異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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化け物の姫

 始まりの襲撃を仕掛けたであろう赤い深海棲艦の調査を開始した鎮守府。遠方の諜報部隊を招き入れ、私、陽炎もその部隊に参加することとなった。

 そしてその海に来たところで、本当に深海棲艦が現れた。最初は艦載機のみで、案の定私を見つめていたが、その後に本隊が出現。その内の1体、赤いオーラを纏った痴女が、私を見ながらよくわからない言葉を言い放つ。

 

「我ガ姫ノ、陽炎ナリシ者ネ。()()()ハマダカ。ナラバ、少シ遊ンデアゲマショウ」

 

 深海棲艦が人間の言葉を使うことは知っている。実際私はそれを10年前に耳にしているのだから。悪夢の中でも私に何かを呟いていたのはわかっている。あの時は確か、

 

 姫の陽炎なりし者と私のことを呼んだ。確かに私は陽炎、艦娘陽炎ではあるが、あちらのお姫様の陽炎では無い。私は私だ。意味がわからない。

 それに今、『目覚め』と言ったか。私に何か仕込んでいるかのような言い分。確かに仕込まれていてもおかしくないような終わり方だったようか気がするが、そこの記憶がまだ戻ってきていないため、その辺りはさらに見当が付かない。

 

「アンタ、私をどうしたいのさ」

 

 痴女と話が通じるかを確認。私が目的なら、会話くらいは応じるのではなかろうか。周りの仲間達が驚いたようだが、青葉さんはその中でも恐ろしい速度でメモを取る。

 おそらく深海棲艦と対話を試みた者はいないのだろう。周りの反応からしてそれはわかる。だが、ここで私のまだ思い出せていない部分がわかれば御の字。

 

 私からのコンタクトに、あちらも少し驚いたような表情をしたが、すぐにニンマリと口角が上がり、小憎たらしい笑顔に戻る。

 

「私ノ仕事ハ、アナタヲ()()スルコト。目覚メテイナイノナラ、ソレデイイノ。時間ハイクラデモアル」

 

 それは、自分達がこんなところではやられないと公言していると考えていいのだろうか。私達には敗けないと。

 その態度に少し苛立ちを感じた。ただでさえ相手は私の復讐の相手の仲間みたいなものだというのに、私をただ観察して嘲笑う態度。これで腹が立たないほど私はデキた人間ではない。冷静でいなくてはいけないとわかっていても、つい声を荒げてしまう。

 

「私は一体何なの!? アンタ達、私に何かしたわけ!?」

 

 少し焦りも出してしまったが、敵の口から目的が聞けるのなら聞いておきたい。それを信じるかどうかはさておき。

 だが、私の切羽詰まった言葉に耐えられなくなったか、顔がより醜く歪み、高笑いまで始めてしまった。私が焦る姿が本当に楽しいのだろう。顔どころか性格も歪んでいる。

 

「アッハハハ! 何モ覚エテイナイノネ」

「教えなさいよ!」

「自分デ思イ出シナサイ。ソウスレバキット()()()()()……アッハハ!」

 

 私の必死さが余程楽しいのか、腹を抱えて笑っていた。私を観察するために来ている割には、私を小馬鹿にするような態度で。判断力を鈍らせようとしているのかもしれない。

 落ち着かなくてはいけないのに、拳に力が入る。自分のことがわからないなんて普通では無いことだ。それがまた焦りと苛立ちを呼ぶ。

 

「教エテアゲタイノハヤマヤマダケレド、自力デ思イ出シテチョウダイ。ソノ方ガ、アナタノタメニナルワ。シッカリ染マッテ、()()()()()()()()()()トナッテネ。ッフフフ、ハハハハハ!」

 

 また訳の分からないことを言う。染まるとは何だ。日天とはどういう意味だ。理解出来ないことがさらに苛立ちを加速させる。

 

「よく喋る深海棲艦ね。顔はいいのに中身は不細工なのね」

 

