異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
諜報部隊と領海の外を調査中だった部隊の前に現れたのは、まだ調査の範囲に入っていない巣からわざわざやってきた姫だった。私、陽炎の因縁の相手、赤い深海棲艦と面識があり、私に施された『何か』のことまでしっかり把握していた。
その施された『何か』が目覚めてしまうと、私は赤い深海棲艦と似たような存在、むしろ深海棲艦そのものになってしまう可能性が出てきた。奴が言うには、既に私からは深い海の匂いがすると言っている程だし、困ったことにその目覚めの時は近いのかもしれない。そんなこと絶対にさせないが。
それを待ち望む敵の姫は、随分と私に固執、いや、
「私ト陽炎ノ邪魔ヲスル奴ハ全員殺スワ。マズハ貴女ネ、犬ッコロ」
「心底気持ち悪いっぽい。さっさと沈んでよヤンデレストーカー」
そのヤンデレ姫に対し、真っ先に喧嘩を売ったのが夕立である。会話もそこそこに空気を読まず砲撃をかましたが、艤装から生えた剛腕に一撃は阻まれる。
そしてそれがこの戦いの火蓋を切る一撃だった。敵を殲滅しようと一斉に動き出す。
「由良と沖波は駆逐艦をやれ! 陽炎は秋雲と小鬼だ! 磯波は神州丸と対潜警戒! 青葉、俺と夕立とあの姫をやるぞ!」
木曾さんがこの一瞬で全員に指示。さすが旗艦、適材適所を見極めて配分した。
夕立はヤンデレ姫に喧嘩を売ったため、おそらく照準を定められ続けている。戦闘センスが桁違いだとしても新人のうちだ。火力の高い木曾さんと青葉さんでサポートする。
沖波は防空装備なので、それでも処理出来る駆逐艦へ。由良さんもそこに入っているのだから心配はいらない。磯波は対潜特化のため今は戦闘に入りづらい。同じく神州丸さんも相当厳しいため、この戦いからは一歩引いて、外部からまた潜水艦が来ないように警戒に努める。
そして私と秋雲は、あの厄介な小鬼群の処理である。2人で3組を撃沈する必要があるのだが、本当にちょこまかと動いているため、狙いが定めづらい。
「秋雲、こいつらと戦った経験は!?」
「あるけど、今の装備じゃあちょいとキッツイかな。上手いこと狙い定めて撃って! 秋雲さんにゃ見張員ちゃんがいるけど!」
秋雲の肩には見覚えのない妖精さんが立っていた。諜報部隊の調査隊ということで周囲を見張るための妖精さん、その名もそのまま見張員妖精。秋雲はその妖精さんの力により、命中率を底上げしているらしい。
私にはそれが無いので、結局は目視。手持ちの主砲では狙いを定めても次の瞬間に別の場所というのがザラ。非常に鬱陶しい。
「ああもう! 違う人狙うんじゃないよ!」
怒り任せに撃っても当たらないため、冷静にならなくては。だが、私が当てられないと他の人に被害が行ってしまう。
困ったことに、あちらの深海棲艦はあのヤンデレ姫の考え方が全て行き渡っているのか、私に対して全く攻撃をしようとしてこない。小鬼群は秋雲一点狙いで確実に始末しようと動いている。稀に魚雷が木曾さん達の方へ向かうため、あちらの戦いも邪魔して本当に面倒くさい。
「ゲロ姉! そいつら割と動きわかりやすいから! ただ速いだけ!」
「んなこと言われたって、さっ!」
小鬼群の1体に狙いを定め、備え付けの主砲を放つ。しかし、それはヒラリと躱され、挙句にこちらに向けてケタケタ笑ってきた。挑発のつもりなのか、遊んでもらっていると思い込んでいるのかはわからないが、とにかくこちらに対して冷静さを失わせる行為しかしてこない。
いや、これは今こそ私の本来の戦術を試すときだ。思い立った瞬間、手持ちの主砲を小鬼群に向ける。3体いるのだ。その中心に向けて放てば、ブレ弾になるお陰でどれかに当たるのではないか。そうでなくても、大きく回避する必要が出てくる。なら2撃目が当てやすくなるだろう。
「行けーっ!」
3体1組のど真ん中を狙うように手持ちの主砲を放った。私が意図しない程に見事に弾が荒ぶり、回避方向に困った小鬼群の1体がギリギリ回避。そのタイミングで備え付けの主砲で撃ち抜く。瞬間、沈んでいきながら霧散。1体やられたことで機能がおかしくなったか、動きが悪くなったため、そのまま備え付けの主砲で残りの2体も沈めた。
