異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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真反対の敵の巣

 夕飯終了直後の夜、執務室に呼び出される私、陽炎。おそらく明日の諜報部隊と共に向かう部隊の発表なのだと思う。私は餌として向かうため確定なのだが、他のメンバーが誰になるかがようやく決まったと考えるのが妥当。時間としては普通なら業務時間外ではあるが、明日の朝からのことなので緊急招集。

 それくらい空城司令でも悩んだのだろうか。明日向かう場所は、本来の調査場所とは真逆の位置にある海域。だが、そこで同じような挙動をする深海棲艦が現れてしまったのだから仕方ない。

 

「勘付いているとは思うが、アンタ達が明日の随伴部隊だ」

 

 私の他にいたのは、少し予想から外れて軽量部隊。木曾さんを筆頭とし、由良さんと、私も含めて駆逐艦4人。私、夕立、沖波、磯波。この6人が随伴となる。

 昨日の話では、現れた深海棲艦もかなりの軽量部隊だったようで、こちらも小回り重視としたようである。それ以上のボスが現れてしまった時は、誘き出して援軍待ち。

 

「アンタ達なら敵を倒しながら引き付けて撤退も出来るだろう。重巡より手早く動ける方が事を早く起こしやすい。第二陣は鎮守府に用意しておくから、万が一の場合はすぐに連絡しな」

「了解だ。俺が旗艦でいいんだよな」

「ああ、それでいい。木曾なら大物食いも出来る。今回はアンタが一番妥当だと考えた」

 

 重雷装巡洋艦という雷撃特化な艦種なだけあり、一撃一撃の火力が普通ではない。私達では届かないであろう大物食い、戦艦や空母のような強い敵でも、一撃の下に沈めることが出来る。

 私達も魚雷は持っているが、それに特化している木曾さんとは雲泥の差だ。私が4本発射しているときには、木曾さんは10本以上を同時に発射しているのだから、その強力な火力がわかる。

 

「駆逐艦4人は少し考えがあってこのメンバーを選ばせてもらった。異端児の駆逐艦を4人同時に運用した時のシナジーを知っておきたい。由良は木曾のサポートをしつつ、駆逐艦の()()()を頼むよ」

「了解。お守りかどうかはさておき、水雷戦隊の旗艦のように振る舞わせてもらいます」

 

 木曾さんが一番上に立ち、その下に由良さん、そして駆逐艦4人がさらにその下という布陣になるのだろう。まだまだ実戦経験が少ない私にとっては、どんな作戦でも新鮮で緊張感のあるものだ。

 これがただの哨戒任務になる可能性だってあるが、それならそれでいい。

 

「あと最後に。夕立、木曾と由良の言うことはちゃんと聞くんだよ」

「もう提督さん、夕立のこと信用してなさすぎっぽい」

「指示を無視して突っ込むから言ってんだよ。木曾、由良、そのバカの手綱はちゃんと握っておいておくれ」

「ああ、任せてくれ。出来れば首輪が欲しいな」

 

 冗談に聞こえない首輪発言ではあるものの、それくらいしないと夕立が奔放に戦いすぎるのが目に見えているので、誰もが納得してしまった。夕立はブーブー言っていたが、それが笑いになっているのだからまだいい方か。

 

「じゃあ、明日はよろしく頼むよ」

「了解」

 

 囮作戦というなかなか緊張する任務だ。今日眠れないかもしれないなんて考えたものの、艤装テストと体力作りでの疲れが効いたか、夢も見ずにぐっすり眠ることが出来た。

 

 

 

 翌朝、予定通り出撃。諜報部隊を護衛するような形で、以前の調査とは逆方向への出撃。神州丸さん、青葉さん、そして秋雲を中央に据えて、私達が囲うような陣形で工場へと向かう。ルート的には工場経由でそのまま沖に向かうパターンになるらしい。

 私の今回の装備は主砲と魚雷。防空は沖波、対潜は磯波に任せている。夕立は私と同じ。

 

「工場が見えてきたな。じゃあここから沖に出るぞ」

「了解であります」

 

 おおよその場所は聞いているため、すいすいと現場に向かう。工場の付近では外からは人の姿は見えなかったのが少し残念だったが、別に退避しているわけではなく中で作業中ということのようなので、たまたまタイミングが合わなかっただけらしいので、少しだけ安心。

 

「絶対にここには誘き寄せちゃダメなんだよね」

「おう。流石に工場を護りながらの戦いは誰にも無理だ。どうしても流れ弾が当たっちまう」

 

