異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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破壊による決着

 駆逐水鬼から救出された女の子は、萩風という名を貰って鎮守府所属となった。しかし、艦娘として活動するかは未定。それは本人の心持ちに任せることになる。そして萩風は私、陽炎の艤装姉妹。良くも悪くも私の身近な存在となった。

 その萩風は記憶を全て有したまま。それ故に、駆逐水鬼の巣の位置も覚えている。そのため、姫を失っても残り続けている巣の破壊に協力してくれる運びとなった。場所さえわかれば後はこちらで全てやる。なので道案内だけしてほしいと。

 

「こ、これに乗っていくんですか」

「大丈夫、もしかしたら水飛沫で濡れることくらいはあるけど、沈むことは無いから」

 

 そして萩風が乗せられたのは、大発動艇という物資輸送用の小船みたいなもの。人1人と艤装を載せたら、スペースの半分近くが埋まってしまう程の大きさなのだが、安定感は抜群で転覆の心配は無いらしい。

 本来なら人を乗せること自体が稀らしく、基本は妖精さんがこの船の中で働いているのだとか。今回も萩風の周りには、大発妖精さんがせかせかと動いていた。

 

「ただ、念のため立ち上がるとかはしないでね。ねっ?」

「は、はい、わかりました。ジッとしておきます」

 

 大発動艇をコントロールする由良さんが萩風に念を押していた。これを扱える人は由良さんと夕張さんしかいないらしく、今回は由良さんがそれを担当。

 海防艦のような子供達は喜びそうではあるが、これはそれなりに怖そうである。萩風もしっかりと縁を握りしめた。

 

「敵は小型ばかりと聞いているからね。役割はキッチリ分けたつもりだ。だが、サポートが出来そうならその場で考えて行動してくれて構わない。アンタ達は遊撃隊みたいなもんだからね」

 

 今回は2つの部隊で構成されている。

 1つは巣を破壊するための専用兵器の運用。その兵器を取り扱う夕張さんが旗艦となった任務遂行部隊。由良さんと萩風もそちら側。萩風の防衛というのもあるため、ちょっとだけ堅めに衣笠さんと加古さんがそこに加わる。

 もう1つは周辺警戒兼残党処理。私含めた異端児駆逐艦4人はそちらに組み込まれている。私は磯波と共に小鬼退治担当。夕立と沖波が駆逐艦処理。対潜はさらに海防艦3人を加えた形となる。そのため、結果的に大鷹も便乗。

 

「それじゃあ夕張、頼んだよ」

「了解。巣を破壊したらすぐ撤退ですね。残党狩りは後日で?」

「ああ、今回はあくまでも巣を破壊することだからね」

 

 巣さえ破壊してしまえば、半無限に湧いてくることも無くなる。そうなれば残党狩りをして綺麗な海に出来るわけだ。

 そこにまた巣が出来ることもあるかもしれないが、少なくともしばらくの間は安泰になる。あの場所はそれなりに遠いとはいえ、まっすぐ行けばあの工場に辿り着いてしまうような場所。ちゃんと終わらせて、平和な海にしておきたい。

 

 

 

 時間をなるべくかけないように、巣まで最短距離で向かう。海の上で方向なんてパッと見ではわからないものなのだが、萩風が道案内をする先には明らかに巣を守っていると思われる深海棲艦が姿を見せ始めた。

 現在、領海から出て昨日の段階での調査地点は越えたとのこと。まだ領海内に敵が入ってきていないことは安心した。

 

「小鬼多いねここ」

「それに……前より攻撃的になってるように思えるの」

 

 特に多いのが、あの厄介な小鬼群。担当している私と磯波がメインとなり、夕立と沖波にも少し手伝ってもらいながら淡々と処理していく。

 萩風に被害が行かないように処理をしていくのだが、どうも前とは感じが違う。磯波の言う通り、以前よりも攻撃が激しく、荒々しいように思えた。それもそのはず、私を狙わないという駆逐水鬼の考え方が薄れているようで、巣はあるものの野良のような動きになっているからだ。

 

「頭がいなくなったから、野生に戻ったっぽい?」

「あり得るかも。陽炎ちゃんも狙ってきてるし」

 

 やはり気のせいじゃない。前とは違う敵と思った方がいいかもしれない。別に私の今の立場にあぐらをかいていたわけではないのだが、より一層気を引き締めなくては。

 

「姫の考え方は部下に行き渡ります……巣にも多少はその念が残っているとは思いますが……私がいなくなったことで、少し薄れているのだと思います」

 

 張本人の萩風が言うのだから間違いない。どういう原理で上下関係が出来ているのかは知らないが、巣の主である姫のやり方に反発する斥候はおらず、性格的にもそちらに合っていくわけだ。本能的に動く斥候達の思考回路を強制的に支配下に置いているようなもの。

