異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
遠くより諜報部隊として活動している物部司令率いる艦隊が客として鎮守府を訪ねてきた。私、陽炎の知る始まりの襲撃の中心核、赤い深海棲艦の情報のためだ。
私が悪夢の中で見ていた深海棲艦は、諜報部隊は一度だけ目にしていたということが判明。その姿を写真に収めることは出来なかったが、記憶を頼りにさらさらとイラストにしてくれる。そのイラストを見た途端、私は酷い動揺と恐怖に襲われることになった。
赤い深海棲艦の姿を見た青葉さんは、陸の方を見ていたと言っていた。おそらくそれは私のことを見ていたのだと思う。半年も前から、私は両親の命を奪った仇にロックオンされていたわけだ。艦載機といい、潜水艦といい、何故かはわからない。だが、あちらにとって私は何か
「まだ名前も付いていない新たな深海棲艦ですから、この辺りはちゃんと調査しなくてはいけませんね。始まりの襲撃に関わっているというのなら尚更です」
私の証言から、この赤い深海棲艦については定期的に調査が必要だと考えたようだ。まずは上にしっかり話をしてから、改めてガッツリ調べるとのこと。
本来の鎮守府からは大きく離れた場所のため、出張という形でこの鎮守府に滞在まで考えているらしい。流石に物部司令は鎮守府に戻るが、今すぐに調査しなくてはいけないこともないようで、それでも鎮守府が成立するのだとか。
「正式に許可を得てからになりますが、3人を少しの間ここに置いてもらっていいでしょうか」
「ああ、構わないよ。1週間くらいかい」
「そうですね。その海域に案内してもらって、調べられることを全て調査するという形になるかと思います。その時はよろしくお願いします」
この流れなら、少ししたら3人が一時的に鎮守府の仲間になるだろう。あの海域にまた出向き、調べられることを調べたのちに報告して帰投。長期の任務と考えればよさそうだ。
あくまでも滞在させてもらうという形なので、作戦指揮は物部司令経由。余程おかしな事が無い限りは、
「神州丸、隊長として管理をよろしく頼む」
「お任せを」
これはこれで楽しくなりそうである。
ここで私の体調が一気に悪化。秋雲のイラストで敵のことが理解出来たことが原因だと思う。吐き気などは無いが、いろいろと渦巻く負の感情から気分が悪い。目眩までしてきた。最初からずっと指先は震えたままだし、冷や汗はかきっぱなしだ。
「陽炎、大分顔色が悪いが大丈夫かい。話を聞きたいのはわかるが、無理をするのは良くないよ」
「……うん、ここまで聞くことが出来れば大丈夫……ごめんなさい、ちょっと部屋に戻るよ……」
「しー、部屋に送ってやんな」
「はい。陽炎さん、行きましょう」
もう声も出せなかった。首を縦に振ってそこから立ち上がろうとしたとき、不意に力が抜ける。緊張が限界に達したらしい。
私は意図せずにその場で気を失うことになってしまった。こんなこと、今まで生きてきた15年で初めてのことだ。それほどまでにヤツはトラウマになっているのだと実感しながら、意識は暗転していった。
そして私は悪夢を見た。つい先日更新されたばかりなのに、今回もまた。仇がわかったことが影響しているのだと確信する。
赤い深海棲艦が近付いてくる。秋雲のおかげで思い出せた姿で。涙目でボヤけていても、今ならハッキリわかった。
赤いが、ただ赤いわけではない。よくわからない和服と、手に持つ棒のようなもの。そして、背中の輪っか。神々しさまで感じるが、あんなもの神様でもなんでもない。私にとっては悪魔以外の何者でもなかった。
母が叫んだ瞬間、私の世界が爆炎に飲み込まれた。目の前が真っ赤に染まり、母さんはそれに巻き込まれていた。私を抱きかかえる父さんも、その爆発の衝撃で吹き飛ばされた。私を守ろうと身体を張ってくれたのに、それが意味をなさないくらいに。
強く叩きつけられ、私は痛みでさらに泣きじゃくった。父さんはそんな私を強く抱きしめてくれていた。それでも泣き止むことが無かったのは、子供ながらに絶望を感じていたのだと思う。何せ、赤い深海棲艦がこちらに向かってくるのと同時に、ズタズタな肉袋と化した母さんの姿をありありと見てしまっていたのだから。
