異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
「えっ……ひーちゃん!?」
「おっきー!?」
私はその子を知っている。こうやって顔を合わせるのは実に数年ぶり。ある意味、感動の再会。感動より驚きが勝っているが。
「わ、わ、すごく久しぶり! 5年前くらいだよね、お婆ちゃんに引き取られたのって!」
「そう! うわー、こんなところでひーちゃんに会えるなんて思わなかったよ」
驚きも然ることながら、まずは再会を喜んだ。
その子は私と同じ孤児院出身の子。私のように10年前の始まりの日の被害者では無いのだが、私が孤児院で過ごし始めて3年経ってからやってきた、私と同様の戦災孤児だ。確か年も私と同じである。
そこから2年ほど一緒に生活をしたところで、祖母が迎え入れることが出来るようになったと引き取られて行った。そこから会っていないので、今この時を迎えるまでおおよそ5年は顔を合わせていない。
「お婆ちゃんの家が遠いところで、あっちでもこっちでも少し忙しかったんだ。連絡も出来ずでゴメンね。先生は元気?」
「元気元気。全然衰えてないよ。そっちも元気そうだね」
「うん、お婆ちゃんが本当に良くしてくれて」
親族に引き取られて、そこで虐待を受けるという事件も無くはないが、この子はそういったこともなく元気に過ごしていたらしい。
そのお婆ちゃんがとてもいい人で、なんと学校にも通わせてもらえたとのこと。そこでも何事もなく過ごせたそうなので、親族に引き取られたことで順風満帆な生活を送っていたようだ。
「あの時からちょっと変わってるね。なんか髪の毛の色おかしくなってない? 染めたの? いや、染めたにしては妙な色だけど」
顔を見てすぐに相手が私の知る者であることはわかったのだが、その時から随分とイメージが変わったところがあった。それが髪の色である。
外側はさておき、内側がピンク色に染まっているという普通ではなかなか見られないような色合いになっていた。私の知っている髪色とはまるで違う。
「ああ、これ。艤装とリンクしたら染まっちゃったんだ」
「そんなことあるの!?」
「結構あるよ。夕張さんには一番最初に会ったと思うけど、最初からあの色だったと思う?」
言われてみれば確かに。あの人の髪は染めるにしてもなかなか無いような緑がかった銀髪。血が繋がっているであろう整備長とは似ても似つかない色合いだった。
あれは艤装とのリンクにより身体に出た影響だとのこと。異端児だろうがそうでなかろうが、なる時はなるそうだ。夕張さんは異端児では無いようなので、ただただ艤装に染められただけ。この子も同様のようだ。
「ひーちゃんは……染まってないよねコレ」
「みたいだね。何も変わってないからそういうことがあるなんて気付かなかったよ」
「中には真っ赤とか真緑になっちゃう人とかもいるらしいよ」
それは恐ろしい。この陽炎という艤装が髪にまで影響を与えてくるタイプじゃなくて本当に良かった。真っ白とかでもすごい違和感なのに、パステルカラーになったらどうしていいのかわからなくなる。
いや、そうなってしまった人達のことを卑下するわけではなく、個人的にちょっとなぁと思うだけで、むしろパステルカラーな髪色が似合う人も中にはいるだろう。夕張さんの銀髪は違和感がないくらいに似合っていたし。私にはそういうの似合わないよなぁと。
「沖波、陽炎と知り合いっぽい?」
私達だけの世界になりつつあったところで、夕立に尋ねられた。私とこの子の関係性に興味津々。目をキラキラさせている。
この子はここでは沖波という名前を貰ったようだ。こちらも本名に近い音が使われているようである。艦娘というのはもしかしたらそういう縁のようなものがあるのかもしれない。本名の考察はそれこそ軍規に抵触するだろうから控えるとして。
「あ、はい、前に話したと思うんですけど、私孤児院にいた時期があって、その時の友達です。幼馴染みと言えばいいでしょうか」
「そうそう。私はおっきーが引き取られた後もずっとそこで暮らしてて、今日そこからここに来たってわけね」
本名禁止という軍規はあれど、自分がどう生きてきたかくらいは話してもいい様子。それ以上に踏み込んだところはよろしくないようだが、これくらいは。
