異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
霧島さん主導による実戦訓練に参加する私、陽炎。異端児駆逐艦4人で参加させてもらっているそれは、戦艦である霧島さんに対して1人で立ち向かうことで、自分より強い者と戦う経験を得ることになった。
練度を上げるという目的であるため、あらゆる戦闘の経験は必要だ。今までは駆逐艦同士の実戦訓練しかしていなかったが、こういうのも悪くはないとは思う、いくらダミーのペイント弾とはいえ戦艦の主砲をモロに受けるのは恐ろしいものを感じた。
午後からは2人がかりのチームプレイを取り込み、霧島さん1人に対して誰かと組んで立ち向かう。相方次第で立ち回りが変わるため、それはそれでいい経験となる。
やはり相方が変われば戦い方が大きく変わる。夕立が相方の場合は、それをバックアップするような形に、沖波と磯波が相方の場合は、私が前に出る形になる。
「くっそー! 結構いい感じだと思ったんだけどなー!」
「ええ、本当にいい感じだったわ。ちょっと危なかったもの」
霧島さんに褒められたのは、私と磯波のペア3回目。私の主砲2つによる砲撃と磯波の砲撃がドンピシャで交差したことで、霧島さんのガードが崩れかけたタイミングがあった。盾を両方使わせつつ、強引な回避を選択させたのは大きな進歩。
結果的に私の砲撃をどうにかするためにまたもや砲撃されたことで、それの直撃を受けてこの訓練は終わってしまったのだが、今までにない噛み合い方をしたのが実感出来た。
ここで夕立沖波ペアと交代。あちらが訓練中は休憩になる。その間にさっきのことについて磯波に聞いておこう。
私が合わせたわけではない。個人技に頼ろうとしていたわけではないが、連携はまだ難しい。そこに最高のタイミングで砲撃が飛び込んできたのだから、惜しいところまで行けたのは磯波のおかげだ。
「凄いね磯波。私の撃つタイミングわかったの?」
「うん、陽炎ちゃん、ちょっと撃つ前にクセがあるから」
全然気付かなかった。多分反動を軽減しようとして身体が傾いたり力んだりしているのだと思う。それこそ無意識に。それを後ろから見て、僅かな変化を見逃さなかったわけだ。
「もしかして、みんなのクセがわかってたりする?」
「えっ、う、うん。覚えてるところ。私はサポートをすることが多いから、そういうところで役に立ちたいなって」
なんていい子なのだろう。自分は裏方であると自覚しつつ、努力を怠らないその姿勢、見習うところばかりではないか。
磯波は今までも主力のサポートに徹することが多かったのだろう。そしてそこに自分の居場所を見出している。磯波に背中を守ってもらえれば安心と思えるほどに。
「私は特徴が無いのが特徴だけど、みんなの力になれるのならなりたいんだ」
「凄いなぁ。私はまだ自分のことだけで手一杯なのに」
「そ、そんなことないよ。私も生きていくのに精一杯で」
うーん、謙虚。磯波がもっと自分に自信が持てるようになったら大化けに化ける気がする。
「陽炎ちゃんの方が凄いよ。まだここに来て1ヶ月ちょっとなのに、こんなに動けるんだもん」
「私は本当に自分の力か疑問だけどね……」
そもそも私が艦娘をやれているのは、赤い深海棲艦に分霊されているからという可能性が高い。むしろそうとしか思えない。9年間何も無かった理由はわからないが、10年目の今に突然目覚め始めたから艦娘として活動が出来ているだけ。私の実力の部分がどれだけあるのかはわからない。
だが、磯波はとても優しい顔で私に微笑みかけてくれた。それだけでも不安が取り除かれるような感覚。
「全部陽炎ちゃんの力だよ。艦娘になれたのは、その、目覚め始めたせいかもしれないけど、そこからは陽炎ちゃんの努力の成果だと、私は思うな」
「あはは、磯波にそう言ってもらえると、何だかすごく自信が持てちゃう」
「私の言葉で自信を持ってもらえるのなら、私も嬉しい、かな」
なんだこの天使。周りを笑顔にさせる力でも持っているのだろうか。
「あ、夕立ちゃんが……」
そうこうしている内に、霧島さんの砲撃をモロに喰らった夕立が吹っ飛ばされていた。相変わらず霧島さんがやたらめったら強い。私達がまだまだというのもあると思うが、それ以上に艦種の差が大きい。
