異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
駆逐水鬼を撃破したかと思いきや、中から人間の女の子が現れてしまった。今までに前例の無い事象であり、空城司令もどうしたものかと悩んだ結果、ひとまずは治療のためにドックに入れることとなった。治療完了がいつになるかはわからないし、そもそも目覚めるかもわからない。だがやらない理由もない。
午後からは休息の時間とされた私、陽炎は、正直気が気で無かった。別人だとは思うものの、あれは私に執着していた駆逐水鬼から出てきた子だ。目が覚めたらまた駆逐水鬼と同じような行動を取られる可能性だってある。深海棲艦ならまだしも、今後仲間として扱われる可能性のある子からストーカー行為をされるのは流石に辛い。
「うー……あの子どうなってんのかな……あのままだったら嫌だよ」
「まぁ、うん、そんな感じになっちゃうよね」
「気負っても仕方あるまい。ドンと構えて待つがいい」
一緒に休息の時間となった五月雨と菊月が相手をしてくれている。夕立は入渠中。沖波と磯波は巣探しの哨戒任務。初月は念のための周辺警戒に入っているため、構ってくれる駆逐艦はこの2人しかいない。
間宮さんから甘いものを出してもらって精神的にも落ち着こうと思っているものの、あれは流石に気になりすぎる。
「悪の組織の幹部が味方になるとは、なかなか熱いじゃないか。昂揚しないか」
「漫画やアニメじゃ熱い展開かもしれないけど、これは現実なんだよなぁ」
「でも、こういう救われ方もするっていうのは良かったかも。本当に初めて見たもん」
最古参の五月雨と菊月も、当然こんな現象は見たことが無いという。空城司令が初めて見たと言うのだからそれも当然か。
「今までも姫って倒したことあるんだよね?」
「うん、ここで働き始めてから何回もあるよ。それでも姫を倒して女の子が出てくるってことは無かったなぁ」
「D型艤装のドロップは毎度あったがな」
艤装だけならまだしも、それを扱う艦娘ごとというのはわけがわからない。そうなった理由はまた逐一調査していくことになるだろう。
「今は甘いもの食べて休もうね。せっかく貰えた休みなんだし、部屋でお昼寝でもいいと思うよ」
「かもね。海防艦の子達も休みだし、一緒にお昼寝でもいいかも」
結果的にその案を採用。この後は戦闘後で疲れていた子供達と一緒にグッスリ眠ることにした。悪夢を見なければいいのだがと思っていたが、別の悩み事があったからかこの時は悪夢を見ることが無かった。
巣の方は残念ながらまだ見つからず。だが、領海外の探索はかなり進んだとのこと。明日には巣を見つけられる事も出来るだろう。これで駆逐水鬼との戦いは本当に終わることになるはず。
夕立と霧島さんの入渠も終わり、夕食も終了。ここで空城司令からお呼びがかかる。
「陽炎、医務室に来てもらえるかい。
「了解。すぐに行く」
例の件ということは、駆逐水鬼から出てきた子の治療に進展があったということだろう。どうなっているかはとても気になっていた。入渠後に医務室まで移動してもらったようだが、普通に歩いて行けたようなので身体はピンピンしてそうである。
医務室の前には空城司令としーちゃんが待っていた。他には誰も呼ばれていないのは少し意外。私が呼び出されたのは割と理由としてわかりやすい。
「あの子が起きたってことだよね」
「ああ、治療の甲斐あって全快した。話も出来る状態なのは確認済みだ」
そのまま医務室の中へ入ると、体調を検査するために速吸さんが中で作業中。装置を見る限り、同期値などを測っているのだと思う。
私達の目の前に現れた時に艤装が装備されていたのだから、艦娘としての活動が可能なのは確定。本人の意思はあると思うが。それが異端児に属するかはこの検査で確認する。
「陽炎を連れてきたよ。話がしたいんだろう」
「ありがとう……ございます」
口調も比較的しっかりしている。聞いた感じ、駆逐水鬼とは近しいような違うようなという感覚。あの少し聞き取りづらいような反響が無くなっているおかげで、人間らしさも出ている。
