異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
「うちの子達を虐めてくれたみたいだけど、貴女、どうなるかわかってるでしょうね」
「夕立が世話になったみたいだから、頭が出てきてあげたわ。親分なんて呼んでくれるんだもの。部下のケジメは私がつけなくては」
陸奥さんと霧島さんを筆頭とした部隊が、この戦場に到着した。
既に夕立と青葉さんは戦闘不能。特に青葉さんは横っ腹を強くやられたか、気を失ってしまっている。木曾さんも咄嗟に軍刀で受け止めたが、ヤンデレ姫の剛腕を受け切れずに軍刀を叩き折られると同時に吹き飛ばされており、戦闘不能では無いにしろ怪我をしているような状態。
その状況を見て、陸奥さんと霧島さんが冷たい表情でヤンデレ姫を睨み付ける。鎮守府にいる時にあんな顔は見たことが無い。
「お、親分……夕立、まだ……まだ戦う……」
「その怪我じゃもう無理よ。夕立、今は退避しなさい。貴女の無念は私がちゃんと晴らすから」
「……ぽい」
霧島さんに言われてしまったら従うしかない。それだけ慕っているのだから、夕立も素直に諦めた。涙目だったが、触れることは出来ない。悔しくて悔しくて堪らないのは、私、陽炎を始めみんながわかっている。だが、今のまま無理して戦っても、命を落としに行くようなものだ。
「イッパイ来タワネ。デモ全員殺スワ。ミンナ殺シテ、陽炎ヲ私ノモノニ……ッフフ、アッハハ!」
「向こう側の痴女も大概だけど、こっちも大概ね。おかしなのにモテてるわねぇゲロちゃんは」
「嬉しくも何ともないよ」
援軍は、超火力の陸奥さんと霧島さんに加え、空襲のための天城さんと隼鷹さん、そして衣笠さんと加古さん。鎮守府で出来る限りの最大の火力と万能性が実現した部隊だ。
たった1人の姫に対して過剰戦力に見えなくもないが、7人で囲った状態でも3人が何も出来ずにやられてしまっているのだから、これでも下手をしたらやられかねない。
弱気になってどうする。勝てないなんて思う方がダメだ。命を懸けるわけではないにしろ、ここで私達がやられたら今度は陸がダメになると思わなければ。
「駆逐艦達は怪我人を運んで退避。磯波は対潜警戒は神州丸に任せて夕立を。沖波は木曾、秋雲は青葉について」
現状から新たに指揮を執る霧島さん。だが、ヤンデレ姫からは視線を逸らさない。常に睨みつけたまま、あちらが動くのを待つかのようだった。
ヤンデレ姫の方はというと、陸奥さんや霧島さんに睨み付けられているのも素知らぬ顔で、私を舐めるように見ながらやはり恍惚とした表情を浮かべていた。今の状況が脅威とはまるで思っていない程に余裕。
「コンナニ集マッテ、私ト陽炎ノ門出ヲソノ命デ祝ッテクレテイルノヨネ。フフフ、ソウシタラキット陽炎ハ目覚メルワ。全員ノ死ヲ以テ、貴女ハ目覚メ、二人ノ門出ニシマショウネ」
「アンタさ、私の意思を何にも考えてないけど何様なわけ?」
「大丈夫、目覚メレバ全部変ワルカラ。フフ、可愛イ可愛イ私ノ陽炎ナンダモノ。ソノ時ガ来タラ私ノ言ッテイルコトガ全部ワカルワ」
私に対しては笑顔を絶やさない。それが歪んでいなければまだ可愛げがあったかもしれないが、言動からの嫌悪感でその辺りは何も感じない。ただただ気持ち悪い。これが多分変態というものなのだと思う。
息を荒げながらモジモジしている仕草は変質者そのもの。私という存在が近くにあるだけで悦んでいるようにすら見える。夜が嫌いだから太陽が好きというのはわからなくもないが、私はどうなってもそんな存在ではない。
「御託はいいわね。じゃあ沈みなさい」
奴の言動を最後まで見届けた霧島さんが容赦なく主砲を撃ち放った。今までとは比ではない程の火力により、とんでもない轟音と共にヤンデレ姫に向かっていく。
夕立や青葉さんの主砲は、艤装から生えた剛腕により弾き飛ばしていたが、戦艦主砲の超火力は流石に同じことは出来ないようで、また回避を選択。魚雷を跳び越えながら向かってくるときの速度と同じで霧島さんへ一気に近付こうとする。
