異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
同期値マイナスというイレギュラーでも艤装の装備をすることが出来たため、改めて鎮守府に所属することが決定した。私は今後、駆逐艦陽炎の名を使って活動することになる。
まずは名前と鎮守府に慣れる必要があるだろう。それに、そもそも艦娘としての在り方もわかっていない。今まで一般人だった私が、今日の明日で戦えるとは到底思えないのだから、訓練とか勉強とかは確実に必要である。
装備した艤装を下ろしたら、すぐに整備長と夕張さんが元の位置に戻してくれた。私がリンクしたことで、さらに最適化させるために整備をしたいらしい。今は動かすだけだったが、これが今後の私の生命線なのだから、より一層力を入れると宣言してくれた。
2人とも目をキラキラさせていたところを見ると、本当にこの仕事が好きなんだなと思う。夕張さんに至っては艦娘になってからも仕事を続けているくらいなわけだし。
「訓練やら勉強やらは明日からでいいさね。今日はこの環境に慣れることから始めな」
「ん、そうさせてもらうね。鎮守府がどんなところかもわからないし」
「新人ってのはそんなもんだよ。まぁここは比較的小さい鎮守府だから安心しな。今のうちに他の連中と交流しておきな。改めて後から紹介はするがね」
そもそも鎮守府は、全国各地いろいろな海沿いに設立されている。深海棲艦は海という海全てが出現場所であるため、領海というのを決めてそれを網羅できるようにしている。そのため、鎮守府1つに入る艦娘は多くても50人がせいぜい。
この鎮守府も御多分に洩れず、領海内の侵略者を確実に殲滅するために動いている。他と違うのは、所属している人数に比べて、その領海がかなり広いということらしい。それでも海の平和を守れているのだから、この鎮守府が相当強いことが窺える。空城司令も大将というのだから理解が出来る。
「中にはアンタと同じ
ここに所属するのは私と同じような異端児が少しはいるそうだ。マイナスというのは私だけだが、プラスでも普通に見られる値から大きく離れた異常値を叩き出している者。
検査の結果どうするんだと思われていた者を、空城司令が全国各地から片っ端から集めたという。直にスカウトに来たのは私だけらしいが。
「ほら、そこにいるのもその異端児だ。わかってんだよ、夕立! こっちに来な!」
工廠の隅。頭だけをひょっこり出してこちらを見ている艦娘。さっきまでは自分のことに手一杯で存在がわからなかった。
空城司令に呼ばれて、トテトテとこちらに駆けてくる。まるで小動物のような仕草だが、多分私と同い年。背丈も似たようなものに見える。
「ぽーい。新人さん?」
「ああ、新人だ。やっとアンタに後輩が出来たね」
「ずっと夕立一番新人だったから、後輩来てくれるの嬉しいっぽい!」
ニパッと笑ってすかさず私に握手をしてきた。何この社交性の塊みたいな子。こういうところも小動物、というか、愛玩犬のような雰囲気。人懐っこさが普通じゃない。孤児院にもここまでの子はいなかった。
制服が私と違うから、型としては私とは別の駆逐艦なのだろう。そういうところもよくわからないので、しっかり覚えていきたい。
「この子は夕立。アンタと同じ駆逐艦で、D型の同期値が異常値を検出したからここに所属してもらっている異端者だよ」
「夕立っぽい! よろしくね」
「ん、よろしく。私は陽炎」
私が返すと、さらに笑顔が強くなる。なんて明るい子なのか。すごく眩しい。ぽいぽい言ってるけど、これは口癖なのだろうか。確定事項にもぽいぽい付けてそう。
「夕立、1つ任務だ。陽炎は新人だからね。鎮守府を案内してあげな」
「了解っぽい!」
なんだか先輩風が吹いているようだが、私が一番の後輩であることは紛れもない事実。空城司令の任務でもあるし、ここは夕立に任せて鎮守府がどんなところかを知ることにしよう。
「また改めて全員の前で紹介はするがね。アタシは今から忙しいんだ。それまでの間は夕立にいろいろ教えてもらいな」
「りょーかい。出来るだけここに慣れるよ」
「ああ、そうしておくれ。その間に、アンタを艦娘としてこの鎮守府の一員にしておくからね」
そうか、今まではまだ艦娘になれるかわからなかったため、ちゃんとした手続きが出来ていなかったのか。確信はしていたとしても、確定では無かったためにお役所仕事は後回しにしていたわけだ。そりゃ最初にここに連れてこられるわけである。