私の姿を視界に入れた瞬間、ほんの少しだけ震えたような気がした。それもそうだろう。あれほどのことをした記憶が残っているのなら、私に対していろいろ思うところがあるはずだ。
「陽炎さん……まだ目覚めていませんよね……?」
「うん、大丈夫。最後の記憶はまだ思い出してない」
「よかったです」
やはりそこは気になっていたようだ。まぁ今の私の姿を見れば、目覚めていないことはわかるだろう。念のための確認。
「目覚めると、あのときの私のようになってしまうと思います。私は……全て覚えていますので」
「ああ、やっぱり……。なら、もしかして私と同じなのかな」
「はい、おそらく。なるべく陽炎さんを刺激しないように話をしたいと思いまして」
私に全く伝えないというのもあったとは思うが、それだと私の心構えが出来ない。知れることがあるのなら全て知っておきたいというのもある。そういうところを考慮してもらえたのは嬉しいものだ。
そして、私が目覚めた場合、確実に深海棲艦になるということが判明した。この子はある意味、私の
何が私の目覚めのトリガーになるかわからない。だからこそ、ある程度は知っておく必要がある。そしてその子はそれを知っている。
「私があの姿……駆逐水鬼と呼ばれているんでしたか、アレになったのは、今から5年前です。その時からずっと潜伏していました」
「5年前……この鎮守府が出来上がって間もない頃だ。戦力も少なかったから、救いきれない街もあった。申し訳ない」
「いえ……大丈夫です。過ぎたことですし……いろいろありましたから」
少し悲しそうな顔をする。私とそこまで同じだというのなら、住んでいた街を滅ぼされ、自分だけが生き残った。この子はそこに少し補正が入る。
「だが、その時に赤い深海棲艦がいたのなら、目撃情報くらいはありそうなもんだがね」
「私は直接太陽の姫にあの姿にされたわけではないんです。あの姿になってから、太陽の姫に出会っています」
なるほど、なら太陽の姫の斥候か何かに、私と同じようなことをされたことによって、この子は目覚めさせられたわけだ。私のように10年越しに目覚めるわけではなく、即効性のある何かをされて。
それでも、間接的に太陽の姫がこの子を深海棲艦に変えたことは間違いない。私と同じような被害者である。
「ああなってからは、ずっと太陽の姫の指示の下、あの海を監視し続けていました。いつか会えるであろう太陽の姫の分霊のことを想って、ただひたすらに潜伏し続けていました。そうしたら、ついに陽炎さんが現れた」
「だから、襲いかかってきたわけだね」
「はい……興奮が抑えきれなくなって」
そこからは初めての戦闘のところになる。随伴艦達と共に襲撃し、私が目覚めていないことを確認すると、仲間達を殺すことで私のトリガーを引こうとした。
あの時の駆逐水鬼の言葉も辻褄は合う。『噂には聞いていた』とは太陽の姫に伝えられたということ。『太陽の姫に会ったことがある』というのはそのまま。変化させられて、その後のことだ。
「アタシゃ、少し疑ってはいたんだ。アンタ達の話から聞いていた駆逐水鬼は、妙に
海で生まれた姫が、2人の門出だとか私の伴侶だとか泥棒猫だとか、妙に恋愛小説のような人間臭い言い回しを使っていたのも、本来人間だったからその辺りの知識が普通にあると言われれば疑問に思わない。流石にこれはこじつけが過ぎるかもしれないが。
「結果的に私は敗北し、そのおかげで人間へと戻ることが出来ました。ありがとうございます」
「礼はまた後からでいいから夕立と霧島に言ってやんな。アンタが強かったおかげで、アイツらは打倒アンタってことで努力したんだ」
「はい……親分さんと子分さんには、感謝しか無いです」
その呼び方はあまりしないであげてほしい。どちらと言えば磯波のために。
「私が変化したトリガーについては陽炎さんには話さないことにします。それで陽炎さん自身のトリガーを引いてしまう可能性がありますので」
「わかった。なら後でアタシとしーだけに話してくれればいい。それも辛いなら無理しなくていいからね」
「はい……ありがとうございます」
気遣ってもらえてありがたいが、無理だけはしてもらいたくない。せっかく解放されたのだから、今は自分の生きたいように生きてもらえればと思う。
