異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
艤装の改修により、さらに強化された私、陽炎改め陽炎
だが、今はまだ動きを確かめただけ。午後からは武装のチェックである。艤装を動かした感じ、武装もかなり強化されていると思われる。何せ、整備班のみんなが私に力を貸してくれたのだ。
「なんか久しぶりな感じだよね〜。午後は阿賀野が担当するよ〜」
初っ端はやっぱり砲撃訓練。駆逐艦として重要な武装はいくつもあるが、一番使っていくのは当然主砲。ただでさえ私は手持ちと備え付けの2基を使っていくのだから、早いところそれに慣れていく必要があるだろう。
それを担当してくれるのは勿論阿賀野さんである。私に主砲を教えてくれたのは阿賀野さんだし、一切の無反応で放てるという誰もが目指すべき場所にいるのも阿賀野さん。少しちゃらんぽらんなところもあるが、頼れる先輩の1人には変わりない。
「じゃあ、今回もアレやっとこっか。実戦訓練!」
「いやいやいや、まずは的当てなんじゃないの!?」
「え〜、だって今まで充分訓練してきたじゃないの〜」
チューンナップしてもらったことで、武器の取り回しや威力などは上がっているだろうが、だからといって使い方が変わったわけではない。今までやってきたことはそのままに、それがどれだけ変化しているかを確認するのがこの訓練。
なら的当てでもいいと思うのだが、あえてここで実戦訓練を放り込んできたのは何か意味があるのだろうか。午後からやり始めるのだから時間の節約と言われればそうかもしれないが、それでも順を追ってやるべきでは。
「陽炎ちゃんはもう初心者じゃ無いんだから、いきなり実戦で大丈夫だと阿賀野は思うなぁ。というか、実戦感覚をもっと覚えておかないとまずいんじゃなぁい?」
阿賀野さんが言ってることもわかる。敗戦多めの3回だけとはいえ、私は実戦経験をしているのだから、改修された武装の慣らしくらいなら、実戦で済ませる方がいいかもしれない。
私も今は強くなるためにやれることならやっておきたい。そして、実戦経験が足りないのは一番の課題だ。鎮守府の仲間達と演習という形で実戦経験を増やすことは、確実に必要なこと。
なら、阿賀野さんの意見を聞いておく方が良さそうだ。私よりもはるかに経験が多いわけだし、経験者に従うことが成長に繋がる。
「ん、わかった。ここは先輩の意見を聞くよ」
「ありがとぉ陽炎ちゃん。いい匂いがするだけあるね」
そうだった。阿賀野さんもD型異端児だった。私の匂いとやらがわかる人。これが何かは未だに不明だが、匂いくらいなら気にしないことにした。嫌な匂いじゃないならまだマシ。
「じゃあ、準備して〜。相手は用意しておくからね〜」
その相手というのは大体誰だかわかる。私の実戦訓練には定番のメンバーが来てくれるのではなかろうか。そうなると、因縁の相手は夕立になるわけで。
そろそろ自分の力で勝ちたい。というか良いところまで行きたい。焦りは禁物ではあるが、負けが込んできているのは自分としても早く抜け出したいところ。
主砲が接続された私の艤装を装備し、改めて可動を確かめる。すごい、いつも使っている時よりも迅速に丁寧に動く。角度の変更も自由自在。これは凄い整備だ。
主砲の方は、整備により威力が上がった代わりに反動も大きくなっていると、この主砲を整備した人直々に説明してくれた。とはいえ艤装の性能も上がっているのだから、反動制御もいつもより強くなっているとも。それなら感覚的にはあまり変わらないと考えても良さそうだ。
改めて整備班の人に御礼を言い、実戦訓練へ出陣。そこで待ち構えていたのは、予想通りの奴。
「ふふん、待ってたっぽい!」
「まぁ夕立だよね。わかってた」
やはり相手は夕立。今までの実戦訓練では散々な目に遭ってきた因縁の相手。今日は五月雨と菊月が哨戒任務の方に行っているため不参加。他の駆逐艦も全員が何かしらの予定が入っており、勿論諜報部隊はまた近海の調査に向かっている。結果、主砲の慣らしのはずなのに初めての