「じゃあ行こー!」
「はいはい」
夕立に手を引っ張られ、工廠から出て行くことになる。こんな展開になるとは思っても見なかったが、初対面からここまでの始まり方は、幸先がいいのでは無かろうか。
そこからは本当にただただ案内してもらうだけとなる。もう私もここの一員なのだから、どの場所にも自由に出入りしていいわけだが、まずは場所を覚えるところから。
工廠から始まった鎮守府案内は、まずいきなり食堂に入るところからだった。ただただ夕立が甘いものを欲しがったというだけなのだが、ここの食堂は絶品だとずっと言っていたので、楽しみではある。
「間宮さーん、アイスくーださーい。2つ!」
「2つ? って、あら。新人さんかしら」
食堂の切り盛りをしているであろう割烹着のお姉さん、間宮さん。そういえばこの人はニュースでも見たことがある。ある意味鎮守府の広報にもなれる、確か戦闘員ではない艦娘。
艦娘だからといって全員が全員戦うわけではない。こうやって食堂で仲間達に食事を振る舞うのが役目という非戦闘艦というのも存在している。間宮さんはそのうちの1人。
「陽炎よ。よろしくねっ」
「はい、よろしくね。私は給糧艦間宮。鎮守府の食堂を任されてるの。あとちょっと奥にいるのは伊良湖ちゃん。あの子も給糧艦ね」
言われてみれば確かに、調理場の奥にもう1人いた。おそらく夕立が頼んだアイスクリームを準備しているのだろう。それ以外に人影が見えないので、たった2人で鎮守府全体の料理をしているのかと思うと、恐ろしいほどの手際の良さなのかなと想像出来る。
私自身も料理を手伝うことがあったが、孤児院の人数の比ではないだろう。しかも食堂、献立固定というわけではないだろう。定食メニューくらいで終わりだとしても、デザートとかもあるのなら毎回てんやわんやな気がする。
「はい、間宮アイス2つです。新人さんということで、伊良湖最中もおまけしちゃいます!」
「ありがとうございます」
艦娘の戦意昂揚に使われるという間宮アイスと伊良湖最中。夕立は最中までついてきたことに大喜びである。私の鎮守府案内任務の報酬みたいなものだ。
「んー♪ いつ食べても美味しいっぽーい!」
「うわ、本当に美味しい。レシピ知りたいなぁ」
「残念だけど、企業秘密なの。ごめんね」
ただのバニラアイスなのに極上の一品に蕩けてしまいそう。最中も絶品である。本人曰く、デザートの方が得意とのこと。得意分野のそれなので、この美味しさも頷ける。
「あ、ちょうど良かった。おーい、磯波ー」
「ふぇっ、あ、夕立ちゃん、そちらは……」
夕立が不意に呼びつけたのは、このタイミングで食堂に入ってきた艦娘。私よりは少し幼いイメージだが、おそらく同じ駆逐艦か。
突然呼ばれたからか大きく反応した上に一瞬怯えたような表情をしたものの、相手が夕立であることにすぐに落ち着きを取り戻したようだった。小心者なのだろうか。
「新人さん来たっぽい! しかも、異端児なんだって!」
「あ、そうなんだ……。仲間が増えたね」
その口振りからして、この磯波という子も異端児なのかもしれない。
「磯波と申します。よろしくお願いいたします」
小さく微笑みお辞儀された。お淑やかな雰囲気。明るく無邪気なイメージの夕立とは正反対に見えるものの、その性質からか仲がいいようだ。飼い犬とそれに振り回される飼い主みたいに見えてきたが、それは口に出さない方がいいだろう。
「陽炎よ。仲良くしてね。お仲間みたいだし」
「あ、ああ……異端児ですしね。私も……はい、私も異常値を出してしまって、提督に拾われたんです」
「夕立もすっごい数値が出たんだよね。だから提督さんが異端児って言ってたっぽい」
そうやって聞くと、どんな数値が出たのか気になるものである。私は前例が無いと言われたが、前例のある異常値とはどんなものなのか。少なくともマイナスでは無いのはわかるが。
「磯波ちゃん、ご注文は?」
「あ、そうでした……最中をお願いします」
「はい、どうぞ」
間宮さんに最中を受け取った磯波と交流を深めるために相席してもらうことにした。どうせ食べるためにここに来たのだろうから、せっかくだしここで仲良くなっておきたい。異端児仲間だし。
