異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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奴の再来

 夕立の改二改装が執り行われ、無事……と言えるかはわからないが、それを終えることが出来た。夕立は艤装からの激しい影響により身体に著しい変化があったものの、痛みなどの不具合はなく過度な疲労のみ。そしてそれもお風呂に入ることで回復することが出来た。

 お風呂あがりに用意されていた制服は、今の夕立を考慮したサイズに仕立て直されており、妖精さんの早技が窺える。

 

「ふふん、どうっぽい?」

「すごく狂犬って感じがして似合ってるよ」

「夕立犬じゃないっぽい!」

 

 以前までは何処となく育ちの良さみたいなのが見えた夕立なのだが、改二となってからは荒ぶる狂犬というイメージが格段に上がっていた。

 おそらくそれは、改二の影響で出来上がった犬の耳のような癖っ毛のせい。今までも犬っぽい仕草が多かったものの、外見にまでそういうところが出来たことで、より一層犬っぽく感じる。

 

「でも、ゲロちゃんの匂いクンクンしてる時だけは犬っぽくなっちゃうかも。今だとすごく強く感じるんだよね。ものすごくいい匂いなんだよ」

 

 などと言いながら間髪入れずに抱きついて来る。今度は力加減も理解してもらえたようで、倒れるほどに強烈なタックルでは無かった。

 匂いが強く感じられるようになったということはどうしても気になるところ。あの変態も私からは深海棲艦の匂いがすると言い出していたが、夕立が感じ取っているのはおそらくそれ。それを強く感じられるということは、夕立は深海棲艦っぽくなってきているということだろうか。元は深海棲艦のものであったというD型艤装の影響がそこまで強いと。

 

「あのヤンデレストーカーからも、匂いが強いとか言われたんだよなぁ」

「あんな奴と一緒にしないでほしいっぽい。夕立は無理矢理ゲロちゃんを自分のモノにするとかゲスいことしないから」

 

 抱きついている時点で説得力皆無である。沖波も磯波もそれについては何も言えず。

 とはいえ、人様との妄想で痴態を見せながら悦ぶアレとはまるで違う。夕立はあくまでも戯れている範囲内に収まっている。これくらいならまだ可愛いものだ。

 

 

 

 そして翌日。私、陽炎はまだ改二にはなれていないものの、昨日の潜水艦による襲撃の時点で、奴が来ることは時間の問題となっているため、こちらから打って出ることになった。

 鎮守府近海で戦うことの方が迷惑だし、何より奴を他の者、特に海防艦の視界に入れたくない。情操教育に良くない存在だ。ただの変態以上に酷い奴なわけだし。

 

 その戦いの詳細を説明するということで、鎮守府所属のほぼ全員が作戦室に集まる。まず確実にその部隊に組み込まれることがない海防艦達も、話を聞くだけはするようだ。子供だとしても、今はこの鎮守府所属の艦娘。全員が平等。

 この場にいないのは、念のため近海に哨戒機を飛ばしている空母組のみ。今回は大鷹もそちらに参加している。そのため、海防艦の保護者は由良さんが受け持っていた。

 

「あまり関係ないことだが、まず先に伝えておく。諜報部隊から連絡があってね。奴の呼称は『駆逐水鬼(クチクスイキ)』となった。今後はこれで説明していく」

 

 基本的に深海棲艦には名前がなく、同一個体が現れたりした時のために何かしらの名前をつけておくらしい。前にちょろっと聞いた気がするが、あまり覚えていない。

 そして、あのヤンデレ姫につけられた名前が駆逐水鬼。駆逐艦の水鬼、鬼ということでこの名前のようである。私にはどこまで行ってもただの変態ヤンデレストーカーなわけだが。

 

「さて、と。じゃあ説明していくよ。今日決着をつけるつもりで行く。巣も叩き壊すつもりでね」

 

 駆逐水鬼を撃沈することが出来れば自ずと巣は消えていくと思ったが、そうではないらしい。ボスである姫を沈め、その上で巣をしっかりと破壊する必要があるようだ。

 それを行うためには、専用の装備を使うとのこと。本来ならば潜水艦がいる方がやりやすいらしいが、そこは無いものねだりなので、相変わらずの整備班の発明品のようである。

 

「そのための部隊はもう決めてある。夕立が間に合ったからね。だが武装のテストだけは必要だ。よって、出撃はそれが終わってからとする。構わないね」

「ぽーい! すぐ終わらせるから!」

「焦ってポカをやらかすんじゃないよ」

 

 少し遠いという難点があるが、一直線に向かえば数時間というところ。昼から行っても、行って帰るだけなら暗くなる前後には戻れるだろうと思われる距離。

 そのため、夕立の武装のテストをちゃんとやってからの出撃となる。早めに終わらせて、昼食も食べずに出て行くことになるだろうが、そこはしっかりと準備して。

 

「やたら硬いのは報告を受けている。よって、連合艦隊で押し潰す。それに、奴にも随伴がいることは聞いているからね。特に厄介なのが潜水艦と小鬼だ。それの対策はしっかり積ませてもらう」

