異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
「随伴はもうすぐ終わるぞ! 増援来てないか!」
「おーう、大丈夫だね。ここにいるだけで終わりさぁ」
駆逐水鬼の随伴艦を処理している私、陽炎。基本的には木曾さんと共にやたら硬い駆逐艦を処理し、数が減ってきたところで空襲も含めて全て終わらせる。
周りをちょこまかと動き回っていた小鬼群は、五月雨と菊月が的確に処理。稀にこちらにも小鬼群が向かってきたので、木曾さんを守るために私が頑張って処理した。
特に厄介な潜水艦は、大鷹が号令する海防艦達により駆逐して行った。子供とはいえスペシャリスト。全員が無傷で終わらせることが出来たのはいい出来。
「夕立どうなった!」
私達がこちらに気を取られている内に、あちらの戦闘はどうなったか。
と、私が夕立の方を見た時、主砲を駆逐水鬼の胸に直撃させる瞬間だった。
自ら放った砲撃の爆風を帆で受け、撃ちながらも駆逐水鬼から間合いを取っている。霧島さんも、剛腕を失った駆逐水鬼から飛び退く形で離れた。
「勝った! 勝った勝った勝った!」
「ええ、これで終わりでしょう」
戦いを自分の手で終わらせたことを喜ぶ夕立と、攻撃を受け止め続け疲れ果てたような霧島さん。夕立も火傷やら何やらがあったが、霧島さんの方は艤装も壊れてしまっているため、今から戦うことは出来ないだろう。
戦いが終わったことで2人とも疲労がピークに達したか大きくふらついた。ずっと全力疾走してきたようなものだ。どれだけ鍛えていたとしても、消耗が激しくてもおかしくない。夕立に至っては膝をつく程に消耗している。
「陽炎、もうこっちは大丈夫だ。夕立んトコ行ってやれ」
「了解!」
木曾さんに言われ、もう立ち上がることも出来ないであろう夕立に肩を貸すべく、私はその側へと駆け寄る。向かってくる私が見えたからか、ニパッと笑った夕立が力なく手を振ってきた。
だがそれは、夕立と霧島さんが倒した駆逐水鬼の近くに寄るということにもなる。
「カ……陽炎……見テ……私ヲ……」
駆逐水鬼はまだ完全に息絶えていなかった。胸に砲撃が直撃してもまだ沈んでいない。浅かったわけではないだろう。単純に、他の深海棲艦よりも
艤装を破壊され攻撃の手段を失い、身体も半ば破壊されて動くことも出来ず、だが執着心のみで私を求めて手を伸ばしていた。その目に私が映っているかはわからないが、私に向けて、震える手を。
深海棲艦は私達の敵だ。駆逐水鬼だってその中の1体。さらに言えば、私の両親の仇である赤い深海棲艦の仲間。私を目覚めさせることを念頭に置き、仲間達を殺すつもりで動き続けていた、それだけで、私はこいつに対して敵意しか無かった。
だが、ここまで来ると可哀想に見えてきた。同情というわけではないが、刻み付けられた恐怖心を払拭するために私を求め、それが行き過ぎてしまったに過ぎないとも考えられる。
「……あのさ」
相手は敵だ。むしろまだ沈まないのなら、追撃でトドメを刺した方が良いのだろう。しかし、そんなことをしたら、人としてどうかと思ってしまった。弱い者いじめや死体蹴りの類だ。
私達艦娘は、破壊者ではなく守護者。敵を完膚なきまでに倒すのが艦娘ではない。相手がどんな相手でも、ある程度は礼儀を持った方がいい。ここで攻撃したら、それこそ深海棲艦と同じようなものになってしまいそうだ。
だから、最期は私から話しかけた。
「陽炎……ヤット私ヲ見テクレタ……」
「最期くらいは看取ってあげる。あと、こんな時に言っても意味がないかもしれないけど……アンタはやり方が悪かったよ。仲間を傷付けるのはダメ」
今更言っても意味が無いだろうが、死の間際になってようやく話が出来そうになったので、一応。
「陽炎……私ノ陽炎……私ハモウ終ワリダケド……貴女ハ……」
「目覚めないよ。ずっと、絶対に。だから、アンタは最初からこんな手段じゃなく、真正面から友達になってくださいって来てくれれば良かったんだ。それでも私は抵抗するかもしれないけど」