「あらあら、野蛮な子。美しくないわ。あっちのおバカもそうだったけど、顔はいいのに中身は酷いものね。赤い深海棲艦と繋がりがある子は全部こんなのばかりなのかしら」
その突撃を食い止めるかのように、陸奥さんも主砲を発射。こちらは霧島さんの一撃より輪をかけて威力が高く、耳をつんざく程の爆音を戦場に鳴り響かせた。
凶悪な一撃を前に、ヤンデレ姫も直撃を免れるために回避しながら、それでもこちらに近付こうとしてきた。
「気持ち悪い女だねぇ。ありゃあ死なないと治んないかな」
「あんな深海棲艦もいるんだね……ちょっと引くわ」
さらに違う方向から加古さんと衣笠さんの砲撃。先程青葉さんの砲撃はその剛腕に弾かれてしまっていたが、戦艦2人の砲撃を回避しながら、軸を90度ズラしたところからの砲撃になったおかげで、こちらの砲撃も回避せざるを得なくしていた。
「障害ガ多イ方ガ陽炎ハ燃エルノカシラ。邪魔バカリデモ、キット私ハ貴女ヲ目覚メサセルワ! 私ノ伴侶ニナッテクレルンダモノ!」
「誰が伴侶か。鬱陶しい!」
私も由良さんと共にまた違う軸での砲撃。正面、真横と来て、斜め前からの砲撃を加え、回避方向を次々と失わせる。
先程までは火力が足りず、ただただ弾かれていたが、戦艦2人が加わったことでそれを覆し、そこに増えた中火力な重巡の砲撃でさらに余裕を失わせ、私の微々たる火力でも思考を乱す。
「忘れてもらっちゃあ困るぜ。天城、やるぞぉ!」
「了解! 最初から、全力で!」
主砲による攻撃が回避されるというのなら、今度は軸を変えた攻撃を追加。隼鷹さんの号令で、空母2人がかりの集中的な空襲が始まる。今回は最初から全て爆撃機にした高密度の空爆。回避方向すら消し飛ばす広範囲の縦軸攻撃である。
これにより3軸全ての方向からの攻撃となる。巣が海底にあるのだから回避のために海中に潜ることは出来るかもしれないが、そんな余裕すら与えない。いくら潜ったとしても、あの爆弾の豪雨からは簡単には逃れられない。
「本当ニ邪魔バカリ! デモイイワ、陽炎、見テイテネ。私ハコイツラヨリ強イッテトコロヲ! ソウシタラ私ノコト、惚レ直スワ!」
「元より惚れてないっつーの気色悪い!」
空爆に巻き込まれ、ヤンデレ姫を中心に次々と爆発を起こしていく。さらにその爆発の中に全員分の砲撃が飛び込んでいき、爆発の規模がどんどん大きくなっていった。
あの近寄りがたい程の大爆発の中心にいるのだから、奴も無事では済まないはずだ。普通の深海棲艦ならまず間違いなく沈んでいる。
過剰とも言える攻撃だが、誰も気を抜いていない。本当に潜り抜けてくるのではないかと内心戦々恐々としているからだ。
「ッハハハハハ!」
案の定、この爆炎の中を突き抜けて霧島さんに突っ込んでいた。身体の所々が焼け焦げ、服も半分近くは燃えていたがお構いなし。身体そのものは多少の傷しか付いていないというインチキ。代わりに艤装は破損が見えていた。
重巡洋艦の主砲を受けても傷が付かなかった艤装も、戦艦2人がかりの砲撃に加え、空母2人による空爆まで受けてやっとコレ。同じ駆逐艦だとしても性能が段違いすぎる。
「貴女ガアノ犬ノ飼主ナラ、責任トッテクレル!?」
「犬って夕立のことかしら。あの子は犬は犬でも狂犬よ。今はアレでも、そのうち貴女の喉元を喰いちぎるわ。でもその前に」
夕立や青葉さんを一撃の下で粉砕したその剛腕を、霧島さんに振りかぶっていた。いくら戦艦でも、アレの直撃を受けたらひとたまりもない。艤装によりパワーアップしているとしても人間は人間。怪我は免れない。
そして、接近戦を想定している艦娘なんていない。だから意表を突かれてやられてしまった。交差点を曲がったらトラックが突っ込んできたようなもの。しかも爆炎を抜けて既に射程範囲内だ。奴はスピードも普通ではない。
だが、霧島さんは全く怯んでいなかった。まるで
「私が貴女を沈めてやるけど」
瞬間、艤装が音を立てて
霧島さんだけは、接近戦をする深海棲艦の存在を意識していたのだ。そのために艤装を改造して、それに対応出来るようにしていた。鎮守府でたった1人の、遠近対応だった。