 

 部隊としては2つになるだろう。1つが駆逐水鬼本体を叩く部隊。もう1つが随伴艦を全て処理する部隊。

 今まで相手にしてきたのは、ちょくちょく現れる潜水艦と、奴そのものに引っ付いていた小鬼群。特に後者は、こちらの攻撃をやたら避けるというのが非常に面倒くさい。あの時はうまく処理出来たが、同じことがまた出来るとは限らない。

 

「よし、じゃあ部隊を発表する。まず第一部隊、姫をやるのが……」

 

 と、空城司令が話し始めた瞬間、鎮守府内に警報が鳴り響いた。これが出来るのは、現状外で哨戒機を飛ばしている空母組だけ。突然の大きな音に、数人はビクッと驚く。私もその類。こんな警報が鳴るなんて聞いていなかったし。

 鎮守府が危険に晒されることは実際は稀なのだが無いわけではない。その時のためにこういう警報装置などが用意されているようだ。そしてそれは、外部の者が作動させることが出来ると。哨戒部隊が鳴らせなかったら意味がないし、考えてみればそれも当然か。

 

『まだ作戦会議中かい。空母組の隼鷹だよ。わかっちゃいると思うけど、《奴》の姿を哨戒機が見っけた。鎮守府に接近中って話だよ。準備の時間を作るために、今から空襲を仕掛ける』

 

 警報が止まると同時に響き渡る隼鷹さんの声。このタイミングで警報が鳴らされた時点で、誰だって《奴》が来たのだと察しただろう。私だってそう思った。

 私の隣に座る夕立から、怒気のような熱を感じた。悪夢を見るほどのトラウマを植え付けられ、倒すためにここまで努力してきたのだ。手も足も出なかった時とは違う。

 

『追加情報。敵部隊は結構厄介だね。部隊自体は()()んだけど、小鬼がかなりいる。あと大鷹が言うには潜水艦もいるみたいだよ。そのように用意して』

 

 放送で逐一戦場の状況を伝えてくれる。軽いということは、姫を除く随伴艦が小型の艦種ばかりと思えばよさそうだ。だが、小鬼が多いというのだから相当厄介。駆逐艦より小さくとも、意味がわからない回避性能で生存能力が非常に高い。

 追加で潜水艦の存在まであるとなると、厄介極まりない。個別にしっかり対策しないと、あちらがどれだけ小粒でも押し潰されてしまう。

 

「もう来ちまったのかい。ならすぐに出撃しないと鎮守府が危ないね。だがすぐに出撃出来る人数も限られてる。時間を稼ぐか……陽炎!」

「は、はいはい!」

「新人のアンタにこんなこと頼みたくは無いんだが、ある程度出撃出来るまで時間稼ぎ出来るかい」

 

 奴は私に依存と言えるほどの執着をしている。他の仲間達には敵意むき出しだが、私には常に満面の笑みなくらいだ。会話による時間稼ぎくらいなら可能かもしれない。その間にみんなに準備をしてもらい、押し潰そうとしてきた奴らを逆に押し潰す。

 おそらく私にしか出来ない仕事だ。ならばやるしかない。後々のことを考えれば、この時間稼ぎはかなり重要。空城司令が直々に頼んでくるのだから、これが最善の手。

 

「了解。多分私にしか出来ないもんね。やるよ。アイツと話するの気持ち悪いけど」

「すまないね。すぐに準備を頼む!」

 

 作戦会議はそこそこに、まずは私が部屋を出て工廠に駆け出した。後から何人もこれを追ってくることになるだろうが、その道を拓くのは今回は私だ。

 まだまだ新参者なのに、こんな重要な立ち位置に置かれるだなんて、嬉しいやら悲しいやら。この戦場があまりにも特殊すぎるというのもあるが。

 

 

 

 既に用意されていた私の艤装を早々に装備すると、軽く整備班の人達に礼を言って出来る限りの最高速で戦場へ。工廠から少し出たところでおそらく大鷹の艦載機が私を待っていたため、現場に案内してもらう。

 空母組は空襲であちらの足止めをしてくれているのだが、その艦載機は次々と墜とされてしまっており、枯渇も時間の問題。奴の随伴は軽いとは言っていたが、防空は異常な性能を持っているのかもしれない。言うなれば、あちらの部隊全員が初月みたいな。

 以前の戦いでは戦艦2人の砲撃と空母2人の空襲を纏めて受けても、駆逐水鬼は殆ど無傷だったため、防空が万全の今は足止めにすらなっていないかもしれない。

 

「おう、来たかい陽炎!」

 

 艦載機についていった先で隼鷹さん達の姿を発見。全力で空襲を続けているが、近くで見てもあちらの軍勢は減っているようには見えなかった。

 空母3人に対してあちらは倍以上の数とはいえ、艦娘と違い化物の魚の外見なのに初月以上の対空砲火。密度が私達とは段違いすぎる。

 

