異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
赤い深海棲艦の発見地点で、別の深海棲艦と遭遇した諜報部隊。その痴女のような深海棲艦は赤い深海棲艦の前座と自ら名乗り、私、陽炎のことを観察する仕事だと言った。さらには、『目覚め』がどうたらこうたら言われたことで、余計に訳がわからなくなってしまった。
私はアイツらに何かされている。これだけは確信出来る。だが、それが何かまではわからない。それが怖い。
「本当に追ってこないわね……随分と余裕があるようで」
隼鷹さんも戻ってきた艦載機を自分の手に収め、哨戒自体を終了した。これで真に戦線離脱出来たことになる。常に警戒態勢ではあったが、ここまで来たら最大戦速での航行もやめて、通常の速度に。調査も一旦ここで終わり、少し早いが鎮守府に帰投することになった。
「……私は一体何なの……わからない、わからないよ……」
戦いから離れたことで、不安がより大きくなってきた。私は何をされたのだ。悪夢の最後のアレが、その何かなのはわかる。だが、それが思い出せない。それに、自分で思い出したら目覚めるとまで言われてしまっては、記憶を探ることすらも怖い。
私はどうなってしまうのだ。このまま艦娘を続けていいのだろうか。わからない。何もわからない。
「ゲロちゃん、あんまり俯いてちゃダメっぽい。上手く行くことも上手く行かなくなるよ」
「そうだぞー。ゲロ姉の可愛いお顔が台無しじゃん」
余程酷い顔をしていたのか、夕立と秋雲に慰められる。2人とも、心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「帰ったら間宮さんに甘いもの貰おうね。多分コレ、解決しちゃいけない内容でしょ」
秋雲の言う通り、これはおそらく深追いすればするほどまずいことになる件だ。それこそ、目覚めの時が近付いてしまうのかもしれない。そうなった時に私がどうなるかはわからないが。
「気にするなとは言えないけど、あんまり考えないようにするっぽい。今は打倒裸の奴!」
「夕立ちゃんの言う通りだよ。あれは今まで見てきた中でもレベルが違ったもん。今の実力じゃあ、多分勝てない。弱気なのはダメなのわかってるんだけど」
夕立だけならまだしも、一番鎮守府に長くいる五月雨すらもそう言ってしまうのだから、あの痴女は本当にまずい敵なのだろう。あの深海棲艦を打倒しなければ、今後常に危険がついて回ることになる。
とはいえ、今は私の目覚めを待つだなんて言って慢心しているおかげで、こちらに時間をくれているわけだ。その貴重な時間を、不安に押し潰されていることで無駄にするわけにはいかない。
「……うん、私もあんな奴らにいいようにされたくないし、もっと強くなりたい。思い通りになってたまるかっての」
まだ気持ちの整理はつかないが、気持ちを強く持たなくては最悪なところへ行ってしまいそうだった。あの痴女の裏側にいる本当の敵はそれを望んでいるのだろう。そいつの思い通りになることの方が気に入らない。
気合を入れ直すために、強がりでもいいから思いを口に出す。不安が取り除かれないにしても、言葉にしておけばそれが気持ちに伝わるような気がした。
「その意気その意気。大人だったらパーッと呑んで忘れちまえって言えるんだけどねぇ。嫌なことがあったのならやけ食いでもすりゃあいいのさぁ」
隼鷹さんにバンバン艤装を叩かれた。こうやって元気付けてくれているのはすぐにわかる。
「帰ったら特訓する。あんな奴、ボコボコにしてやるんだから」
「なら衣笠さんが鍛え上げてあげましょう。というかみんな協力してくれるよ。目覚めとかはよくわからないけど、強くならないと打開は出来なそうだからね」
「なら私は艤装の改修かな。そろそろ改造も大丈夫だと思うし、身体も艤装も強くならなくちゃね」
衣笠さんと夕張さんも私の特訓を手伝ってくれると言ってくれた。夕立も絶対参加すると意気込みを露わに。
「なら、陸奥お姉さんもしっかり鍛えてあげる。トレーニングはもう一緒にやってるものね」
