異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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病みに潜む姫

 私、陽炎を餌に使った調査任務中、予想通り深海棲艦が現れた。前回ここで見られたという海上の艦ではなく潜水艦が3体現れたが、元々対潜装備をしていた磯波と神州丸さんが的確に対処したことで逃がすことも無かったのだが、最後の1体は急浮上した挙句に、私を確認してから沈んでいった。

 案の定、ここで現れた深海棲艦も赤い深海棲艦に関係していることがわかる。そうでなければ、わざわざ私の間際に来たというのに一切の攻撃をせずに撤退しようとなんてしない。あそこまで近付いたのだから、敵対しているのなら私に雷撃していてもおかしくないのに、それをしなかった。

 

 戦闘が終了したことで、本来の目的を再開。海域調査と共に、敵の誘き出し。

 

「最後、アイツ笑ってた」

 

 あの潜水艦、最後に笑って沈んでいった。私の姿を見たことが喜ばしいのか、むしろその先があるのか。私の不安を煽ることに特化しているような行動である。死にゆくものが笑顔というのはそれだけでも怖い。

 

「気にすんな。深海にはそういう奴らもいる。高笑いしながら死んでいく奴なんてのもいるくらいだ」

「うわ、それ見たくないなぁ」

 

 木曾さんはそういう輩も見たことがあるらしい。特に姫ではないところの深海棲艦、いわゆるイロハと言われる連中は、そういう傾向があるのだとか。笑いながら戦闘し、笑いながら沈んでいく。生理的に嫌悪感を与えてくることに特化しているような連中。

 最後の笑顔はそのうちの一種なのかはわからないが、今は気にしない方がいい。これから戦っていく相手は毎回こんなのばかりだと思うと、これを意識してしまってはまともに戦えなくなる。それはよろしくない。

 

「全く、私にトラウマでも植え付けたいのかな」

「潜水艦がわざわざツラ見せてお前に圧かけに来た理由はわからないが、今は忘れとけ。誰も傷つかなかった。それでいい。割り切れよ」

「うん、そうする。あれは多分、私に対してお前を見ているぞって言ってるんだと思うから、あっそで済ませるくらいで」

 

 簡単に無視出来る問題ではないが、今は木曾さんの言う通り忘れよう。夜眠れなくなるのなら誰かを頼ろう。幸い、添い寝要員は沢山いる。

 

「これだけで終わるとは思えないからな。周辺警戒、お前もしっかりやっとけ」

「了解。今日の私は餌だからね。ちゃんと引き付けないと」

「ああ、頼むぜ。下手したら姫とか出てくるかもしれないからな」

 

 それはあまりにも大物が釣れすぎなのでは。

 

 

 

 調査しながら領海の外を進むうちに、太陽は天辺を越えた。さすがに諜報部隊も休憩は必要なため、ここで昼食。速吸さんが持たせてくれたおにぎりと手製のお漬物に舌鼓を打ちつつ、今後の方針を相談する。

 今は電探を動かしつつの休憩。海底の調査もせず、由良さんの水偵も手元に戻ってきている。

 

「おそらく今いる位置が、先の潜水艦がソナーに引っ掛かったところでありますな。方向的にはこちらであっているはず」

「なら、もう少し外まで行きますかね。離れすぎても戻れなくなりますし」

「暗くなったら写真もスケッチも難しいからねぇ」

 

 夕方になるまでなんて言ってると、夜の暗闇の中動くことになる。それは出来ることなら避けたい。そのうちそういう戦いもあるかもしれないが、今はわざわざそれを選択する理由がない。

 そもそも夜にやる調査なんて精度が低くなる。秋雲が言うように、データを残す事も難しくなるため、そんな時間にやるくらいなら後日に回した方が後々のためになる。

 

「あと2時間程度で撤収するであります。それまで皆、よろしく頼むぞ」

 

 全員が昼食を食べ終えたことを確認し、早速調査再開。行けるところまでは行くということで、どんどん未知の海域を進む。

 ずっと代わり映えの無い風景が続いているわけなのだが、私としては意外と楽しかったりする。緊張感はあるものの、こうやって潮風を受けているのは好きな方。戦いさえなければこんなにも楽しいのに。

 

「こっちの方は海ばっかりなのかな」

「確か島とかは無かったはずだよ。()()()()()()、しばらくは海しかないんじゃないかな」

 

 こういうことに詳しい文学少女の沖波に説明してもらう。小説だけでなく、そういった海図とかまで目を通しているとは。文学少女というか、本そのものが好きなのだろう。私の知っている時から随分と読み込んだようである。

 