赤い深海棲艦が迫っている。そうだ、私はこれだけ近い位置でヤツを見ていたんだ。だから姿をイラストに起こしてもらえれば、それが本人と一致しているかがわかる。
その能面のような顔のそいつは、目だけがギョロリとこちらを向き、私を見つめていた。その目からは、殺意は一切感じなかった。理由はわからない。
「……〜〜〜……〜〜……」
何かを呟いている。あの深海棲艦は人間の言葉を話せるらしい。何を言っているかがわからない。怖くて怖くて、涙が止まらない。
「我ハ、日。貴様ハ、我ガ熱ニテ現レル、
声が聞こえるほどに近付かれたことで、その一言だけはハッキリと聞き取れた。それほどまでに私に刻まれた言葉なのだと思う。10年も前に聞いた言葉なのに、ここまで完璧に覚えているだなんて。
そして、赤い深海棲艦は私に骨のような指を向ける。何かされる、そう思った時、夢が終わってしまった。
これが私に刻まれた記憶。今までと合わせれば、8割は思い出せたのでは無いだろうか。一番重要な部分は思い出せずとも。
「っうわあああっ!?」
今までで一番酷い目覚め方だった。叫びながら飛び起きるだなんて初めてのこと。
あの後誰かにここまで運んでもらえたようで、目が覚めたのは自分の部屋だった。寝苦しさを解消するために制服も脱がされており、運動する時のような格好。制服のカッターシャツとスパッツだけとかそれはそれでマニアック。
「っはっ、はぁ、はぁっ」
それも私の冷や汗でしっとりと湿ってしまっていた。上も下も肌に貼り付いて少し気持ち悪い。逆に喉はカラカラに渇き切っていて痛いほどだった。
だが、夢のせいか身体は火照っている。風邪でも引いたのかと思えるくらいに熱い。ストレスがかかりすぎて身体がおかしくなっているのだろうか。
「最後の……何……」
今までとはまた違った夢。
それともう一つ。奴は自分のことを『日』と言った。太陽であるとか自分に絶対的な自信があるとしか思えない。事実、私の住んでいる街を壊滅させたのだから、それほどの力があるのだと思う。
「あの後……何があった」
母さんはもう死んでいた。だが、父さんはまだ死んでいなかった。あの悪夢には続きがあるはずだ。さらに私を最悪に落とし込む続きが。
「……っ、思い出せない、続きが思い出せないっ」
ベッドを殴り付けるように腕を振り下ろす。悪夢による消耗が激しく、そんなことをしても小さな音が立ち、少し埃が舞うだけだった。
手の震えはまだ治っていない。なんで震えているのかもわからなくなりそう。怒りなのか、恐れなのか。
「っあ、あぅぅっ」
むしろそんなことよりも、母さんの死に目を思い出したことで精神的に最悪だった。思い出せたことは良かったと思えるのだが、あんな酷い死に方し、無残な亡骸にされたというのが本当に辛い。子供だった自分が今の今まで記憶を封じ込めるのもわかる。
ボロボロと涙が溢れ出す。あの時に訳がわからなかった分、今泣いてしまっていた。元々酷い状態だったとは聞いていたが、あんなに残酷に殺されていたなんて。
「なんか凄い叫び声が聞こえたっぽい!」
私の声を聞き付けたのか、夕立が部屋の中に突撃してきた。その後ろからは磯波と沖波も。その手に軽めだがご飯を持っていたため、私はお昼ご飯時に目を覚ましていたらしい。
「ゲロちゃんどうしたの!? また嫌な夢見たっぽい!?」
私のボロボロな姿を見た途端、飛び付くようにベッドの傍に来てくれる。
「だ、大丈夫、だから。夢を見たのは、そうだけど」
「酷い顔してるよ。はい、タオル」
沖波がすぐにタオルを取ってきてくれた。涙と冷や汗でグチャグチャな顔を拭いて、呼吸を整える。みんなが周りにいてくれることで、少しは落ち着きやすくなったようだ。こういう時に仲間がいることのありがたさを実感する。
「……母さんの死に際を……思い出したの」
「えっ……それじゃあ、始まりの襲撃の記憶が……」
「うん。半分以上は思い出してる」
諜報部隊の人達と話をさせてもらったこと、赤い深海棲艦のことがわかったことを伝えると、何とも複雑な表情をしていた。
思い出せたのは喜ばしいことだが、思い出したことで苦しんでいるとなると、こんな顔にもなろう。夕立ですら言葉が出せないようである。
