異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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狂犬の進化

 夕立の改二改装の準備は午後いっぱい使うということで、午後からの訓練は欠席。その間に残された私、陽炎含む異端児駆逐艦は、沖波の時と同様に夕立抜きでの訓練を続けていくことになる。

 午前中は対潜訓練をやっていたが、子供達に丸一日同じ訓練をやらせると飽きるということで、午後は体育の時間にしているらしい。流石に私達ほどの過酷な訓練はやらせていないため、私達は別行動。

 今日のメニューは戦艦組監修による、身体を痛めつけるような筋トレ。持久走や遠泳とは違ったハードな訓練に、身体の節々が悲鳴を上げ続ける羽目に。

 

「夕立が改二ね、何だか感慨深いわ」

「結構最初から霧ちゃんは目をかけてたものね」

 

 その筋トレを見てくれている霧島さんと陸奥さんも、夕立の改二改装の報告を受けて何やら思うところがあるようだ。特に霧島さん、親分と呼ばれているだけあり、霧島さんも夕立とは深く関わっている様子。

 私の知らない夕立の新人時代に、霧島さんから訓練を受けていたようだ。本当に何も知らない状態からあのセンスを発揮していたのだから、嫌でも目に留まると思う。

 

「親分なんて言われて最初は驚いたけど、今ではもう慣れたわ」

 

 その発言により筋トレ中の磯波が破裂。不意打ちだったようでブルブル震えていた。より腹筋が鍛えられていると思われる。

 霧島さんをそんな風に呼べるのは後にも先にも夕立だけだろう。大人の女性に付ける渾名ではない。

 

「成長してくれるのは嬉しいのだけれど、あの子は同期値がとんでもない値になってるから、正直心配なのよね……」

「ああ、改二の影響ね。普通の値でもアレだものね」

 

 うちの鎮守府の戦艦2人はどちらも改二。異端児ではなくても、そのときの身体への影響は経験済み。身体中がくすぐったくなるような感覚というのは、年齢関係無しに感じたくないものだろう。

 それをそのうち私も受けることになると思うと気が滅入りそう。痛みや疲れといった苦行とは別方向の苦痛になる可能性大。リンクと同じ時間なら私は一瞬で終わるが、そうとも限らないし。

 

「ゲロちゃんも改二予備軍よね?」

「うん……でも話聞いてると怖いんだけど」

「まぁ覚悟しておいた方がいいわね。霧ちゃんや加古みたいなこともあるけど、あそこまでは稀だから」

 

 加古さんの話は聞いていたが、霧島さんもとは知らなかった。なんでも、霧島さんも背が高くなったらしい。確かに女性としては長身な方だとは思う。

 

「背が高くなることはいいことだと思うし、胸が大きくなることはもっといいことだと思います!」

 

 ここで沖波の熱弁である。改二になって何も変化が無かったことが悔しいのだろうか。変わらなければ変わらない方が安心だと思うのだが。

 なんて口に出したら沖波が傷付くだろうからやめておく。こういうことは思うだけで留めた方がいい。

 

 

 

 幸いにも午後は敵の襲撃は無く、ここまで来たら明日で確定と言える状況となった。つまり、夕立の改二は奴の襲撃に間に合ったということになる。夜中に来たら話は変わるが。

 訓練を終えてお風呂に入った後、私達に工廠に来るようにとお呼びがかかった。まぁなんとなく理由はわかる。その時が来たのだろう。

 

「もしかして、ついに?」

「ぽーい! 夕立、改二の時!」

 

 大きくピースしながら満面の笑みで待ち構えていた。沖波の時のようにそれを見学する人数はなるべく少なめにされていた。私達異端児駆逐艦の他には、夕立が慕っている霧島さんが参加。後は工廠なのだから夕張さんはそこにいる。霧島さんも夕張さんも艤装を装備しているのは少し物騒だが、おそらく念のため。

 夕立も沖波のように制服がちょくちょく変わっていた。裾の部分や袖口の装飾だったり、指抜きのグローブが追加されていたりと微々たる変化ではあるが、それだけでも夕立は喜びがいろんなところから出ていた。

 

「早く、早くリンクやろっ。夕立、強くなるっぽい!」

「わかったわかった。だが、速吸から聞いているかもしれないがどうなるかわからないよ。アンタの同期値は普通と違うんだからね」

「うんっ!」

 

 話を聞いているのか聞いていないのか。整備長が持ってくる艤装もキラキラした目で見つめていた。

 

「夕立のお嬢ちゃんのために、整備班フル稼働で間に合わせたぜ。急いだからってミスも無いから安心してくれい」

「わっはー! お爺ちゃんありがとっぽーい! みんなもありがとー!」

 

