異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
数日後、物部司令のところの諜報部隊が正式に鎮守府に滞在することが決定した。始まりの襲撃に関わる深海棲艦の存在が確認出来たことは大本営としても重く見ているようで、重点的に調査をする必要があると考えたらしい。
その調査に、私、陽炎も参加することが決まった。今は何処を探してもいない、始まりの襲撃の一部始終を知る者として、出来ることなら自分の目で見てもらいたいということだ。
「陽炎、アンタには拒否権もある。上はああ言っているが、倒れる程のトラウマだ。また体調を崩す可能性だってあるだろう」
空城司令にはそう言ってもらえた。最終決定は当事者である私にあると。もし私が拒否した場合、空城司令がどうにか理由を作って私の参加を取りやめさせるとのこと。
やはり秋雲のイラストを見ただけで倒れたのは大きかった。その日中看病を受けた程だし、それがきっかけでD型艤装の異端児に匂いという異常性を指摘されるようになっている。
真相に近付けば近付くほど、私の身体はおかしくなっているようにも思えた。だが、近付かなければ決着もつけられないというジレンマ。
「私は行きたい。自分の目で確認したい。諜報部隊が見たヤツが私の両親の仇なのか」
「……そうかい。だが」
「艦娘の心得は忘れない。私は壊す者じゃなくて護る者。そいつがいたら他の人に迷惑がかかるっていうなら、私はみんなを護るために戦うよ」
仇討ちはしたい。それは私の根幹だから不動のものだ。だが、今はそれともう一つ、艦娘としての信念がある。
あんな奴が闊歩していたら、また私のような被害者が生まれるだろう。私の両親のように命を奪われるものが増えるだろう。それはもう見たくない。二度とそんなことが起こってはいけない。
私の思いを聞いた空城司令は目を丸くしたあと、ケラケラと笑い出した。私がちゃんと心得を覚えていたことをとても喜んでいるようだ。
「いいだろう。ならそう伝えておく。アンタは良き協力者としてね」
「うん、まだ新人だから役に立てるかわからないけど、頑張るよ」
「ああ、頑張っておくれ」
私の決意は空城司令に伝わった。すぐに奴が見つかるとは限らないが、因縁に決着をつけるためにはまず自分で動かなければ始まらない。
その日の昼には諜報部隊が到着。艤装を運び入れる必要もあったので、神州丸さんが運転する大型のトレーラーでの登場。憲兵さんにもしっかりと許可を取り、3人分の艤装の搬入を早急に行なった。
私は一度顔合わせをしているし、私が倒れた後に他の鎮守府所属の者達とも挨拶をしているようで、翌日から先日の現場に向かうということになっている。
「ゲロ姉お久ー。あの後大丈夫だった?」
「あの時は悪かったね。丸一日寝込んだけど、今は大丈夫」
軽い雰囲気で挨拶に来た秋雲を出迎える。今日から1週間は鎮守府の仲間ということで、姉妹艤装の私が多少なり縁を持つことになる。私はそれもあって訓練は午後休み。
青葉さんは同じように姉妹艤装である衣笠さんと、神州丸さんは特務艦というところから速吸さんと縁を持つ。神州丸さんも見た目に反してそれなりに歳を召されているようで、速吸さんとは超高速で友人関係になったとのこと。同じ苦労を持っているからかも。
「明日からよろしくね。調査の方に一緒に来てくれるんでしょ」
「うん、私しか現物見てないんだしさ。私の意見も欲しいと思って」
「マジ助かるわー」
艤装は妹かもしれないが、秋雲は私と同い年である15歳。そんな相手から姉と呼ばれるのはくすぐったいのだが、まぁそういう渾名だと思えば許せる。秋雲の軽すぎるくらいの人柄がそれを良しとさせている感じもする。
だが、陽炎だけにゲロというのはそろそろ勘弁してほしい。夕立や陸奥さんのせいで慣れてきてしまっているのは確かではあるのだが。
「秋雲は艦娘になってから長いの?」
「諜報部隊に入ってからは1年くらいかなぁ。イラスト技術見染められてね、写真撮れなかった時の保険みたいな感じだったんだけど、思ったより仕事が多いのさ」
あの赤い深海棲艦のイラストからして、秋雲の力は理解出来た。写真よりは信憑性は低いにしても、要所要所はしっかり掴めていたために私のトラウマが刺激されてしまったわけだし。