 私の苛立ちが限界に達しようとしていたとき、陸奥さんがボソリと呟いた。まるでゴミを見るような目で奴を見ている。その視線に正直恐怖を感じた。

 その視線を受けて、奴の眉がピクリと動いた。私をおちょくっているところに横槍を入れられたからか、若干苛立ちを感じたかのような表情に。

 

「ああ嫌だ嫌だ。笑い方が下品で。聞くに堪えない声よね。ただでさえ聞き取りづらいのに、耳障りが過ぎるわよ」

 

 そこに陸奥さんが罵声に次ぐ罵声で畳み掛ける。いつもおっとりとしつつも艶っぽいお姉さんなイメージだった陸奥さんが、今は艦娘の顔。敵を見る目で、敵意を持った言葉で相手を罵る。

 あの痴女も陸奥さんの物言いに気分を害したようで、私よりも優先して陸奥さんを睨み付けるようになっていた。

 

「喧嘩ヲ売ッテイルノカシラ」

「ええ、むしろ売られたから買ったの。うちの新人を弄るのやめてくれない? アンタみたいなのに潰されたらいい迷惑なの。せっかく可愛い駆逐艦が仲間になったってのに、ホント空気読めないわよね」

 

 一触即発の空気。旗艦同士の睨み合いで、どうしても空気がピリつく。

 こんな戦闘が初めての私は、その場から動けそうになかった。緊張や苛立ちで主砲を持つ手がまだ震えている。恐怖は無いにしても、この空気にはまだ慣れていない。

 ただの喧嘩では無い。命の取り合い、殺し合いが始まる空気なのだ。普通では無い緊張感で、あっという間に喉がカラカラになった。

 

「でもまぁ、空気が読めないのはこっちにもいるから」

 

 突然の爆音。陸奥さんと敵の痴女が話している間に、夕立が動き出していた。一切の恐怖を感じず、このピリピリした空間でもお構いなしに、一番近くにいた敵駆逐艦を撃ち抜く。私と演習をしているときとはさらに違う、狂気をはらんだような笑みを浮かべ、その一撃により1体を粉砕した。

 防空特化の装備だというのに、海上の敵にも当たり前のように当てている夕立のセンスが相変わらず恐ろしい。

 

「ぽい! 夕立が一番槍っぽーい!」

「開戦よ。1匹残らず、沈めてやりなさい!」

 

 夕立の一撃が開戦の合図となり、各々が独自に動き出す。連携なんてあってないようなもの。その時々で考え、最善の動きを選択する。

 うちの鎮守府はそれが戦い方らしい。各々の力を高め、その瞬間に出来ることを即座にやる。まるで遊撃隊である。

 

「陽炎ちゃん、こっちお願い!」

「りょ、了解!」

 

 五月雨に呼ばれ、動き出した敵軽巡洋艦の対処に乗り出した。まだ緊張はあるが、戦いの最中に置かれたことで苛立ちは消えた。敵の痴女の意識が私から陸奥さんに向いてくれたこともその理由の1つ。

 当たり前だが敵軽巡洋艦を見るのは初めて。人間の腕や身体はあるように見えるが、その殆どが機械に覆われた異形。下半身があるようにも見えない。

 

「この……!」

 

 その砲撃は五月雨を狙っていたため、それを阻止するべく備え付けの方の主砲を放つ。対潜特化の装備でも、艤装側のマジックアームには空きがあるおかげで主砲は積めるから、主砲は常に装備出来る。私の艤装ならではのありがたい仕様。

 おかげで直撃とまではいかなくても、敵の身体に生えているような砲身は破壊出来た。本体はまだ力を失っていないようだが、攻撃手段を削げたのは良し。

 

「ありがとう陽炎ちゃん!」

 

 そしてその隙を突いて、五月雨がその軽巡洋艦の本体を砲撃。五月雨も夕立と同じく防空特化だが、うまく高角砲の角度を操作して敵を狙いすましている。当たりどころが良かったか、その一撃により沈んだ。

