異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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看病の休日

 私の復讐の相手のことがわかり、体調を崩してしまった私、陽炎。その状態で気を失ってしまったことでさらに悪夢も見る羽目になり、余計に体調がおかしくなってしまう。

 目が覚めた後、異端児駆逐艦の仲間達に介抱されたことで今は多少は楽にはなったが、今度は夕立と磯波からおかしな発言。私からいい匂いがすると言い出した。夕立に至っては香水を使っているのかとまで。そんなわけがないのに。

 

 私の身体は、何かどんどんおかしくなっているような気がする。それも全て悪夢を見始めてからだ。何なんだ一体。

 

「夕立達は今から訓練っぽい。誰か側にいてもらった方がいい?」

 

 昼休みも終わりというところで夕立が言う。さっきまで着ていた服は洗濯に出すということで持っていってもらうが、それに対しても夕立は鼻を利かせているような気がして仕方がない。脱いだものの匂いを嗅がれるのは流石に勘弁してほしい。

 

「……そうだね。ちょっと酷い夢も見たし、1人でいるのは心細いかも」

「今日お休みの人に声をかけてくるね。体調が悪い人なら、みんな気にかけてくれると思うから」

 

 度々というわけではないのだが、艦娘とはいえ人間、身体が強化されていても風邪くらい引くものはいる。私のような艦娘になって間もない者なら尚更だ。そういう時は、その日が休日の者などが看病してくれるのが暗黙の了解になっているらしい。そういうところも孤児院に近いかも。

 今日休日を貰っているものは、海防艦達と由良さんとのこと。大鷹は別件で任務に出ているらしいので、由良さんが海防艦のお守りをしているそうだ。その中に私も含まれるということに。

 

「訓練が終わったらまた来るよ。夕飯もここで食べることになるだろうし」

「また3人で持ってくるっぽい!」

「うん、ありがと。ホント心強いよ」

 

 持つべきものは友達だと実感する。こういう時は本当に助かる。

 

 

 

 3人が出て行った後しばらくして、何やら外がバタバタ言い出した。足音的には小柄。大体誰が来たかわかる。

 

「陽炎おねーさん、大丈夫っしゅか!?」

「ねーちゃん、風邪引いたってホントか!?」

 

 ノックも無しに飛び込んできた占守と大東。そんなことだろうとは思ったが、私が寝ていたらどうするつもりだったのだろう。

 その後ろからおずおずと顔を出す松輪と、苦笑しながら入ってくる由良さん。占守と大東はどうしても手を焼く存在のようで、少し目を離すとコレらしい。体育の時間に遊ばせておく大鷹のやり方は実は的確なのかも。

 

「うん、風邪っていうか、体調は悪いかな。だから、少し静かにしてもらえると助かる」

「静かにするっしゅ!」

「静かにするぜー!」

 

 舌の根も乾かぬうちにもう喧しい。これくらいの子供に静かにしろと言う方が酷かもしれない。

 

「かげろうおねぇちゃん……いやなゆめをみたんですか……?」

「ああ、うん、またね。ちょっと今回は深いところまで見ちゃって、かなりキツイ」

「そう、ですか……また、まつわもいっしょにねますか?」

 

 以前は外で昼寝をした時に悪夢を見てしまったことで子供達に心配されたが、松輪に添い寝してもらった時は悪夢は見なかった。続けて見ることがないのはわかっていたが、松輪の気持ちに応えたことでより見なくなった気はする。

 1人で寝ることが心細いと思ったのは、子供の時以来かも知れない。あんな酷い夢を見た後に1人でいると、頭の中が悪い方向にしか向わなくなる。なら誰でもいいから近くにいてもらいたいと思ってしまう。

 

「そうだね、今日も一緒に寝ようか。また怖い夢を見ても、松輪が一緒にいてくれれば気が楽かもしれないしね」

 

 パァッと松輪の表情が明るくなる。むしろ松輪が私と寝たいのではと思ったが、それを口に出すのは憚られる。

 嫌われているよりも、怯えられているよりも、懐かれてるのは普通に嬉しいこと。特に松輪は人見知りとか激しそうなタイプだし、一度怯えられたらしばらくは後を引きそうに思えた。最初に好感触なのは良かったと思う。

 

「でも、私は今日は部屋から出ちゃダメって司令に言われてるんだ。松輪に来てもらうことになるけど大丈夫?」

「あ、は、はい……たいようおねぇちゃんにおねがいして……よるにきます」

「そっか。なら安心だ」

 

 まだ力の入らない手で頭を撫でてあげた。くすぐったそうに、だが嬉しそうに目を細める。

 

