異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
夕立との有意義な実戦訓練を終え、まったりとお風呂に入る私、陽炎。今回は肉体的な疲れは酷かったものの、満足行く戦いが出来たことで精神的な疲れはあまり酷くは無かった。むしろ、夕立といい勝負が出来たことで、一切暗い部分が無い。
しかし、これで慢心してはいけない。いい勝負が出来ただけで、勝てたわけでは無い。負けなかっただけだ。それに、これで満足していたら夕立にまた引き離されるだろう。それは嬉しくない。
私はまだまだだという気持ちを忘れず、これからも訓練を続けていきたい。実際、今のままではあの痴女どころか普通の深海棲艦にすら苦戦を強いられることだろう。もっと強くなりたい。
「ゲロちゃんすっごく強くなったよね。夕立も負けてられないっぽい!」
「みんなのおかげだよ。私だけじゃこんなにすぐに強くなんてなれないしさ。特に司令と整備班の人達のおかげかね」
一緒にお風呂に入っている夕立からもそう言ってもらえるのは嬉しい。阿賀野さんは空城司令に今回の訓練結果を報告しに行ってるのと、私達がペイント弾でドロドロだったため、先に入らせてもらっている。後から来るのだとか。
今まではいろいろと落ち込むこともあったけど、周りの力添えが理解出来たことで吹っ切れることが出来ている。決意も新たに進み出せたのは、私は私、艦娘陽炎であると言い聞かせてくれた空城司令を始めとした仲間達のおかげだ。
「夕立にだって感謝してるよ。夜とかさ、すごい助かってるんだから」
そこには勿論、夕立だって含まれている。夜に一緒に寝てくれて、魘されているところを心配してもらえるというのは、それだけで心落ち着ける存在だ。
「ゲロちゃんは夕立のたった1人の後輩だからね。強くなったら夕立が育てたって言ってやるっぽい」
「あながち間違っちゃいないんだよなぁ。結構頼りにしてるんだから」
「んふー、もっと頼っていいっぽいよ!」
胸を張ってドヤ顔。この自信家なところも夕立の強みであることはわかる。ちょっと前までの私のように自分を見失いかけるようなこともなく、いつでも前向きにいられるのは一種の才能だ。
「次は負けないから」
「こちらのセリフっぽい。また引き離すから」
ニンマリ笑って拳を突き合わせた。夕立とは今後も仲間として、友人として、ライバルとして一緒に進んでいければいいと思う。
「阿賀野さん遅いね」
「報告することいっぱいあるっぽい? ゲロちゃんこんなに強くなったよーって」
「なのかな。なら別にいいんだけど」
あんまり待ちすぎるのものぼせてしまうので、ある程度時間が経ったらお風呂から出ることにする。それまでは夕立とさっきの実戦訓練の反省会となった。
お互いに切磋琢磨し、一緒に成長していくことが、今は何よりも楽しかった。夕立とはそういうところで気が合う。
結局阿賀野さんはお風呂には現れず、先にお風呂から出る。と、そのタイミングで哨戒部隊と諜報部隊が帰投したらしく、工廠の方が少し騒がしかった。
「帰ってきてるっぽい! ゲロちゃん、行ってみよ!」
「あ、夕立!」
相変わらず感情の赴くままに行動する夕立に手を引かれて工廠に入ると、ちょうどみんなが艤装を下ろしながら空城司令に結果を大まかに説明してるところだった。
空城司令が工廠に出向いていたというのもあり、阿賀野さんもそこにいる。私達の姿を見たら、笑顔で手を振ってきた。
「少数の部隊と交戦し、撃退したであります。その際、彼奴らの旗艦であろう者がこちらを
「ふむ、部隊に陽炎がいるかどうかを確認したと見るのが正しいだろうね」
「ええ、本艦もそう思ったであります」
諜報部隊はまたもや交戦したらしい。あの痴女はいなかったようだが、こちらの部隊を確認したということは、やはり野良ではなく奴の配下の斥候であることがわかる。
私がいないことを確認した後、即座に戦闘行動に移ったらしいし、目的はわかりやすい。あちらとしても領海があって、その中に入った者を確認した後、私じゃなければ沈める。
「こちらでも深海棲艦が出てきたよ。諜報の奴らよか強くは無かったろうけど、おんなじだったね。こっちをやたらめったら見てきた」
