異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
砲撃訓練の翌日、雷撃訓練かと思いきや、ここ最近休日を取っていなかったため、丸一日休みということになった。異端児駆逐艦の4人は突然のお休みとなる。あれだけハードな訓練をしてきたので、尚のこと休日は大事だと空城司令に諭された。
実際、身体がガタガタになるくらいの体力作りと、痛みが残りそうなくらいの実戦訓練をこなしてきたのだから、薬湯だけでは疲労が抜けていないかもしれない。知らず知らずに蓄積されている可能性だってあり得る。ガッツリ休む1日があってもいいだろう。
夜のうちに休みを通達されたためか、夕立は目覚ましもかけずに爆睡。朝ご飯の時間にも起きてこなかったが、休日はいつもこんな感じなのか。昨日も磯波に起こされてなんとか来たくらいだし。まぁ昨日の霧島さんの訓練は相当キツかったのは理解出来る。休日返上とか言っていたのが嘘みたい。
磯波は久しぶりに花壇の手入れをすると言っていた。そのままにしていても基本的には何もないのだが、定期的に愛でたいと言っていた。花壇の拡張までは考えていないようだが、自分で植えた花の成長を楽しむことで癒されるのだとか。心の休息を優先した様子。
そして私、陽炎はというと、沖波と一緒に資料室に来ている。勿論、ここの資料を読むためだ。
昨日の霧島さんからの教えで、浅いと言われた基礎の部分を資料で埋めたいと思っていたのだが、それを基礎が完璧な沖波に相談したところ、自分は資料室でいろいろ調べた結果を体現したのだと教えてくれた。
それを自分の身で実行するというのがそもそも技術がいるわけだが、知らないより知っておいた方がいいだろう。それに、ここ最近は資料室に来ることもなかったので、また読書で休日を過ごすのもいい。
「結構あるね、そういう指南書」
「うん、やっぱり知識から入れてくって人はいるからね」
本好きを公言するだけあって、なんだかイキイキしている沖波。本棚に並ぶ本を見ているだけでも楽しそう。知らない間に誰かが持ち込んだという新しい本が増えていることもあるので、私に指南書の場所を教えてくれた後はそれを探しに部屋の奥に向かった。
「さて……と。じゃあ、読んでいきますか」
自分に必要そうな指南書を何冊か手に取り、読書スペースでパラパラと眺めることにした。とりあえず午前中はこれに使おう。午後からは身体を休める方向で。
指南書というだけあって、なかなか奥が深い。基礎を知るために読んでいたが、そこからまるで漫画のような技術まで掲載されているところまで見つけた。これやれるの何人いるんだ。技術だけ書かれていて実現させられる艦娘はいないのではというのもある。
それでも接近戦のことは書かれているものはないので、霧島さんが独自であの考えに辿り着いたということがわかった。
「はぁー……凄いなぁ」
結果的に漫画を読んでいるような感覚に。最終的には実際にやってみないとわからないものである。今の自分どころか、今後の自分でも出来るかどうか。
「どう? 結構いい本が揃ってると思うけど」
本を何冊も抱え、ホクホクな笑顔の沖波。いわゆる乱読というヤツなのだと思うが、ジャンルがバラバラ。小説やら漫画やらが手当たり次第積まれている。本が好きと言ってもこれはまた凄い。これを全部読むつもりか。
「私の知らないことも書いてあって面白いよ。でも、読むだけじゃ身にはつかないよね。知識として持っておくのはいいと思うけど」
「まぁそうだよねぇ」
隣に腰掛けて、一番上の本を手に取りめくる。どう見ても少年漫画の類である。興味があって読んでいるのか、そこにあったから読んでいるのかは定かではない。
そして読むのがやたらと速い。秋雲の持つ瞬間記憶とは違いそうだが、速読で次々と本をクリアしていく。あれで内容が理解出来ているというのなら凄いことだ。
それでも、ニコニコしながらページをめくる様子は、読書という行為そのものを楽しんでいるように見えた。これが沖波の癒しの時間なのだろう。休日だからこそ心が休まる1日を送る。
「その読んだことを、自分がやってる風景としてイメージしてみるのがいいよ。それで身体が動いてくれれば万々歳だし」
