異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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初心者からの脱却

 私、陽炎を探すような深海棲艦が現れたと諜報部隊とは別方向に向かった哨戒部隊の方から聞いたことにより、次の調査に私も連れて行かれることになった。私を一種の餌とし、その深海棲艦達をその海域から離れさせることが目的。

 その深海棲艦が発見されたのは、よりによって私の初陣の場、協力してくれている工場の近くである。そのままのさばられると工場に危険が及ぶ可能性があるため、私を使ってそこから引き離す作戦である。

 

「夕立も行きたいっぽーい」

「決めるのは司令だから我慢して」

 

 夕飯の場でも夕立が駄々をこねていた。部隊に選出されるのは私が確定しているだけで、他のメンバーはまだ一切決まっていない。前回の調査の時には夕立は参加しているため、また便乗したいと言う。好戦的もここまで来ると行き過ぎな感じがしてならない。

 

「どういう選出だろうね。調査部隊だから、やっぱり万が一の時のことを考えての強い部隊なのかな」

「それだと……私達はお呼びがかからないかもね。戦艦の人とか、空母の人とかが優先されると思う」

 

 沖波と磯波が言う通りになる可能性は高め。今日の諜報部隊について行った部隊は、あの痴女と交戦したときのことを考慮して陸奥さんと霧島さんが両方向かったくらいだ。今回もそれがあり得る。

 逆に、私を餌にその場所から離すというのなら素早い部隊にする可能性もある。小回りが利く部隊となると、駆逐艦主体になったりするかもしれない。そうなれば、この鎮守府にいる駆逐艦の半数を連れて行くなんてこともあるかも。

 とはいえ、諜報部隊も一緒にいるのだから、前者の方が確率的には高いだろう。私と諜報部隊の秋雲以外に駆逐艦はいないとかまであり得る。

 

「まぁ明日中にはわかるでしょ」

「ゲロちゃんは決まってるからいいよね。夕立達はまだわかんないんだから」

 

 ブーブーと文句まで言う夕立には苦笑しか無い。沖波も磯波も私と同じように苦笑していた。

 

「危険な任務になるかもしれないから……陽炎ちゃん気をつけてね」

「ありがと。餌役だからね、戦わずに逃げるまであるよ」

「それがいいかもしれないね」

 

 命の方が大事なのは充分に理解している。ダメだと思ったら当然逃げるつもりだ。仲間を置いて逃げるなんてことはしないが。

 

 

 

 翌日、午前は改修された武装のテスト。艤装に接続される魚雷や高角砲は、その効果が顕著に出るだろうから、時間は短くなるかもしれないが2つとも一気にやってしまうことになった。

 

 まず魚雷。私は艤装のマジックアームに接続するわけだが、備え付けの主砲と同じでやたら精度が高くなり、タイミングを見計ったかのように放たれるそれは狙いを定めた場所に的確に向かい、私の思った通りの結果をもたらしてくれた。

 この精度には木曾さんも目を見張る程だった。自分でも驚いたくらいである。相変わらず私にしか出来ないという()()()()も綺麗に当てられる。的に当てているだけなのだから実戦ではどうなるかはわからないが、それでもこの精度は私としても自信になる。

 

「いつ見ても凄まじいな。俺も試してみたが、なかなか出来ない。まぁ戦場でやる必要は基本無いんだが」

 

 1本しか魚雷を使わないなんてことは基本的には必要ない。纏めて撃った方が命中率は高くなるに決まっているわけで、わざわざ回避しやすい攻撃とかしても意味はないのだ。

 だからこの技能はあったところで使わない。コントロールが普通ではないということだけがわかったのみ。一種の曲芸みたいなものと考えればいい。

 

「今度からは実戦に組み込んでもいいぜ。今のお前なら充分使えるだろ」

「あ、じゃあ免許皆伝かな?」

「調子に乗らないようにな。身近で爆発したらひとたまりも無いんだ。主砲より取り扱い注意だぞ」

 

 それに関しては肝に銘じている。主砲だって危ないことは理解しているが、魚雷はそれに輪をかけて危ない。万が一足下で爆発しようものなら、下半身がえらいことになる。

 幸い私は艤装に備え付けとなるとはいえ、むしろそこで爆発したら背中が抉れるまであるのだから、細心の注意を払っている。

 

「今後は雷撃訓練も実戦形式にしていく。いいな」

「はーい。ちょっと怖いけど、やっていかないとね」

「怖いって思えるなら充分だ。お前はよくわかってる方だな。夕立には爪の垢を煎じて飲ませてやりたい」

 

