異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
「っらあああっ!」
会話中でもお構いなく、真ん中を突っ切って駆逐水鬼の真正面から突撃。主砲を連射しながら肉薄するのは、勿論夕立だ。
この時のために鍛え、努力し、新たな力を得た。最後の詰め、武装のテストだけは出来ていないが、それはもう実戦でどうにかしていくつもりのようだ。やってはいけない無茶かもしれないが、今ここでやらなくてどうする。
「アハ、アノ時ノ犬ジャナイ。何モ出来ズニ這イツクバッタ犬ガ、今更何ノ用ナノカシラ」
夕立の砲撃は全てその剛腕によりガード。相変わらず滅茶苦茶な硬さ。もしかしたら修復した時に更に硬くしているかもしれない。
それでも夕立は止まらない。以前よりも格段に速く、獰猛に駆逐水鬼の首を狙う。目の光が以前と違うことを察したか、駆逐水鬼も少しだけ夕立に意識を向けた。
「アイツヲ止メナサイ。私ハ陽炎ト話ガアルノ」
周りの駆逐艦と小鬼に命令し、夕立の進攻を止めようと動き出す。敵の駆逐艦は先程まで空母の空襲を全て止め続けていた新型。小鬼は言わずもがな異常な回避能力を持った小粒達。どちらも厄介極まりない随伴艦である。
それが纏まって夕立の前に立ち塞がった。サイズはそれほど大きくなくとも、持っている武装は当然殺傷能力を持っている。むしろ駆逐艦とは言うがそれ以上の火力を持っている可能性が非常に高い
「邪魔ぁ!」
だが、夕立はそんなことでは止まらない。駆逐艦の砲撃や、小鬼が繰り出した魚雷を全て回避し、時には駆逐艦を踏み付けて跳び越え、駆逐水鬼に肉薄。
主砲を構えつつも接近戦をしようとしている。これは以前に接近戦でやられたことに対する意趣返しとも言える。恐ろしいことに夕立がこの戦術を使うのは初めて。
「アラ、前トハ違ウッテコトカシラ。陽炎、チョット待ッテテネ。アイツヲ貴女ノ前デ血祭リニスルカラネ。ソウシタラ目覚メテクレルワヨネ!」
「アンタは夕立を嘗めすぎ」
ニィッと歪んだ笑みを浮かべた後、夕立を見据える。たった今完全に私から意識を離した。
これならば随伴を少しでも減らせるかと思ったが、夕立が敵の群れを掻い潜っている最中のため、なかなか撃つタイミングが掴めない。撃ったら夕立に当ててしまいそう。空母組もあそこまで近いと空襲が出来ず、私と同じように戸惑ってしまっていた。
「今度ハ握リ潰シテアゲル!」
その剛腕を夕立に向けて突き出し、夕立の頭に掴みかかろうとした。夕立はちょうど跳んだところ。いくら改二とはいえど、空中で体勢を変えることは不可能。
しかし、夕立は一味も二味も違った。策も無く跳ぶなんてことはしない。
自信満々で若干慢心気味だった今までとは違う。一度の大敗から大きく学んでいる。接近戦も強く意識していた。
「どうせそんなことだと思ったっぽい!」
掴みかかろうとする腕に対して強引に砲撃。それで傷付くことは無かったのだが、砲撃による爆風と駆逐水鬼本人の風圧を艤装に備え付けられた帆がまともに受けたことで、夕立が一気に減速した。
おかげで夕立に掴みかかろうとした駆逐水鬼の腕は空を切ることになり、大振りだったことで大きな隙が出来上がる。すかさずそれに合わせて主砲を構えたが、グルリと回ってもう片方の剛腕がそれをガードした。
「……チッ」
「行儀ノ悪イ犬ッコロネ。ソンナニ私ト陽炎ノ仲ガ羨マシイノカシラ」
着水と同時に潜水艦からも狙われていたが、踊るようにその攻撃を躱しつつ、すぐに下がって間合いを取った。自分が狙われないようにあえて私の側に来る辺り、頭に血が上っているわけでもなく周りがちゃんと見えている。
先程の肉薄の際、随伴の深海棲艦を沈めるようなことが出来ていない。ただただ回避して駆逐水鬼に一直線に向かっただけ。故に、戦力差はまだそのまま。
今の間に私が撃っていれば多少は減らせたかもしれないが、夕立があまりに近かったために撃つのを躊躇ってしまった。備え付けの方ならまだしも、手持ちのブレ弾に至っては流れ弾で夕立を撃ってしまいかねない。
ここで撃てる程の腕前と度胸が欲しい。そうすれば、今の戦いはより優位に立てたと思う。そこが悔しかった。
