、私にはヤツにわかるようか何かがあるのか。と考えた時点で思い当たることはある。マイナス同期値。
私の謎が少しずつ紐解かれていく。私は一体何者なのだ。それがわかるのも、もしかしたらそう遠くないのかもしれない。
もう赤い深海棲艦の正体はわかりましたね。名前はまだここでは付いていませんが、そのうちその名前が付くと思いますのでお待ちを。