 怖いもの知らずの夕立は確かに危なそうである。

 

 高角砲の方も魚雷と同様艤装に直接接続するため、命中精度が格段に上がっており、天城さんに飛ばしてもらった艦載機を次々と撃墜することが出来た。一緒に見ていてくれる初月も、これには驚いていた。

 

「凄いな、改修されるだけでこうも変わるものか」

「なんかみんなに言われてるけど、違うものなの?」

「多少は良くなるが、陽炎の場合は上がり過ぎている気がするんだ。その分反動も強いみたいだが」

 

 初月の言う通り、高角砲の反動は魚雷ほどでは無いにしろかなりキツイもの。加えて上空に撃つ都合上、他の反動制御とは違う力の入れ方になるため、今までよりも疲労感が強め。それでもしっかりと当てられたことは良かった。

 阿賀野さんも言っていたが、初月にも何か感じるものがあるらしい。出力が上がりすぎとか何とか。私にはそういう実感が何もない。改修の成果だとしか思えない。

 

「まぁいいか。何も不調が無いのなら、それが陽炎の実力なんだろう。防空は護りの要だから、出来る奴が増えるのは僕としても嬉しい」

「あはは、まだまだ素人に毛が生えたくらいかもだけど、そう言ってもらえると私も嬉しいよ」

 

 今後は駆逐艦ならではの小回りの利く戦力として戦っていけるだろう。こうやって訓練してみると、駆逐艦はやることが本当に多い。

 

「陽炎ちゃん、防空の基礎はおおよそマスターですね」

 

 ここで天城さんも合流。私の対空砲火を絶賛してくれる。おおよそと言うのは、やはり実戦経験の少なさ故に臨機応変に動くことが出来ないことからだろう。今まではこちらに攻撃してこない艦載機を撃墜する訓練ばかりだったし。

 実戦では相手の爆撃や射撃、さらには空母以外の攻撃も回避しながらの防空だ。今後はそういうところも覚えていかなくてはならない。

 

「次回からは、もっと実戦らしくやった方が良さそうですね。横槍を入れられながらの対空砲火とかにチャレンジしてもらいましょう」

 

 雷撃訓練と同様に、こちらも実戦形式の訓練に移ろうと天城さんが提案してくれた。空母直々にそれを言ってもらえたことで、私が着実に成長していることが実感出来た。

 

 結果的に私は、初心者から中級者にランクアップしたと言えるだろう。上級者の道はまだまだ遠そうだが、着実に進めているのはいいことである。

 艤装に接続しない手持ちの主砲と対潜兵器に関してはまだまだ訓練あるのみではあるが。

 

 

 

 

 午後は体力作り。艤装の扱いが中級になったとはいえ、身体はまだまだ未熟。基礎体力をしっかりつけなくては、うまく扱えるようになった各種武装も宝の持ち腐れになりかねない。

 以前と同じ通り、異端児駆逐艦4人が集まっての訓練となるおかげで、多少しんどい筋トレなどもやっていて楽しい。夕立発端で競争になったりすることもあるが、それも精神的には効率がいい。楽しく鍛えられるのなら長くやっていられる。

 

 そして今回は少しだけ訓練の環境に変化があった。それが、

 

「いいねいいねぇ。創作意欲が湧くよねぇ」

「広報誌に使っていいですかね。艦娘の訓練風景、一般市民にも見せていいと青葉は思うんですよぉ」

 

 休日で暇を持て余している諜報部隊がそれを見学していることである。秋雲はスケッチブックに私達を描き、青葉さんは写真に収める。そして神州丸さんはそれをぼんやり眺めているだけ。

 諜報部隊だって何かしらの訓練はしているらしいが、今の私達のような学校の体育的な運動では無いとのこと。実戦に実戦を重ねて、自然と体力が身についている的な。

 

「普段とは違う艦娘の裏側、努力の現場を独占取材、みたいな」

「いいですねぇ。ここの司令官に許可貰いましょうか!」

「私達がいいと言うとでも思ってんの?」

 

 とりあえず文句だけは言っておく。こういう一面があるというところを知ってもらうのはいいことかもしれないが、わざわざ写真を撮ってまで広報誌に使われるとか、ちょっと勘弁してほしい。肖像権とか。

 

「うん、夕立もやめてもらいたいっぽい」

「あら意外。そういうの興味ないと思ってた」

「だってその広報誌、広報って言うくらいだから誰でも見られるんでしょ? 夕立、()()()()()()()()がいるっぽい」

 