「確かに。霧島さんも出来る出来るとイメージして乗り越えるって言ってたし、木曾さんもこうやりたいってイメージして実行するって言ってたなぁ」
「だから、そういうの覚えておけば役に立つよ。現に私が役に立ってるもん。記憶の隅に置いてあるだけで、咄嗟の時に引き出せる時もあるからね」
指南書に書かれていることを覚えておいて、実戦で活用する。常に何かしらイメージをしつつ、それを実現する。私の艤装ならそれもやってくれそう。
「まぁ結局のところ、私自身が強くならなくちゃダメなんだけどね」
「それは……うん、当たり前のことだね」
苦笑された。艤装が再現してくれるのなら、それに応じられるように私も強くならなくては。私に力が無ければ、応じてくれている艤装に振り回されることになる。反動制御とかその辺りで、実際やりたいことがやれなくなるとなるのは流石によろしくない。
普段やっていない姿勢で砲撃するだけでも身体への負荷がとんでもなくなる。そればっかりは自分の身体次第だ。
「でも、基礎は覚えておきたいから今日はガッツリ読むよ。とりあえず午前中は覚え込んでいこうかな」
「うん、いいと思う。休めるかはわからないけど」
「午後はしっかり休むよ。全部勉強に使ってたら休めるものも休めないからね」
そこからはお互い、静かに読者タイム。集中して読んでいるからか、物凄く静かな時間を過ごしていた。資料室は防音になっているのか、外の音が全く聞こえないというのもあって、より深く集中出来た。
合間合間に沖波が指南書の解説をしてくれたりするものだから、私の基礎知識は劇的に増えたと思う。1人で本を読んでいるよりも確実に勉強になった。
正直、今すぐにでも実践に移りたいと思ったが、今日は休日。おそらく空城司令も許してくれないだろう。今覚えたことをしっかり反芻して、やれるのなら明日以降に実践してみる。寝て起きたら忘れてるなんて無いように、しっかりと読み込んだ。
「ふぅ……有意義な時間だった」
そして沖波は、私に説明しながらでも積んでいた本を全て読み終えていた。漫画だけでなく小説もあるのだが、それにすら目を通したというのか。
あまり見たことのない、満足げな笑みを浮かべているため、本人の言う通り有意義な時間だったのだろう。
「あ、もうお昼時なんだね。時間が進むのも早いや」
「それだけ集中してたってことでしょ。ホントに本好きなんだね」
「うん、大好き。特に小説が好きかな、舞台を想像しながら読むのが楽しいんだ」
なるほど、だから指南書を読んでいても、それをイメージして実現させることが出来るわけだ。元よりそういう形で想像力を鍛えていたようなもの。本好きには一番いい鍛え方になっているのだ。
「この戦いが終わったら、自分で書いてみるのもいいかなって」
「沖波、そういうのって死亡フラグなんじゃないの?」
「あ……い、今の無し!」
戦いの後のことを口走るのは良くない。実現しなくなる確率がグーンと上がる気がする。なので即座に撤回。これで立ったフラグが下りればいいのだが。
とはいえ、夢を持つことはいいことだ。戦いが終わった後のことを考えるのも、命を大切にする理由になる。
私はこれが終わったら、一体どんな生活をしているだろう。今はなかなかピンと来ないものだ。
昼食の時に、ようやく目を覚ました夕立と、花壇の手入れをしていた磯波と合流。もうこの4人で集まるのが当たり前になってきた。今の訓練のメンツでもあるし、同じ異端児ということで何だかんだ一番仲の良いメンツだ。パジャマパーティーをやるくらいだし。
「お腹ペコペコっぽーい」
「朝も食べずに昼まで寝てるからでしょ」
そうそう起きないとは思うが、緊急事態が起きたらどうするつもりだ。起きる暇もなくそのまま、なんて事だってあり得るというのに。空腹状態でまともに戦えないとかになったら目も当てられないと思うのだが。
「今日はやっぱり、資料室に篭るの?」
「それでもいいんだけど、新しく入ってた本は全部読み終わったんだ。だから、午後からは身体の方をしっかり休めようと思う」
沖波だって私達と同じ訓練をしているのだから、同じように疲労が蓄積されていてもおかしくないのだ。本を読みたい気持ちの方が先走ったようだが、今までとは違う程の疲れを感じていてもおかしくない。