「あの駆逐艦、新型じゃんさ。あたしらの空襲全部抑えやがって」

「あれほどの防空性能を持つ駆逐艦は初めてです。単純にスペックが異常と考えるべきでしょう」

「対潜の艦載機まで墜としてくるだなんて……」

 

 正規空母と軽空母2人の空襲が全て抑えられるのは正直想定外。ある意味、こちらの高火力の一部が完全に抑え込まれているようなもの。

 

「空城司令からの指示。私が時間稼ぎする。アイツは私の話だけは聞くから、みんなの準備が整うまでどうにかする。空襲、一回止めてもらってもいいかな」

「あー、了解。無駄弾になりそうだったから助かるぜ」

 

 空襲を一時中断。あの防空性能のせいで届かないというのなら、これ以上やっても資源の無駄になってしまう。

 足止めは私が引き継ぎ、一旦空母の3人には少しだけ退いてもらう。私が到着するまで延々と攻撃を続けてくれていたのだから、休憩してもらいたい。

 

 そして、私が戦場に到着したことを向こうも理解したか、その中の1人が先頭に躍り出てくる。誰だなんて考える理由もない。奴だ。

 

「アハ、アハハハ、陽炎、久シブリ。会イタカッタワ。寂シクナカッタカシラ。私ハトッテモ寂シカッタワ。デモ、今日ヨウヤク添イ遂ゲルコトガ出来ルンダモノネ。待ッタ甲斐ガアッタワ!」

 

 相変わらず私相手だとテンションがやたら高い駆逐水鬼。私の姿を濁った目で見つめながら、昂揚を隠さずにクネクネモジモジしていた。

 だが、それは前から知っていることなので気にならないが、気になることが幾つか。そのうちの1つは、奴の艤装だ。霧島さんの拘束から逃れるために爆破した剛腕は綺麗に元通りになっており、より力強く変化していた。主砲も魚雷もしっかり修復済み。

 

 それともう1つ。どうしても嫌悪感が出てしまうもの。駆逐水鬼の()()である。以前は深海棲艦特有の牙のような意匠が目立つボロボロのセーラー服と、スカートすらなくパンツ丸出しなイメージだったが、今は違う。

 

「ンフフ、陽炎ト()()()ニシテミタノ。似合ウカシラ」

 

 深海棲艦特有の意匠は残されているが、明らかに()()()()()()()()になっていた。

 深海棲艦がどのように服装を作り上げているかは知らないが、わざわざ私と同じものにしてきた辺り、奴の私への執着心が表されている。それでもスカートだけは無いようで、パンツではなくスパッツ丸出し。スカートを穿かないというポリシーなのだとしたら、何処まで変態なのだ。

 

「陽炎ニ包マレテイルミタイデ、トッテモ気分ガイイノヨ。全身ニ触レラレテイルミタイナノ。イズレ陽炎ガ自分ノ意思デ私ヲ撫デ回シテクレルト思ウト、ハァア、堪ラナイワァ。最高ォ!」

 

 またもや妄想だけでビクンビクンと震えている。もう周りが何一つとして視界に入っておらず、この海には私と自分しかいないとでも思っていそう。

 

「何度も言わせないでくれないかな。私はそちらには行かない。目覚めてもいない」

「時間ノ問題ヨ。デモ、トリガーハイルカモシレナイワネ。貴女ノ今ノ居場所ヲ壊シテ、私ノ側ニ置ケバイイワ。今ハ嫌カモシレナイケド大丈夫、陽炎モワカッテクレル。私ノ行動ニ感謝シテ、愛シテクレルヨウニナルワ。アッハハ!」

 

 もう嫌悪感しか湧かない。私を陥れるために、私の周りを破壊しようとここに来ているのだから気分が悪い。そんなことやらせて堪るか。自分の欲望のために私の意思も考えずに滅茶苦茶しやがって。

 

「アンタはここで沈めるよ。まだ2回目だけど、そろそろいい加減にしてほしい」

「ンフフ、マダ目覚メル前ダケド、先ニ愛デテモイイカシラ。陽炎ハ何処ガ気持チヨクナル? ソコモ私ト同ジカモ。アハ、私ト陽炎ハ相性最高ダモノ。アハハハ!」

 

 もう一挙手一投足が気持ち悪い。一言一言に悪寒が走る。違う意味で戦いたくない。

 

 だがそれももう終わりだ。少しだけだが時間稼ぎは出来ている。たったこれだけでも、あの子はここに間に合う。

 

 そのために改二になったのだから。

 

 

 

「っらあああっ!」

 

 会話中でもお構いなく、真ん中を突っ切って駆逐水鬼の真正面から突撃。主砲を連射しながら肉薄するのは、勿論夕立だ。

 

 夕立のリベンジマッチはこれにより幕が開く。夕立のことだ、二の舞にはならない。私もその手助けが出来ればと思う。

 




今の夕立はまだあのマフラーを身につけていません。制服を新調しただけですからね。
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