異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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改二に向けて

 近々鎮守府にまで襲撃してくると宣言した深海棲艦の姫を撃退出来るようにするため、更なる訓練を積むことになった私、陽炎。どうやら私の艤装にはさらなる改装、改二というものが実装されているらしく、それに耐え得る身体を作る必要があるらしい。

 改二というのは艤装からの影響が今まで以上に大きくなるため、心身共に成長しないと艤装を装備することすら出来なくなってしまうらしい。私の場合は影響を私側から与えてしまうので、改二となった場合どうなるかわからない。余計に鍛えておかないと怖い。

 

 今日は早速体力作りから開始する。今までやってきたことをさらにハードにしていくとのこと。それを管理するのは勿論速吸さんである。流石マネージャー、準備万端でいろいろ用意されている。

 

「強めの訓練が必要だと伺っているのは、陽炎ちゃん、夕立ちゃん、沖波ちゃんです。奇しくも全員異端児の駆逐艦ですね」

 

 私含むこの3人は、今はまだでも改二が実装されている艤装を扱っているとのこと。磯波が含まれていないのが残念である。空城司令が選ばれた艤装にのみあると言っていたので、残念ながら選ばれなかったということになるか。

 

 だが、今回の訓練は磯波も参加していた。むしろ駆逐艦全員が参加。本来なら部外者である秋雲ですらでこの場にいる。

 今日の哨戒任務は軽巡洋艦以上の人達が受け持ってくれたとのこと。こういう形で駆逐艦が集まるのは初めてなので、少しワクワクする。

 

「人数がいた方がいろいろやりやすいですし、いっそ全員でやった方がいいでしょう。来ることがわかっている脅威に打ち勝つため、みんなで力を合わせて鍛えることが早く上達する近道でもありますから」

 

 ある意味みんなが私達ハード組に付き合ってくれているとも言える。

 ズラリと並んだ駆逐艦は、私も含めて同じ格好。運動しやすいラフな服装でというのはわかるが、全員がTシャツにスパッツとコーディネートも同じ。いつも制服で肌を一切見せない初月すらそれなので、とても新鮮である。五月雨と菊月もポニーテールだし。

 

「秋雲も参加するんだ」

「たまにゃあ運動しておいた方がいいからねぇ。諜報部隊って、割と身体が鈍ること多いのよ」

 

 資料をまとめるためにデスクワークで1日使うなんてすることもあるらしく、身体を動かしたくなる時も結構多いらしい。今回はその時間に当てるとのこと。実際、軽く肩を回すだけでゴキゴキと骨が鳴っていた。大分凝り固まっているのかも。

 

「それに、この光景眼福だからね。しかも運動続ければ汗かくじゃん。そしたらシャツが透けてさ、確実にいいもの見えるでしょ。それをこの目に焼き付けておこうかなって」

 

 コイツめ、下心もあったか。あのヤンデレストーカーよりはマシだが、みんなを話のネタにするのは勘弁してもらいたい。

 

 

 

 そして始まる体力作りの訓練。ストレッチからランニング、体幹トレーニングといつもの流れなのだが、1つ1つの密度が凄かった。ランニングも周回回数が倍になっていたり、体幹トレーニングもより身体を痛め付けるようなハードな内容になっていた。いくら艦娘だからすぐに身になると言われても、なかなかにキツい。

 最初の頃に比べれば、確かに格段に体力はついていた。まだこの訓練を始めて1ヶ月も経っていないのに、体力も筋力も段違いに上がっていると思う。もう並の人間からは離れているようにも思えた。

 

「っへぇ、キッツイねぇ」

「これは、なかなか、堪えるね……」

「ぽーい……夕立も結構疲れちゃったっぽい」

 

 息荒く休憩中。既にいろんな場所が悲鳴を上げているような気がする。これでもやれる時は毎夜プランクくらいはしているのだが、まだまだ足りないようだった。

 今回の訓練は本格的にハードだったらしく、誰もがゼエゼエと息を切らしていた。それでも改二になるためのハードな訓練というのだから、これでも喜んで続けよう。辛いけど。

 

「はい、皆さんお水ですよ」

 

 速吸さんが全員にタオルと水を配って歩いていた。ほぼ全てに便乗して同じようなことをしていたと思うのだが、ピンピンしているのが恐ろしい。汗一つかいていないというわけではないが、息の乱れを感じさせない。

 これが大人の力なのだろうか。結局のところ年齢を聞くのは怖いのでやめているが。

 