「まぁ年月とか関係ないよ。秋雲さんより後に入った子でも強い子はいるしさ。自分に出来ること極めるのが艦娘ってもんよ。秋雲さんはイラストで諜報部隊やってくってのが本筋だからね。それなら誰にも負けないのさ」
自分のやれることを最大限にやっているわけだ。長くやってるだけあり、秋雲は私よりしっかり艦娘というものを理解している。
出来ることをこなして、この世界の平和を守る。秋雲の場合は諜報部隊というだけ。誰が何をしても、それが平和に繋がるのなら何も問題はない。
「私も頑張んないとなぁ」
「新人なんだから今は重く考えなくてもいいっしょ。そりゃあ親御さんの仇討ちってのは重要だけどさ、焦って失敗するよかのんびり進んだ方が楽よ楽。〆切前に焦って描いてもいい漫画にはならないみたいなもんだよ」
例えはよくわからないが、とにかく焦るなと秋雲は言ってくれているわけだ。実力もつけてない内にラスボスは倒せないのだから、そのためにはしっかりと準備も必要。今の私はまだまだ準備期間だ。諜報部隊の調査任務にはついていくが、万が一戦いとなった場合はすぐさま逃げる。諜報部隊だって逃げを選択するだろう。
「まずはみんなを守れる力を手に入れないとね。仇討ちはそこからだよ」
「お、イケメンなセリフ。今度の新刊はゲロ姉主役で描かせてもらうね。今日からラフ切っていこうかなー」
「人様を漫画の題材にしないで」
何処からともなく取り出した手帳に何やらさらさら。今のやりとりをメモしてるらしい。いつでも何処でも漫画のネタを探しているようだ。鎮守府内で起きたことは機密も機密だが、それをうまくアレンジして漫画にしているらしい。題材にされた方はたまったものじゃない気がする。
「あ、陽炎おねーさんっす!」
「陽炎ねーちゃんこんちはー!」
秋雲とタラタラ歩いていると、前から占守と大東が現れた。服装からして、今から体育の時間のようである。その後ろから松輪と大鷹もついてきている。
「はい、こんにちは」
「そちらの人は今日からの人っしゅ?」
「そうだよー。諜報部隊の秋雲さんさー。短い間だけどよろしくね子供達」
人懐っこい占守と大東はそれだけで秋雲と仲良くなっていたが、人見知りの傾向が強い松輪は大鷹の陰に隠れるようにこちらを見ている。いくら私がこの場にいても、秋雲のテンションは慣れない様子。大鷹もそれを理解しているため苦笑である。
ノリとしては夕立に近いかもしれない。だとしたら松輪には少し苦手なタイプになるか。
「うちの鎮守府さ、海防艦いないんよ。だから、ちょっち描かせてくれると嬉しいなぁ」
「なに、いない分ここで資料作ってくってこと?」
「さっすがゲロ姉、察しがいいねぇ。子供は子供見ながらでないと、ほら、躍動感とかさ!」
別に鎮守府を全部案内するとかそういうわけでも無し、時間はまだまだ有り余っているようなもの。海防艦の体育に付き合うのも悪くない。
休みにされたとはいえ、体力作りは比較的急務でもある。今までのトレーニングの成果を確認するいい機会かもしれない。だが夕立のように調子に乗るわけでもなく、遊び感覚で且つあちらを引き立てるように。
「大鷹、今日もちょっと手伝うよ。秋雲が見たいみたいだし」
「助かります。松輪ちゃんも大丈夫?」
「か、かげろうおねぇちゃんがいっしょだと……まつわもうれしい、です」
相変わらず懐いてくれていて何より。また悪夢を見たら添い寝してもらおう。本当に気持ちよく寝られるし。
そのまま外に出て、海防艦の体育に参加。また今回も鬼ごっこである。別の遊びでもいいとは言ったものの、持久力を楽しくつけるのはこれが一番いいらしい。私達ほどハードなことをやってしまうと、辛くて投げ出してしまう可能性が高いから、やりたいことをやらせるのが一番。
私は制服のままではあるが、いい具合のハンデになるし、ある意味実戦さながらになるのはいいこと。海の上ではないが、相手の動きを先読みする力などは鬼ごっこでも養える。
「どんどん鍛え上げられてる気がするんだけど!」
「いつまでも同じな占守達じゃないっすよ!」
「あたいらだって強くなってんだからさー!」