「ならお昼寝っぽい? ぽい?」
「夕立ちゃん、まだ寝るの……?」
呆れるものだが、私達はそれでもいいかもしれない。読書で心を癒して、昼寝で身体も癒す。休日としては完璧ではないか。眠たいというわけでは無くとも、目を瞑れば自然と眠れるような気がする。
「本を読んで目も疲れてるし、目を休めるためにもお昼寝でいいかも。陽炎ちゃんはどうする?」
「私もそれでいいよ。午前中は勉強で使ったからね」
私の場合は頭も疲れているかも。せっかくの休日なのだから、ちゃんと休まなくては。別に寝足りないというわけではないのだが、寝ることが一番の癒しだと思うし。心身共に休むのが休日。
頭脳労働の疲労は、身体が疲れるよりも後々に影響しかねない。ここでしっかり休んでおいて、明日に備えよう。夕立ほど寝続けることは無いとは思うが。
ということで、昼食後はお昼寝となり、以前私がうたた寝した外の木陰に来ることに。日陰で涼しく、潮風が気持ちいい。前はここで座っていただけでも眠りに落ちたものである。
夕立は私の匂いで落ち着きたいと言いながら真横に座った途端に即落ち。騒がしいと思ったらすぐに静かになり、3人で苦笑。昼になるくらいまで寝ていたというのに、まだ寝足りないか。自由気ままにも程がある。
そして磯波もそのままうつらうつらとしていた。こちらも私の匂いで落ち着いたのだろう。午前中はずっと花壇の手入れをしていたから、それでまた疲れていたようだし。昼寝のためにここに来たのだから、そのまま眠っても誰も咎めない。
「孤児院の時もこういうことあったよね。いい天気だから外でお昼寝しようって」
2人だけが起きている状態になり、ポツリと沖波が溢す。
「あったあった。ビニールシート敷いてね」
「ちょっと背中が痛くなっちゃったけど、気持ちよかったよね」
沖波とは幼馴染み。その時の記憶が蘇るようだった。
孤児院で一緒にいた時、5年前までだから私達はまだ10歳よりも小さい。おそらくここの海防艦よりも幼いくらいだ。孤児院のみんなはたまにケンカするけど基本的には仲が良く、私と沖波もいい仲だったと思う。
やることというのは大概みんな同じこと。勉強はみんなでやるし、遊ぶこともみんなでやる。先生1人に子供沢山という共同体なので、管理のためにも同じことをしてもらうというのが一番なのだろう。だから、昼寝も一緒にしていた。
「なんだか懐かしいよ。こうやってひーちゃんと外で並んで寝るなんて」
「だねぇ。おっきーが出て行った後は寂しかったよ。卒院ってのは毎回寂しくなるけどさ」
思わず艦娘とは違う呼び名が出てしまっているが、気にしないことにした。今は誰も聞いていないし、ちょっとした禁止事項も大目に見てもらう。
仲間の1人が抜け落ちるというのは、それだけでも寂しいものだった。誰だって例外は無い。もしかしたら今の孤児院にも、私が抜けたことで寂しがってる子がいるかもしれない。
「お婆ちゃんに引き取られた後もね、何度も孤児院のこと思い出したよ。みんな元気かな、また遊びに行きたいなって」
「来たくても来れなかったんでしょ」
「うん。前にも言ったけど、ちょっと向こうでも忙しくて」
学校に通わせてもらったというのもあり、勉強やら何やらで忙しかったんだと思う。あとは眼鏡をかけることになるほど本を読んでいたようだし、そもそもが場所がそれなりに離れた場所。孤児院まで来るのにだって時間がかかるだろう。
卒院した人達はやはりそういう人が多い。今生の別れになりかねないこともある。だからこそ、こんな場所で再会出来たことを大いに喜んだ。
「さっきのフラグじゃないけどさ、戦いが終わったら孤児院に顔を出したいなって思うよ」
「大丈夫? 次々とフラグ乱立して」
「いいのいいの。それを叶えるために頑張って行こうって思えるんだから」
もう開き直っていた。死ななきゃいいのだから、前向きに生きた方がいい。
「じゃあ、私達も寝よっか」
「だね」
その日のお昼寝は悪夢も見ず、気持ち良く寝ることが出来た。
沖波と一緒にいると落ち着ける気がする。幼馴染みという存在が、私の心を落ち着ける一因になってくれている。
陽炎と沖波って史実では一切関係ないんですが、ここではこんな組み合わせに。そういうことしてもいいのがこういうお話の醍醐味。