陸奥さんにはお世話になりっぱなしだ。体力作りや筋トレもそうだが、今回の戦いは旗艦として何とかしてくれた。感謝しかない。
あの深海棲艦の言葉は全員聞いている。私が狙われているということも、私に何かがあるということも、全員がわかっている。その上でこんなにも気を使ってもらえるのだから、最高の仲間だ。
思わず涙が溢れ出てくる。不安と喜びが綯交ぜになってしまって、感情がおかしな方向に向かってしまっていた。
「ああもう、泣かないの」
海の上だというのに陸奥さんに抱きしめられる。艤装がガチャガチャと音を立てるが、器用に引き寄せ胸に顔を埋める形に。
「殆ど戦ったことがないのに、妙な奴に因縁つけられて、挙句何か仕込まれてるなんて言われて辛いのはわかるわ。お姉さん達に任せなさい。大丈夫、アイツらの思い通りになんて絶対させないから。一緒に頑張りましょうね」
少し恥ずかしい姿を見せてしまったが、一度泣いたことで気持ちの整理が出来た。まずは鍛えよう。身体も心も。不安を感じていたとしても、震えることなんてないように。精神的にも成長しなくては。
鎮守府に到着した時は、もう夕方。私が少し足止めしてしまったのもあったが、暗くなるまでには帰ってくることが出来て安心。調査結果は物部司令の諜報部隊が全て話してくれるとのことで、その防衛のためについていった部隊と私は、ここで業務終了となる。
「陽炎、大丈夫かい。精神的に参っていると聞いているが」
工廠で待っていた空城司令にも心配される。やはり事前に連絡が行っていたようだ。
ここに帰ってくるまでにさんざんみんなから心配され、一時的とはいえ泣き、気持ちの整理がある程度は出来ている。だから自信を持って言えた。
「大丈夫。みんなのおかげで落ち着いたよ」
「そうかい。だが、無理だけはするんじゃないよ。前にも言ったが、ガキは大人に甘えりゃいい。ここにいる時は好きにすりゃいいんだ。わかったね」
「うん、ありがとう。明日でいいから、また相談させてほしい」
「ああ、それでいい。アタシもアンタのことはちゃんと考えてるからね」
これだけでも心強い言葉だ。安心からまた涙が出そうになるが、そう度々泣くわけにはいかないのでグッと堪える。
「さ、艤装を下しな。アンタは特に早く休んだ方がいいんだからね」
「うん、そうする」
艤装を下した途端に膝から崩れ落ちるかのように力が抜けた。身体が重い。脚が震える。疲れ方が普通じゃない。心身共に大きく消耗している。体力が無いことを痛感する。
「っは……まだまだ新人だなぁ……いろいろ足りないよ」
「よくわかってんじゃないか。尚更無理するなって話なんだよ」
脚が震えているのは疲れだけでは無いようにも思えた。あの場では気丈に振る舞わなくてはいけなかったし、帰投するまでは迷惑がかけられないと気を張っていたのもあった。だが、ここまで帰ってこれればもう気兼ねなく倒れることが出来てしまう。
安心感から疲れと共に恐怖心までぶり返してきたのでは無かろうか。やはり命のやり取りをする戦場というだけで疲労は桁違い。私が死ぬのも嫌だが、仲間が死ぬのも嫌だ。それが精神的な疲労を加速させている。
「ゲロちゃんホントに体力無いよね」
「アンタがありすぎなんだっつーの」
そんな私を見かねてか、夕立が引き起こしてくれた。1ヶ月しか差がないのにこの体力。震えどころか疲れている素振りすら見せない。元々が凄まじいとしか思えない。
ただ、密着した状態で匂いを嗅ぐのだけは勘弁してほしい。例の異常性から現れる
そしてそのまま夕立に引きずられてお風呂へ。服も手早く脱がされ、湯船に入れられたことでようやく一息ついた。
薬湯が身体に染みる。いつものようにおっさんのような声が出そうになったが、二度も三度も醜態を晒すわけにはいかないので我慢。
「ゲロちゃん、今日は一緒に寝るっぽい。嫌な夢見そうでしょ?」
「あー……うん、そうだね。ちょっと今、1人で部屋にいるのは辛いかも。一緒にいてくれると助かるよ」
多分今1人になったら、嫌なことばかり頭を巡ると思う。それで落ち込んでまたテンションが下がり、挙句悪夢なんて見ようものなら私はガタガタになる。再起不能とまでは行かなくとも、しばらく引きずることにはなるだろう。不調のままだと、何をやっても失敗して、また落ち込んでの負のループに陥る。