もう少しやり方が違えば、私も違う感情を持っていたかもしれない。深海棲艦に対していい感情は持てないと思うが、気持ち悪い一色の感情くらいは無くなっていたと思う。深海棲艦から友好関係を求められたら驚くとは思うが。
「何もしなかった私が言うのもなんだけど、もし生まれ変わることが出来たなら……アンタも艦娘になって私の仲間になりなよ。そしたら考えてあげる」
駆逐水鬼相手に戦いもしていない私が何か言うのは間違っているかもしれないが、私に執着しているのだから私が声をかけてもいいと思った。
少し危険かと思ったが、伸ばした手も取ってやった。そういえば、駆逐水鬼と触れ合ったのはこれが初めてか。最初で最後の触れ合い。指先に毒が仕込まれているとかだと目も当てられないが、一応私は手袋を着けているので多少は大丈夫。
「陽炎……目覚メタクナイナラ……思イ出シチャダメ……分霊ノ最後ハ……絶対ニダメダカラ……思イ出ソウトモ……シナイデ」
やはりあの記憶が戻ったら終わりだと。駆逐水鬼が言うのだから、それが正解だ。
詳細を話したらまず間違いなく思い出してしまうから、知っていることを何も話さずに沈んでいこうとしていた。一矢報いるとかしてこない限り、本当に私のことを想っていたのだ。
「わかった。肝に銘じておく」
「ア……アア……陽炎ノ温モリ……光ガ……見エル……」
今までとは違う、嫌味のない綺麗な笑顔を見せて息絶えた。指先から塵になっていく。随伴艦は破壊した形そのままで沈んでいき海中で消滅するが、人の形を持つ姫の死はこうなるのか。
「ゲロちゃん、優しすぎ」
「最期くらいはいい夢見させてやりたいでしょ。あの赤い深海棲艦の仲間ってのが気に入らないけど、あんなでも私のこと好いてくれてたわけだし。それに、夕立だってトドメ刺そうとしなかったじゃん」
「死体蹴りは無礼っぽい。介錯でも無いのに」
夕立だって艦娘。破天荒なやり方をするものの、心得はしっかり刻まれていた。死にゆく者に追い討ちなんてしない。
「霧島さん、姫って倒したらどうなるの? このまま消えていく感じ?」
「ええ。あとはD型艤装をドロップする可能性がかなり高いわ。一緒に沈んでいくから、後から回収が基本ね」
こんな近海で姫との戦闘をしたことなんて無いので、回収作業も一苦労しそうだと呟いた。鎮守府でD型艤装のサルベージ作業は出来ないため、業者に頼むことになる。それがあの工場なわけだ。
今は私がここにいるので、沈む前に艤装を掴んでおけば、サルベージに手間をかける必要も無くなるだろう。私の力で持つことが出来ればだが。
しかし、今回は不測の事態が発生しそうだった。塵になっていっているはずなのだが、私の手には普通に感触が残り続けている。つまり、駆逐水鬼の亡骸が
いや、正確には塵になってはいくのだが、人の形を残したままなのだ。艤装も沈んでいくことなく、そこに在り続ける。私が持っている駆逐水鬼の手も、その感触はそのまま。つまり、塵ではなく
「えっと……これどういうこと?」
「いや、こんなもの初めて見るわ。どういうことなの……?」
霧島さんですら初めて見る光景。基本的には姫の亡骸というのは残らず、艤装だけ残して消滅するという。しかし、一向に無くならない。塵にはなっていっているのだが、どうも何かが違う。
息絶えていないのなら、そもそも塵は現れない。息絶えているようなら、全てが塵となって消え去る。これはそのどちらでもない状況だ。
「げ、ゲロちゃん、ちょっとその塵、払ってみてもらえるっぽい?」
夕立が何かに気付いたようで、少し震えながら指を差す。今まともに動けるのは私くらいだ。何かありそうなのでやってみる価値はある。
「ま、まさかね。まさか……」
ささっと払っていくと、そこにいる者は誰もが目を見開いた。
その塵の中から、
戦闘終了後、すぐに鎮守府に帰投。勿論、駆逐水鬼の亡骸から出てきた女の子も運んで。
「どういうことだいこりゃ。姫から人間が出てくるなんて聞いたことないよ」
困ったことに、駆逐水鬼からドロップしたであろうD型艤装は、その人間の背中にしっかりと接続されてしまっていた。人間が現れたというよりは、艦娘が現れたという感じ。全国の鎮守府設立から見ても初めての事態ではないかとまで言われている。
