異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
改二になるための訓練中、
最後の潜水艦はまた私、陽炎の眼前に現れた挙句に私以外を攻撃した上に、私が撃退するために顔面を蹴り飛ばしても笑みを浮かべ悦びながら身悶える程だった。正直なところ、気持ち悪いしか感想が出てこない。
以前邂逅したときよりも気持ち悪いレベルが上がっているのではないかとさえ思えてしまう。戦いたくないとさえ思ってしまった。
戦闘後、大鷹と私ですぐにそれを空城司令に報告。他の者達には後片付けなどを頼んでおいた。海防艦の子供達を休ませるのにも保護者は必要だ。
「よく撃退してくれた。訓練中だったのに上手く出来たもんだ」
「はい、ダミーの爆雷でも当たりどころが悪ければ大きなダメージになりますので」
あの時は訓練だったため、爆雷はダミー。本来殺傷能力が無いものなのだが、仕留めることが出来た。ダミーとはいえ爆発はする。それが例えば眼前で爆発しようものなら鼓膜は破れるだろうし、爆雷そのものの破片で致命傷になる場合だってあり得る。
実際の潜水艦相手では無いからそれくらいのものを訓練に使っているようで、今回はそれが功を奏したようだ。あの場では一応反応は無くなっていたし、子供達の練度は相当なものだとわかる。
「近々ここに来るってことだろうね。アンタを狙って」
「だよね……まだ鍛え切れてないけど、今の状態で倒すことも考えておかないと」
今の段階での戦いになることを視野に入れて戦術を考えなくてはいけない。訓練のおかげである程度は強化されているとは思うが、まだ始めて1週間足らず。奴を倒せるまでに成長出来ているかはわからない。
少し空気が重くなってくる。だが、それをぶち壊すようにバタバタと慌ただしい音。執務室の前で止まったかとおもうと、ノックも無く扉が開け放たれた。
「提督さん! 夕立を改二にして!」
執務室に飛び込んできたのは夕立。切羽詰まったような表情で、余裕が一切ない。今すぐにでも強くなりたいという気持ちがありありと伝わってくる。
だが、報告中に割り込んで突っ込んでくるのは良いことではない。すぐに空城司令が叱る。
「喧しいよ! ちったぁ落ち着きな!」
「こんな時に落ち着いてなんかいられないっぽい! アイツが、あのヤンデレストーカーが来るんでしょ!? だったら夕立が決着つけなくちゃダメなの!」
子供が癇癪を起こしているかのようにジタバタと暴れて、自分の思いをぶつける。
夕立の気持ちは私にだってわかる。あの時は本当に何も出来ずに一撃でダウンさせられた。悔しいに決まっている。プライドを傷付けられたというのもあり、雪辱を果たしたいのだろう。
霧島さんだって、夕立が奴の喉元を喰いちぎると保証していたくらいだし、改二になれば奴と対等な程にまで強くなれるはすだ。だから焦ってしまっている。
「提督さん言ってた! 夕立はあと少しって! ならもう大丈夫でしょ!」
「そう思ってんならせめて検査してから出直してきな! いきなり直談判なんて聞けるわけないだろうに!」
うーっと唸りながら、涙目で執務室から駆け出して行った。すぐに検査するために速吸さんを探しに行ったのだと思う。改二のために必要な練度は整備班に調査してもらっているが、その練度に達しているかどうかの検査は速吸さんに一任されているからだ。
突然のことで茫然としてしまっている私と大鷹だったが、静まり返ったところで空城司令がコホンと咳払いをすることで、空気を元に戻す。
「そもそも、今改二になれるだけの練度があったとしても、艤装の改装に時間がかかるんだ。早くても夜中、いや、明日の朝になるだろうね」
「だよね……沖波も朝イチに報告受けて午後だったし」
夕立の願いが叶うのは、どうやっても今すぐではない。明日改二になれるとして、今から艤装の改装を始めたとしても、万が一今日に奴が襲撃してしまった場合は夕立は戦えない。より不完全燃焼な状態になってしまう。
「私は夕立の側にいるよ」