「そうだ、聞きたいんだけど。異端児って呼ばれてるけど、2人はどんな感じだったの? すごい数値ってのはわかったけど、具体的に」
「夕立、D型の数値が8000くらいだって聞いてる。確か、大きくても200くらいなんだよね。すごい数値よねー」
夕立は私と同じくD型の同期値がとんでもない値のようだ。リンクしすぎて困るということだろうか。でも確か空城司令はD型の方が馴染めばM型より強いと言っていた。なら、夕立は最初から相当強いということなのかも。
「私は……M型もD型も両方1000に近いくらいだって」
「どっちもってのは磯波しかいないんだって!」
それは確かに凄い。何を装備しても異常なリンクをするということだ。どちらも数値が高いということは、何をやらせても卒なくこなせそうなイメージ。磯波はそんな子な気がする。
「陽炎は?」
「私も夕立と同じでD型なんだけど、なんかマイナスだったんだって」
「ま、マイナス!?」
物静かな磯波が声を荒げるほどに驚いた。夕立の8000という数値でも相当驚いたらしいが、それ以上の異質な値。
「でも、艤装は動いたんだよ。さっき工廠でやったんだけど」
「リンクするのにどれだけかかったっぽい? 夕立、1分かからなかったから最速って言われてたんだけど」
「私も速い方でした……それでも1分ちょっとでしたが」
「数秒だったと思う。イメージしてみろって言われたら、すぐにもういいって言われたし」
ついには言葉も失った。騒がしい夕立すらも、何も言えなくなっていた。それだけ私が特殊ということを思い知る。
異端児という通称もわかる気がした。正統から外れた者。本来とはかけ離れた者。その中でも特に外れているのだろう。異端児からも異端として思われてしまう程に。
「すごいすごい! 陽炎すごーい!」
「驚きました……絶対抜かれない記録ですよ」
「あはは、素直に喜んでおこうかな」
誇っていいのかどうなのかはわからないが、私の特に外れた特異性を簡単に受け入れてもらえたのは嬉しいところ。
「他にも異端児ってのはいるの?」
「いるっぽい」
「駆逐艦では私と夕立ちゃんともう1人。他の艦種にチラホラという感じです。でも、その、戦力としては他の人達と似たようなものなんですよ」
なるほど、異端と言っても数値上なだけであり、実際艦娘として戦っていくとなるとそこまで大差無いということか。普通の艦娘よりリンクや自在に動かせるようになるのが早いだけなのかも。いくら異端でも、それに胡座をかいていたら落ちこぼれになるわけだ。
逆に努力さえすれば本当に異端となり得るのかもしれない。何せ他より艤装との馴染み方が違うのだ。
「そっか。じゃあ私も頑張らなくちゃ。よろしくお願いします先輩方」
「ふっふっふー、任せるっぽい後輩」
「訓練とか勉強とかは、私達もお手伝いすると思います。異端児とかそういうの関係無しに、ここではみんなで手を取り合って生きていくのが当たり前ですから」
だから仲間意識も強い。なんというか、私の住んでいた孤児院の延長線上みたいに思えた。それならここでも過ごしやすそうだ。
こういう生活は憧れでもあった。学校にも通うことが出来なかった戦災孤児の私としては、こんな学園生活のような空間は手が届かないもの。戦場を軽んじるわけではないが、こういう友人関係はとても嬉しい。
孤児院での生活が嫌なわけではない。あれはあれで本当に楽しかった。これはまた別の次元の話。
「こうなったらそのもう1人も早く知りたいなぁ。同じ異端児として仲良くなりたいよ」
「そろそろここに来るかと思いますよ。さっき訓練していましたから」
磯波がそんなことを言ったタイミングで、本当に1人食堂に入ってきた。訓練していたというだけありクタクタであると全身で表現している。
「疲れました……」
「お疲れ様。今日は誰が?」
「木曾さんの雷撃訓練……すごくハードでした……」
トボトボと歩いてきたその子と目が合う。そして硬直。私も言葉が出なかった。
「ん? どうかしたっぽい?」
夕立が心配そうに顔を覗き込んでくるが、私としてはそれが気にならないくらいに動揺していた。
「えっ……ひーちゃん!?」
「おっきー!?」
私はその子を知っている。こうやって顔を合わせるのは実に数年ぶり。ある意味、感動の再会。感動より驚きが勝っているが。
空城鎮守府にいる駆逐艦の異端児は陽炎含めて4人。夕立、磯波、そして最後に出てきたおっきーなる者になります。