異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
休日を終えた次の日からはまた改二になるための訓練に勤しむ私、陽炎。次は雷撃訓練。木曾さんと由良さんの2人がそれを受け持ってくれており、その雷撃を躱しながら、こちらも雷撃を決めていくという、こちらも実戦形式の訓練となった。
おかげで終わったあとは上から下までビショビショ。事前に水着を中に着てこいとも言われていなかったため、大変に恥ずかしい思いをすることに。多分一番えらいことになってたのは磯波。
その姿を写真に収めようとしていた青葉さんは、木曾さんと由良さんからお叱りをうけていたようだが、詳細は知らない。諜報部隊はゴシップ誌か何かか。
その翌日は哨戒任務。訓練ばかりでは練度は上がらないということで、あらゆる経験を積むために任務に参加。戦闘が無いとしても、海上を動き回る経験になる。
旗艦衣笠さんと阿賀野さんに連れられた異端児駆逐艦4人は、結果的に交戦もせずに哨戒は終了。事前に諜報部隊が調査していたというのもあるが、現状では領海内で深海棲艦の発生を確認していないとのこと。敵は全て領海外である。
ある意味不完全燃焼になったからか、夕立は残念そうな顔をしていた。戦えないことが残念というのはあまりいいことでは無いと思うが、実戦経験が積めなかったのは少しだけ残念かも。
そしてさらにその翌日。改二候補の訓練が始まって、休日含めて5日目。練度の上がり具合を検査したところ、嬉しい通達があった。
改二候補駆逐艦である3人が執務室に呼び出され、それを話される。空城司令も少し嬉しそうにしていた。
「沖波は改二改装に耐え得る練度になったようだ。今日中に改装するよ」
「ほ、ホントですか!?」
「ああ、ギリギリ届いたようだね。おめでとうさん」
沖波はついに改二への改装に至ることになった。昨日の任務が最後の一押しになったようである。その通達に、沖波は驚きと同時に大喜びだった。辛い訓練から解放されるからだろうか、心の底から感情を露わにしたように見える。
「夕立はあと少しってとこだそうだ。陽炎はまだまだ遠いね。頑張んな」
「それは新人なんだから仕方ないね。早く追いつけるように頑張るよ」
「ああ、奴と交戦してそろそろ1週間だ。いつ鎮守府を襲撃してもおかしくはないからね」
それに向けて訓練や任務をこなしているのだから、早いところ成果として改二になりたいところだ。一番最後になることも致し方ないこと。
で、沖波の改二のこと。艤装の改修を午前中にするため、訓練はお休み。その間に制服すらも変わるらしく、採寸やら何やらが始まるそうだ。人によっては大分様変わりすることもあるらしく、沖波はもしかしたらそういう系統に含まれるのかもしれない。
「いいないいなー。オキ、一番乗りっぽい」
「あはは、私には元々の積み重ねがあったから」
元々改二改装待ちの異端児駆逐艦の中では一番の古参。最初から練度に差があったというのはあるが、ここ最近のハードな訓練が後押しになっていた。
確かに私も実感出来るレベルで成長している。ほんの少しだけだが、身体の至る所の筋肉が育ってきているようにも思えた。見た目はそんなに変わらなくとも、同年代とは雲泥の差になっているのではなかろうか。
それでも、時間という壁は簡単には越えられない。沖波の積み重ねは、私や夕立とは違う。ましてや同じ訓練をしていたのだから当然だ。
「沖波は工廠で待機。妖精達に採寸してもらいな。陽炎と夕立は今日はまた体力作りだ。速吸が待ってるよ」
「また遠泳なんだよね……っし、頑張るぞ!」
「ぽいー……でも強くなるためだもんね。夕立も頑張るっぽい!」
こちらは沖波の改二改装を待つ間に1回訓練を挟む。今の時間からしたら、おそらく午前中いっぱいを使うことになる水平線までの遠泳だ。
確実に身体がガッタガタになることが確定しているものの、沖波の改二が確定したことで私も夕立もやる気満々だった。
案の定疲れ切った状態でお風呂に浸かり、ある程度回復したところでお昼ご飯を食べに食堂に入ったところ、既に採寸が終わって改二制服を着ている沖波がみんなに囲まれていた。
「あ、みんな、お疲れ様」
「制服変わってるね。それが改二用?」