案の定、霧島さん本人には掠ってもいなかった。当てられる隙を見ながらの攻撃だったが、痺れを切らした夕立が無茶な突撃をしたようである。結果、回避しきれずにアレである。沖波も苦笑するしかない。
「夕立、もう少し落ち着きを持ちなさい。急いては事を仕損じるとも言うでしょう」
「うー、だってぇ!」
これはもう性格の問題だと思う。人の話を聞かずに、話している最中でも攻撃を始める夕立は、そういうことが待てない。短気というわけではないだろうが、好戦的な性格がそうさせているのだと思う。
センスはあるし、あらゆる戦闘行動に対しての順応が早いのだから、そこは待って相手の動きを見たほうがより勝利に近付けると思うのだが。
「沖波は判断が遅いわ。夕立に振り回されるのはわかるけれど、常に教科書通りとはいかないわ」
「は、はい、わかりました」
対する沖波は本好きという性格からか、教科書通りの動きしか出来ていないらしい。今まではそれでも充分戦えていたのだろうが、今回の姫連中は想定外の動きをやたらしてくる。そこから考えると、もっとアバウトに、臨機応変な対応力が必要になるだろう。
そこからまたしばらくチーム戦を繰り返し、大分疲れが溜まってきたところで霧島さんが訓練を止める。
「さて、これで全員の課題は上がったんじゃないかしら」
この辺りで訓練は終了。私達は余すとこなくペイントで塗りたくられているような状態。対する霧島さんは艤装以外は綺麗なものであった。
休憩時間は挟んでいたものの、数時間戦い続けてコレ。さすがは鎮守府の主力戦艦である。
「夕立、貴女は落ち着きを持つこと。勝ちたいのなら、ゆっくり腰を据えて考えることも大事。実力を過信しているような素振りは無くなったようだけど、稀に無謀な突撃があるからそれを控えなさい。それだけでかなり良くなるわ」
「ぽーい……」
夕立は基本的に精神鍛錬が必要なのではと思う。戦えるのに妙に先走ろうとするから悪い方向に行くだけ。早く終わらせたい気持ちはわかるが、もう少し落ち着こう。
「沖波はさっき言った通りね。基本に忠実なのはいいことだから、次は応用に移りなさい。深海棲艦も日々進化しているようだから、それに即対応出来るようにすること」
「はい。アドリブ力をつけます」
沖波は本人の言う通りアドリブ力。その場その場で最適な行動を決定する力が不足していると判定された。それさえ身につけば、沖波は攻めにも守りにも配置出来るだろう。
「陽炎はやっぱり経験ね。咄嗟の判断は出来ているから、それを活かせるように私以外にも鍛えてもらった方がいいと思うわ。ある意味、沖波と逆ね。基礎が浅いからどうしても応用に影響が出てしまってる」
「経験を言われると辛いなぁ」
私はやはり経験不足が響いている。夕立のように類稀なるセンスで賄えているわけでも無いため、地道な努力が必要不可欠。時間が足りない時に時間が必要なところを指摘されるのはなかなかに辛いものであるが、こればっかりは仕方ない。
「磯波は……正直あまり言うことが無いのよね。自分の役割を理解して、それに対する動きも出来ているもの。強いて言うなら、1人で戦う時に折れやすいというところくらいかしら。その辺りもキチンと鍛えておいた方がいいと思うわ」
「あ、ありがとうございます」
これだけやって、霧島さんにボコボコにされたものの、磯波はほぼ指摘無し。個人戦になると途端に脆くなるものの、艦隊はチーム戦。個人戦になることの方が少ない。万が一の時のために、1人でも戦えるようにした方がいいとは思うが。
「以上。今日はお疲れ様。しっかり身体を休めてちょうだいね」
これにて霧島さんからの訓練は終了。身体はボロボロになりながらも、心は充実していた。
訓練後はそのままお風呂へ。この4人で行動するのも慣れてきたものだ。
「落ち着く、落ち着くってどうすればいいっぽい?」
霧島さんからの課題で頭を悩ませる夕立。今までが直情的に感性のままに戦ってきて上手くいっていたから、その辺りがよくわかっていないのだと思う。戦闘なのだから昂揚するのはわかるが、それを常にしてしまうと、いざという時に冷静になれない。
「心を静かにすること……かな」