今回の哨戒部隊の旗艦、加古さんも、敵部隊がこちらを確認してきたと言う。その発見した地点というのが、私の初陣の場、あの工場の近海である。
あの時は海底の調査もして巣が無いことを確認し、野良で現れたのだと結論付けたのだが、実は巣が相当遠くにあってそこから来た斥候なのではないかという疑惑が浮上した。
方向としては真反対の位置に向かったはずなのだが、同じ反応をしたということは、裏では奴らと繋がっているということなのでは無いだろうか。
そうだとしたら厄介だ。巣が何処にあるかはさておき、行動範囲が非常に広い。ある意味、この鎮守府の領海を包囲出来るということにまで考えられる。
「で、どちらも敵部隊と交戦したんだね」
「ああ、こっちは勝ってきたよ。殲滅した。こっちは軽巡1の駆逐3とかだったからすぐ終わったかな」
「我々は戦艦やら空母やらも来たので苦戦はしたが、陸奥殿と霧島殿が叩いてくれたおかげでどうにかなった。明らかにこちらが本陣でありますな」
離れれば離れる程、深海棲艦の質自体は落ちているようだ。加古さんの行った方、工場の近海の方が弱くて安心した。
「複数の巣が固まって大規模になってるかもしれないね。調査と哨戒の範囲を拡げる必要がありそうじゃないか」
今までもそういうことは何度かあったらしい。たった1つでも処理するのが大変な深海棲艦の巣が2つ3つと折り重なったことで、さらに面倒くさいことになるという。
数十キロ離れた場所で同時に確認された深海棲艦が同じ行動をしたとなると、その可能性を疑うのは当然のこと。
万が一のことを考えると、どちらもしっかりと確認しておかなければ安心出来ないだろう。特に工場側。敵が弱いからと言って疎かにしていると、突然強敵が雪崩れ込んできて壊滅なんてことまであり得てしまう。
さらに言えば、本来とは逆方向にあるかもしれない巣が、あの赤い深海棲艦や痴女と関連しているかどうかも知りたいところ。全く無関係で同時発生という可能性も無くはない。それならこちらのことを舐めるように見るとかはしなそうだが。
「提督殿、本艦ら諜報部隊は、後日逆方向の調査をしたいと進言する。よろしいか」
「ああ、その方がいいだろう。あちら方面の未開の海の調査を頼むよ。裏で繋がっているとなると、奴らの勢力がとんでもなく大きい可能性が出てくる。アタシらだけではどうにも出来なくなるかもしれないからね」
「心得た」
流石にそこまで大きな巣となると、私達の鎮守府だけでは押し潰されてしまうだろう。そうなる前にしっかり調査し、出来ることなら鎮守府の力だけでそれを対処したいところ。
「丁度いい。陽炎、アンタにまた諜報部隊の手伝いに行ってもらうがいいかい」
私が工廠に来ていることはわかっていたため、今の話の流れから私に振ってくる。
私としてはそれは万々歳だ。真反対のところの深海棲艦まで私の動向を気にしているというのなら、私の方から出向いてやるのが解決を早くする。私を見て同じ反応を示すのなら、赤い深海棲艦の仲間であることが確定するわけだし。
だが、そうする場合に懸念点もある。私の存在が確認出来た場合、あちらを焚きつけることになって頻繁に同じ場所に出現される可能性だって出てくる。そうなった場合に危険なのはあの工場だ。
「私はいいけど……大丈夫なのかな。あの工場に迷惑かけることにならないかな」
「アンタの姿を見た奴らは、執拗に追いかけてくる可能性もあるね。アタシもそれは考えた。だが逆に、それで工場から引き剥がすことが出来るかもしれない。アンタの存在を逆に使えないかい」
ある意味、私を餌として使うわけだ。上手く行くかはさておき、工場には狙う者は無いぞと知らしめて、視線を私に向けさせることで逆に工場の被害を減らす。その深海棲艦が奴らの勢力であれば、それも出来るかもしれない。逆に、一切関係ない場合は工場に危険が及ぶ可能性が上がるかもしれないが。
とはいえ、空城司令がそう言ってくるのだから、何かしらの算段があると考えるのが自然だ。
私はあくまでも艦娘、司令の部下だ。私も意見は言うが、最終的には司令の指示が絶対。
