異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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再びあの海へ

 私、陽炎が秋雲といろいろしている裏側で、同じ諜報部隊である青葉さんと神州丸さんも鎮守府内で活動していたようで、夕食の時には最初から鎮守府に所属していたのではないかと思えるほどに馴染んでいた。

 うちの鎮守府の重巡洋艦達は、艤装的に青葉さんと縁があるらしく、そういう意味でも仲良くなりやすかったらしい。神州丸さんはミステリアスな雰囲気ではあるのだが、何処かおかしなところもあるので、誰も警戒しなかったようである。仲が良いのならその辺りはどうでもいいこと。

 

 夕飯の後、調査に向かう部隊の最終確認として執務室に呼び出された。場所が場所だけに、明日は早朝から出撃だ。朝に任務の説明をしている時間は無く、朝食すらも簡単に終わらせて海上で逐一補給するという手段を取る。

 

「悪いね、風呂に入る前に呼び出しちまって」

「ううん、明日早いんだし、今やるのは当たり前だよね」

 

 空城司令もしーちゃんも当たり前のように業務と同じような振る舞いではあるが、本来なら業務外となる時間だ。私もこれが無ければそのままお風呂に行ってから寝るだけという段階だった。

 

「陽炎は諜報部隊に同行してもらうわけだが、それ以外にも同行者を用意した。陽炎は諜報部隊の一員とするが、他の子は随伴部隊になる」

 

 執務室には諜報部隊である3人の他に、その調査に一緒に参加することになるであろう艦娘達が揃っていた。

 

 万が一、調査中にあの赤い深海棲艦と遭遇してしまった場合、調査どころではなくなる。その場で対処出来るかどうかはさておき、ある程度交戦出来る部隊である必要はあるだろう。

 諜報部隊も当然戦力としてはカウントされているが、調査するための機材なども当然使うわけで、全てが全て戦闘力に割けるわけではない。故に、戦うための部隊を私達で用意したわけだ。

 

「アンタ達は諜報部隊の護衛だ。万が一の時は頼むよ」

「了解。得体の知れない敵が出てくる可能性があるんだもの。最大戦力を使わないとね」

 

 旗艦は陸奥さん。そこに隼鷹さんと衣笠さんを添え、さらには夕張さんまで出向いていた。バランスよく、且つ、高火力な面々ということらしい。そこに戦闘には一番慣れているであろう五月雨と、新人ながらも高水準な夕立。これで6人。

 夕張さんも出撃するというのは先日聞いているが、こんなに早くついてきてもらえるとは思わなかった。

 

「神州丸、よろしく頼むよ」

「了解であります。我ら諜報部隊で出来ることをやらせていただく」

 

 期間は1週間。その間に見つからない可能性だって充分あり得る。その間にやるべきことはやると。

 その間は私も早朝から遅くまでを外で過ごすことになるだろう。だがそれでも構わない。

 

 

 

 翌朝、日の出と共に出発。間宮さんと伊良湖さんがそのための朝食を用意していてくれたおかげで、早急に鎮守府を出ることが出来た。ご飯としては物足りないかも知れないが、昼食の前に食べられるちょっとしたものや、ここに帰る前にも摘めるようなものなども用意してくれているため安心。

 その辺りの荷物は、以前の哨戒任務では速吸さんが持っていてくれたが、今回は神州丸さんが運ぶ。揚陸艦という特殊な艦種のため、戦力としては少し違うらしい。隊長のために指揮はするが、戦うのは少し苦手という変わった人である。

 

「向かうべき場所は把握している。では行こう。みんな、頼むぞ」

「うーい」

「今回はシャッターチャンスありますかねぇ」

 

 なんだか軽い諜報部隊。意識が低いとかそういうわけでは無く、余計な緊張をしないように戦場に向かうのが上手いのだと思う。

 秋雲は1年と言っていたが、青葉さんは4年この仕事をやっていると言うし、いちいち出発の時に緊張することもないのだろう。まだまだ私は新人だと実感する。

 

「ゲロちゃん、緊張っぽい?」

 

 夕立がちょっかいをかけてくる。一応部隊としては私は別なのだが、ちょっと人数が崩れた連合艦隊みたいなものなので、みんなで纏まって動いている。そのため、あちらの部隊も諜報部隊と相談しながらの進行。夕立は基本私の近くにいてくれていた。

 正直助かっている。夕立はまぁいろいろあるせいで戦場に向かう緊張というのを感じていないようだが、私はガッツリ感じているわけで。

 

「そりゃあね。私はまだ出撃自体が3回目だからさ」

「敵が出てきたら撃つ、撃たれたら避ける。訓練通りだし、それだけだよ?」

「簡単に言ってくれるねアンタ」

 

 この空気を読まない感じが夕立の良さだとは思う。どんな時でも明るく元気。見ていてこちらが明るくなれる。何処か()()()()()()()()()雰囲気が無くも無いが、緊張感が緩和するとは思う。