「今回も勝つからね。しかも今回はサミーとお菊ちゃんもいないから、ゲロちゃんオンリーでやってもらうっぽい!」
「私も艤装改修が入ったから、スペック的にはトントンだよ。ここで自力で勝ちをもぎ取らないと、今後もズルズル負け続けるだろうし、今までのようにはいかないから」
いつもは初心者だからとちょっと後ろ向きだったと思う。だから、今回は夕立相手でも強気で。
「じゃあ、いつものようにお願いね〜」
阿賀野さんに言われ、2人で所定の位置へ。たった1人で向かい合うのは初めてのことだ。訓練の時はいつもとなりに誰かいる。そういう意味では、訓練もある程度出来たのだから独り立ちの時と考えてもいいかもしれない。
いずれこんな戦いをするときが来るかもしれない。仲間が周りにいない状態で、たった1人で戦うことも無くは無いだろう。
『はい、じゃあ位置についたかな?』
遠目でも、夕立は自信満々な不敵な笑み。あのテンションと自信が夕立の強みなのだと思う。どういう心持ちで戦闘に出ているのかはよくわからないが、負けないと思い込み続けているのではないかと思う。流石は霧島さんを師事しているだけある。
私もそれくらいの心持ちでいた方がいいかもしれない。相手が誰であろうと勝つという気概を持ち続けて、戦場に立ちたいものである。
『それじゃあ、始め〜』
相変わらずの緊張感のない合図で実戦訓練開始。やれることなんて1つだけ。まずは突っ込む。そして、回避しながら当てる。今回も主砲しか使わない訓練なのだから、出来ることなんてそれしかない。
ただし今までと違うのは、私の艤装が改修されていること。全てのスペックが上がっているのだから、初見の夕立なら計算が狂うはずだ。とはいえアイツのセンスは普通と考えてはいけないので、即座に対応してくる可能性も少なくない。ならば、出来ることをして翻弄するしかないだろう。
「先制……!」
備え付けの方の主砲で狙いを定める。やはりその速度と精度は今までとは段違い。考えた時には既に夕立に狙いが定まっている。
私用の改修だからか、この伝達速度が格段に速くなっている。私がこうしてほしいと
「てぇっ!」
そして砲撃。言われていた通り、反動は以前と比べると大きくなっていた。艤装が改修されていても軽減しきれない程に。だが、私だって伊達にここまで訓練を積んできていない。初めての反動でもキッチリ抑え込み、なるべく身体がブレないように努める。
とはいえ、砲撃は夕立の真正面からのものだ。威力が上がり、弾の速度が上がっていても、少し逸れるだけでこの砲撃は避けられてしまう。そういうことろは次の動きを予測するとかそういう話では無いように思える。
そしてお返しとばかりに砲撃を返された。こちらが正面なのだから、あちらも真正面からの砲撃となるため、同じように避ければいいだけなのだが、夕立のことだから回避に合わせてもう一発を考えているだろう。
なら、二発撃っても問題なく回避できるように、一発目の砲撃そのものを引き付けてから回避する。
「回避!」
引き付けて引き付けて、ここで避けると言うところでキッチリ回避。そして案の定二発目が飛んできたのだが、一発目を大分引き付けてから避けたので、二発目を避ける余裕はその分出来ている。二発目も悠々と回避。
回避性能そのものも大分上がっていることがわかった。砲撃と同じように、私が考えたときにはもう動けるほどに。
「なら、こっちはどうよ!」
手持ちの主砲による砲撃。こっちは備え付けの主砲とは違って、私の力による反動軽減になる。事前に言われている通り、威力が上がっている分、反動もそれ相応になるはず。
引き金を引いた途端、以前とは違う大きさの衝撃を受けた。おかげで、自分で考えていた以上のブレ弾となる。夕立も想定していなかったようで、思っていたよりも大きく回避行動に出ている。
連射をすればするほどおかしな方向に飛ぶ上、その着弾の場所が撃っている私でもわかっていないため、夕立からしても大きく回避する以外の手段が無いようだ。
「これは、凄いなっ」