「ああ、そうしてやっておくれ。アンタのそのD型異端児しかわからない匂いってのがあれば、多少は落ち着けるんだろう?」
「みたい。多少は大人しくなってくれると思う」
改二になれる練度に届いているとしても、艤装が完成するまでは慌ただしいだろう。そうで無かったら尚更だ。暴れかねない。
なら、せめて少しでも落ち着けるように私が側にいるべきだろう。自意識過剰な発言にも思えるが、私の持つ匂いで落ち着けると本人も言っていたことだし、こういう時に利用しなくては。
まだ昼食まで時間があるので夕立の行方を探したところ、案の定速吸さんを捕まえて検査をしていた。あまりの剣幕に押されたか、苦笑しながら事を進めている。
そんな時でも夕立は落ち着かない様子でうーうー唸っている。懸命にやってくれている速吸さんにその態度はよろしくない。
「夕立、改二になれるっぽい!?」
「もう少し落ち着いて待っていてください。検査の結果が出るのだって多少は時間がかかるんですから」
いてもたってもいられないのはわかるが、速吸さんの言う通り落ち着くべきだ。急いだからって結果がすぐに出るわけでもないし、急かしてミスしても困るだろうに。
「夕立、ちょっとは落ち着きなよ。霧島さんも言ってたでしょ。急いては事を仕損じるって」
「だって、だって!」
「ちょっと強硬手段に出るよ」
一緒に寝る時のように思い切り抱きしめてやった。あの時よりは厚着だが、さっきまで訓練と戦闘があった上に、報告が先になったことでお風呂にも入れていない。いつもよりも匂いは強めになってしまっているかもしれない。汗臭いと言われたら本当に申し訳ない。
だが、思惑通りに夕立は少し落ち着いたようで、私の身体に手を回してきた。匂いを享受しようと、顔をしっかり押し付けてくる。まるで子供である。いつも言動が少し幼いと思っていたが、こういうところで顕著に現れる。
「落ち着きなって」
「……だって、すぐにでも
「すぐに準備出来ないことくらい理解出来るでしょ」
子供をあやすのは慣れたものだ。孤児院での経験が活きる。同年に対してこういうことをしたことは無いが、まぁ似たようなもの。頭を撫でながら話す。その間に速吸さんには確実に検査を進めてもらおう。
アイコンタクトで速吸さんに合図を送ると、口パクでありがとうと礼を言われた。これくらいならお安い御用である。
「悔しい思いをしたのも知ってる。でもさ、焦ってたら上手くいくものも上手くいかなくなるよ」
「ぽい……」
「それに、夕立が努力してるのも私達はちゃんもわかってるからさ。もし改二がダメでも、すごく強くなってるよ」
訓練では霧島さんに手も足も出なかったかもしれないが、あの人が強すぎるだけで夕立は充分に成長している。少なくとも、あの変態にやられた時よりは今の夕立は格段に強いはずだ。それは私だって保証出来る。
だから焦っちゃダメだ。十全の力を発揮するためには、みんなから言われているように落ち着きを持つことが大事。戦闘中ではない今ならこうやって落ち着かせることは出来るのだから、あとは戦闘中だけ。
「今は待とう? そろそろお昼ご飯だし、甘いものでも食べて一回落ち着こうよ。それでも難しいなら私が側にいるからさ。匂いがあれば落ち着けるんでしょ」
「……わかった。頭に血が上ってたっぽい」
それでも私の胸から顔を離さない辺り、まだまだ落ち着きが足りないのだと思う。それでもこれでジッとしていてくれるのなら良し。
「そんな夕立ちゃんに朗報ですよ」
私が夕立をあやしている間に、速吸さんが検査を終えたようだった。朗報ということはつまり、そういうことなのだろう。
「ギリギリ基準値に到達していました。今なら改二になれると思います」
「ほ、ホント!? 夕立、改二になっていいっぽい!?」
「はい。ですが」
と、朗報と言う割には不穏な流れ。
「夕立ちゃんはD型の異端児で、しかも同期値がとんでもない数値でしたよね」
「うん、確か8000くらいって」
「そこまで大きな値の同期値で改二のリンクをするわけですから、何かしらの身体への影響は覚悟した方がいいかもしれません」