「でも戦闘中って頭の中熱くなるっぽい。カーッてなって、敵をボッコボコにしたくなるよ?」
「気持ちはわかるけど……冷静に、冷静にね」
磯波が簡単に説明するが、夕立には難しい様子。戦闘中に冷静になれという行為自体が、夕立の中には無い概念のようだ。
「心を落ち着ければいいから……そうだ、陽炎ちゃんの匂いを感じたら落ち着くんだよね……?」
「うん、寝る時とかだけど」
「その時の気持ちを思い出せばいいよ。私も落ち着けるし」
またもやD型異端児特有の発言。夕立も言っていたけど、その落ち着ける匂いというのは何なのだろう。
「私には感じ取れないんだけど、どんな匂いなの?」
それがわからない沖波が問う。私も知りたい。
「とにかく落ち着けるっぽい! 最近はその匂いもちょっと強くなってて、今もするんだよ?」
「理屈はわからないけど……アロマみたいなものなのかも。表現は出来ないけど落ち着けるというか」
それだけ言われてもわからないものはわからない。以前に由良さんにもアロマと言われたが、そういう感じに落ち着ける匂いなのだろうか。表現出来ない匂いがアロマになるとか聞いたことが無いし。概念的に落ち着けるということで考えればいいか。
「パジャマパーティーの時とか、すごく気持ちよく寝られるの」
「夕立は悪夢見たけど、でもすぐに落ち着けたよ。毎日ゲロちゃんの匂い嗅いでたいくらい」
言いながら夕立が抱きついてくる。お風呂なのだから当然全裸なわけで、夕立の豊満なそれがやたらと押し付けられることに。首筋の辺りでクンカクンカと匂いを嗅がれて、正直複雑な気分。
今までのことから考えると、この匂いも赤い深海棲艦から分霊された影響と考えるのが妥当。なら、赤い深海棲艦もそういった匂いを漂わせていると考えるのが良さそうである。もしかして、感じ取れる方がまずいのでは。
「とにかく、夕立ちゃんはそうやってでも落ち着いた方がいいと思うよ」
「でも戦闘中はそんな余裕ないっぽい。戦いたいし、火薬とかの匂いでいっぱいだし」
戦闘中に抱きつかれるわけにはいかないし、常に同じ場所で戦っているとも限らない。私がいないと落ち着けないと言われても困る。
「……ハンカチか何かを借りるとか?」
「ゲロちゃん、汗の染み込んだハンカチちょうだい!」
「変態か!」
それは流石に倫理的によろしくない。そんなのあのヤンデレ姫に近い変態になってしまう。そんな夕立は見たくない。磯波もよくそんな案が出たものである。
そう説明したら、あんなのと同じになりたくないと嫌悪感を露わにした後に拒否した。危ない危ない。
「私に頼らず1人で落ち着けるようになってよね」
「ぽーい……オキやソナーはどうやって落ち着いてるの?」
自分で出来ないのだから他人に頼るというのはいいことである。
「私は……艦娘の心得を思い出す……かな。熱くなってたらみんなを護ることは出来ないって思って」
いやホント磯波は天使すぎる。自分のことより他人のことを考えて動いていそうなので若干危うさもあるものの、その優しさは艦娘として絶対に備えていなくてはいけないものだ。それで心を落ち着けることが出来るのだから、磯波は艦娘になるべくしてなったとさえ思える。
とはいえ異端児なのは気になるところではあるのだが。優しすぎて異常値出してしまったのだろうか。異常値が出る理論がわからないので何とも言えないが。
「あ、私もそれ。磯波ちゃんから教わったんだよね」
「うん……最初の頃にね」
なるほど、なら私も変に頭に血が上ってしまった時には、同じように艦娘の心得を思い出すようにしよう。私達は破壊者ではなく守護者であると。
「わかった。夕立もその方針で行くっぽい」
「うん、それでいいと思う」
なんて言いながらもとりあえず落ち着くために匂いを嗅ぎ続けているのはやめてほしかった。それでなくても犬みたいな夕立が、余計にそういうものに見えてしまう。
結果的に夕立も心を落ち着ける方向を見出したようで何よりである。それも磯波のおかげだ。
磯波は今後も良心として燦然と輝き続けてくれるだろう。サポーターとしても完璧だし。
磯波は天使。少し内向的ですが、周りのことをずっと見ているサポーター向きの子。個人技は苦手でも、戦場ではそういう子の方が重要だったりします。