 敵が私に食いついた場合、あくまでも陸には戻らずに誘き出すのが今回の作戦。陸に連れて行ったら、それこそ工場に危険が及ぶ。陸に被害が無いようにしなくてはダメだ。

 撤退経路はこの時間の間に念入りに調査しておいた。私がその中心になる可能性が高いため、本来旗艦しか持たない羅針盤の妖精さんを私も持たされている程である。

 

「妖精さん、頼むよ。大回りでもいいから一番誰にも被害が出ないルートね」

 

 任せろと言わんばかりに親指を立てる妖精さん。こうやって妖精さんを連れて出撃するのも初めて。いつか旗艦をやるようなことがあったら、これも日常茶飯事になるのだろうか。

 

 しばらく進み、領海の端に辿り着いた。哨戒の時にはここまで来ていないというほどの位置であり、ここに来るまでにかなり時間をかけている。もう太陽が大分高い位置に来ていた。

 前回便乗した調査の時とは本当に真逆に進んだと言える。ここで私を見つめる深海棲艦が現れたら、確かに相当まずい気がする。

 

「よーし、そろそろだ。諜報部隊、頼むぜ」

「うむ、では青葉、秋雲、いつも通りに周辺調査を開始する」

 

 私が便乗した時と同じように、大型のソナーによる海底調査がスタート。

 今のところは四方を囲む水平線から何か来るようなものは見えないが、何があるかわからないのがこの海域なので、青葉さんも大型の電探を使って周辺警戒。秋雲も目視にはなるが、周辺を見回しながら少しでも異変が無いかを探る。

 

 こうなると私達も似たようなことをするしかない。対潜を任されている磯波がソナーを使って海中を警戒し、沖波が電探を使って空を警戒。

 ここで発見された深海棲艦は軽巡洋艦1体と駆逐艦3体と聞いている。また出てくるのがそれだとしたら、空の警戒は必要ないかもしれない。だが、私が前に出たことによって敵部隊も強くなってくる可能性がある。

 今回は空母がいないが、対空砲火で出来る限り被害を減らすつもりだ。沖波はそれを一手に引き受けることに。

 

「由良も艦載機、飛ばしますね。ねっ」

 

 そんな中、由良さんも艤装から小さな飛行機を飛ばしていた。空母が扱っているような攻撃したり空を護ったりするような艦載機ではなく、水上偵察機という、その名の通り周囲を偵察するために使うようなものらしい。

 駆逐艦は使えないが、軽巡洋艦は使えるという有用な装備。木曾さんは性に合わないという理由から使っていないようだが、そもそも魚雷満載だから装備するような場所も無いだろう。

 

「徐々に領海の外へ向かうであります。本艦はソナーに集中するため、曳航を頼む、秋雲」

「ほいほい、いつも通りねいつも通り」

 

 やんわりと押しながら、領海の外へ踏み出しそのままさらに奥へ。あまり早く動いてもソナーの反応が鈍るだけなので、ここからは極端に遅くなる。止まっているわけではないので先には進めているわけだが。

 

 ここからはのんびり進む。調査している諜報部隊には悪いが、この間に軽めのおやつ。スティック状の栄養菓子をモフモフ食べながら、青葉さんと共に周辺警戒。

 

「前にこの辺りで調査した時は巣は無かったんですよね?」

「らしいぜ。あん時はうちのラジコンで確認しただけだから、ここまで大規模な調査では無かったんだけどな。調査自体も領海の中だったしよ」

 

 青葉さんのインタビューのように木曾さんが話をする。そういうところもジャーナリストなのだろうか。

 私がここに来た時は、衣笠さんがラジコンを使って調査をしていた。一昨日のその深海棲艦が現れた時はどうしたかは知らない。少なくとも領海の中に巣がない事は確認している。

 

「ふぅむ、なら領海の外しかあり得ませんねぇ。そこからここまで来るということは、何らかの目的があるとしか思えませんし。その目的というのが」

 

 私が見られる。まぁどう考えてもその目的は私の存在だろう。今のところそれ以外には考えられない。私以外にも探しているものがあるのならわからないが。

 

「とびきりの()がここにあるんですがねぇ」

 

 あちらから見れば私はとびきりの餌。垂涎物の大好物になるだろう。

 

 領海の外は未だに未知の部分が多い。今調べているところも勿論、大規模な調査が行き届いていない海域である。巣があってもおかしくは無い。

 その結果、神州丸さんのソナーに何らかの反応が見えた。

 