 

「本格的にまずいのが来たら、私達に任せていいよ」

 

 夕張さんがその辺りを保証してくれる。いつも工廠でのツナギ姿しか見ていないので、艦娘としての制服姿はすごく新鮮。お腹丸出しのセーラー服とかぱっと見結構凄い姿ではあるが、それ以上の露出度の陸奥さんもいるしそこまで違和感はない。

 

「バリちゃんは本当に強い子だから、頼り切っちゃっていいわよ。整備班の皮を被った万能戦力だもの」

「それ褒められてるのかな」

「褒めてるわよ。私の艤装任せられるのも貴女くらいなんだから」

 

 陸奥さんも夕張さんの実力には太鼓判を押している。本当に頼りになるようだ。工廠でも活躍し、戦場でも頼りになる、真の万能戦力。

 

「気楽に行きゃいいさ気楽に。あたしらがしっかり守ってやっからさ」

「戦えるのなら戦えばいいと思うけど、無理した方が絶対悪い方向に行くからね。衣笠さん達に任せなさいな」

 

 隼鷹さんと衣笠さんも励ましてくれる。みんなが私のことを気遣ってくれていると思うと、ありがたいと思うと同時に申し訳なさも感じてしまう。

 

「大丈夫。陽炎ちゃんは今まで努力してきたんだから。冷静になれば全部上手く行くよ」

 

 最後に五月雨が手を握ってくれた。ここまでの流れで緊張は霧散し、いつもの調子に戻れた。環境は違っても、周りの仲間達は何も変わらない。普段通りに行動し、任務をこなして帰るだけ。万が一赤い深海棲艦が現れたとしても、私だけの戦いでは無い。力を合わせて戦うだけ。

 今までの2回はあくまでも哨戒任務の最中に想定外に現れた敵だ。だが、今回は前以て覚悟した状態で向かう。ならば多少なり冷静になれるはずだ。現れた時には驚くと思うが、暴走するようなことはないはず。

 

「ホント、持つべきものは仲間だね」

「どんどん頼っていいっぽい! 夕立が深海棲艦なんてボッコボコのギッタギタにするからね」

「夕立も比較的新人でしょうに」

 

 衣笠さんの呆れた声。自信満々で戦闘に関しては本当に天才的な才能を発揮するとはいえ、夕立だって私と1ヶ月程度しか変わらない新人。私に先輩風を吹かすのはいいとしても、他の人達に迷惑をかけるのはよろしくない。

 

「仲がいいでありますな。()()()()()()()()()というものか」

「うちも似たようなものじゃないですかねぇ。やっぱりワイワイ楽しむ方がいいと青葉は思いますよ」

「そうだよねぇ。いつもギラギラしてるよか、全然マシだよね。後からラフ切ろーっと。ゲロ姉新人時代の思い出っつってね」

 

 諜報部隊の3人も、私が囲われているのをしみじみと眺めている。なんだかやっぱり恥ずかしいものではあるが、悪い気分ではない。

 

 

 

 日が大分高くなったかというところで現場に到着。私達の鎮守府的には領海の外。私を見つめる潜水艦を発見し、それを追って向かった方向に近い。

 一旦ここで腹拵えをしてから調査に入るということになった。神州丸さんが預かっている軽食を配られる。前回の哨戒任務と同じようにおにぎりと漬物。数は少なめでも、また少し進んだら昼食となるのだからこれで良し。

 

「本艦達が赤い深海棲艦を確認したのはこの辺りであります。そうだったな、青葉殿、秋雲殿」

「はい、ここからさらに向こう側ですねぇ」

 

 青葉さんが指差す先には、当たり前だが水平線が広がっているだけ。というか四方全てが水平線である。

 以前ここでやったのが、潜水艦ラジコンによる海底調査。しかしそれでは巣は発見出来なかった。もっと遠くにあると考えるのが妥当だが、巣を巧妙に隠しているという可能性も無くはない。

 

「陸奥殿、そちらの哨戒では何処まで見たのか。今日はそれよりも奥に行こうと思っている」

「霧ちゃんから聞いてる分には、もう少し領海の外に行ったらしいわ。その時の羅針盤の妖精さんも連れてきてるから、道案内してもらいましょ」

 

 陸奥さんの艤装の隙間から妖精さんが飛び出してきた。羅針盤なだけあって、こんな目印も無いような場所でもその位置を把握出来ているそうだ。私には何処も彼処も同じにしか見えないのだが。

 

「んー、ちょい待ち。艦載機が嫌なこと言ってる」

 

 先んじて艦載機による哨戒をしていた隼鷹さんから不穏な発言。

 

「敵機発見。深海の艦載機だね」

「ふむ、やはり近場に何者かいるのでありますな」

 

 初めて遭遇したような艦載機の可能性はある。あの時は一切攻撃せず、私をただただ見つめるのみで終わった敵機。

 

