異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
改二になるための訓練を開始した私、陽炎。初日の体力作りではハードになると言われていた通り、今までにない疲れを体感することになった。私の他にも夕立と沖波が改二候補であり、それに伴って駆逐艦全員が付き合ってくれたのは嬉しいことだ。本当に持つべきものは仲間である。
その日の夜は酷い筋肉痛に苛まれたものの、疲れが異常だったためにすぐにグッスリ眠ることが出来た。ここまで充実した疲れだと、悪夢どころか夢すら見ることなく朝まで直行。いわゆる爆睡である。
「すごいなぁ薬湯の効果。寝る前まであんなにガタガタだったのに、ガッツリ寝たらちゃんと疲れ取れたよ」
「昨日あれだけハードな訓練したのにね」
朝食の時間、食べながら沖波と昨日の訓練を思い返しながら駄弁る。ああいう詰め込み訓練のようなことはあまりやらないようで、沖波としてはやるのは勿論のこと、見るのも初めてらしい。
ただでさえ10km遠泳とか普通の人間じゃ耐えられない。それを当たり前のように訓練に組み込んできた速吸さんも怖いが。
「今日は砲撃訓練だけど、ハードになるってどんな感じになるんだろ」
「うーん……やっぱり実戦訓練じゃないかな。体力も必要だけど、技術も必要だと思うし」
「だよねぇ」
ここ最近はいつもやっている主砲のみの実戦訓練。それの延長線上になると思う。個人戦もチーム戦もやってきているが、それ以上に変わったことがあるのかも。
改二になるためには艤装の影響に耐えられるようにするために身体を鍛える必要があるわけだが、空城司令は『ある程度練度を上げて、心身共に鍛えてからでないと出来ない』と言っていた。
そのうちの1つ、練度を鍛えるのが実戦訓練だろう。戦いの経験を多く積み、臨機応変に立ち回れるようにすることで練度を上げる。的当てだけでは学べないことばかりだ。
「より実戦に近い訓練をするとか。やれるのなら他の鎮守府と演習っていうのもやってみたいけど」
「秋雲達に頼んでみるのは」
「本来のお仕事とは違う事だからダメそうだよね」
諜報部隊は今日も近海調査。片方は痴女、もう片方は変態と酷い状況ではあるが、ではどちらでもない真ん中の海域はどうなっているのかというのがまだ調査出来ていないため、今日はそれをすることになるそうだ。秋雲も本業はそれなのだから当然それに向かう。
だが、臨機応変を学ぶのなら知らない艦娘達と演習というのはいい刺激になると思う。経験はいくらでも積みたいものだ。
「ぽーい……おはよう……」
「夕立ちゃん全然起きなくて……」
疲れ果てた顔の磯波が、髪の毛ボッサボサの夕立と共に食堂に現れた。今の今まで寝ていたらしい。当たり前だが、今日は休日ではない。私と沖波と一緒に改二になるための訓練である。
私がこうなのだから、夕立も疲れは取れているはずだ。でも理解は出来る。目覚ましのおかげで起きれたが私も爆睡していたのだから、夕立ならこういうこともあり得そう。休み返上でって言ってたくらいだし、もしかしたら昨日は寝る前に部屋で運動とかしていたかもしれないし。
「ほら、今日も訓練だよ。さっさと目を覚ましな」
「ぽーい……あ、いい匂い」
まだ寝ぼけ眼ではあるが、朝ご飯の匂いでどうにか目を覚ますことが出来たようである。
そして砲撃訓練。私を含む改二候補の3人は、しばらくは同じ訓練を受け続けることとなる。
だがそこで少し予想外のことが起きた。いつもなら阿賀野さんに見てもらっていたのだが、今日はお休み。それなら由良さんとか、重巡洋艦の2人とか、そちらが来るかと思いきや、まさかの人だった。
「今回は私が見ます」
そこにいたのは霧島さん。しっかりと艤装まで装備してである。
「司令の指示で、貴女達をみっちり鍛えることになったわ。改二候補の3人と、磯波ね。貴女には改二は実装されていなかったと思ったけれど」
「私も提督に指示されていまして。同じ異端児駆逐艦ということで、今後もこの4人で組ませる可能性があるからと」
「なるほど、それなら問題無いわね」