言うだけあって、占守と大東は本当に手強い。前回やったときよりも確実に成長している。直線距離でのスピードは私の方が上でも、小回りやすばしっこさで私の手を逃れる。艦娘として成長している証だ。
そして松輪は、さらに手強かった。怖がりが逆に危機回避能力アップに繋がっている。鬼ごっこという遊びの中にもそれが活かされ、他の2人以上にタッチするのが難しくなっていた。捕まえようとすると悲鳴をあげられるのは少し辛いが、私相手だからかそれでも楽しそうではある。
「すごいね3人とも。ホントに翻弄されてる。驚いたよ」
陸の上だからというのもあるかもしれないが、前に私を見つめていた挙句に逃げた潜水艦よりも素早く感じた。なら、これを軽々と捕まえられるようになれば、あの時の潜水艦もどうにか出来るかもしれない。
今でもタッチするくらいなら可能なのだが、それだけではあの潜水艦を倒すことは出来ないだろう。追いついて、次の行動を予測して、爆雷を投げて当てる。爆発までにはタイムラグもあるのだから、その辺りも予測しなければならない。
予測する力を鍛えるのが海防艦の体育の真の目的だ。あちらも私の行動を予測して回避している。やってることはお互いに同じ。相手の予測を上回らないと、勝てるものも勝てないわけだ。
「いやぁ、いい絵が描けた! 普段無いことが見られるとインスピレーションを刺激されるねぇ!」
この訓練を遠目に見ながら、わざわざスケッチブックを持ち出してまで絵を描いていた秋雲が声を上げる。私が子供達を追いかけ回しているところを描いていたようだが、どんな絵になったのだろう。
「うわっ、すげー!」
「秋雲おねーさん、めちゃくちゃ上手いっす!」
見せてもらったが、本当に上手だ。まるで私達が楽しんでいるところを写真みたいに切り抜いたようなイラスト。今回は遊びの場であるというのもあってコミカルな感じになっているものの、みんなの要所要所を的確に表現しているため、誰が誰だかがすぐにわかる。
松輪も目をキラキラさせて絵を見ていた。内向的な松輪にとっては、運動よりもこちらの方が好きなようなので、秋雲にもすぐに懐くことが出来そうだ。
「描き上げるのも本当に早くて驚きました。諜報部隊のイラスト担当と聞いて納得出来ます」
私が子供達と戯れている間に、大鷹が秋雲の様子を見ていたようだが、秋雲の手の早さに驚いていた。
赤い深海棲艦のイラストを描き上げたときも思ったが、これは普通では無い才能だと思う。瞬間的に情景を切り抜く力と、それを紙の上に再現する画力。これぞ諜報部隊の実力ということなのだろう。私には到底真似出来ない力だ。
「あ、あの……」
「ん、何かな?」
「ほかのえも……かけますか?」
「描けるよー。秋雲さんは漫画家だからね。同人だけど」
絵に食いついた松輪。リクエストを受けて、さらさらと鉛筆を走らせる。あっという間に描き上げたのは松輪の似顔絵。それを貰ってさらに目をキラキラさせる松輪。
それを見て当然ながら自分も欲しいと占守と大東が騒ぎ出す。仕方ないなぁと描き始める秋雲は、とても嬉しそうにニコニコしながら次々と描き上げていった。
「絵で喜んでもらえるってのは、やっぱり嬉しいねぇ。秋雲さんは絵で世界を守ってるわけだからさ」
「諜報部隊の仕事って意味?」
「そうそう。青葉さんが写真撮れないことってのは結構多くてさ。だから秋雲さんがその瞬間をイラストとして切り抜くのさ。それがあるから、他の鎮守府が戦えることもあるわけでしょ? この仕事はすごく重要な場所にあるって実感してんのよね」
本来やりたいこととは離れているかもしれないが、それでもやりたいことを仕事に出来て、しかもいろいろな人にそれを望まれているのだから、秋雲的にはやりがいのある仕事なのだと思う。
「本業は同人作家だけどさ。あ、エロは無いよ。秋雲さんまだそういうの描ける歳じゃないから」
「殴ってでも止めるわそんなもん」
「練習はしてるけどね」
とりあえず引っ叩いておいた方がいいかもしれない。
そんなこんなで一時的に仲間になった秋雲はどんどん鎮守府に馴染んでいく。子供達から懐かれるのが最初というのは良かったかもしれない。
健全なのか健全じゃないのかわからない諜報部隊秋雲。瞬間記憶能力と画力による活動で、実は青葉より優秀かもしれないという同人作家。