「潜水艦であります」

「うへ、やっぱりいたってこと?」

 

 同じようにソナーを使っていた磯波にはまだ反応が無かったということは、大型ソナーでしかわからないような位置にいるということ。

 

「より領海より離れたところよりこちらに近付いてきている。海上艦では無いということは、かなり遠距離からこちらを確認出来る装備をあちらが持っているということだろう」

 

 あの赤い深海棲艦は、陸からは到底見えないようなところから私を見つめていたというのもある。もうそれは目で見ているわけでは無いように思えるがどうなのだろう。

 

「由良殿、空はどうか」

「何かいる感じには見えないかな。水偵からの連絡は無いから」

「ならば、相当遠方でありましょう。もしくは我々でも感知出来ない程の高高度からの監視か」

 

 例えば雲の上。その時点で少なくとも目視は出来ず、電探でも届かない位置となる。今も沖波が電探で空を確認しているのだが、未だに何らかの反応があるようには言ってこないので、空だとしたらお手上げ状態。

 

「こちらでも確認出来ました。数は3体」

 

 磯波が対潜の準備。3体くらいなら磯波と神州丸さんの2人で処理が出来るということで、少しだけ位置取りを変える。

 潜水艦が来たということは、その後普通の艦も来る可能性がある。そちらに向けて、私の姿をより強めに見せておく。餌なのだから、相手をしっかりと引き寄せなければ。

 

「対潜行動に移る。皆、少し離れよ」

 

 大型ソナーを使いながら、器用に爆雷を投下。磯波もそれに合わせて爆雷を放っていく。流石に最古参、素人の私にはまだまだ真似出来ないような手早い対潜行動により、1体ずつ確実に仕留めていく。

 爆雷が爆発するたびに、海が揺れるような振動が足下で起きた。それにより倒せたかは定かではなく、それがわかるのはソナーを使っている2人のみ。

 

「2体撃沈。残り1体」

「……えっ。急浮上!」

 

 3体のうち、残り1体が浮上してきた。雷撃などを警戒するために一時的に陣形を崩して全員がバラける。

 しかし、魚雷が発射されるようなことは無く、突如私の目の前に姿を現した。

 

「げっ!?」

 

 そして、長い黒髪の奥にある濁った瞳で私の姿をジッと見つめてきた。私が私であることを確認するように、手早く上から下までしっかりと。

 怖気が背筋を伝うような感覚だったが、何度も動揺なんてしていられない。海中という絶対的アドバンテージを捨ててまで海上にまで浮上してきたのだから、それ相応の接待をしてやらなくては。

 

「この……!」

 

 備え付けの主砲が即座に反応し、その潜水艦に向けて放たれる。狙いは完璧だった。だが、撃った瞬間に海中に潜ってしまい不発。海上での回避の先読みはさんざん訓練しているが、()()()()()は考えていない。

 

 だが、最後。あの潜水艦は確実に()()()()()。私を確認出来たことで目的が達成出来たのか、声こそ聞こえなかったが確実に喜んでいた。

 

「ごめん、逃がした!」

「逃がしません!」

 

 そこへ磯波が爆雷を投下。小さく振動し、海が静まり返る。

 

「3体目も撃沈、戦闘終了です」

 

 現れた潜水艦はこれで終わり。しかし、本当に現れた。そして私の存在も気付かれた。

 ならば、敵の後発組も考えられるだろう。殊更に警戒しながら、陣を組み直す。

 

「ゲロ姉大人気だねぇ。潜水艦が浮上してくるなんてさ」

「全く嬉しくはないね。ちょっと私魅力的過ぎ?」

 

 秋雲にちょっかいをかけられるが、それに対して私も軽く返しておく。軽口を叩いておかなくては、気が気でない。

 正直な話、目の前に急に潜水艦が現れるのは心臓に悪い。ただでさえ外見がホラー映画みたいな奴なのに、それに狙われているとか余計に怖い。

 

「第二波の可能性はある。調査を続行するため、警戒を厳にせよ」

「了解」

 

 引き寄せるための敵艦隊はまだ来ていないため、それを誘うためにも調査は続行。あわよくば巣まで発見したいところである。

 

 

 

 だが、本陣とは真反対のところにも私を狙うものがいるという事実はこれにより確認出来た。敵の巣が大規模なのか、それとも点在するのか。それはまだわからない。

 




突然潜水艦が目の前に出てくるとか、それはそれでフリーホラーゲームみたいな流れ。追われるでも無くただただ見られるのもそれはそれで怖い。
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