私の訓練に誰かしらが付き添ってくれたように、磯波は異端児駆逐艦最後の1人として私達の訓練に付き添ってくれるそうだ。一緒に強くなれれば嬉しい。
改二が実装されていなくとも、訓練による底上げは誰にだって必要である。特に今回は、いきなり格闘戦を仕掛けてくるという想定外過ぎる敵が相手だ。鍛えられるところがあるのなら、徹底的に鍛えるべき。
「で、霧島さんが見てくれる中、何をやるのかな。4人いるし、2対2のチーム戦とか?」
「いえ、今回は深海棲艦の姫と戦う想定の訓練をしようかと思うの。見たでしょう、あのとんでもない強さを」
嫌な思い出を掘り返されたか、夕立が身震いした。ギリッと歯軋りまで聴こえてくる。
私達と同じ駆逐艦であろうあのヤンデレ姫は、艦種詐欺とも言える強さで次々と私の仲間を倒していった。夕立も、木曾さんも、青葉さんも、その艤装の剛腕により一撃でやられている。そこに主砲や魚雷まであるのだから、手強いことは理解しているつもりだ。
しかし、それを想定した訓練とはどうやるつもりなのだろうか。ここには私達駆逐艦と、戦艦である霧島さんしかいない。
え、まさか。
「なので、私が相手をします」
霧島さんがここにいること自体が驚きだったが、その訓練方法はさらに驚きだった。駆逐艦が戦艦相手に戦いを挑むことになるらしい。
私だけならず全員が驚いていた。夕立すらも、トラウマに触れられたことを忘れたかのような表情に。
「お、親分と戦うの!?」
「ええ、今度の敵は駆逐艦でありながら火力が戦艦に匹敵するんだもの。なら、戦艦が相手をするのが妥当じゃないかしら」
何も言い返せないが、それは極論すぎやしないだろうか。親分発言を聞いても磯波が破裂しないくらいにまで動揺している。
「1対1、
勿論主砲に装填されているのはダミーの弾だと言われたが、当たり前のことを言わなくてもいい。それですら直撃したら私達がどうなるかわからないというのに。
さらには
ここに来た初日に陸奥さんと訓練をしている姿を見ているが、それはもう激しい戦闘だった。戦艦同士の戦いなのだから、一撃一撃の威力が桁違い。ハードとかいうレベルを超えている気がする。
「では、時間が惜しいので早速始めましょうか。最初は……陽炎、貴女で」
「うぇえっ!?」
最初の
戦場で向かい合う私と霧島さん。他の3人はそれが見渡せる場所で訓練がどのように執り行われるかをしっかりと確認する。
最初というのが一番緊張するというもので、霧島さんの出方がわかっていないというのが非常に大きい。さらには先日の戦いを目の前で見ているので、霧島さんの恐ろしさが理解出来ているのが緊張に拍車をかける。
「あの姫を想定した動きをするから、こちらも最初から出していくわね」
霧島さんの艤装が変形し、盾のようなパーツが鋏の形状に。訓練とはいえ、あれに挟まれたら死ぬ。絶対に死ぬ。なので、攻撃に使ってくるにしてもそこまではしてこないだろう。だが、鋏であって盾でもあるのだから、私の砲撃はあれに阻まれるだろう。
今回は何でもありというだけあって、艤装には魚雷も備え付けられている。当たり前だがダミー。当たったら痛いだけで殺傷能力はない。爆発しても空気が爆発するだけで、艦娘へのダメージが抑え込まれている妖精さん特製の一品である。
「勝てるイメージで向かってきなさい。私の動きを先読みして、防御の隙間を見極めるの」
無茶を言う。だが、相手が霧島さんだからといって、最初から勝てないと考えていたら、勝てるものも勝てなくなってしまう。せっかく何でもありと言ってきているのだから、出来ることは全てやる。
むしろこの訓練は、私が今出来ることを把握するためでもあるのかもしれない。何が出来て何が出来ないかがわかれば、そこを重点的に訓練出来る。
「じゃあ、始め!」
爆音轟かせた砲撃が開戦の合図だった。私目掛けて飛んでくる戦艦の砲撃は即座に回避するが、同時に霧島さんは突撃してきた。
格闘を最初から視野に入れた接近戦。掴まったら死。そうでなくても回避がよりしづらくなる。ならば近付けさせなければいいだけの話。
「この……!」