「デモ、犬ガ私ノ陽炎ト並ビ立ツノハヨクナイワ。ウウン、モシカシテ私達ノペットニナリタイノカシラ。ドウシテモッテ言ウナラ、私ト陽炎デ飼ッテアゲテモイイワヨ」
「寝言は寝て言うっぽい。変態クソヤンデレ」
間髪入れずに太腿にセットされた魚雷発射管が動き出し、一斉に放たれる。今は周りに誰もおらず、夕立が引っ掻き回したことで大分同じ場所に集まっている状態。そこに魚雷が撃ち込まれれば、どれかには当たる。狙いは勿論駆逐水鬼だが。
しかし、すかさず敵潜水艦がガードに入る。姫を守るために自らの命を散らすことに全く躊躇が無い。死ぬことすら厭わないドMなのだからそれもあるのか。いや、無い。気持ち悪い。
敵潜水艦2体が駆逐水鬼の真正面に浮上し、魚雷が直撃した瞬間、その姿が完全に隠れる程にまで水柱が立った。1本2本ではない魚雷が同時に爆発したせいで、完全に視界が塞がれてしまう。
「ッハハハハハ! マタコレ? 同ジコトノ繰リ返シヨ!」
その水柱をぶち破るように突撃してきた。やはり速い。本体が隠れていたため、遠近感が滅茶苦茶になっている。
既に拳を振りかぶった状態で夕立に手が届く位置にまで接近していた。あんな艤装を身につけていながら、私達の誰よりも素早い。深海棲艦のインチキスペックを嫌というほど感じる。
「こっちのセリフっぽい。同じことばっかり、馬鹿の一つ覚え?」
しかし、同じことを何度もやられる夕立ではない。またもやその風圧を利用して、帆を使った後退。攻めにも守りにも使える、夕立にしか使えない戦術である。それを初っ端で決めていくのは、流石夕立としかいえない。
この咄嗟の判断により、駆逐水鬼の振り抜いた拳を紙一重で避けることに成功。返しで一撃入れられれば良かったのだが、剛腕のせいで攻撃に転じることは出来ず。
そして、ここまで時間を稼いだのだから、増援はもう準備が出来ている。先行してくる者だってしっかり選出されているはずだ。
真っ先にこの場に来るものなんて、最初からわかっていた。駆逐水鬼と因縁があり、夕立の成長を喜んでいた者。
「うちの子分が世話になってるわね」
夕立が下がったところを見計らって、駆逐水鬼の真横にいたのは霧島さんだ。既に艤装を鋏状に変形させて、容赦なく首を刎ね飛ばすために振りかぶっていた。
「犬ノ飼主!」
「ご機嫌よう、駆逐水鬼。今日が貴女の命日よ」
「ソンナワケ無イワ。ダッテ、陽炎ガ見テイテクレルンダモノ。私ノ陽炎ガ、ッハハ、ソノ視線ガアルダケデ昂ブルワ!」
戦闘中であろうとお構い無しにビクンと震えて、恍惚とした表情をしながら霧島さんの一撃を大きく回避。そしてそれと同時にまだ残っている潜水艦から霧島さんに向かって魚雷が放たれていた。
戦艦は潜水艦に対してはなす術が無く、私も夕立も対潜装備はしていない。この魚雷に対しては回避行動以外の選択肢が無い。そのせいで間合いは勝手に開いていく。
「すぐに片付けます!」
ここで動き出したのは大鷹。対潜仕様の艦載機を発艦させることで潜水艦の処理に乗り出す。
しかし、そこに被せるように敵駆逐艦も対空砲火を再開した。今までは空襲そのものを止めていたためにあちらも動きを止めていたが、こちらが再開するのならあちらも再開する。
「大鷹、援護する!」
そこならば私が援護出来る。あの新型駆逐艦というのがどれほどのものかはわからないが、叩かなければ先に進めない。
私の砲撃はブレ弾も備え付けも共に直撃してくれた。だが、傷付いているものの一撃で沈めることは出来ず。さらに嫌なことに、魚の化物だというのに、私の一撃が入った瞬間にニチャアと笑みを浮かべたかのように見えた。奴の配下は全員あんななのか。
「足りない……!」
「なら、足らせるまでだぜ」
そこへ今度は増援の木曾さん。新型駆逐艦を沈めるために、ありったけの魚雷を放ってくれる。主砲がダメでも魚雷なら火力が足りているはずだ。先程は駆逐水鬼狙いだったために潜水艦が身を挺してガードしに来たが、今回は個別に狙っているのだからそうはならない。木曾さんの雷撃は見事に直撃し、大きな爆発と共に駆逐艦が沈んでいく。
魚雷なら効くとわかったのだから、私もそちらにシフト。一撃で行けるかはわからないが、確実性のある攻撃を選ぶのが妥当だ。
しかし、それを邪魔してくるのが小鬼群である。駆逐艦とは違い、魚雷はまず当たらない。その上向こうも魚雷を放ってくるのだから腹が立つ。こちらの照準を確実に狂わせ、あわよくば直撃を狙ってきている。