 普通の姫は普通の深海棲艦と同じような思考回路をしているので、()()()()()にはならない。あの駆逐水鬼が余程普通ではなかったのだと理解出来る。なんてことを口にしたら萩風が傷付くと思うので心の中に留めておく。

 

 とはいえ、変に頭を使ってくるわけでもなく、真正面から本能的に向かってくるのみなので、戦いやすいとも感じる。執着心が薄れ、侵略という闘争本能が増しているのなら、動きは単調だ。小鬼群は逆に回避性能が上がっている気がしなくもないが。

 しかしながら、駆逐水鬼の教えは深く深く刻み込まれているようで、沈んでいく深海棲艦は何処か()()()()()ような表情を見せる。正直堪ったものではない。

 

「対潜は大丈夫?」

「だいじょーぶっしゅ!」

「あたいらに任せてくれよな!」

 

 頼もしい子供達である。海上で私達が奮闘する中、潜水艦をいち早く察知し、次々と処理していく。鎮守府近海での戦闘でもそうだったが、こと対潜に関しては本当に頼りになる存在だ。今後も頼ることになりそう。

 潜水艦は特に表情豊かに沈んでいくため、浮上してこなくなっただけでもマシ。あんな表情で沈む深海棲艦のことは、子供達に説明のしようが無い。

 

「はー、こりゃあ結構遠いねぇ。よくもまぁ鎮守府まで襲撃に来たもんだよ」

 

 加古さんがボヤいていたが、それくらい遠いところだった。私は勿論初めて来るような場所だ。こんなところに5年も潜伏していたわけで、これは鎮守府でも確認が出来ない巣と言われても納得が行く。

 

「そろそろです……」

「りょうかーい。それじゃあ巣を壊す準備するから、護衛よろしくお願いしまーす」

 

 萩風の言葉と共に艦隊は一旦ストップ。ここからは海底にあるという深海の巣を破壊するための行動に移る。

 この場所はやはり嫌な思い出になるか、少し体調悪そうに俯く。ある意味一番はっちゃけた場所、人類の敵として活動していた拠点である。萩風のためにも、早々に破壊してあげたいところ。

 

 少し重武装だった夕張さんが準備するのは、海底に向けて投下する大型の爆雷。その数3つ。私達駆逐艦や現在進行形で取り扱っている海防艦が使っているものとは全く違う大きさの、それこそドラム缶1つ分の大きさほどある砲弾のようなもの。これが狙われるのもまずいため、防衛が必須。

 私達では到底扱える代物では無く、普段使いするわけにもいかないもの。使える者自体を限らせているほどの代物である。おそらく夕張さんしかこれは扱えない。霧島さんなら投げ飛ばせるのではと想像してしまったが、失礼なのでそこでやめておく。

 

「海底に辿り着いたところを確認して着火するから、まず場所の確認で潜水艦ラジコンを使ってーっと」

 

 さすが整備班、瞬く間に準備をしていく。ラジコンの扱いも鎮守府イチであり、工廠仕事が無ければ毎回遠征の旗艦に抜擢されるレベル。

 

「あ、ホントにあった。でも潜水艦も結構いるかな。対潜装備の皆さん、よろしくお願いしまーす!」

「了解です。みんな、お仕事追加ですよ!」

 

 巣というものは見ればわかるものらしい。まぁおそらく深海棲艦が生まれてくる穴みたいなのがあるんじゃないかと思う。爆雷で破壊するくらいだし、ホールインワンでも狙うのだろうと勝手に解釈した。

 夕張さんに呼ばれ、大鷹さん率いる対潜部隊が夕張さんの周囲を陣取り、巣に群がっているらしい潜水艦を次々と処理していく。

 

「周りも群がってくるな。おーし、バリの邪魔させないようにするぜぇ」

 

 そうこうしているうちに、巣を守ろうと海上の深海棲艦も群がってくる。これを邪魔されては、今後こちらが不利になりかねない。小粒でも集まられたら押し潰される可能性だってあるのだ。だから今のうちに根本から断つ。

 

「萩風ちゃん、大丈夫ね?」

「は、はい、ある程度は飛ばしていただいても!」

 

 唯一の非武装である萩風は、由良さんのコントロールする大発動艇に掴まっていた。激しく動くそれから振り落とされないようにするのに必死だ。

 由良さんも器用なもので、自分では主砲で攻撃しながら、萩風のことまで気を遣って行動している。この人も哨戒任務常連だし、こういうことも手慣れているのかもしれない。

 

「オッケー、妨害が無くなった! 投下するから撤退!」

 