まぁここで実は物凄い財閥の生まれだとか、上層部の親族だから逆らえないとか言われても知ったこっちゃない。拒否権があるのに自ら志願したのだから、その時点で自己責任。家のことを振りかざされても困る。空城司令はそういうこと関係なしに動きそうだが。むしろ捻じ伏せそう。
「初めてですね。そういう意味で顔見知りがいるって状況。姉妹とかはたまにあるらしいんですが」
磯波が呟く。鎮守府に顔見知りがいるといえば夕張さんと整備長が該当するのだが、あれはあくまでも親族、血縁関係で一緒に工廠で働いているだけだ。こちらはお互いただの友達。孤児で無ければ出会うことすら無かったであろう仲である。
「艦娘になれるのってすごく稀なのに、友達が同じ場所にいるなんてすっごくレアなんだ」
「そうですね。さらにはどちらも異端児です。沖波ちゃん、確かM型で異常値が出たって」
「あ、そうです。私、M型の同期値が2000近く行っちゃって」
相当大きな数値なのはよくわかった。そして、それだけ数値が大きくても訓練を必死にしないと追いつくことが出来ないということも。
いくら天性の才能を持っていたとしても、それに託けて何もしなければ凡人以下になる。私達異端児はそのタイプなのかもしれない。鍛え上げれば他より伸びやすいとか。
「ひーちゃんも?」
「私はD型の方がマイナスだったんだよね」
「ま、マイナス!?」
磯波と同じ反応。今後話すたびにこういう反応されると思うと、ちょっと気が滅入る。前例が無いというのはそれだけでもなかなかに面倒なことのようだ。
「でも何でそんな数値になっちゃったんだろうね。私ら、何か共通点あるのかな」
「私とひーちゃんは同じ場所にいたっていうのはあるけど……夕立ちゃんと磯波ちゃんは孤児じゃないですもんね」
「うん、夕立は実家あるっぽい」
「私も……ですね」
戦災孤児だから異端児になるというわけでは無いようである。流石に家庭環境で同期値が変わるとは思えないが。ストレスとかが影響しているとしても、私は孤児院で順風満帆に生活していたのだから、そこまで気にならない。
まぁそこは今深く考える事ではないだろう。艤装が動かしやすい。それだけで充分。仲間意識が強くなるだけ。特異体質というのは突然現れてもおかしくない。
「はい、沖波ちゃん。疲れた時には、甘いもの」
「あっ、間宮さん、ありがとうございます」
談笑していたところに間宮さんが最中を持ってきてくれた。ここに来たということは甘味目当てだったとしか思えない。私と話している間に疲れは飛んだようだが、本来の目的はここでやっておかなくては。
訓練で本当に消耗していたようで、甘いものを食べては目を細めて喜ぶ。余程ハードだったのだろう。私もそのうち
「昔のお友達と会えたっていうのはとてもいいことよ。別にこの場所がアウェーってわけじゃないけど、顔見知りがいるだけで生活しやすいでしょう?」
私達の会話を全て聞いていたようで、間宮さんにも言われた。確かに、周囲の者が全員知らない人というのはそれだけでも緊張感があるもの。夕立のように人懐っこい子もいるだろうが、そうでない人というのは仲良くなるまではどうしてもいろいろありそう。磯波とはこれでもう良さそうだけど。
それが薄れただけでも、この再会は喜ばしいものだった。私の新たな生活が、より明るいものとなる。
「沖波ちゃん、本名に繋がりそうだからひーちゃんはやめましょうか」
「あっ、そ、そうですね。ごめんねひーちゃん」
「禁止事項」
「あう」
確かに艦娘をやっていない時の渾名というのは軍規的にあまりよろしくないか。少し他人行儀になってしまうが、今回貰った艦娘の名前が新しい渾名ということで。
「えーっと、沖波?」
「陽炎ちゃん……だったよね。なんか変な感じです」
「私も。顔見知りなのにね」
これは慣れるまでに時間がかかりそうだ。顔見知り故の弊害と言えるだろう。
「じゃあ呼びやすい渾名付けちゃえばいいっぽい」
「例えば?」
「陽炎だからぁ……じゃあゲロちゃん」
夕立が発言した瞬間、磯波が破裂したかのように吹き出した。沖波もゲホゲホ噎せ、間宮さんは苦笑するのみ。食堂ではあまり聞いてはいけない言葉だろうそれは。