「うん、すごく変わったってわけじゃないけど、やっぱり新しい制服って気が引き締まるね」
沖波を除いた異端児駆逐艦3人でその様子を見に行くと、手を振って出迎えてくれた。
色合いは全く変わっていないのだが、ボレロのようなジャケットが追加されていたり、タイツがニーハイソックスになっていたりと、本人が言う通り以前と近しい制服ではあるものの、要所要所が変化している。
「一応これはフィッティングってものらしくて、実際に艤装装備してからまた変わるかもしれないんだって。改二が身体に影響与えちゃって、ちょっと変わるかもしれないそうだから」
「そんなことあるの!?」
「うん、衣笠さんにいろいろ聞いたんだ」
実際は衣笠さんではなく加古さんがそうだったらしい。衣笠さんと話をしたのは、同じM型異端児の改二だからのようである。
加古さんは今でこそセーラー服の下に真っ黒なサラシのような帯を巻きつけているようなスタイルなのだが、元々は身体を覆うようなインナーの予定だったらしい。しかし、改二になった時に艤装の影響で身体が急成長してしまい、それが着れなくなったことで今のスタイルになったのだとか。
そんなこともあるのかと驚く一方、髪の色にダイレクトに触れてくることも考えると身体そのものに影響を与えるのもあるかと納得できる。木曾さんとか片方の目だけ金色に変色していたくらいだし。
ただでさえ艤装側からの影響で髪の色が変わってしまっている沖波だ。可能性としては無くはない。急成長なんてこともあるかもしれない。それこそ、今着ている服のサイズが合わなくなることだってあり得る。
「そこまでのはあんまり無いらしいんだけどね。いろいろと覚悟はしとけって言われちゃった。変化は無くても、結構身体に負荷がかかるらしいし」
「じゃあ、この沖波が見られるのは最後になるかもしれないんだ」
「かもしれないってくらいだけどね」
それが喜ばしい変化かどうかはわからないので、やってみるまでは緊張感がある。ただでさえ、何事もなくても身体に負担がかかると言われたら緊張もする。
「改二になったらどれくらい強くなるんだろうね」
「なんか、主砲とかも大改造されてるらしいよ。全部パワーアップしてるって思えばいいんだって」
それだけでも沖波は私達の中で一段階先に行ってしまうように思えた。羨ましいという気持ちも無くはない。
そもそもこの鎮守府では初めての駆逐艦改二。いろいろと期待も大きい。古参を飛び越えてしまっているのを少しだけ気にしつつも、今の敵を倒すためには強くならなくてはと決意もしている。
「私達も頑張らないとね」
「ぽい!」
沖波に早く追いつきたい。夕立はあと少しと言われていたが、私はまだまだだ。それでも焦らず、確実に成長していきたいと思う。
午後、訓練の前に沖波の改二改装の最終段階、艤装装備となる。これは大きなイベントのようで、全員が見守る中で装備することになった。諜報部隊もそれを見に来たようで、青葉さんはカメラを構え、秋雲もしっかりスケッチしようとしている。
そのせいで妙に緊張してしまっている沖波。空城司令もそれを察したようで、散れ散れとある程度の者を残してその場から撤収させた。で、選ばれたのは駆逐艦全員。秋雲は一応許された。
「アンタは初回で影響を受けているからね。多少は慎重にならざるを得ないんだ」
「ですよね。髪の色が変わるくらいですから、今回も何かしらあるかもしれません」
「危ないと感じたらすぐに言うんだよ。こちらでも数値は見ながらやるがね」
勿論、整備長と夕張さん監修での改装である。艤装そのものの出立も少し変化しているため、最初にやるリンクと同じようなことをする必要もあるようだ。1回目の改装とは訳が違う。
沖波の艤装はリュックサック形式。背中に接続されるものの、さらにバンドを肩に通して固定するタイプ。おそるおそる接続部分に背中を押しつけて背負うと、目を瞑って集中。そして、イメージ。
「っあ」
ピクンと身体が震えた。今までとは違うリンクのされ方に、沖波の身体が反応したようである。そして、艤装側からの影響が一気に入り込んだ。何度か震えているところを見ると、艤装側からの影響はかなり大きい。リミッターを外していると空城司令が表現しているだけある。