「小鬼処理班到着ですーっ!」
「任せよ。小粒には小粒だ」
そこに割り当てられたのが、五月雨と菊月による小鬼処理班。いつもの主砲ではなく、より反動が無く命中精度の高い機銃を装備した五月雨と菊月が、1体ずつ確実に撃ち抜いていく。2人の精度は目を見張るもので、百発百中に小鬼を処理していった。
そして潜水艦。大鷹1人ではどうにも出来ない数が潜んでいそうなため、対潜部隊も欲しい。そこでやってきたのが、まさかの人選。
「行くぜ行くぜ行くぜー!」
「潜水艦は占守達にお任せっしゅよー!」
確かに対潜のスペシャリストではあるが、あのド変態のいる戦場に子供達を送り込むのは苦渋の選択だったと思う。だが、最速で潜水艦を終わらせるのなら、海防艦が一番速い。おそらく終わらせたらすぐに撤退させるつもりなのだと思う。
「たいようおねぇちゃん……しれぇからのでんごん……です。せんすいかんがおわったら」
「貴女達を連れて撤退ですね。わかりました。では皆さん、すぐに終わらせてください!」
大鷹の号令でより力が入る子供達。混戦の中を潜り抜けて潜水艦だけを的確に沈めていく。昨日の時もそうだが、いつもはぼんやりしている松輪も対潜の時だけは占守や大東と同じで素早く的確な爆雷投下を繰り出していた。
駆逐艦は私と木曾さんが、小鬼は五月雨と菊月が、潜水艦は大鷹率いる対潜部隊が、駆逐水鬼の随伴艦を次々と沈めていく。奴が丸裸になるのも時間の問題だ。
そしてその駆逐水鬼は、未だに夕立と霧島さんのみで相対している。途中の潜水艦による横槍で大きく間合いを取る羽目にはなったが、未だにお互い無傷のため、戦闘がそこまで進んでいるわけでもない。
「陽炎ニ見テイテモラエナイ……全部貴女達ノセイヨネ」
「貴女が随伴艦連れてきているからでしょう。そこまで人のせいにしないでほしいわ」
私は駆逐水鬼の方を見ている余裕はない。夕立と霧島さんが戦いやすくなるように、少しでも早く随伴艦を沈めなくてはいけない。
それを自分が見てもらえないと憤っている駆逐水鬼はどんな神経をしているのだろうか。自分のせいなのに相手のせいに出来るとか。
「貴女達ガ死ネバ、私ヲ見テクレルワヨネ。アッハハ、ソウシタラ陽炎モ目覚メルワ。仲間ノ死ナンテ最高ノトリガーニナルデショウ。
何か意味深なことを言っていたようだが、今は気にしている暇は無い。駆逐水鬼も本気で2人を殺すことに専念しようとしている。
「貴女達ヲ生贄ニシテ、陽炎ヲ目覚メサセル! ココデ目覚メレバ、ココノ連中ヲ陽炎ノ手デ皆殺シニシテクレルワ!」
「ゲロちゃんがそんなことするわけないでしょ。馬鹿なの?」
心底くだらないものを見る目で駆逐水鬼を見つめる夕立。まだまだ余裕そうな表情の駆逐水鬼に苛立ちを覚えつつも、冷静に次の戦い方を考えている。人の話も聞かずに突撃していた改二になる前とは違う。
だが、次の発言はある意味爆弾の投下。
「そもそも、なんでゲロちゃんがアンタのモノなの。
ピクリと駆逐水鬼が反応。
「一緒ニ寝タ……?」
「仲間だもん、それくらいするっぽい。アンタ達のせいで悪夢を見ちゃうのを慰めるためにね。体調崩したゲロちゃんの看病もしたし、一緒にご飯も食べてる。夕立はゲロちゃんのスパッツ借りたりもした。どちらかと言えば、アンタのじゃなくて夕立のモノっぽい」
私は誰のものでもないのだが、夕立の発言は駆逐水鬼の理性を焼き尽くすには充分だった。完全に煽っている。
「私ノ陽炎ト寝タ? 犬畜生ガ? フザケナイデ。穢ラワシイ野良犬風情ガ!」
「夕立、ちょっと焚き付けすぎよ」
「これでいいっぽい。キレてた方が雑になるのは自分でもわかってるから」
駆逐水鬼の理性を崩し、冷静にいさせないようにする作戦。それを引き起こそうとしている夕立は、やはり改二に至ったことで大きく成長している。
ここから第二ラウンド。私もなるべく早くあちらに参戦したい。増援はまだまだ来るはずだ。時間をかければかけるほど、こちらは有利になるのだから。
夕立の言ってることは間違ってないんだけど、誤認させるように言い回し変えている感じ。『ゲロちゃんと寝た』って言われたら、駆逐水鬼のヤンデレ脳だとそういうカタチに変換されてもおかしくない。