 あっ、と諜報部隊以外は察した。私達は夕立の過去の話を聞いているため、その見られたくない人というのが誰かがすぐにわかる。誰もそれについては何も言わなかった。

 

「そうですか。ならやめておきます。取材相手の人権を守るのはジャーナリストの基本ですからね。嫌々やらせるのは人として間違ってますから」

「ありがとっぽい」

 

 夕立の普段とは違う物言いに深刻な雰囲気を感じたか、食い下がるわけでもなく素直にやめた。青葉さんは記者の鑑。

 艦娘という存在は、それ自体に機密が大量に含まれている。孤児院に電話するにしても、しーちゃんの監視の下でなくてはいけないとかあったくらいだ。それを顔写真までありにしてしまうと、いろいろと良くないことが起こりかねない。

 

「あー、でもこれホント捗るわぁ。普段の艦娘とは違う風景、絵になるよねぇ」

「秋雲、さっきの会話聞いてた?」

「あったりまえじゃんよ。いろいろと伏せて、元ネタ察せなくするくらいに加工することくらい、秋雲さんにはお手の物よ」

 

 どんな本を描くつもりだコイツは。エロの方も練習しているとか言っていたが、まさかそっち方面に使うわけではないだろうな。

 

「でも、ゲロ姉結構鍛えられてるよね。プランクだっけ、その時の安定感凄かったよ」

「見てわかるもの?」

「秋雲さんにはお茶の子さいさいよ。デッサン力が鍛えられてるからね。筋肉とかスケスケ」

 

 それは過剰表現だとは思うが、見てどれくらい鍛えられているかわかるというのはあるかもしれない。小さい頃から絵を描き続けてきたという秋雲の目だからこそ出来ることらしい。

 実際、秋雲の言う指摘はおおよそ当たっていた。足りている部分と足りていない部分を的確に言い当てられるため、次に重点的に鍛える場所がわかってありがたい。速吸さんも秋雲のその言葉にはうんうんと頷きながら次のトレーニングメニューの参考にすると言い出したほどだ。

 

「秋雲の目は我々も頼りにしているのだ。だが、稀に仲間を下卑た目で見ることがあるのは困ったものでありますな。その度に折檻されているが」

「下卑たとは失礼な。一作家の目だよ?」

「全国の作家に謝れ」

 

 神州丸さんもその被害者。今もフードまで被るかなり厚着な制服に隠れているが、確かになかなかの物をお持ちのようで、秋雲的には最高のデッサン素材らしい。そしてその度に秋雲が痛い目を見ているようだ。いい加減懲りた方がいいのでは。

 

「でもほら、いつも制服の艦娘がこれよ。いつもギッチギチに身を固めているのに、訓練の時はこんなにラフな格好って素晴らしくない? ゲロ姉やだっちゃんのムチッとふくよかなお胸もいいし、波波コンビのスレンダーに引き締まったスタイルもそそられるじゃんよ!」

「青葉もそれは同意ですねぇ。文学少女のスポーティーな一面は読者ウケ良さそうです。ギャップ萌えってやつですかねぇ」

「だよねー。いやはや、汗ばんだゲロ姉とかすごく魅力的よ? ゲロ姉ならぬ、エロ姉なんつって」

 

 そんなことを言われると途端に恥ずかしくなるし、意識してしまう。確かに最初は磯波のこんな姿を見て珍しいものを見たと思ってしまったが。あと秋雲はそろそろいい加減にしてもらった方が良さそう。

 

「とりあえずグモアキは殴っとけばいいっぽい?」

「本艦が許可するであります」

「ストップ! ストーップ!」

 

 夕立が秋雲を追いかけ始めたので、その間にこちらも訓練再開。あちらの鎮守府ではこれすらも日常的なところらしく、神州丸さんも青葉さんも無視していた。

 夕立は充分鍛えられているので、今は秋雲と遊ばせておけばいいだろう。秋雲への折檻も必要だと思うし。

 

「さ、こっちはこっちで続きを始めましょう。陸奥さんと霧島さんから鉄アレイ預かってきてますから」

「出た……これキツいんだよね」

「キツいからこそ、身体に効いていると思いませんか?」

「言えてる」

 

 ここからさらにハードになるトレーニング。だが充実していた。

 

 最終的に秋雲は夕立に捕まり、痛い目を見ていたのはいうまでもない。

 




多分秋雲は「前が見えねぇ」とかなってる。
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