今まで何度も訓練してきたこの2撃必殺が、こんなに役に立つ時が来るとは思わなんだ。小鬼群のためにあるんじゃないかと思える。
「グッジョブゲロ姉! 初見で小鬼群やれるなんて最高だよ!」
言いながらも秋雲は器用に1組を沈めていた。見張員妖精さんの効果は絶大らしく、素の状態でやるより数倍狙いやすくなるそうだ。
これで残り1組。相変わらず私の方を狙いもせず、秋雲の方にばかり向いている。私としてはありがたいかもしれないが、そこまで嬉しくもない。私ばかり無傷で周りが傷付いていく姿は見たくない。
「さっさと片付けて、木曾さんのヘルプ入るよ!」
「オーライ! ゲロ姉ブレ弾!」
「オッケー!」
初めてとは思えないくらいの連携が出来ていると思う。私がブレ弾で小鬼群を翻弄し、秋雲がその隙を突いて1体沈める。そして残った2体を平等に分け合って撃沈。2人で小鬼群3組の処理に成功した。
たったこれだけかもしれないが、私にとっては大きな進歩。他の艦娘達が面倒くさいと言う敵を自分の手で撃破出来たのは自信にも繋がった。
この時には由良さんと沖波も駆逐艦を沈めた後。私達が苦戦しなかったので、すぐさまヤンデレ姫の方に向かうことが出来た。
幸いなことに、新たに潜水艦が来るようなこともない。神州丸さんと磯波は常にソナーを使っての対潜警戒中だが、反応も無いようだ。
「周りのはやった!」
「いいぞっ! あとはお前だけだぜ」
順調に進んでいたためか、ヤンデレ姫は未だ無傷。それと戦っていた3人も無傷ではあるのだが、3人がかりでも傷一つ付けられないとなると、やはりアレは性格に難があっても姫は姫。周りが小粒でも本人が尋常で無いのなら巣も安泰なのだろう。なんて酷い在り方。
「コイツ、言うだけのことはあるっぽい。強い……!」
「駆逐艦らしからぬスペックですねぇ。あの背中の腕、どうなってんでしょうね!」
夕立も青葉さんも間髪入れずに主砲を撃ち続けているが、それを物ともせずに艤装の両腕で弾き飛ばしていた。駆逐艦の主砲ならまだしも、重巡洋艦の主砲すらも軽々と受け止めるこの異常な硬さ、深海棲艦ならではの艦種詐欺。
私の姿が目に入った途端、他の仲間達が目に入っていないかのように笑顔でこちらを向いてきた。相変わらず瞳は濁りに濁っている。その間も夕立は撃っているのだが、邪魔者を排除するかのようにその剛腕に直付けされた主砲を放っていた。
その場から動くのは木曾さんの魚雷が放たれた時だけ。それすらも自分に辿り着く前に主砲で破壊している。3人がかりでも攻撃が全く届かず、逆にその攻撃量で押し返される程である。
「陽炎、私ノ方ニ来テクレタノネ」
「アンタが仕向けた奴らは全部沈めたよ。私の仲間はやらせはしないから」
由良さんと沖波も合流。これで7対1。本来ならこれで集中攻撃をすれば、苦労せずに倒せるだろう。
「マダ目覚メナイノ? コンナニ濃クテ、イツマデモ嗅イデイタイ匂イガスルノニ。弱者ヲ踏ミ躙ル快楽ヲ知ッテモマダダメ?」
奴の言い分から考えるに、私が深海棲艦を沈めれば沈めるほど、目覚める可能性も高くなるような感じなのか。勝利の喜びそのものが、蓋を開ける1つのきっかけになりかねないと。
そんなことで私があちらに倒れるわけ無いだろう。深海棲艦を沈めるのは、この世界を護るため。あちらが来るのだから、こちらも抵抗しているだけだ。沈めることに快感を得るようなサイコパスでは無い。
「私は目覚めないよ。アンタより仲間の方が大事だから」
「ヤッパリ他ノ連中ガ邪魔ナノネ。ソレシカ無イワヨネ。デモネ陽炎、貴女ハ私ダケヲ見ルヨウニナルワ。太陽ノ姫ニモ渡サナイ。目覚メタラ陽炎ハ私ノ伴侶ニナルノ!」
行き過ぎた妄想を垂れ流し、自分の言葉に酔いしれて恍惚とした表情に。私と添い遂げる妄想に浸り、ビクンビクンと震える程に。軽く息を荒げているようにすら見える。
私の意思など関係なく、自分の願望が必ず叶うと思い込むその姿が、心底気持ち悪かった。あちらは快感で震えているが、私は怖気で震えそうだった。
「ソノタメニハ、早クコイツラヲ殺サナクチャ。仲間ガ無残ニ死ヌ姿ヲ見レバ、目覚メルカモシレナイモノネ。見テテネ陽炎、私ガ全員殺スカラ」
「気持ち悪い。沈むのはアンタだよ。私の仲間を嘗めるな」