 この辺りには無人島とかそういうものも無いらしく、何処まで行っても海一色らしい。深海棲艦が出現する前の地図ではそうなのだとか。

 ただし、未知の海域になってしまっているため、変動がある可能性は大いにある。それこそ、深海棲艦が現れたことにより、本来無いはずの島が現れたりしているかもしれない。それが拠点になってるなんてことも。

 

「島が現れるっていうのもあるんだよ」

 

 古参の磯波はその辺りも知っている。むしろ戦ったこともあるらしい。

 深海棲艦には私達のような艦の者もいれば、島そのものが本体というとんでもない輩もいるのだそうだ。資料室でも種別のところに『陸上施設型』という不思議な項目があったが、本当に何も無いはずの海の上に新たな島が出来ているのだそうだ。艦娘とは比べ物にならない規模の話である。

 代わりにそういうのは侵略の仕方が独特らしく、あまり行動的でも無いようで、準備をしっかり整えてから立ち向かうことが出来る分少しだけ安心。島が巣でもあるため、そこのボスを倒してしまえば巣も滅ぼせるという一石二鳥な相手。

 

「こっち側にはそういうのがいる可能性もあるってことか」

「かもしれないね。爆雷はともかく、魚雷とかも全然効かなくなっちゃうから、そうなったらすぐに撤退かな」

「そうか、魚雷が島に当たっちゃうから意味が無いんだ。それはそれで厄介だなぁ」

 

 こちらの巣のボスがそういうタイプの場合、まず木曾さんが機能不全を起こす。斥候などは沈められるが、ボスそのものには一切のダメージが与えられない。正直それで無いことを祈るしか無い。

 なんて言っているとフラグを立てている気がしてならないので、なるようになれである。何も無いが一番いいのだが、あの潜水艦の時点でそれは無いし。

 

「水偵から反応。今度は海上艦の部隊が来たみたい」

 

 潜水艦の次は海の上。ソナーで調べていた2人は気付くことなく、電探を常に動かしていた沖波も気付かず。より遠方にまで飛ばせる水偵が一番最初というのも仕方のないことである。

 

「ならばまだ遠いということか。それがわかっただけでも今回の調査は上々でありますな。では、迎撃をよろしく頼む」

「あいよ。どんな奴らか知らないが、陽炎狙ってんのならお帰りいただかないとな」

 

 一斉に迎撃準備。その間も由良さんが水偵から情報を聞き続ける。

 

「……ちょっと厄介かも。準備が足りないかもしれない」

「敵部隊は?」

「姫がいるみたい。あと駆逐艦2体と、()()()が3体」

 

 案の定である。先程の潜水艦から連絡を受けたのか、まだまだ見当たらない巣から、姫が直々に来てしまった。あの痴女と似たようなもので、わざわざ私の姿を見に来たということだろうか。

 だが、聞き慣れない艦種が聞こえた。そして、それを聞いて夕立以外の全員が顔を顰めた。

 

「夕立、小鬼ってわかる?」

「わかんないっぽい。艦でもないよね」

「ぶっちゃけ姫より面倒くさいぞ。こっちにはそういうのがいるのかよ」

 

 木曾さんも舌打ちしながら対処法を考えている。

 

「小鬼群っていうのは、魚雷艇っていう深海棲艦なの」

 

 簡単に言えば、やたら小さく素早い敵の軍隊みたいなものらしい。3匹で1体分であり、大きさは3匹纏まってうちの海防艦と似たようなものくらいというので、動き回る赤ん坊みたいなものか。それはそれで恐ろしい。

 そいつらの一番厄介なところは、すばしっこいこと。とにかく避ける。これに尽きるとのこと。

 それだけ聞くと、確かに姫より面倒くさい。姫の方にもあの痴女のように当たっても傷一つ付かないという面倒くさいものがいるが、そもそも当たらず、ちょこまか動き回り、何よりそれが姫と共にいるという状況が厄介。

 

「うわぁ……それはホントに嫌だなぁ」

「むしろ、ゲロちゃんなら戦いやすいんじゃないの? 精度凄いし」

「予想出来れば当てられるかもしれないけどさ。そもそも初めて見る敵が凄く速いってなったらどうすりゃいいのさ」

 

 備え付けの主砲なら動きが読めれば当てられるかもしれないが、全員が顔を顰めるくらいなのだから余程なのだと思う。

 だが、弱気になっていてはいけない。そんな敵でも初見で撃破出来るくらいにならなくては。

 

「来たぞ! 戦闘態勢!」

 

 水平線の向こう、確かにやたら小粒な敵部隊がこちらに向かってきていた。

 駆逐艦は私が前に見たような魚の化け物みたいな奴だったが、その前にいるのがさっき言っていた小鬼群という奴らだろう。鬼のような仮面を被った赤ん坊みたいなのが3匹1組で蠢いていた。よく見ればへその緒のような艤装を持つ奴もいる辺り、本当に赤ん坊なのだと思う。