早速備え付けと手持ちの同時砲撃。備え付けの照準は、あの動きを止めるために霧島さんの顔面に定めた。目を潰せば動きは止まる。人間ならそういうものだ。
しかし、その砲撃は盾に阻まれた。攻防一体のその兵装は、突撃にも理にかなっているものだ。並の砲撃、特に一番威力が無いであろう駆逐艦の主砲なんて目もくれず、勢い殺さずに突っ込んでくる。
「なら!」
基本的には足止めが必要だと私は考えた。故に、今度は魚雷も織り交ぜた。あの盾も足下までは防げないだろう。
ここで私にしか出来ない技能を使ってみる。4連装の魚雷のうち、右の1本だけをピンポイントで発射。狙いは突き進む霧島さんの足。
「1本だけ……? 木曾に聞いてはいたけど、本当に器用なのね」
当然そんなものさらりと避けられる。そこに回避した方向を加味した2発目。次は残りの3本を纏めて。真ん中の魚雷が霧島さんに当たるように調整。
この咄嗟の判断もしっかり再現してくれる艤装に感謝する。私が従わせ、今では察する程にまで反応速度が速くなっているおかげで、これも実行に移せた。
「ふむ、なかなか考えた攻撃。回避方向を定めた後により当たりやすい攻撃ね。でも、3本しか無いのだから、これも簡単に回避が出来る。それに魚雷は
仲間がいれば、その跳び越えた後の着地を狙った魚雷なんてことも出来るのだが、残念ながら今は私1人しかいない。なので、着地狙いの攻撃は主砲による砲撃になる。
盾の届かない範囲を見極めて、備え付けの方で砲撃。そしてさらには、万が一盾がその砲撃に届いてしまうことを加味して、胴に向かってのブレ弾。2点同時の砲撃なら、片方は当たってくれるはずだ。
「上手。この短期間でよく考えられるようになってるわ。なら、あちらはこういうことをやってくるということも覚えておきましょうね」
着地の瞬間に狙いを定めたものは、体勢を低くすることで盾によるガードが届くようになっていた。さらにブレ弾に対しては、逆に砲撃を放つことで相殺。
あんなこと戦艦でないと出来ないだろう。威力がより高い砲撃だからこそ、私の砲撃は霧島さんに届かなくなった。
むしろその砲撃が私に向かってきていたので、必死に回避する。戦場での動揺は死に繋がるのだから、予想外のことをされても心を落ち着けておかなくてはいけない。
「そんなのアリ!?」
「深海棲艦はこういうこと平気でやってくるわ。本能的にわかってるのかしらね」
その間にかなり近付かれていた。手が届く程とまでは言わないが、ここで撃たれたら回避が非常に難しいという距離。
「お疲れ様。ちゃんと被弾しないと訓練は終わらないから、覚悟してちょうだいね」
そして爆音。放たれた砲撃は私の胸に直撃。本来なら即死だがペイント弾のため、強烈な圧となって吹っ飛ばされた。
「うわばっ!?」
「女の子がしちゃいけない悲鳴になってるわよ」
そんなこと言われても。
激しい衝撃で肺の中の空気が全部吐き出すことになってしまい、一瞬呼吸困難になりかけた。すぐに何とかなるものの、胸をやられたというのはかなり苦しく、ぶっちゃけ潰されたかと思った。
「ひ、酷い目に遭った……」
「いえ、ちゃんと成長が理解出来たわ。貴女は咄嗟の判断力が優れているわね。この調子で行きましょう。貴女は強くなれるわ」
起き上がれない私に手を差し伸べてくれた霧島さん。その手を取り立ち上がる。
胸にはベットリとペイントがへばりつき、傍から見れば致命傷を受けているかのような見た目に。何故ペイントを赤にしたかな。
「では次、沖波。来なさい」
「は、はい!」
私のやられっぷりを目の当たりにしたため、若干萎縮してしまっている沖波。磯波も顔が引き攣っていた。唯一夕立だけはやる気満々で鼻息荒く待ち構えていた。
結果的に午前中の訓練では霧島さんに傷一つつけることは出来なかった。4人が4人、ペイント塗れにされる羽目に。
それでも、自分が急成長しているのは実感出来る。回を重ねる毎に、動きが洗練されているようにも思えた。
この調子で突き進んでいきたい。
霧島親分のかわいがり。少し大きめな設定の陽炎の胸に、ダミーとはいえ戦艦主砲の衝撃が直撃したら、これ呼吸困難になるのでは無かろうか。