「息はあるのかい」
「あるよ。ちゃんと心臓も動いてること確認した」
ここまで運んできたのは私。その間に鼓動があることも確認済み。小さな寝息も聞こえる。
その女の子は見た目はおおよそ私や夕立と同じくらい。スタイルは割と良く、顔は何処となくだが駆逐水鬼に似ていた。
「なんか、変態ヤンデレストーカーが人間になったって感じに見えるっぽい」
ヘトヘトだった夕立も、この現象で疲れが吹き飛んでしまったくらいに驚いた。私が肩を貸すまでもなく自力で工廠に戻ってくることが出来る程にまで。
だが、地に足をつけ、艤装を外した瞬間に気を失いかける程の疲れに襲われていた。霧島さんもそうだ。最後まで駆逐水鬼相手に奮闘した2人なのだから、ここまでになっていてもおかしくはない。
「夕立と霧島はドックでの休息を許可する。怪我もしているだろう」
「火傷を少し……小破程度ですが、私は艤装をやらかしてしまいまして」
「霧島はそれがデフォだろうに。整備班が何とかしてくれるだろうから、アンタはさっさと休みな」
工廠で待機していた面々が2人をドックの方に運んでいく。ここまで来るともう自力では歩けなかったようで、霧島さんは陸奥さんが、夕立は磯波が担いで行った。
そして、残された駆逐水鬼の亡骸から出てきた女の子なのだが、空城司令もどうしたものかと頭を抱えている。対応力の有無も提督の素質だとは思うが、これはそういう問題を超えてしまっている。
「一度ドックで寝かすか。艤装が接続出来ているということは、艦娘の類なんだろうさ。誰か、この子の艤装を剥がしてやってくれ!」
「はーい、すぐやりまーす!」
夕張さんがすぐに対応するためにいろいろと機材を持ってやってきた。
気を失っている艦娘から艤装を外すということは無いわけではない。過酷な戦闘で瀕死の重傷を負ってしまった者というのは意識を失うことはよくある。無理矢理剥がすと本人にさらに怪我を負わせることになりかねないため、ここは慎重にやる必要が出てくるわけだ。
どうせなら助けてあげてほしい。この子が駆逐水鬼の生まれ変わりなのか、それとも全く別の理由でここに現れたのかは定かではないが、せっかく人間としてここで助かったのだ。どうせなら助かってもらいたい。
目を覚ましたら結局変態ヤンデレストーカーでしたとなったら心が折れそうだが、大丈夫だと信じて。
「陽炎、アンタも休みな。戦いの後なんだからね」
「……うん、でもこの子がちょっと心配で」
「気持ちはわかるが、今は無理するところでもないよ。それに、この子の治療は時間がかかる。風呂に入ってくる時間くらいはあるよ」
確かに、ただただずっと待っていても、この子に関してはすぐには終わらないようなことだ。そもそも目を覚ますかもわからない。今がまだ午前中なのだから、下手をしたら目覚めは明日ということにもなりかねない。
「わかった。今は身体を休めることにする」
「それでいい。治療が終わったらちゃんと連絡する。今日の午後はアンタは休みでいい」
巣の破壊に乗り出すのは、今回鎮守府防衛のために戦闘に参加していないメンバーで行なうとのこと。巣に行ってももう駆逐水鬼はいないのだから、比較的危険度は少ない任務になるはず。距離がかなりある場所で、まだ巣の明確な位置が判明していないので、今日のところは巣探しから始まるとは思うが。
艤装を外すと、私もどっと疲れに襲われた。夕立と霧島さんほどの激しい戦いはしていないはずなのだが、気疲れとかもあるのだと思う。
「うん、休まないとダメだねコレ」
「だろう。万全な状態であの子を迎え入れてやんな。まぁ……アンタにはキツイ結果になるかもしれないが」
前例のないことなのだから、目覚める保証だってないのだ。艤装を外した瞬間に息絶えることすらもあり得る。最悪を想定しておく必要はあるだろう。
駆逐水鬼との戦いは終わったのだが、新しい問題が出てきそうである。この女の子は一体何者なのか。そもそも目を覚ますのか。
駆逐水鬼は沈みましたが、新たな問題が現れそう。