雷撃1人、砲撃2人の状況で全てガードし続けつつも反撃が出来ていたわけだが、その人数が単純計算で今までの倍だ。私は新人で、夕立はセンスだけの中級者ではあるが、それだけ人数がいれば押し込むことだって出来るはず。
「陽炎ガ見テクレテイルンダモノ。本気デ行カナイト失礼ヨネ。ッフフフ、アッハハハ!」
私が見ていなかったからやる気が出なかったと言わんばかりに高笑い。
「マズハ貴女ッテ言ッタワヨネ、犬ッコロ!」
「ぽい!?」
未だ砲撃をやめない夕立を睨みつけ、その剛腕を海面に叩きつける。見た目に違わぬその衝撃により、姫を覆い隠すほどの水飛沫が巻き上がった。それでもそこにいるのは変わらないのだから、夕立は構わず撃ち続ける。
しかし、それを見越して今の行動をしたに決まっているのだから、そのままにしておくわけにはいかない。水飛沫の中心に向けて、全員が一斉に砲撃を開始した。
「ッハハ、見テテネ陽炎、私ガ蹂躙スルトコロヲ!」
その水飛沫がさらに弾けたと思った瞬間、夕立の真正面に姫が突っ込んでいた。砲撃すらも放棄して、その剛腕が届くような位置に。
砲雷撃戦がメインであり、こんな近距離にまで敵が近付くことなんて想定していない。それ故に、夕立も対応が遅れる。
「マズハ、1人目……♪」
「ぽっ……!?」
その拳が夕立の腕にめり込んだ。アレほどの水飛沫を立ち昇らせる一撃を放てる拳が打ち込まれたことで、夕立は海面を滑るように吹き飛ばされた。主砲を持つ腕はその衝撃で折れてしまい、再起不能の状態。艤装のおかげで一撃で死ぬようなことは無かったが、殆ど瀕死と言っても過言では無い状況に持っていかれてしまった。
「次ハ誰ガイイカシラ。ドウセ全員殺スケド。ア、陽炎ハ殺サナイカラ安心シテネ。ミンナ殺シタラ、イッパイ愛デルノ。フフフ、キスナンテシチャッタリ、ソノ先マデ、フフフフフ、私ノ手デ悶エル陽炎、可愛イワヨネ、キット! アハハハ!」
ヤバイ、本能的にコイツはヤバイと告げている。私が見えているようで見えていない。妄想に取り憑かれ、私と添い遂げる理想だけを延々と呟き続けている。
「ま、まだ……まだ動けるっぽい……! 夕立はまだ、負けてない……!」
「無理しちゃダメ。退避しなさい」
由良さんが夕立に駆け寄り、追撃を警戒しつつ戦場から離れる。意思はあれど、あれではもう戦えない。
「次ハ貴女カシラ。魚雷、鬱陶シインダモノ」
「俺かよ……!」
すかさず魚雷を放っていたが、それを
「頭ヲ握リ潰シタラ死ヌワヨネ。頑丈ナ艦娘トイエドモ!」
「させるかよ!」
ここで腰に差していた軍刀を抜き、ヤンデレ姫の一撃を受け止めた。正直飾りだと思っていたその近接武器により、致命傷を抑えることには成功。しかし、あの剛腕はそれだけでも相当な質量のある物体。艦娘といえど、細腕で且つ軍刀1本では抑え切ることなど出来ず、衝撃で吹き飛ばされた。それにより軍刀も粉々に砕け散る。
「全部、全部壊セバ、陽炎ハコチラニ来ルワ!」
踊るように跳び、今度は青葉さん。そちらには拳ではなく主砲をばら撒いた。回避出来るくらいの密度ではあるものの、猛烈に接近しながらの砲撃のため、圧で行動が鈍くなってしまう。
「か、勘弁してもらえませんかね!」
「ダァメ。陽炎ノタメダモノ。貴女ノ命ガ目覚メノキッカケニナルカモシレナインダカラ、大人シク死ンデネ?」
砲撃の回避方向を見越したかのように跳び、青葉さんにもその拳が叩き込まれる。私のところにまで骨が軋む音が聞こえた。
「な、なんなの、アイツ……」
「アハハハハ、陽炎ガ私ヲ見テクレテルワ! モット見テ、ソシテ好キニナッテ、愛シテ、愛シテ、ドロドロニ蕩ケ合イマショウ!」
「そうはさせないわ」
刹那、強烈な火力の砲撃がヤンデレ姫を襲った。さすがの奴もこれには回避行動。
「誰? マタ私ト陽炎ノ仲ヲ裂コウトスルノガ来タノ?」
砲撃の飛んできた方を振り向く。そこには、私達の待ち望んだ姿。
対潜警戒をしながら神州丸さんが呼んだ第二陣。うちの鎮守府の主力部隊である。
「うちの子達を虐めてくれたみたいだけど、貴女、どうなるかわかってるでしょうね」
「夕立が世話になったみたいだから、頭が出てきてあげたわ。親分なんて呼んでくれるんだもの。部下のケジメは私がつけなくては」
陸奥さんと霧島さんを筆頭とした部隊が、この戦場に到着した。
ヤンデレ姫は書いていてとても楽しい。