「貴女も人型なら、首が無くなれば沈むでしょう」
「ナッ、コノ……!」
しかしヤンデレ姫も往生際が悪かった。その鋏の動きに反応して、剛腕を鋏に挟ませる。自分を守るために先に艤装を破壊しようとした。砲撃を受けても傷付かない腕による一撃なのだから、鋏でも破壊することは難しい。むしろ火花を散らしてお互いがギチギチと傷付いていく。
さらにもう片方の腕を振りかぶるが、先んじて霧島さんももう片方の鋏で挟み込んだ。右も左も同じような状態になり、まるで艤装で社交ダンスをするかのように本体が接近。お互いにその手に主砲を持つことはなく、霧島さんは鋏、ヤンデレ姫は腕に主砲が備え付けられているため、砲撃すらままならない。そして近すぎて私達も手が出せない状況。
「生身同士の戦いになったわね。そうなった場合、貴女達深海棲艦よりも、人間の方が優れているの。それは理解してもらおうかしら」
接近戦以上に近い状態で、先に動いたのは霧島さん。ヤンデレ姫の襟首を掴んだかと思うと、思い切り引き寄せて顔面に生身の拳を叩き込んだ。
身長差として、霧島さんがヤンデレ姫より頭1つ分は高いため、振り下ろすかのような拳。
「ッア!?」
「見た目通り、生身は華奢ね。その艤装の腕を封じてしまえば、ただの子供よ」
その子供に対して、胸ぐらを掴んで顔面を殴り付ける様は少し怖い。殆ど無表情でそれを決めていくので、余計に怖い。
それに対してあちらも負けてはおらず、1発はまともに貰ったが2発目はそれをガードしつつ、霧島さんの脛に向けてローキックを決めた。眉をピクリと動かしたものの、霧島さんはびくともしない。
こういう時のために、トレーニングを積んでいたとも言える。体幹を鍛えて艤装の取り回しをより上手く出来るようにするためだけではなく、万が一の接近戦に向けてのトレーニングだったわけだ。
こんな戦いが何度もあるとは思えない。むしろこの1回で二度と来ないかもしれない。それでも、備えるに越したことはない。
「ッノ、私ガコウイウコトヲスルノハ、陽炎ダケナノニ! 仕方ナイワ。今日ハコレデ終ワリニシテアゲル」
負け惜しみのようにも聞こえる言葉の後、突如艤装の剛腕が質量を増した。まさかと思った時には、その拳に備え付けられた主砲諸共爆発。身近にいた霧島さんには堪ったものではなく、鋏による拘束も解けてしまった。
それなのにその爆心地にいたヤンデレ姫は、焦げてはいたもののまるで物ともしていない。自分の爆発なのだから自分にはノーダメージと言わんばかり。しかし武装が無くなったことで、ヤンデレ姫は撤退を余儀無くされた。
「陽炎、今度ハ私カラ迎エニ行クワ。ソレマデニ目覚メテイテネ。ンフ、フフフ、次ハ一緒ニ帰ルノ。ソウシタラ、イッパイ愛シアイマショウネ! ドロドロニ蕩ケルクライニ、イッパイイッパイ愛シアウノ! アハハハハ!」
気持ち悪い捨て台詞の後、そのまま海中へと沈んでいった。そのまま撤退するわけでもなく、おそらくダイレクトに巣に向かったのだろう。
最後まで酷かった。私を見ているだけでも快感を覚えているかのような恍惚とした表情。怪我をしているからではなく、私との妄想を繰り広げながらビクンビクン震えて姿を消した。
これにより戦闘終了。今だけは静かな海が戻ってきた。ここから奴を追って巣を探したいところではあるが、怪我人が出てしまったので一度撤退した方がいいだろう。時間も時間だし、これ以上深追いすると、鎮守府に戻るときには夜になってしまう。
「すぐに撤退しましょう。霧ちゃんもさっきの爆発に巻き込まれたでしょ」
「ええ、最後自爆に近いことされるとは思わなかったわ。眼鏡にヒビが入ってるじゃないの……また整備班の人にお願いしなくちゃ」
怪我人も出てしまった今回の戦闘。一筋縄ではいかないのはわかっていたが、これでも下手をしたら軽い方なのかもしれない。改めて艦娘という仕事の恐ろしさを実感したようにも思える。
変態ヤンデレ姫戦はA勝利で終了となりました。最後まで動く18禁みたいになってましたが、再登場があるかと思うと楽しみですね。