 やれることをやろうとして、自然と連携になっている。仲間意識の強さが功を奏しているのだろう。それに、今までさんざん刻み込まれた艦娘の心得もある。壊すことより護ること。それは同じ戦場にいる仲間達だって含まれる。

 

 同じように、もう1体の敵軽巡洋艦は夕張さんと衣笠さんがその場で連携して沈めていた。衣笠さんの強烈な主砲で傷付けながら位置を固定し、夕張さんの魚雷により撃沈。私や五月雨よりも万能に立ち回れる分、苦もなく沈めていた。

 

「売ラレタ喧嘩ハ、シッカリ買ウワヨ」

 

 反撃と言わんばかりに、敵の痴女が腕を包む異形の艤装を構えていた。赤黒く光るそれが狙い定めるのは、当然陸奥さん。

 以前に戦った敵駆逐艦がそのまま主砲になったかのような艤装を、殴り付けるように振るった瞬間、聞いたことのないような爆音と共に砲撃が放たれていた。そしてそれを左右交互に連射。まるでボクシングのようである。

 一撃一撃が致命傷となる威力であり、その流れ弾は私達の方にすら飛んでくるため、一時的に回避に専念。そこにあちらの軽空母2体が併せて空襲まで仕掛けてきたため、余計に回避に必死になる。

 

「ウザいったらありゃしないねぇ! 防空班、撃ち墜としな!」

「ぽいぽーい!」

 

 駆逐艦を沈めた夕立が即座に反応し、隼鷹さんの指示に従い対空砲火。五月雨もそちらに加わる。私は高角砲を持っていないため、防空には参加出来ず。むしろ回避に必死でそれどころではない。

 出来ることが無いわけではないのだ。こういうことをやっている間にも、もしかしたら潜水艦が近付いてきているかもしれない。あちら側で周辺調査を続けている神州丸さんが大型ソナーで探っているところだが、それに私が加わればよりいいのではなかろうか。

 

 動きながら海中に意識を向ける。ソナーの反応に精神を集中する。潜水艦は……いない。今はいない。

 

「全く、中身が不細工なら行動にも表れちゃうのね。雑で、自分の火力だけでどうにかしようとしてるわ」

 

 敵の攻撃は全く止むことは無いが、その攻撃の仕方について難癖をつけ始める陸奥さん。あの痴女に冷静さを失わせて攻撃をさらに雑にしようという魂胆だろうか。

 こちらと対話が出来ることがわかれば、そういう心理戦を仕掛けることだって出来る。陸奥さんはこの場でそれをやってのけているわけだ。

 

「私達は人間の未来を護る艦娘なんだもの。人の前に立つのだから、そんな雑な攻撃なんてしないわ」

 

 言うだけあって、陸奥さんの砲撃は綺麗だ。流れるような動きで照準を合わせ、敵の動きを予測して放つ。まるで舞っているかのような一連の流れ。その火力が鎮守府最強のものなのだから凄まじい。一撃一撃が空気を揺らす。

 

「イクラ美シクテモ、弱ケレバ意味ガ無イノヨ」

 

 しかし、あちらは本当の化け物だった。陸奥さんの砲撃を物ともせず、少しくらいの被弾はノーダメージと言わんばかりに砲撃をやめない。いや、実際にノーダメージなのだろう。直撃こそしていないが、擦ればそれなりに衝撃や傷が付くはずなのに、それが一切無い。

 それを見た陸奥さんは、あらあらと呟きながらも攻撃の手を緩めなかった。何度も撃ち込めば攻撃は届くはず。だが、それすらもお構いなしに突き進んでは、殴りつけるような砲撃を繰り返す。

 

「私達ハ弱肉強食ノ世界デ生キテイルノ。アナタノヨウナ同胞ハゴマントイルワ。ソレノ上ニ立ツノダカラ、アナタニハ負ケナイノ」

「あら、自信満々じゃない」

「伊達ニ姫ノクラスデハナイワ。デモ、我ガ姫ハコレ以上ヨ。私ハ()()デシカ無イモノ」

 