ならそんなことにならないように、仲間を頼ろう。夕立もこう言ってくれているし、今日は夜まで楽しませてもらいたい。
「みんな呼んでさ、パーッと遊ぶっぽい! で、疲れてグッスリで嫌なことぽいぽいぽーいよ」
「あはは、それはいいね。前やったパジャマパーティーの続きでもやろっか。今日は布団も持ち寄ってさ、一緒に寝ようよ」
「それがいいっぽいね!」
改めて、持つべきものは仲間である。いや、ここまで来たら友人、親友とも言えるだろう。
そしてその日の夜、異端児駆逐艦4人で集まる。私が心地よく眠れるようにするためという目的は、夕立の方から公表されたらしい。だからだろうか、磯波も沖波もやたら心配してくれた。
「酷い夢見るんでしょ? 危ないと思ったらすぐに起こすからね?」
「添い寝は夕立ちゃんに任せるけど、私達もちゃんと見ておくよ」
「なんだか病人みたいだなぁ」
みんなが揃ったというのに、すぐに寝ろと言わんばかりにベッドに押し込まれた。
身体は疲れ切っていても、眠気はあまり無いというのが現状。眠ること自体が少し怖くなっている自分もいる。あの悪夢を何度も何度も見るのは堪える。
「また悪夢が更新されるかもしれないからね……そうなったら嫌だなぁ」
「思い出しちゃダメだからね。忘れるためには、頭思い切りぶん殴ればいいっぽい?」
「勘弁して」
そんなことされたら、忘れるとかそういう問題じゃ無くなる。
「どうしたら気持ちよく寝られるかな……あったかい方がいいのかな」
「熟睡出来る方法とか試してみる?」
沖波がいろいろと調べてきてくれたようで、寝る前のホットミルクとか、部屋の温度の調整とか、出来ることは全部やってみようということになった。疲れていても不快ならダメだ。
あとは、とにかく安心出来る環境ならいいと思う。今の状況は私としては喜ばしいことではあるのだが、眠気はまだ来ず。
「前に松輪を抱き枕にして寝たらすごく気持ちよく寝られたんだよね」
「えーっ! ずるいっぽい! 夕立、海防艦の子達とそんなこと出来ないのに!」
「してたじゃん。占守と大東にひん剥かれてさ」
松輪の子供体温を抱きながら寝た時は、夢すら見ずにグッスリだった。あれはあれで良さそうなのでまた試してみたいと思う。今日は4人がついていてくれるので、明日くらいに海防艦の部屋を使わせてもらおうか。
「夕立ちゃん、海防艦の部屋に裸で行ったの……?」
「ちゃんとシャツ着ていったっぽい」
「下に着ろっつってんの」
「今は着てるっぽい!」
おもむろにシャツをめくりあげる。確かに今は私の貸し出した、というか私が貸し出したことでハマったため、妖精さんに作ってもらったという自分用のスパッツを穿いている。上の方もチラリと見えたが、スパッツと揃いのスポーティーなそれを身につけているようだ。
「夕立はこれくらいが一番気持ちよく寝られるんだよね。寝る時はシャツ脱いじゃうけど」
「まぁ全裸よりはいいか……。体力作りの訓練の時と似たような格好だし」
「でしょでしょ? ゲロちゃんもこっちの方が寝やすいかもよ?」
私はパジャマでいいから。
「私達がついてるから、安心して寝ていいよ」
「オキの言う通りっぽい! 悪い夢なんてぽいぽいぽーいよ」
沖波のことも渾名で呼ぶようになったようである。本名に繋がりかねないから言うのを躊躇っていたものの、まぁこれは艦娘の名前を捩っているわけだし大丈夫か。
仲良くなった証でもあるし、気分の悪いものでもない。陸奥さんすら近しいことをやって咎められていないのだから、これくらいがいいか。
「そうだ、磯波も渾名で呼ばなくちゃ」
「えっ」
「じゃあねぇ、磯波だから……ソナー」
酷い渾名である。磯波が破裂するのは考えるまでもなかった。お腹を押さえて丸まり、ブルブル震えている。
「ふ、普通に呼んで、ね、お願いだから、ね」
「えー、ソナーいいでしょソナー」
追撃。磯波の腹筋がさらに鍛えられていく。
そんなこんなで夜は更けていく。
持つべきものは友である。夕立はどんどん懐いているように思えますけどね。エロ方面に。