やはり改二というのはそれだけ身体に負担がかかるということだ。最初のリンクにかかった時間と同じだけ、その負担を感じ続けることになるようだ。
「秋雲、ネタに使おうとか思ってないよね?」
「嫌だなぁゲロ姉、秋雲さんだって弁えますぜ」
今の沖波の様子をスケッチしている秋雲に釘を刺しておく。体力作りの時もあるので信用ならない。
そうこうしている内に、艤装から沖波への負担が終了。おおよそ1分強。
「うっ、んん……大丈夫です、少しピリッと来ましたが、気分が悪いとかは無いです」
「段違いの影響だが、ちゃんと練度も達しているからね。余程のことが無い限り大丈夫さね。それに、最初と同じで1回やりゃ後はもうそんなことになる心配は無いよ」
装備した状態で動いてみるが、今までとは同じように動けている。艤装は変化しても、しっかりとリンクが出来ているようで安心。
「身体も何も変わっていませんね。制服もそのままで大丈夫です」
「そいつは良かった。じゃあ次は武装の方だ。持ってきてやってくれ」
「はーい、ちゃんと持ってきてますよ」
夕張さんが運んできたのは改良された主砲。沖波専用にチューンナップされた手持ちの主砲らしく、以前使っていたものからさらに火力やら何やらが強化されているらしい。
「改二になりゃあ、反動軽減能力も上がってるはずだ。それも加味して、うちの若い衆がチューンした傑作だからよ。沖ちゃん、しっかり使ってやってくれい」
「ありがとうございます。早速使わせてもらいます」
「おう、文句があったらバシバシ言ってくれていいからな」
性能向上は整備長からもお墨付きが貰えているようだ。それくらい完璧な整備が出来ている。
艤装を装備している間に、海上に的が用意されていた。撃ち心地を見るために今回はただの的。初めて砲撃訓練をした時と同じ状態。1つ違うのは、装填されているのが実弾であること。
「では、撃ちます! てぇーっ!」
普段と同じように構え、普段と同じように砲撃。しかし、主砲から発する音は今までと格段に違う。威力が上がったことを示すように轟音を鳴り響かせた。反動もそれ相応だったようだが、姿勢制御が出来ている沖波はほんの少しブレたくらいで狙いが崩れることは無い。
的は見事に撃ち抜かれたが、私達の主砲では出来ないくらいに粉々に砕け散っていた。それを見た一同、感嘆の声。
「す、すごい、これだけ威力が上がっているのに、姿勢制御は今までよりもやりやすかったくらいです!」
「うちじゃ初の駆逐艦改二ってことで、みんな張り切っちまってなぁ」
「皆さんありがとうございます! 使わせていただきますー!」
奥の整備班の人達も大盛り上がり。改二の改装があるたびにこんな感じに盛り上がるそうだが、今回も例に漏れずだったようだ。
「よし、改装も上手く行ったようなら問題無いね。沖波、アンタはこれで改装の訓練から卒業になるわけだが」
「いえ、陽炎ちゃんと夕立ちゃんが改装されるまでは付き合わせてください。より高い練度にしておいても損はありませんから」
「そうかい。ならしばらくは一緒に行動してもらうよ」
全員が追い付くまでは一蓮托生。改二としては一抜けかもしれないが、訓練から抜けることは無いと言ってくれた。あれだけ過酷な訓練にもしっかり付き合ってくれる沖波、なんていい子なのだろうか。
「じゃあ、これで終わりだ。アンタ達、午後からの予定をこなすんだよ。解散解散!」
これにて沖波の改装式は終了。この戦力増強には期待が高まった。今だけ見れば、沖波は駆逐艦のエースになり得る力を持っているだろう。実際は経験の差から伯仲しているとは思うが、それでも。
「早く追い付かないとね」
「ぽい! 夕立もあれだけ強くなれるってわかったから、やる気満々っぽーい!」
私も夕立も、努力すればあの力が手に入るということがわかり、変な昂揚感を得た。今向かっている先に沖波がいる。辿り着く場所の明確なイメージを見せてもらえたことで、訓練への意欲もより上がったと言える。
ちょっとだけオリジナル設定。加古改二は古鷹改二と同じスケベティックインナーの予定だったが、改二の影響をモロに受けたせいでままならぬ事になり、加古からの希望で今の形になっています。お腹が直接掻けないからとかそんなのありましたね公式4コマで。