 当たったらまずい陸奥さんと違って、当たってもほぼ無傷な痴女では話がかわる。真正面から突っ込まれては、誰もどうにも出来ないようなもの。それほどまでにあの痴女は強い。

 ならば、あの赤い深海棲艦はどうなるのだ。アレが前座と言うのなら、それ以上の何かであることは間違いないだろう。それはまずい。

 

「陽炎以外ニハ用ガ無イノ。我ガ姫ガソレヲ望ンデイルカラ。デモ、仲間ガ死ネバ目覚メルカシラ。少シ強メノショックガ必要カモシレナイワネ」

 

 痴女の猛攻がさらに激しくなる。背中の艤装も動き出し、そこら中の主砲が四方八方に向けて放たれ始めた。あんなもの私達艦娘が使おうものなら、反動だけでも身体がグチャグチャになってしまいそう。

 本当に全方位への砲撃のため、陸奥さんだけでなく仲間達全員が危機に曝される羽目に遭う。さらにはアレだけの滅茶苦茶な砲撃なのに、味方の軽空母と()()()はその照準から外れていた。雑な中にも器用さが入る。

 

「諜報部隊も回避して!」

 

 未だに周辺調査を続けている諜報部隊だが、こうなっては調査をし続けるのも難しいだろう。近場にいた衣笠さんがそちらの防衛に入りつつ、撤退、もしくはこの戦いへの参戦を促す。これでは調査どころでは無い。

 

「仕事を中断させられては困るが……。青葉、写真は」

「充分に撮れました! あの全裸の人もバッチシ!」

「秋雲さんもこの辺は覚えたよ。帰ってイラスト描きたーい!」

 

 周辺の調査はまだ途中ではあるが、背に腹はかえられない。今は回避が最優先である。

 

「見たところ、我々の今の装備では()()()()()()であります。陸奥殿、撤退が得策では無かろうか」

「まぁそんな気がしてたわ。あれは本当の化け物よね。せめて徹甲弾が無いと砲撃が通らないわ。それに霧ちゃんも欲しいかしら」

 

 あれだけの問答を繰り返してはいたが、陸奥さん的にもあの痴女には現状太刀打ち出来ないと判断していたらしい。今はまだ誰も傷付いていないのだから、この間に一度撤退して準備し直す方が勝ち目があるだろう。

 命を張るより、確実に勝つ方法を。この痴女は私の観察が仕事だというのだから、このまま陸への侵略に向かうことは無いはずだ。それにここは領海の外。援軍すら見込めない微妙な位置。

 

「アンタ、名前は?」

「ハ? ソンナモノ、ソチラノ文化デショウ」

「私は陸奥よ。覚えておきなさい。私を殺さない限り、陽炎はアンタには渡さないからそのつもりで」

 

 顔面に向けて砲撃。流石にその一撃は当たってはまずいと考えたようで、両腕の艤装を使ってガード。その瞬間にこちらから完全に視線が逸れる。

 

「最大戦速で撤退! 殿(しんがり)は私が務めるから、すぐに動きなさい!」

「おまけだぜ。逃げる時間くらいは稼がせてもらうよ」

 

 隼鷹さんもさらに艦載機を発艦し、雨のような爆撃の雨を降らせた。あれで奴を倒せるとは思っていないが、撤退する時間くらいは出来るだろう。

 

「ムツ、ソウ、ムツネ。覚エテオクワ。今日ハ逃シテアゲル。陽炎ノ目覚メマデハ、アナタニ預ケテアゲテモイイカモシレナイワネ。ッハ、アッハハハハ!」

 

 高笑いを背にして、私達は出来る限りの速度で戦場を撤退した。

 

 

 

 意味がわからない。私の目覚めとは一体何なのだ。奴は何を知っているのだ。

 




対痴女戦は陸奥ですら攻撃が通らず撤退。しかし、確実に陽炎に何かを刻み込んだでしょう。
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