 配られた水をガブ飲みしつつ、タオルで顔を拭く。まだ午前中も終わっていないのに汗だくである。秋雲の思惑通り、みんなシャツが汗で透け始めていた。

 

「眼福眼福」

「そういう目で見ないでよ秋雲」

「作家魂に火がつくんだよう」

 

 そう言う秋雲も同じように汗だく。だが、あまり疲れを見せていない辺り、鈍っていると言いつつも相当鍛えられているのがわかった。敵陣に潜入して情報収集をする諜報部隊の一員なのだから、それなりの力を持っていてもおかしくはないわけだ。

 今回ばかりはスケッチブック持参というわけにはいかないようだが、今の光景をその目に焼き付けているようである。こういうときの瞬間記憶は厄介極まりない。後からイラストに起こすのだろうか。

 

「汗止まらないよ」

「ゲロ姉体力無いねぇ」

「まだ艦娘になって1ヶ月ちょっとなんだから仕方ないでしょうに」

 

 こういうところは艦娘歴が如実に現れている気がする。最古参であり、鎮守府所属の駆逐艦の中ではトップの実力を持つ五月雨や、駆逐艦の中でも古参になる菊月は、既に回復し終わっており、ストレッチを始めているくらいだ。

 

「さすが最古参。復帰早いね」

「こういうこと、もう何年もやってるからね」

「うむ……我々も力をつけるために試行錯誤したものだ」

 

 さすがこの鎮守府を最初から支えてきた者達。長年艦娘をやっているのだから、体力も勝手についてくるというもの。2人にも改二があればとっくに改装出来るくらいの鍛えられ方はしているようである。私もいつかああなれるといいが。

 

「私達だけで出来ることって、最初はあまり多くなくてね。毎日マラソンとか筋トレとかしてたんだよ。提督やしーちゃんにアドバイス貰いながらね」

「おかげで持久力には多少自信がある。全て戦いには必要なものだ」

 

 ごもっとも。私はいきなり艤装をコントロールする手段の訓練から入ったが、まだ手探り状態だった最初期はそういうところから初めていたわけだ。どれも重要なことばかりである。

 持久力に自信があると言うだけあって、もう汗も引いているようだった。私はまだ止まらないというのに。水を飲んだからかと思ったが、それは五月雨も菊月も条件は同じ。

 

「何かコツみたいなのない?」

「日々精進のみだ。この菊月とて、一朝一夕で手に入れた力ではない」

 

 いくら艦娘と言えど、技術とは違う基礎的な部分を鍛えるのは時間が必要ということだ。勿論普通よりは身につくスピードは速いだろうが、それでもじっくり腰を据えてやっていくしかない。何処かに1日入ったら1年分鍛えられる部屋みたいなのがあればいいのだが、それは漫画の中の話である。地道な努力が一番。

 

「さ、続きやりますよ」

「あーい」

 

 休憩時間はこれでおしまい。汗が引くことは結局無かったが、多少は疲れが取れたため、ここからもガッツリ鍛えていこう。

 

 

 

 午後からは今までに無かった訓練、水泳。全身運動になるため、鍛えたいところが身体の全てという私達には持ってこいの訓練である。今までそれをやってこなかったのは、いざ近海に深海棲艦が現れた時に出撃がしづらくなるからだとか。今回はそれでもあえて解禁したとのこと。

 いざというときは水着で艤装を装備して出撃することになる。それはそれで新鮮だが、危険度は当然制服を着ているときとは段違いである。

 

「泳げない人はいないと思いましたが、大丈夫ですか?」

 

 そもそもスタート地点に立てていない者はいない。艦娘という職業柄、万が一の場合は泳いで鎮守府に戻る必要も出てくるだろうから、泳げないわけにはいかない。

 私も泳ぐことくらいは出来る。遠泳とかになると何処まで出来るかはわからないが、必要最低限は大丈夫。

 

「いやもうホント眼福。潜水艦以外の水着姿なんて滅多に見られないからね」

「オッサンか」

 

 秋雲の言う通り、今私達は全員水着姿。速吸さんだけは念のため艤装を装備し、海上から指示する形をとる。

 着ているのは勿論、海上移動訓練の時に着ていた実用性一辺倒の競泳水着である。さっきの運動着以上にスタイルが表に出るため、秋雲がそういうことを言うせいで少し恥ずかしくなる。

 

「それでは、どんどんやっていきましょう。全速力で泳いでくださいね」

 