「あー、松輪ズルイっしゅ! 占守も占守も!」

「あたいも撫でてくれよー!」

 

 子供はこういうところを対等にしてもらうことを望むのは経験アリ。はいはいと2人の頭も撫でてやる。満面の笑みで受け入れる2人に癒された。

 

 と、ここに来て無言だった由良さんが一言。

 

「陽炎ちゃん、アロマとかやってる?」

「えっ、いや、そんなことはしてないけど」

「なんだかうっすらと()()()()がするの。気のせいなのかな」

 

 夕立や磯波と同じことを由良さんまで言い出した。海防艦の3人は何も感じていないようで、由良さんの言葉に首を傾げるのみ。

 匂いなんて目に見えないものを言われてもよくわからない。今日から突然言われるようになったことだから尚のこと不明。

 

「それ、夕立と磯波にも言われたんだよね……」

「そうなんだ。でも悪い気分じゃないし、大丈夫かな」

 

 匂いのことで何かを言ってきた3人の共通点と言ったら何かと考えを巡らせる。

 熱っぽいので考えがあまり纏まらないが、少なくとも全員が異端児だ。だがそれなら沖波や松輪も反応するのではなかろうか。

 ならそれ以外だと、と考えたところで1つピンと来るものがあった。

 

「由良さん、D型で異常値出たんだっけ」

「うん、そうだね。由良はD型の同期値が800くらいになったんだったかな」

「じゃあ、使ってる艤装もD型?」

「そうなるね」

 

 共通点はそこだ。夕立もD型がとんでもない値になったと言っていたし、磯波はM型とD型どちらも異常値を叩き出していると聞いているが、使っている艤装は確かD型。()()()()()()()()()()()だ。

 それが影響しているとしか思えない。私は違うが、艤装は艦娘側に影響を与えるという話だ。沖波や菊月のように髪の色を変えるほどの影響力を持つものだってある。由良さんもそれで髪が変色しているとしか思えないピンク色の髪をしているくらいだ。

 なら、D型艤装を使う異端児のみが、私の匂いを感じ取っていると考えるのが妥当。どうしてかはわからないが、私の変化に気付けるのはその条件を満たしている人だけだ。なら、前に聞いた限り、同じ条件に当てはまるのは阿賀野さんと天城さんか。

 

「いい匂いがするだけ? 他に何もない?」

「そうだね、何もないよ。何かあるの?」

「私にもわからない。今日から突然言われるようになったから……すごく汗かいたから汗臭いのかなって思ったんだけど、いい匂いって言われるとは思わなかったし」

 

 考えるのはここまでにしておきたい。これ以上考えると、余計に体調が悪くなりそうだ。ただでさえ熱っぽいのに、知恵熱が出てしまいそう。

 今は看病という建前で遊びに来てくれた海防艦達に心を癒してもらいつつ、体調不良を治していこう。余計なことを考えたら体調不良が長引くだけだ。

 

「この時間は何をしてるの?」

「丁度ご飯も食べた後だし、休日だからお昼寝の時間かな。あまり長い時間寝ちゃうと夜寝られなくなっちゃうから、程よくかな」

「そっか。ならみんなでお昼寝しよう。松輪、嫌な夢見ないように今からもお願いしていいかな」

「は、はいっ」

 

 満面の笑みで近付いてくる。占守と大東が羨ましそうにしていたが、そちらは由良さんが面倒を見てくれるようで、うまいこと私の部屋に布団を運んでくれた。床に直接敷いたら身体が痛くなりそうではあるが、違う環境で寝るというだけでも楽しそうにしており、あっという間に寝落ち。私も由良さんも苦笑。

 松輪も私が抱きかかえてあげたら安心したのかすぐに寝息が聞こえてきた。これくらいの歳なのだから、今はよく食べよく寝てよく遊べばいい。それが世界を守るための戦闘行動なのだとしても、ここで育てば悪い大人にはならないだろう。むしろそんなことにはさせない。

 

「何だかすごく癒される」

「ね。この子達の未来を守るためにも、由良達は戦ってるんだなって思うの」

 

 天城さんに見たような慈悲深さを由良さんから感じる。本当に優しい人なんだろう。

 

「さ、陽炎ちゃんもしっかり休んで、英気を養ってね。ねっ」

「うん、ありがとう。寝させてもらうね」

 

 結果的にお昼は悪夢を見ることなく、気持ちよくお昼寝となった。松輪の子供体温のおかげで気持ちよく眠れたと思う。松輪自身も私と一緒に寝ることは嬉しかったようで、いつもよりグッスリ眠れたそうだ。