あまりにも聞こえが悪すぎる。渾名というより蔑称だと思う。悪気はないし実際今の私の名前の読みにその部分があるとはいえ、流石にそれは私だって拒否する。もう少し何か無いのか。
「磯波、笑いすぎ」
「だ、だって、それは流石に、ひど、酷い」
顔を伏せて震えている。完全にツボに入ったらしい。
「渾名は保留で……陽炎ちゃんで慣れます」
「えー、可愛くない? ゲロちゃん」
2度目の発言で磯波が再び決壊。顔は伏せていても、もう隠さないレベルで笑ってしまっている。笑いすぎで過呼吸を起こしかけているため、沖波が背中を摩ってあげていた。
「ひっ、ひっ、ゆ、夕立、ちゃん、それは、やめて、あげてっ」
「それだと、ほら、ちょっと汚いもの思い出しちゃうでしょ」
「……ああ、ああー、確かに、確かに。配慮に欠けてたっぽい」
気付いていなかったのか。口に出す前に気付くと思うのだが。
「じゃあ、陽炎だからかーちゃん」
3度目の決壊。磯波の腹筋が保たない気がする。こんなくだらないことで陸で沈むなんて勘弁してもらいたい。
まだ短い間だが、夕立の性格は理解出来た。これは基本的にノリで動いてる。思ったことをあまり考えずにすぐに口に出すのみ。多分嘘も吐けない性格なのだろう。
「そういえば夕立ちゃん、ただアイス食べに来ただけなの?」
間宮さんに問われ、一瞬思考停止。本来の目的は、私に鎮守府を案内すること。空城司令に直に通達された任務である。やらなくてはいけないことを思い出した途端、そうだったと思い切り立ち上がる。
「あー! ゴメン陽炎、忘れてたっぽい!」
「そんなことだと思ってたよ。でも、ここに最初に来れたのはよかったかな。磯波と沖波にも会えたし、アイスも最中も美味しかったし。これは最初に知っておいてよかった」
順序が違ったらこんなに上手いこと異端児の駆逐艦と出会うことも出来なかっただろう。最終的には確実に顔を合わせることになるが、同じ何かを持つ者同士、すぐに交流出来たのは良かったと言える。
それに、いきなりこの鎮守府の良さを知ることが出来た。コンディション維持のための甘味がここまで美味しいとは。企業秘密のレシピというのも、いつか聞けたら嬉しい。
「間宮さん、ご馳走様でした。すごく美味しかった」
「ふふ、それは良かった。朝昼晩のご飯も私と伊良湖ちゃんの仕事だから、そっちもお楽しみに」
「楽しみだなぁ。デザートがこれだけ美味しいなら、ご飯も絶対美味しいよ」
間宮さんに礼を言って立ち上がる。片付けは間宮さんがやってくれるというので、お言葉に甘えて食べ終えた食器を渡しておいた。
「磯波、沖波、また後で。まずはここのことちゃんと知らないとね」
「うん、そうだね。これからは仲間だもんね」
未だ笑いが治まらずビクンビクン震えている磯波も、伏せながら手を振ってくれた。これはしばらく再起不能な気がする。磯波は沖波に任せておこう。
「沖波とは積もる話もあるしね」
「だね。孤児院のこと、教えてほしいな。私が引き取られた後どうなったか」
「どうってことないけどね。平常運転でさ。後から話せるだけ話そうね」
ここの生活習慣がどういうものかはまだよくわからないが、夜更かしとかは出来ないだろうし、夜のフリーな時間とかにでも話そう。数分でも時間があれば楽しめそうだ。
「よーし、案内任務再開っぽい!」
「調子いいんだから。じゃあ、お願いね夕立先輩」
「この夕立先輩に任せるっぽい!」
この性格にしては意外とある胸を張って宣言し、自信満々に手を引っ張られた。このコミュ力は凄まじい。時々ちゃらんぽらんなところが垣間見えるが、小動物的な性格でそれを打ち消している。
おそらく夕立は特殊なレベルだと思うが、この調子なら鎮守府の全員と仲良くなることも不可能では無さそうだ。見た感じ消極的そうな磯波もすぐに私と仲良くなってくれたし。
早速出会えた異端児の仲間は、同類だからというのを置いておいてもすぐに仲良くなれた。同じように他の人達とも仲良くなりたいものだ。
夕立:D型8000
磯波:M型D型共に1000
沖波:M型2000
陽炎:D型-20000
陽炎だけ酷い値。これがどんな意味を持つのか。