異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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狂犬の意地

 ヤンデレ姫、駆逐水鬼との戦いは第二ラウンドへ。奴の随伴艦は私、陽炎含めた鎮守府の面々が引きつけ、駆逐水鬼本人との戦いは因縁のある夕立とその親分の霧島さんに任せた。ここから戦いが長引けば長引くほど、鎮守府からの増援は増える。随伴艦の処理はより早く終わり、駆逐水鬼を追い詰めることが出来るはずだ。

 どうせなら夕立に決着をつけさせてあげたい。だが、万が一のことがあると、次に危ないのは鎮守府だ。それだけはあってはならない。故に増援もおそらく鎮守府の半数の艦娘で終わるだろう。鎮守府そのものの防衛も必要なのだから。

 

「やっぱり硬いなぁもう!」

「焦んな。魚雷ならしっかりダメージを与えられる」

 

 私が担当している敵駆逐艦はやたらと硬く、主砲では少しの傷しかつけられない。そのため、今は援軍の木曾さんと共に魚雷メインで戦うことになっている。その魚雷も、直撃でなければ効果は薄い。

 奴らの意味がわからない防空性能を抑え込めば、こちらも空母が働けるようになるはずだ。少なくとも今は対潜のために大鷹が動けるくらいにはなっている。

 

「俺が追い詰める。お前は確実に狙っていけ。出来るだろ?」

「大丈夫。1体ずつちゃんと沈めていくから!」

「上出来だ。さっさと沈めて、夕立の援護に回りたいからな」

 

 魚雷の個別撃ちも駆使し、1体1体確実に狙いを定め直撃させていく。あちらからの砲撃もあるため狙いは定めにくいものの、嫌なことに私はあまり狙われないため、どちらかといえば木曾さんが大変。

 そういうところで贔屓されるのは気分が悪い。敵なのに、私を生かそうとするやり方に腹が立つ。絶対に奴らの仲間になんてなって堪るか。

 

「木曾さん、そっち小鬼行きます!」

「おいおい勘弁してくれ。俺は雷撃特化でそいつら対処出来ねぇんだ!」

 

 五月雨の声と共に、木曾さんに向かってくる小鬼群。雷撃はことごとく回避されるので、木曾さんには天敵のような存在。

 ならば私が護るのが筋というものだろう。処理班として来ている五月雨と菊月よりは精度が落ちるが、少なくとも撃退くらいは出来る。それに、以前はそれで沈めることも出来たのだ。その時と同じように。

 

「木曾さんは私が護るよ!」

「悪いな、頼むぜ!」

 

 手持ちと備え付けの主砲の連携で、以前と同じように各個撃破。3体1組となった小鬼群も、それにより機能不全に陥らせる。1体潰れれば後は楽になるのは経験済み。

 

「五月雨、敵の雷撃が来るぞ」

「潜水艦もいるんだもんね! 回避ーっ!」

 

 海の上ばかり見ていると、海の中が疎かになってしまう。それを狙ったかのように、小鬼群を処理している五月雨に対して潜水艦が雷撃。足下からの攻撃はどうにか回避出来るものの、それに対する攻撃は駆逐艦の面々は誰も持ち合わせていない。

 

「そっちかよう! なら、あたいが行くぜぇ!」

 

 そのための海防艦だ。五月雨が狙われると同時に動き出していたのは、一番近場にいた大東。魚雷を飛び越えるとすかさずその持ち主に向けて爆雷を投下。海中で爆発して一撃で粉砕。

 

「よし、大分防空が減ってきたね。ならまた仕事すっかい!」

 

 敵駆逐艦の数が減ってきたことで、隼鷹さんが空襲を再開。魚雷と同等かそれ以上の火力により戦場を蹂躙していく。最初の足止めの段階で艦載機をかなり失っていたものの、その火力は健在。

 

 このペースで行けば、すぐにでも随伴艦は全滅させられる。そうすれば、ここにいる者全員が駆逐水鬼に対して攻撃出来るようになるだろう。

 