 

 そして、姫。病的な色白なのは同じなのだが、以前の痴女より見た目は若く、私や夕立と同い年くらいに見える。スカートすら無いボロボロのセーラー服をみるかぎり、あれは駆逐艦の姫なのかもしれない。

 何より目立ったのは艤装。どう見ても筋肉質な腕が生えていた。深海棲艦というのは異形が多いというのはわかっていたが、私達と同じような外見でアレだと流石に感じるものがある。

 

「噂ニハ聞イテイタケレド、本当ニイタワ。()()()()()()()()()

 

 ニチャッと気味の悪い笑みを浮かべながら私を舐め回すように見つめる。今までの深海棲艦、特にさっきの潜水艦と同じ視線を感じた。怖気が背筋を走るような感覚だが、怯んではいけない。

 相変わらず私のことをはっきりと陽炎と呼んでくる。痴女もそうだった。なんだっけか、日天の前を疾る陽炎だったか。そしてこちらは日の下に出ずる陽炎。まるで、太陽があるから私がいるかのような呼び名。

 

「アンタもあの赤い深海棲艦の仲間なわけ?」

「アア、会ッタコトハアルワ。()()()()ノコトネ」

 

 夢の中で自分のことを日と言っていたが、この姫にも太陽と呼ばれている辺り、自他共に認める存在なのか。

 つまり、私はあの赤い深海棲艦がいるからここにいると言っているわけだ。気に入らない。

 

「私ハネ、夜ガ怖クテ怖クテ仕方ナイノ。ダカラ、太陽ガ大好キ。私ノ恐怖ヲ払ッテクレル太陽ガ。貴女モ近シイ存在ナンデショ? ネェ、陽炎?」

 

 濁った瞳で見つめてくる。

 

「私ハ、貴女ガ欲シイノ。近クニ置イテオケバ安心デキル、ソウ思ウノ。ズット日ノ下ニイタインダモノ。早ク、早ク()()()()。目覚メレバ貴女ハ、()()()()()ナンダカラ!」

 

 そうなんじゃないかと薄々思っていたが、コイツの発言でよくわかった。私の中にある何かが目覚めた場合、私は深海棲艦と同じようなものになる。それこそ、深海棲艦そのものになってしまうかもしれない。

 そんなことになってたまるか。深海棲艦は私が憎むべき存在だ。殲滅すべき存在だ。侵略者になんてなるものか。

 

「嫌だね。私は艦娘の陽炎。そんな厨二くさい言葉の陽炎じゃないっつーの」

「フフフ、ソンナコト言ッテイラレルノモ今ノウチ……()()()()()()ガスルワ。心地良イ、()()()()()、ハァア、堪ラナイ」

 

 心底気持ち悪いと思ってしまった。私を見て恍惚とした表情まで浮かべ始めている。そうか、これが俗に言うヤンデレというヤツか。そんな輩は無縁だと思っていたが、目の当たりにすると嫌悪感が凄まじい。

 

「ソノタメニハ、周リノ邪魔者ヲ始末シナクチャイケナイワ。陽炎ハ私ガ手ニ入レルノ。ズット傍ニ置ク。アッハハ、ソレガイイワ。日ノ下ノ陽炎ガイルンダモノ、夜モ怖ク無クナルハズ。フフフ、ハハハ」

「初めて会ってるのにそこまで言う奴は気持ち悪いだけだよ」

 

 そしてこのタイミングで空気の読まなさに定評のある夕立が、姫に向かって主砲を放った。会話なんてクソ食らえ、今までは情報を聞き出せるかもしれないと我慢していたようだが、我慢も限界に達したようだ。いいぞ狂犬、それでこそ夕立。

 しかし、夕立の砲撃は艤装から伸びる太い腕に阻まれる。見た目通りの剛腕。直撃しても傷一つ付いていない。

 

 その姫は夕立を睨み付ける。私に向ける視線とは真反対の、侵略者の顔。敵意剥き出しの怒りと憎しみを含んだ瞳。

 

「私ト陽炎ノ邪魔ヲスル奴ハ全員殺スワ。マズハ貴女ネ、犬ッコロ」

「心底気持ち悪いっぽい。さっさと沈んでよヤンデレストーカー」

 

 戦いの幕は切って落とされた。ここでこのヤンデレ姫を何とかしないと、今後が大変そうだ。

 

 こんな奴にモテたくはなかった。もう少し普通な女の子の人生を歩けると思ったのだが、そんな事はなかったようだ。

 




駆逐艦の見た目と艤装から伸びる太い腕、そして夜嫌いということで、この姫がどちら様かはわかると思います。主人公が陽炎の時点で切っては切れない存在ですしね。妹の現し身みたいな奴ですし。
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