私と同じ境遇になってしまっているというのなら、両親ももういないのだろう。なら、私のいた孤児院を紹介してもいいだろう。
「今の頭ん中はどうなってんだい。全部覚えてるとは言っているが」
「はい……あのときの感情も痴態も全部覚えていますが、敵意はもうありません。あれはあの身体だったから湧き上がっていた感情だと思うので」
それなら安心だ。人間なのに頭の中は深海棲艦と言われたら一番面倒くさい状態だ。叛逆者ではあるが、被害者でもあるため、拘束するのも躊躇われる。
だが、後ろから撃たれる心配が無いわけでもないのが困ったところ。突然豹変する可能性だってあり得るわけだし、何かがきっかけでまたあの姿に変わってしまう可能性だって考えられてしまう。
「ですが……」
「何か問題でもあるのかい」
「5年間あんなことをし続けてきましたので……身体が変に覚えてしまっているんです。特に一番強い感情を……私が変えられる前に持っていなかった感情すら、残ってしまっています……。それは確実に皆さんの迷惑になるのではと……」
染み付いてしまった習慣は、身体も心も人間に戻ったとしても影響を与えてしまうもののようである。一度死んでいるようなものなのだが、記憶を持っているのならそれは仕方のないことなのかもしれない。後にも先にもそれを実感することは無いと思うが。
で、その感情とは何か。すごく嫌な予感はするものの、聞かなければ先に進まない。他人に迷惑をかけるかもしれない感情なのだから、事前に知っておく必要もあるだろう。すごく嫌な予感はするが。
「で、その感情ってのは」
「……陽炎さんへの
あれだけの痴態を人目を憚らずに晒し続けていた駆逐水鬼の大き過ぎる感情だ。私に合わせて服まで変えて、太陽の姫すらも出し抜いて私を手に入れようとした程なのだから、元に戻ってもそれが残っていると言われても納得が出来てしまう。それほどまでに強すぎるもの。
なら、私を見た時に震えたのは、駆逐水鬼の時と同じと考えてもいいのかもしれない。それはそれで確かにまずい。だが、駆逐水鬼を見ていたときの気持ち悪いという感情は湧かず、可哀想という気持ちでいっぱいになった。ある意味最悪な後遺症である。
「私がああなっている5年間……ずっと陽炎さんを待ち望んでいました……身近に太陽が手に入るその時を夢見て……私は……」
だんだん顔が赤くなっていったため、それ以上言わなくていいと話を止めさせる。だが、私の顔を見てまたもや軽く震えた。これは相当にまずいのでは。
「メンタルケアも必要だろうね。速吸、アンタその辺りは出来るのかい?」
「うーん……少し専門外ですね。一番の治療法は陽炎ちゃんと一緒にいることな気がしないでも無いんですけど、より悪化する可能性もありますから」
私から離したらそれはそれで酷いことになりそうだし、近づけ過ぎたら治るものも治らない。相当に難しい状態。
「なら、一応スカウトさせてもらおうか。言い方は悪いが、アンタは唯一無二の検体であることには変わりない。近くに置いておきたいという気持ちはあるからね。艦娘として戦うことが出来ないとしても、出来ることなら鎮守府にいてもらいたいと思うんだが、アンタはどうだい」
それが一番妥当か。艦娘として活動出来るのならそれはそれで良し。そうで無くても監視下に置きたいだろう。突然の暴走がある可能性を考えると尚更。投獄とかまでするつもりは毛頭無いが、鎮守府内での軟禁みたいなものだ。
「私はそれで構いません。……行くところもありませんし」
「なら決まりだ。少しの間かもしれないが、よろしく頼むよ」
身体の検査も必要だろうし、さっきも言っていたがメンタルケアが必要だ。一番落ち着ける場所が無いのだから、ここから動かずにいろいろと済ましていった方が安心だろう。
自分で言うのも何だが、私がいる場所にいる方が心が安定するというのならその方がいいと思うし。
これが今後どういう影響を与えるかはわからない。だが、いい方向に進む手段があるのなら、それを全部掴み取りたいものである。
陽炎への気持ちはまだ少し残ってしまっているというのは、普通に生活に支障が出るのでは。作者は訝しんだ。