「と、とりあえずご飯食べられるかな。もうお昼時だから、間宮さんがお粥作ってくれたの」
「うん……食べる。なんか熱っぽいし、お粥は助かるかな」
これを見越して気遣ってくれたようだ。間宮さんに感謝。
未だ震えが止まらないため、磯波が食べさせてくれる。何だか恥ずかしいが、手に力が入らないようなものだから諦める。
「おいし。あとから間宮さんに御礼言いに行かなくちゃ」
「今日は部屋から出るなって、提督からのお達しだよ」
やはり私の体調不良が気にかけられている。風邪を引いているわけではないのだが、近しい状態にはなってしまったので助かる。少なくとも脚にも力が入らないので立ち上がることも難しいかも。そんなフラフラな状態で出歩かれても困るとか、あの司令なら言ってそうだ。
「諜報部隊の人はどうしたの?」
「一度帰るって。秋雲ちゃんがよろしくって言ってたよ」
艤装的には妹扱いなので、少しだけ気にかけてくれたらしい。むしろ、自分のイラストを見せたことで体調を崩したとでも思っているかもしれない。今度会った時にはその辺りは気にしないように言っておかなくては。
「うわぁ、ゲロちゃん身体がしっとりしてるっぽい。着替えた方がいいんじゃない?」
「ああ、さっきまで汗だくで」
ご飯を優先してもらったが、冷や汗をかき続けてきたようなものだから、夕立にも指摘された。体力作りの訓練の時ほどではないが、カッターシャツにうっすら浮かび上がるくらいには湿っている。このままにしておくと、本当に風邪を引いてしまいそうだ。
「身体拭こうか? 手に力入らないみたいだし、私やるよ?」
「あー、じゃあ、お願いしようかな。ベタベタで気持ち悪い」
今度は沖波に身体を拭いてもらうことに。服すらまともに脱げなかったので、そこは夕立にお願いした。少し雑だったが、脱ぐだけなのでそこまで気にしない。出来れば下着を引っ張るのはやめてほしかったが。
裸を晒すのは別にそこまで苦ではない。いつも一緒にお風呂に入っているようなものだし、艦娘は女所帯の共同生活なのだから。
「これはお洗濯っぽい?」
「そりゃあね。乾かしてもう一度着るとかは流石に無いよ。後から持っていってくれると助かる」
「お任せっぽい!」
何だかすごくお世話されている感じ。孤児院で風邪を引いた時とかもこんなだったとしみじみ思う。心配してもらえるというのは嬉しい。
「じゃあ身体拭くね。痛かったら言ってね」
「うん、お願い」
そうこうしている内に、沖波が身体を拭いてくれる。強くもなく弱くもなく、程良い力加減。たまに妙な声を上げてしまいそうになるが、そういうところは我慢。せっかくやってもらっているのに、変な空気にするのはよろしくない。
「ゲロちゃん、なんか香水とか使ってるっぽい?」
突然夕立が妙なことを言い出した。
「いや、それは流石に。共同生活なんだから、そういうの使ってる人いないことくらいわかるでしょ」
「うん、でも今のゲロちゃん、ちょっと
夕立の発言に、今一番私の近くにいる沖波は首を傾げる。当然私もわからない。
「あ、私もそれは少し思ってた。ほんの少しだけど、いい匂いがするというか」
磯波まで。私は自分の匂いのことだからよくわからないとしても、一番近くの沖波が感じないものを何故2人が言い出したのか。
最初からそうなら、出会った時からそういうことを言われてもおかしくないし、似たような状況なら体力作りの訓練の時にも起きているはずだ。今この時になってそんな風に感じるとなると、流石に気のせいだと思う。
「うーん、気のせいじゃないと思うんだけどなぁ。磯波も言ってるし」
「でも私は感じないよ?」
「沖波は鼻が詰まってるんじゃないの?」
無茶苦茶な言い分に磯波が破裂。夕立の言動に振り回されっぱなしである。
最悪な夢の後には、仲間達の心遣いが見えて精神的にも休まった。残りの半日は体調不良を無くすためにもジッとしておこう。
しかし、赤い深海棲艦の最後の言葉は一体何なのだろう。私が陽炎として艦娘をやれているのに何か関係しているのだろうか。わからない。
深海棲艦で人間の言葉を使うのは鬼級姫級のボス格とヲ級だけ。ヲ級はファミマでバイトしてたこともありますからね。