ここにいるD型異端児で改二なのはたった1人、由良さん。それでも夕立ほど大きな値ではなく、規定値を多少超えているくらいの異端児。
人の手で作り上げたM型と違い、原初の艤装であるD型からの影響というのはM型よりもかなり大きく、リンク1回でかなり激しい影響を受けていたそうだ。改二というのはそれだけ違うものだと。
先日の沖波がリンクで喘いでいたのを思い出す。最初のリンクとは違いリミッターを外しているようなものなのだから、影響によってああなるのも仕方ないこと。それがD型の場合はさらに激しくなるということだ。加古さんのような身体の急成長というのもあるわけだし。
沖波からは結局聞いていないため、あの時の影響でどんな感覚を得たのかはわからない。痛みなのか、快感なのか、全く違うものなのか。
「夕立、改二になるっぽい。そんなことでへこたれる夕立じゃないよ!」
そんな脅しにも似た忠告を聞いても、夕立は折れていない。強くなるためには多少の苦痛くらいは必要と。本当にしっかり考えたかはさておき、さっきまでの焦りは見当たらなかった。
「わかりました。ではこちらでいろいろと手続きをします。艤装の改装は午後に始まるでしょうから、早くても夜……いや、明日と思っていてください」
「ぽい!」
「改装を始めると、艤装は使えません。ですから、午後の訓練は無しにして、改二になるための準備を進めていきましょう。時間が空いたら体力作りですね。練度ギリギリですし、時間までは訓練しましょう」
「ぽいー!」
念願が叶うことがわかったため、夕立のテンションは最高潮。話を聞いているのか聞いていないのかはわからないが、喜びを全身で表現していた。
これで残すは私だけとなる。このペースで行くと、あの変態の襲撃までには間に合いそうにないが、だからといって無茶してはいけない。焦らずに自分のペースでやっていこう。
昼食もそこそこに、夕立は笑顔で工廠に駆け出していった。改二になれることが余程嬉しいようだ。今日中になれるかもまだわからないのに。
「良かったね。夕立ちゃん、改二が間に合いそうで」
「それでもギリギリかもしれないけどね。今からアレが来たら難しいかも」
残された私達は、ゆっくりお昼を続ける。夕立の勢いに押し負けそうになったが、いなくなったらいなくなったで静かすぎると思えるようになっているのは、夕立の存在感を物語っているように思えた。
「そうだ、沖波に聞きたいことがあったんだよ」
「聞きたいこと?」
「艤装をリンクした時に、影響で負担がかかってたでしょ。あれってどんな感覚なのかなって」
夕立もそうだが、私も通ることがわかっている道。事前に知っておけば、その辺りの覚悟も出来るというもの。
「あ、あー……あれ、アレね。うん、アレかぁ……」
途端に言い淀む。困ったような笑みを浮かべるものの、その先の言葉が出てこない。言いづらいことなら言わなくても大丈夫なのだが。
「強いて言えば、痛くは無いよ。なんで言えばいいのかな……身体の中に力が駆け回って、モゾモゾするというか、ね。艤装のところを中心に、どんどん漲っていくっていうか……」
明確な表現をあえて外しているような言い方。実際に味わわないと理解が出来ない不思議な感覚と考えればいいか。
「どちらかと言えば、
「なるほどね……よくわからないけど、沖波が喘いでた理由はよくわかった」
全身がくすぐったいのならあんな反応になってもおかしくないか。もしくは痒いのに手が届かないような感覚。妙に艶っぽくなるのも致し方ない。
沖波でそれなら、D型な上に同期値がとんでもないことになっている夕立と、同期値がバグって計測不能になってしまっている私はどうなってしまうのだろう。喘ぐどころの騒ぎではないかもしれない。
「いろいろ覚悟しておく。私はまだまだ先だけど、いつかは来るしね」
「うん……覚悟しておいた方がいいよ。すごいから」
ここまで言うくらいなのだから相当なのだと思う。少しだけ改二改装が怖くなった。
次回、夕立は改二となります。沖波がああなっていたのですから、夕立もあられもない姿を曝け出すことになるんでしょうね。