想定外の弾を連射することで、夕立を回避一辺倒にしていく。速射性能も随分と上がり、今までよりもかなり速い。その代償に反動が激しいのだが、それがブレをさらにランダムにしていくのだから、功を奏してると言える。
こんなめちゃくちゃな戦い方は普通はしないと思うのだが、今は慣らしなのだからやれることは全部やっていく。丁寧で慎重な戦い方もすれば、乱雑で感情任せな戦い方もする。それに耐え得るかのテスト。
「ぽーい!」
だが夕立はそのブレ弾の中でも臆さず突っ込んでくる。しっかり回避している辺り、流石としか言いようがない。完全なランダムでも、何をどうして判断しているのか、回避の移動量をどんどん減らして最適化してくるのだから困ったもの。これがあれか、味方だと頼もしいけど敵だと厄介極まりないというやつか。
そういう輩のためにあるのが備え付けの主砲だ。ブレ弾を回避する方向を予測して、命中精度がさらに上がった主砲を叩き込む。回避されるが、今までよりも紙一重になっている分成長が自覚出来る。
「回避しながらこれはっ、結構キツイねっ」
それでも身体への反動が極力抑えられているのは整備班の人達のチューンナップの賜物だろう。普段通りの反動になりつつあり、それでも以前より格段に動けるのだから。
「速くなったし強くなったけど、まだまだまだまだ!」
「わかってるっつーのそんなこと!」
夕立の方の命中精度もガンガン上がっている。私の動きに慣れるスピードが異常過ぎる。持ち味を全て使ってきているのがわかる。
ならば、出来ることを全部やろう。夕立の足を止めることが出来ればいいだけだ。
と、考えた瞬間、備え付けの主砲が夕立の足下に照準を合わせた。私が無意識に考えたことすらも汲み取って、それを実行に移していく。
「ぽ」
備え付けも手持ちも一時的に夕立本人を狙わなくなった代わりに、回避方向を完全に封じた。故に、即座に備え付けの主砲が照準を合わせたときには、夕立は足踏みしてしまっていた。
いつもやらないことをやったことで、一瞬だけ頭の中がバグったのだと思う。この判断がすぐに出来るようになったのも、艤装の反応速度と主砲の調整がより高まったことが起因になっているのだから、整備班には感謝しかない。
「ぽい!」
だが夕立はここで戦闘狂の本質を見せてくる。やられるくらいなら死なば諸共。回避出来ないと判断した途端、あちらの主砲も私に照準を合わせていた。相変わらず意味がわからない判断力。
結果的に、私の砲撃は夕立の右肩に直撃。同時に、夕立の砲撃が私の左肩に直撃。勝敗判定としては、相打ちとなった。勝ちか負けかでは言えない終わり方。
とはいえ、私としては大きな前進だ。1対1で夕立と相対して、ここまで全然出来たのは上出来。さらには課題も見えた。最高の実戦訓練となっただろう。
「悔しいっぽい! もっと完封するつもりだったのに!」
訓練終了と同時にムキーッと悔しさを全身で表現してくる。勝利以外が納得出来ないようだ。引き分けも許せない。
「私としても、まだまだだなって思ったよ。でも、もう夕立にドヤ顔させないから」
「何をーっ!」
今いい勝負が出来たのだから、今後もいい勝負が出来る。いくら夕立の成長速度が異常だとしても、私が追いつけないスピードではないはずだ。
「陽炎ちゃんは本当にいい動きしたね〜。艤装の改修がすっごく効いてるし、陽炎ちゃん自体も成長してるよ」
阿賀野さんも褒めてくれた。第三者の目から見ても、私はしっかり成長出来ているみたいだ。
「もっかい! もっかいやるっぽい! 次は勝つから!」
「阿賀野さん、まだやれる?」
「うん、だいじょーぶだよー。時間いっぱいまでやっちゃってやっちゃって〜」
結局、私と夕立は日が暮れるくらいになるまで延々と実戦を繰り返した。結論から言えば、おおよそ同点。今のような引き分けが量産され続け、勝ちも負けも無い結果となった。
夕立はすごく悔しそうにしていたが、最後はお互いの健闘を称えあうことになる。今まで以上に仲良くなれたとも思えた。
みんなの力で成長出来ていることを実感する。この調子でどんどん進んでいきたい。
対夕立、ようやく手が届きました。これでも夕立は陽炎に次ぐ新人ですからね。センスが頭おかしいだけで。