 

 

 

 夕食も昼と同じで、夕立率いる異端児駆逐艦3人が持ってきてくれた。夜にも松輪が来てくれると話すと、それなら大丈夫そうだと安心してくれる。

 この時には手の力は多少は戻ってきていたため、食べさせてもらうということは無かった。ここまで回復したことに喜んでもらえて何より。これならもう一晩眠れば全回復まで行けるだろう。

 

「ゲロちゃん、お風呂は入れそうっぽい? 提督さんが入れるなら入っておけって言ってたの」

 

 昼に身体をふいてもらったものの、一度お風呂でさっぱりしたいというのはある。着替えさせてもらったものの、一度汗ばんだ身体で一日中いたわけだし。一緒に寝た松輪は何も言わなかったが、もしかしたらいい匂いとか関係なしに汗臭かったかも。

 

「ああ、そうだね。お昼寝したおかげで随分スッキリしたし、熱っぽさも無くなったかな。汗を洗い流したいからお風呂行きたいかも」

「なら、ご飯食べたらお風呂行くっぽい! みんなで行けば何かあっても手が貸せるしね」

 

 1人で入るよりはマシか。体調不良がぶり返してしまった時も安心である。

 

 そしてお風呂。幸いなことに、湯船に浸かってもそういう熱っぽさがぶり返すようなことはなく、気持ちよく身体を綺麗に出来た。寝るのも気持ちいいが、お風呂も気持ちいい。昼にあれだけ寝たのに、湯船の中でまた眠れてしまいそう。

 温かい湯の中なのだから、少し汗ばむのも仕方ないこと。だから気になることを聞いてみた。

 

「夕立、磯波、まだ私からいい匂いってする?」

「するよ。ね、磯波」

「うん、私は薄らだけど、ここでもちゃんと感じるかな」

 

 汗ばんでいると匂いがするのだろうか。そして相変わらず沖波は首を傾げるのみ。

 

「2人が何を言ってるのか全然わからなくて」

「実は、お昼の間に由良さんにも言われたんだよね。でも海防艦の子達は沖波みたいに何もわからなくて」

 

 その時に私が感じたことも話しておく。D型艤装の影響を受けた異端児にしか感じられない匂いなのではないかということを。夕立も磯波も、それを聞いて素直に納得していた。

 でも何故かという話になると、誰も理由は思い浮かばない。何故突然そんな匂いを私が発するようになったのだろうか。いくら悪夢が進んだからって、流石におかしな話だ。

 

「ふーん、よくわかんないっぽい。でも、気分悪い匂いじゃないから夕立的には別に気にならないよ」

「私も。どちらかといえば落ち着く匂いだし」

 

 いい匂いというくらいなのだから不快感には繋がらないみたいだ。それならまだマシか。だが、夕立の距離は今までより確実に近い。

 

「何度聞いても私にはわからないんだよね」

「多分、D型艤装を使ってる異端児にしかわからないんだと思う」

「あ、なるほど……でも何だか疎外感」

 

 ちょっと気にしている沖波に、私の辿り着いた答えを説明しておく。沖波は異端児でもM型艤装を使っているのだから感じ取れないのだと伝えると、ちょっと安心したようだが、やっぱり残念だとその気持ちを露わにした。

 これに関しては知らないなら知らない方がいいような、そんな気がする。匂いのことを指摘されるのは、それが不快感でないにしろあまりいい気分ではないし。

 

「今は気にしなくてもいいと思うよ。嫌な気分じゃないから」

「ならいいんだけどねぇ」

 

 夕立はともかく、磯波がそう言うのだから、今は気にしないことにする。とはいえ、身体への異変なのだから空城司令には伝えておいた方が良さそうだ。体調も良くなったし、明日の朝にでもこのことは話そう。

 とはいえおそらく、いや、確実に前例の無い事象。一度またいろいろなところを検査してもらった方がいいかもしれない。それこそ、艦娘になるきっかけとなる同期値検査から全部やり直すくらいに。

 

 おかげさまで随分と体調は良くなった。寝る時も松輪が来てくれたことで、グッスリと眠ることが出来た。

 謎は深まるばかりだが、考えれば考えるほど私自身がおかしくなってしまいそうなので、今は自分で考えることを放棄することにした。また体調が悪くなるくらいなら、気楽に行きたい。

 




抱き枕松輪は陽炎の癒し要員となりつつあります。占守と大東は、手がかかるものの無邪気で癒される存在。つまり、海防艦は癒し。
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