「わかった。司令がそう言うなら従うよ。私は艦娘だから」
「すまないね。何かあった場合、責任はアタシが取るから安心してくれればいい」
逆に緊張するのだがそれは。
「提督さん、夕立も夕立も!」
「それは後から考えるからちょっと待ってな」
案の定駄々をこねるが、それは突っぱねられた。私としては夕立が一緒に来てくれるのは心強い。というか全員心強い。1人で行くわけではないので、頼れる仲間の力も使って、空城司令の作戦を遂行する。
「明日は諜報部隊も休みだ。次の調査は明後日だから、それまでに次の部隊を考えておく。いいね」
「ぽーい」
素直に引く夕立。駄々はこねるが言うことは聞くのはいいこと。
「さぁ、風呂入って休んできな。細かいことはまた後から聞く」
「明日じゃダメぇ?」
「加古は起きないだろうに。今からさっさとやるよ」
あれだけ普通に話していたのに、気が抜けた途端いつでも寝られると言わんばかりのトロンとした表情になっている加古さん。こういうのはちょっと不安になるが、それでも旗艦を任されているのだから、優秀なのがわかる。
私も出撃の時に戦場での姿を見ているが、ここでのダルンダルンな態度がわからなくなるほどに戦場でイケメンになるので、そちらを見た旗艦なのだろう。
「陽炎、ちょっといいかい。いいところに来てくれたもんだ。聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「しつこいようだが、身体に異常は無いかい」
目覚めの件から少し敏感になっているのだろうか。あの後の実戦訓練は初めてなので、訓練後の異常が無いかを聞いてきているのだろう。
「大丈夫、今のところ何も無いよ」
「そうかい。阿賀野がちょいとね」
「勘違いだったのかな〜」
何を言っているかはわからないが、私の動きに違和感を覚えたのは阿賀野さんのようだ。夕立との実戦訓練を全て見ていたのは阿賀野さんなわけだし、第三者の目は阿賀野さんしか無かった。
「陽炎ちゃん、ちょっと出力が普通より上がり過ぎに見えたんだよねぇ。身体に負担かかってないかなって思って〜」
「いや、むしろ絶好調って感じで」
まぁ確かに艤装の改修のおかげで大分強くなれたのは確かだ。普通以上に動けたと思うし、反応速度が上がっているのも確か。だが、他の目から見てそう見えたというのは、やはり何かしら不思議な力が作用しているというのだろうか。
目覚めが一因だというのなら不安になる。とはいえ、身体に異常は感じられないため、今は様子見でいいのでは無いだろうか。
「いい匂いが強くなるとかも無いしねぇ」
「うん、夕立もそれはわかるっぽい。ゲロちゃんはいい匂いするんだ」
空城司令もこの発言には首を傾げるしか無い。D型異端児にしか感知出来ない匂いと言われても意味がわからないだろう。張本人である私にもわからないくらいだし。
この匂いについては本当にわからない。ただ匂うだけ。私としてはこれが一番の不安要素だったりするのだが。
「とにかく、何かあったらすぐに言うんだよ。目覚めとやらもあるんだからね」
「勿論。悪夢が更新されたらすぐに言うし、ちょっとでもおかしなことがあったら必ず話すから心配しないで」
「ああ。それに、他の連中がアンタについて気付いたことも話すように言ってあるからね」
匂いのように、私にはわからない私の異変も周りが勘付いた時点で通達が行くようになっているのなら少しは安心だ。今回の過剰出力のこともそれがあるからすぐに話が行ったのだろう。
艤装については整備班にも逐一話が行っているようなので、異変の放置は無い。いつも通りに生活をするというのが今私に出来る唯一のことである。
「じゃあ、明後日に諜報部隊と一緒に出撃してもらうことは確定だ。それまでは普段通りに過ごしておくれ」
「了解。明日は改修された武装のテストと体力作りだから、うん、普通だね」
「ああ。何かあったらすぐに言うんだよ」
やたら心配されているように思えるが、それも空城司令の優しさだと思う。
陽炎に出ている今の異変は、敵からの視線、D型異端児にのみ感知出来る匂い、そして艤装の過剰出力(阿賀野の勘違いの可能性あり)の3つ。