 堤防から沖へと泳ぎ、また戻ることになる。折り返し地点には速吸さんが待機し、ついでに目印の旗を立ててくれているのだが、それがあるのが水平線のギリギリ。バラエティ番組で見た覚えがあるのだが、確か水平線までは約5kmだという話なので、往復10kmの遠泳。それを全力でやれと。これは鍛えられる。

 

「速吸さんは全力と言っているが、適度に力を抜いた方がいい。力むと溺れるからな」

 

 そう説明してくれるのは初月。なんでも艦娘になる前はこういうことをよくやっていたのだとか。遠泳も経験ありのようで、もしかしたらこの中でも唯一の経験者かもしれない。

 実際、泳いでみると一番フォームが綺麗だったのも初月。見ていて惚れ惚れするような泳ぎっぷりだった。あれは一朝一夕のものではない。艦娘になる前から泳ぎ込んでいるのがよくわかる。

 

「これは、す、すごいね、ひっ、陸でやるより、数倍キツイ……」

「ぽい……ぽい……」

 

 1周終了で殆どの者がへばっていた。それだけでも数時間かかっているわけで、その間殆ど休憩も出来ずに泳ぎっぱなし。全身がおかしくなるんじゃないかというほどに痛い。普段使わない筋肉まで総動員した結果だと思う。それでも誰も溺れなかったし、遅かれ早かれリタイヤ無しで全員ちゃんとやり切っているのはさすが艦娘と言ったところ。

 唯一まだ動けるのは初月のみ。ふぅと息を吐き、もうストレッチを始めている。私達は動くことすら出来ない。正直すごい。

 

「大丈夫か? ゆっくりでいいから身体を解した方がいいぞ?」

「わ、わかってる、けど、まだ息が、整わなくて」

 

 陸ではすぐに回復した五月雨と菊月も、こちらでは大きく消耗。初月とは逆という結果。これは慣れとかそういう問題なのだろうか。どちらでもへばっている私達には無縁の話だが。

 今ばかりは秋雲も黙っていた。水も滴るなんとやらと言いそうだったが、諜報部隊でもここまでのトレーニングは無かったようで、すぐに息が整わない様子。

 

「だから言ったろう。適度に力を抜くんだ。これは戦場でも同じだぞ」

「肝に銘じておく……」

「そうしてくれ」

 

 泳ぐときに力を抜くというのがどうすればいいのかわからなかったため、全員こうなっているのだと思う。常に全力を出し続けてしまっているために全身筋肉痛。疲れも数倍。

 初月の言う通り、戦場でも適度に力が抜けるのはいいことかもしれない。ずっと気張っていると、それだけで疲れてしまう。戦っている最中でも、抜けるところは抜いておいた方がいい。長く戦うためにはそういうところが大事だ。

 

「今回の訓練は少し早いですがこれで終わりましょう。やれるときはまたこれをやっていきますからね」

 

 速吸さんも陸に到着。これで今日の訓練は終了となる。初月以外は立ち上がることも出来ないが。

 

 

 

 そしてそのまま全員でお風呂へ。歩けるようになるまで十数分の時間がかかったが、何とか全員で辿り着けた。湯船に入った途端、全員が全員声が漏れるほど。

 

「これで改二が近付いたのかな……」

「ぽい。すっごく鍛えたって感じするよ」

「私も。疲れが普通じゃないから、身になってる感じがする」

 

 改二候補の3人で、今日の訓練の実感を話す。ハードにするとは言われていたが、ここまでハードとは思っていなかった。今までのトレーニングとは比べ物にならない程。

 

「急ピッチに鍛えるってのはこういうことなんだろうなぁ」

「艦娘だから出来ることだよね……」

 

 そうで無かったら何日もせずに身体が壊れてしまうだろう。あれだけハードでも許可が降りているということは、身体を壊すことがないギリギリを攻めているからだ。

 

「でも、これは毎日続けないと。明日は砲撃訓練で、明後日は雷撃訓練で……」

「うん、夕立も頑張るっぽい! お休み返上っぽい!」

「それは司令が許さないよ。適度に休まないと潰れちゃう」

「ぽい……夕立早く強くなりたいっぽいよ」

 

 こういうところでも焦りは禁物。時間をかけるわけにもいかないが、確実に成長しなくては。

 

 薬湯のおかげで筋肉痛は比較的緩和したが、夜に身体がバキバキだったのは言うまでもない。

 




深海棲艦が現れる海で遠泳とか自殺行為なんですが、鎮守府近海は管理下に置かれていますから、ここでは大丈夫。速吸も折り返し地点から艦載機飛ばしていたことでしょう。
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