 

 

 駆逐水鬼と相対する夕立と霧島さん。夕立の煽りとも言える発言により、駆逐水鬼の理性は簡単に焼き切れていた。

 

「私ノ陽炎ト寝ルダナンテ、絶対ニ許サナイ!」

「ホント気持ち悪いっぽい。ゲロちゃんはアンタのモノじゃないよ」

 

 怒り任せに海面を殴り付ける駆逐水鬼。以前に夕立を殴り飛ばした時に使った戦法だ。水飛沫の中、距離感を狂わせて真正面から突撃し、砲撃をさせる間も無く殴りつけるという厄介な技。

 初見ではまず突っ込んでくるなんて考えなかったため、夕立はやられてしまったわけだが、今回は2度目だ。今の夕立ならばすぐに対応出来るはず。

 

「貴女ハ犬ダト思ッテイタケド、私カラ陽炎ヲ奪ウ泥棒猫ダッタノネ。ナラ、コノ場デ去勢シテアゲルワ! 跡形モ無クナルカモシレナイケド!」

 

 接近戦で来るかと思いきや、まずは砲撃。駆逐艦であるはずなのに、その威力は戦艦並みに思えるほどの激しいもの。水飛沫を爆散させるように夕立に直撃コースの弾丸が飛んできた。

 視界が晴れたら目の前に弾丸となったら、そう簡単には避けられない。直撃を免れたとしても、掠めるだけで大きなダメージになってしまいそう。

 

「当たらないっぽい!」

 

 それを夕立は紙一重で避けた。爆風まで加味しての紙一重。少し袖口が焦げたように見えたが、致命傷どころか肌に傷すらついていない。

 おそらく読んでいた。ここであえて砲撃が来るのではないかと。いや、むしろどちらが来てもいいような回避方法を選択した。砲撃を予期して下がるのでは無く横へ、腕を振り抜けるのを見越して回避距離を大きく。

 

「今度はこっち!」

 

 砲撃の隙を突くように今度は夕立からの雷撃。主砲はあの剛腕に弾かれるのだから、基本は雷撃で攻めるべき。

 

「ソンナモノ、喰ラウワケ」

「主砲、全門斉射!」

 

 そこに間髪入れずに霧島さんからも主砲。魚雷を避ける道の片方を封じるような射線で駆逐水鬼の回避する方向を固定化。戦艦の砲撃もあの剛腕でガードすることが出来るかもしれないが、そちらはさらに行動を固定化出来る。

 以前の戦いで戦艦2人の砲撃と空母2人の空襲を集中して受けていても、少し焦げている程度で終わったくらいだ。防御性能が尋常ではないことは確か。この砲撃すらも効くかわからない。

 

「喰ラワナイト、言ッテイルデショウガ!」

 

 ある意味悪い予想が当たり、霧島さんの砲撃も無理矢理ガードして弾き飛ばす。剛腕には傷が付いたものの、本体は傷一つなく、夕立の魚雷もしっかりと跳び越えている。

 単純に駆逐水鬼は並ではなく強い。単純に艤装も強力であり、戦い慣れもしているように見える。それだけ今まで侵略してきたことなのかもしれない。

 

 砲撃を弾き、魚雷を跳び越えた駆逐水鬼は、そのまま夕立へと肉薄。それこそお返しと言わんばかりに猛烈な突撃で威圧し、また手が届く距離へ。

 

「貴女カラヨ、泥棒猫!」

「させないわ!」

 

 その手が夕立の腕を掴もうとしたその時、霧島さんの艤装が勢いよく変形して駆逐水鬼の剛腕を無理矢理挟んだ。夕立に届く直前だったが、間一髪のところで食い止められる。

 結果的に駆逐水鬼には大きな隙が出来た。それを見逃すわけもなく、夕立がすぐさま頭に向けて主砲を構える。そのまま撃てば一撃で行けるはずなのだが、駆逐水鬼の剛腕は腕だけにもう一本ある。トリガーを引く前にそちらの剛腕が夕立を殴り飛ばそうと振り回された。