「かーっ、すばしっこいね。あたしの艦載機を潜り抜けてきやがった!」

「夕立ちゃん、対空砲火!」

「ぽーい!」

 

 まだその姿を目視出来ているわけではないが、五月雨が夕立に合図して高角砲を構える。今回は私が対潜、五月雨と夕立が防空と役割を分けているので、艦載機に関しては任せる。

 

 少しして、目視出来る位置に艦載機が現れた。前はたった1機が鎮守府の近くまで飛んできていたが、今回は数がかなり多い。哨戒機ではなく、こちらを攻撃する目的で飛んできている。つまり、爆撃や射撃もあるわけだ。

 隼鷹さんの艦載機が多少は撃墜しているらしいのだが、それでもそれなりの数がある。まずはアレからの攻撃を全て回避しなければ。

 

「来た! 撃ちまーす!」

「ぽいぽいぽーい!」

 

 対空砲火と同時に、あちらからも雨のような爆撃が降ってきた。実戦でそれをやるのは当然初めて。当たれば死まで見えるその攻撃を必死に避ける。

 対空砲火にも性格が出るようで、夕立は数撃ちゃ当たると言わんばかりに乱雑に撃ち放つことで広範囲に撃墜し、その撃ち漏らしを五月雨が的確に撃ち抜いた。これにより全機撃墜することは出来ずとも、回避はかなりしやすくなる。

 

「っ」

 

 そんな中、また視線を感じる。撃ち漏らしの艦載機の内、何機かが一斉に私を見つめてくる感覚。私がここにいることを確認したかのような挙動。2人の対空砲火をも潜り抜けた挙句、私を舐めるように見た後に撤退。

 鼓動が高鳴るようだった。ここまで来たら流石に否定が出来ない。あちらの目的は()()()()だ。

 

「また見られてた……!」

「あっちはゲロちゃんがどうしても気になるみたいね。何かあるのかしら」

 

 さりげなく私の盾になる位置に移動してくれた陸奥さん。海の向こうを睨み付けるように眺めているが、口元には小さく笑みが。余裕を持って事に当たることが出来るくらいには精神的な余裕がある様子。

 

「艦載機が飛んできたってこたぁ、それを飛ばしてきた奴らってのが来るってことだね」

「それじゃあ、今度は私達の出番ね」

 

 陸奥さんが艦載機の撤退した方へ向く。その側には衣笠さんと夕張さんがついた。

 航空戦の後は、砲雷撃戦。深海棲艦そのものとの戦いに移行する。私は駆逐艦と潜水艦しか見たことがないわけだが、艦載機が飛んできたのだから空母のようなものもいるのだろう。

 

「敵機索敵出来たけど、割とヤバイかもね。()だ」

 

 普通の深海棲艦とは一線を画した存在、姫。この海域に現れる姫なんて限られてくる。それこそ、私の見た赤い深海棲艦である可能性だってある。

 心臓がバクバクと言い出す。鼓動が嫌でも速くなる。因縁の相手を目の前にする可能性から、震えが止まらない。

 

「姫1、軽空母2、軽巡2、駆逐1。割と面倒な部隊だよ。陸奥、頼んだぜ」

「任せなさいな。諜報部隊はやることやってちょうだいね」

「心得た。青葉、秋雲、本艦は海底調査を開始する。周辺調査を頼むぞ」

「了解です! シャッターチャンス、待ってますよぉ!」

 

 神州丸さんの合図と共に、諜報部隊が動き出す。神州丸さんは大型のソナーによる海底調査。青葉さんは偵察機を使っての周辺調査。そして秋雲は目視による調査。

 ここから戦いが始まるというのなら、青葉さんと秋雲によるデータ収集が必須となる。写真が撮れるのならそれでよし、ダメなら目視による瞬間記憶に頼らざるを得ない。

 

「会敵! 何だいあの姫は」

 

 目視出来る場所にまで敵部隊が現れた。隼鷹さんが言っていた通り、6体の深海棲艦がそこにいた。

 そのうちの1体、明らかに人の形をしているそれは、赤いオーラを纏う女性。だが、あれは、

 

「あれは違う。()()()()()()()()()

 

 赤い深海棲艦とは違う、別の赤い深海棲艦が現れたのだ。秋雲に描いてもらったそれとは似ても似つかない、オーラが赤いだけの白い深海棲艦だった。殆ど全裸で、二つに結んだ髪で胸を隠すようなぶっちゃけ痴女。

 私の知る奴との関係性は不明だが、関係者であることは間違いないだろう。その姫は私の姿を見て、ニヤリと笑う。やはり目的は私だ。

 

 

 

「我ガ姫ノ、陽炎ナリシ者ネ。()()()ハマダカ。ナラバ、少シ遊ンデアゲマショウ」

 




5-5で世話になるアイツ。

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