 この時間まで全員が夕立の艤装に取り組んでいたため、この時間で仕上がったようである。夕立が今か今かと待ち望んでいたのは誰だって知っていることなので、整備班の心は一つになっていたようだ。

 その艤装も今までとは様変わりしていた。特に目立つのが取り付けられた帆。まるで機関部が止まっても風力で突っ込んでやると言わんばかりである。艤装側にも主砲が取り付けられるようになっていたり、魚雷発射管がゴツくなっていたりと、全体的に火力増し増しなイメージ。狂犬がより狂犬になっていた。

 

「んじゃあ、やるかい」

「ぽい!」

 

 全員の見守る中、艤装のリンクが始まる。

 整備長が運んできて台座に載せた艤装の接続部に腰を押し当て、目を瞑ってイメージ。本当に楽しみだったようで、ずっと笑みを浮かべた状態だった。

 夕立は初めてのリンクが私が来るまで最速記録を出すほどの速度で終わらせている。沖波の時もそれなりに早かったし、激しい影響があるにしても手早く終わると思われていた。

 

 だが、思惑は外れる。

 

「んふぁあっ!?」

 

 妙な声と共にビクンと夕立が震えた。沖波の時よりも反応が大きい。ガタガタと震えだし、瞑っていた目は見開く。想定以上の衝撃に、夕立自身も驚きが隠せていない。

 空城司令や霧島さんが危惧していた問題が起きているのかもしれない。大きすぎる同期値のせいで影響が普通よりも格段に大きく、まともに耐えることが出来ない程の衝撃に夕立は襲われていた。

 

「あっ、うあっ……!?」

 

 少なくとも苦しいようには思えない喘ぎの中、突然のおかしな音。メキリメキリと骨が鳴るような音がしたかと思うと、夕立の外見に変化が訪れていた。

 ピッタリに作られていたはずの改二制服が、少しずつサイズが合わなくなっている。少ししたらヘソが見えてしまうくらいになり、胸の部分がパツパツに。身長と共にスタイルまで変化させられているようだった。

 

「アンタや加古よりは控えめか。だが、子供の身体にこれは負荷が大きいね」

「それだけで済めばいいのですが……」

 

 心配そうな霧島さんがいつ手を出そうかと手に汗握っている。衝撃が激しすぎて暴れ出しそうになった場合は、霧島さんが艤装の力も借りて取り押さえるつもりのようだ。夕立も艤装を装備しているのだから、この状態で暴れられたら工廠が酷いことになる。

 今のところは暴れるようなこともなく、だが身体の痙攣が止まらないようで息も荒い。自分の身体の変化には気付いていないようだったが、ビクンと大きく震えたかと思うと、その度に骨が軋むような音がする。

 

「ひうっ!?」

 

 今までの喘ぎとは違った反応。歯を食いしばり、瞬きもせず涙目で目を見開いていたが、その反応と同時にさらにおかしな変化が起きる。夕立の瞳が()()()()()()、さらには髪の先も同じように紅く染まっていった。

 身体への影響で髪が染まるというのは沖波を見ればわかるし、瞳の色が変わるというのは木曾さんの片目で知ってはいるが、それが目の前で繰り広げられると驚きが隠せない。

 

「だ、大丈夫なのコレ……」

「大丈夫だと思うけど……なんかすごい……」

 

 見ているこちらも複雑な気分になる。沖波は既に一度自分でやっているため、夕立が感じているそれに対して一定の理解を示しているものの、ここまで激しいとは思っていなかったためにしっかり凝視。磯波も顔を真っ赤にしながらも今後自分がこうなる可能性が無いとは限らないと食い入るように見つめている。

 そして、次は私もこうなるかもしれないと思うと恐怖すら感じた。力を得るための代償が、この痴態。身悶えて喘ぐ夕立の姿は、何か()()()()()()を見ているかのようである。

 

「っあっ、あっ、ふぁああっ!?」

 

 最後に一際大きく震えた後、髪の一部がピョコンと跳ね上がり、犬の耳のような癖っ毛が出来上がった。そして一気に力が抜けて艤装にもたれかかるように崩れ落ちる。

 事を済ませた夕立は息も絶え絶えで、相当に消耗しているようだった。とても長い時間乱れていたように思えたが、実際は1分ちょっと。

 

「っは、はふ、お、終わったっぽい……?」

「ああ、終わったろうね。今まで見てきた中で一番酷い有様だったよ」

 