 

「親分!」

「それもっ、させないわ!」

 

 夕立はそれを察してすぐに砲撃をキャンセルし、バックステップ。それでも回避しきれないことを考慮し、霧島さんが片方の腕を挟んでいる鋏を無理矢理引き寄せ、駆逐水鬼の体勢を強引に崩す。

 

「ナラ、貴女ガ先ヨ飼主!」

 

 逆側のフリーな剛腕を霧島さんに向けるが、すぐにそちらも鋏を使って食い止める。

 この状況、以前の戦いと同じ。まるで社交ダンスのように本体同士が接近。あの時はここから霧島さんが素手で殴りに行ったが、駆逐水鬼も学習していた。霧島さんが動くより先に襟首を掴むように腕を突き出し、首に何かを絡める。

 

「かっ……!?」

「飼主ニダッテ、紐クライ着ケテモイイデショウ。ソノママ絞メ殺シテヤルワ」

 

 その手に持っていたのは青色の紐。同じように接近戦が出来る者がこちらにもいるということを理解し、こうなることを予期した上でこの手段に出た。

 歯を食いしばり、紐が食い込むことを極力抑えようとするが、全力で絞めあげられているせいでガッツリ喉に入ってしまっている。

 

「親分から離れるっぽい!」

 

 それを助けるためにも、夕立が霧島さんに当たらないような角度から狙撃。接近戦をされると敵味方の距離が近すぎて撃つのを躊躇ってしまうが、夕立にそれは一切無い。むしろ霧島さんも、窒息の危険がある中で夕立のサポートをするために、駆逐水鬼が避けられないように自分を絞めあげる本体の腕を掴む。

 

「離サナイノハ、飼主デショウガ!」

 

 それは流石にまずいと感じたか、霧島さんの腹を蹴ることで拘束から抜けようとする。首を締めたことで艤装側の拘束も若干緩んでしまったせいで、その一撃で駆逐水鬼は霧島さんから離れることに成功してしまった。代わりに霧島さんの首に食い込んでいた紐も解け、窒息の危険は失われた。

 イメージの力が艤装の稼動に影響を与えるが、霧島さんの場合はそれがモロに出てしまうタイプのようだった。追加の腕と同じようなものだし、本人のコンディションが直結しているのだろう。

 

「ゲホッ……主砲……斉射ぁ!」

 

 そのタイミング、僅かに出来た間合いを見透かし、霧島さんが主砲斉射。ろくに狙いも定めていないが、真正面に撃つという信念だけがあれば、今の今まで眼前にいた駆逐水鬼の何処かに当たるはず。

 

「私ノ陽炎ヲ手ニ入レルタメニモ!」

 

 体勢が少し崩れる中でも、その砲撃はしっかり弾いてきた。恐ろしい執念。

 しかし、鋏に挟まれ押さえ付けられ、戦艦主砲を弾くのも2回目。そろそろガタが来始めてもおかしくはない。

 

「だから、ゲロちゃんはアンタのモノじゃ無いっぽい!」

 

 そこへ夕立が滑り込むように急接近。剛腕を潜り抜けたその先、本体を直接撃ち抜くために海面スレスレで突撃。掬い上げるような向きでの砲撃で駆逐水鬼の頭を狙う。

 最初のように剛腕で海面を叩き付けるようなことをされたら夕立は一巻の終わり。だが、霧島さんの主砲を弾いていたことですぐにそんなことが出来るような状況では無い。危険度は最上級に高いが、最も的確な攻撃だとも言える。

 

「コノッ、駄犬ガァ!」

 

 だが、その砲撃を紙一重で避けてしまった。最高の角度とタイミングだったのだが、姫というだけあって何もかもが強い。

 

「陽炎ハ私ト愛シ合ウノヨ! 大嫌イナ夜ヲ一緒ニ乗リ越エ、貪ルヨウニ求メ合ウ、私ノタメノ()()()()()ナノ!」

「ゲロちゃんはそんなわけのわかんないものじゃない! 艦娘で、人間で、夕立の仲間なんだから!」

 

 すぐさま剛腕を叩きつけようと振り下ろすが、夕立はその隙間を縫って接近し、駆逐水鬼本体を蹴り飛ばした。反動で飛び退いたところで剛腕はギリギリのところを通過。

 昨日改装されたばかりでテストもしていないのに、夕立は完全に改二を使いこなしていた。沖波の時もそうだったが、夕立は輪をかけて強化されている。本人のセンスもあるだろうが、駆逐艦とは思えない程のスペックだ。

 

「ゲロちゃんは絶対に渡さない! アンタみたいな気持ち悪い奴なんかに!」

 

 そして魚雷まで放つ。かなり近い位置にいるため、夕立自身が危険ではあるが、むしろ確実に命中させられる一撃でもある。今は随伴艦によるガードも無い。

 

「フザケルナァ! 犬如キガ、私ノ陽炎ヲ語ルナァ!」

 

 それすらも剛腕によるガード。海面を叩きつけた反動で魚雷を爆破し、本体へのダメージを極力軽減。焦げるくらいはしても、まだ稼動に支障が無いまで来た。どうなっているのだ。

 逆に夕立は自分の魚雷の爆発のせいで髪が焦げるくらいの火傷。風圧を使った帆でのバックステップも完璧。

 

「陽炎、私ヲ見テ! ソレダケデ私ハ負ケナクナルワ! 陽炎、私ノ陽炎!」

「貴女の随伴艦が邪魔で貴女のことは見られないそうよ。自分のせいね」

 

 ここまでやれば霧島さんだって復帰出来る。夕立に被害が無いように、突撃からの格闘。鋏を突き出し本体を狙う。

 またもやそれは剛腕に阻まれるが、ここでようやく今までの攻撃が響いてきた。霧島さんの格闘も砲撃も受け止め、無茶のような殴り付け、海面を叩くような振り回しも何度も行ない、トドメはさっきの魚雷の処理だ。今のガードの瞬間に妙な音がした。

 

「ナッ……」

「硬いでしょうけど、何度も何度も使えば脆くもなるわ。全てそれで受けていたんだもの。勿論、私達はそれを狙っていたわけだけど!」

 

 全力で鋏を閉じた瞬間、剛腕の片方が鋏と共に粉々に砕け散った。その爆発に巻き込まれて霧島さんも軽い火傷を負うが、その程度では止まらない。

 もう片方の鋏も駆逐水鬼に向け突き出し、それを剛腕が受け止めたところで思い切り閉じる。同じように剛腕と鋏が同時に破壊される。

 

「ソンナ……ソンナコト!」

「貴女の艤装はその腕に全て割り当てられているのよね。それが無くなれば、主砲すら使えないただの生身。艤装を持たない艦娘と同じ」

 

 攻撃の手段を失った駆逐水鬼は、この時確実に狼狽えた。

 

「想定外の接近戦がわかれば、私達でも充分に通用する敵だったということね。代償は私の艤装だけれど、一向に構わないわ。ねぇ、夕立!」

「ぽーい! 誰も死なずに勝てれば、それで良し!」

 

 霧島さんの艤装を登るように跳び、駆逐水鬼の上へ。今までなら剛腕に掴まれるなり撃ち落とされるなりで散々な目に遭いそうだが、今はそれもない。

 

「陽炎、私ノ陽炎! 私ハ……!」

「煩いっぽい。これで、終わりっ!」

 

 夕立の砲撃は、駆逐水鬼の胸に直撃。私に似せた制服を焼き払い、その戦いに終止符を打つ。

 




霧島の鋏艤装は勿論AGPリスペクト。盾が鋏になるとか斬新。
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