 最初から全員の改装を見届けてきた空城司令がこう言うのだから、本当に酷かったのだろう。沖波はここまででは無かった。消耗はしていたかもしれないが、疲れを表に見せない程度。しかし、夕立は今は立ち上がれないと言わんばかりの疲れ。

 

「しんどいっぽい……あと服がキツキツっぽいぃ……」

「アンタも大分身体に影響があったみたいだね。だがねぇ……同期値が大きすぎるってのがここまでになるとはアタシも思っちゃいなかった。本来ならもう少し練度を上げてから改装した方が良かったかもしれない」

 

 身体自体は改二改装に耐え得るところまで来ていたものの、異常な同期値のせいでここまで酷いことになってしまっていた。もっと練度があれば変化も抑えられたかもしれないが、こうなってしまっては仕方がないこと。

 夕立も自分が何処まで変化したかを理解出来ていないので、ひとまず艤装を外してからお風呂で確認することにした。出る頃には妖精さんによる服の調整も終わっていることだろう。

 

「っとととと……うまく立てないっぽいぃ」

 

 だが消耗は予想以上のようで、艤装を外した途端に足がもつれてしまったようだ。都合よく私が近い位置だったので抱き留めてやる。

 

「おっとと、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。ちょっとフラついた……だけ……」

 

 余程疲れているのかと思ったが、何か様子がおかしい。支えるために抱き締めている私に対して顔を押し付けてきたかと思うと、思い切り息を吸った。

 

「ゲロちゃん……いい匂いっぽい……改二になる前よりもいい匂いに感じる」

「そういうところまで変化したってわけ?」

「わかんないっぽい……」

 

 それこそ本当に犬のように私にじゃれついてきた。疲れで力が抜けているため、私に完全に全てを預けてきている。身体が成長してしまっているのでそれなりに重く、支えるのに手一杯。今までは同じくらいだった身長も、改二改装による変化で伸びていることで、夕立の方が少し大きい。そのせいで押し潰されかねない程に。

 

「夕立、少しは自分の足で立って」

「ぽいー……力入らないっぽい」

「えっ、ちょっ、ぎゃあっ!?」

 

 言いながらも私の胸に顔を押しつけて匂いを堪能しようとしていた。そのせいで今度は私がまともに立っていられなくなり、押し倒されてしまう形に。工廠の床は硬い。背中を打ち付けてしまい、鈍い痛み。

 子供が大型犬に押し潰される動画とかを見たことがあるが、私と夕立の今の状態はそれに酷似していると思う。夕立に尻尾があったら引きちぎれんばかりに振られているだろう。だがお互い人間なので見た目がとても悪い。海防艦の子達には絶対に見せられない。

 

「夕立! さっさと風呂に行きな!」

「ぽぃ、ゲロちゃん連れてってぇ」

「だったらまず退いて!」

 

 結局霧島さんに引き剥がしてもらうことで事なきを得た。あのままだと本当にまずいところまで行ってしまっていたかもしれない。夕立の名誉のためにも、あそこで止められて良かったと思う。

 武装のテストは明日改めてということになった。改装でここまで消耗した者もいないようなので、これは仕方のないことである。

 

 

 

 さっき入ったばかりだが、夕立に便乗する形でまたお風呂。まだ体力が戻っていないということで私達が協力して薬湯に浸けることに。

 

「疲れが飛んでいくっぽい」

「こっちはどっと疲れたよ……」

 

 言いながらも私から離れようとしない。完全に匂いの虜。先程と違って全裸でのこれなので、全体的に成長してしまった夕立のそれを堪能させられることになる。二の腕が谷間に挟まれるとか滅多に無いことだと思う。

 その光景を見て、沖波がジト目になっていた。理由がわかってしまうのが悲しい。

 

「私は成長しなかったのに……改二は最後の希望だったのに……」

「ま、まぁ、ほら、それは人それぞれだから」

 

 それを慰める磯波。磯波はそういうところを気にしている節は無いため、沖波の理解者といえるかはわからないが。

 

「とにかく、無事……無事? 無事に改二改装が終わってよかったよ」

「うん、明日からは新生夕立をお楽しみっぽい! これであの変態クソヤンデレをぶっ飛ばしてやるっぽーい!」

 

 どれほどまでに強くなったかはまだ未知数だが、沖波の時のことを考えれば、夕立も相当強化されているだろう。これならば、念願も叶う。まず当面の敵を倒して、先に進んで行こう。

 

 夕立のトラウマが払拭されるのも、時間の問題だ。

 




これで磯波が改二でバインバインになったら沖波はハイライト完全に消えると思う。強く生きて。
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