 対潜部隊の奮戦もあり、巣の破壊の準備が出来たようで、夕張さんが大型の爆雷を海中に投下。中に火薬がパンパンに詰まったドラム缶が海中に沈んでいくようなもの。あんなものが爆発する真上にいようものなら、海底から爆発しても何かしらの影響がありそうだった。

 そのため即座に撤退。海上の深海棲艦をある程度沈めつつ、投下地点から離れていく。爆雷が海底に到着するまでにも大分時間はかかるが、形状で沈んでいく速度を調整しているらしい。

 

「海中から深海棲艦って出てくるんだよね……今この場でいきなり出てきて爆雷の妨害するとかって」

「それどころか、海上の深海棲艦だって巣に戻ろうとして海中潜るからね。深海棲艦って、深い海に棲むって書くんだから」

「じゃあ全部潜水艦なんじゃないそれ」

「大丈夫大丈夫。あれ、自走するように作ってあるから」

 

 なら今の爆雷だって妨害される可能性は充分にあるということだ。邪魔しそうなものはおおよそ処理はしたが、最後まで気が抜けない。

 

「よし、辿り着いた! 爆破!」

 

 夕張さんが手に持っていたスイッチを押した瞬間、ほんの少しだけ海面が揺れたように感じた。流石に海面にまでその威力が伝わってはこないかと思ったが、巣が破壊された影響か、投下地点に突然渦潮が発生。撤退したのはこれに巻き込まれないようにするためだったようだ。

 

「よーし、巣の破壊成功! 今回はこれで撤退します!」

 

 これにより、巣の破壊任務は完了となる。今はまだ倒しきれていない深海棲艦などもいるが、後日残党狩りとしてまたここに来ることになるだろう。あの渦潮が治まるまではあの辺りには近付きたくないというのもある。万が一のことを考えると、今でも危ないくらいなのだ。

 

「萩風、大丈夫?」

「……大丈夫です。これで私のしがらみが全部無くなったんですから」

 

 それにしては少し浮かない顔。やはり今まで自分のいた場所が破壊されるというのは辛いものがあるのだと思う。しかし、これがあってはならないものであることも理解しているので、複雑な心境なのだろう。

 そういう意味では、萩風は自分の全てを2度失ったことになる。1つ目は人間としての全て、そして2つ目は深海棲艦としての全てだ。残されたのは後遺症とも言える私への執着心のみ。不幸に不幸が重なっているようにしか見えない。

 

「しっかりするっぽい! ハギィは夕立達の仲間になったんだから!」

 

 そこにいい意味で空気を読まずに突撃してくるのが夕立である。戦闘後でも疲れた顔1つ見せずに、萩風の境遇なんて忘れてしまったかのように接する。早速渾名まで付けて。

 夕立のトラウマ、敗北の記憶を刻んだのは紛れもなく駆逐水鬼であり萩風だ。だが、そんなことお構い無しにズカズカと心の中に入り込もうとするのが夕立のいいところでもあり悪いところでもある。

 

「あの変態クソヤンデレはハギィじゃないでしょ。終わったことだし気にしちゃダメっぽい!」

「……でも」

「デモとストも無いっぽい! ハギィはハギィ、アレは別物、そうじゃないの? そうじゃ無かったら夕立がハギィのことボコボコにするけど」

 

 過激な発言だが、夕立なりの思いやりだ。萩風に対して、とにかく気にするなと元気付けるように叱咤激励。それで簡単に気を取り直すことが出来れば苦労はしないが。

 だが、次の発言で萩風の表情が変わる。

 

「ウジウジしてると、ゲロちゃん夕立のモノにしちゃうからね」

「誰がアンタのモノか」

「それは困ります!」

 

 執着心に火をつける一言に萩風が途端に声を荒げた。それがダメな感情とわかりながらも、夕立に刺激されたことで突如燃え上がった。だがすぐに我に返ったようで頬を赤らめながら俯いていく。

 

「よし、ハギィ、今晩ゲロちゃんの部屋に集合。異端児駆逐艦でお話ししよ。間宮さんに甘いもの用意してもらうから」

「え、えっ」

「パジャマパーティーっぽい! 言いたいこと全部言って、やりたいこと全部やって、パーッと気晴らしするっぽい!」

 

 なんか勝手に決められていくが、それくらいしないと萩風が明るくなることはないかもしれない。巻き込まれた磯波と沖波は苦笑するしかないみたいだが、否定的ではない辺り、心遣いが見て取れる。

 

「夕立ちゃん、あんまり近付かないでね。大発が沈んでパジャマパーティーとか出来なくなっちゃうから」

「あっ、ごめんっぽーい」

 

 由良さんに窘められて笑顔で離れていった。萩風も少しだけ表情に変化があったように思えた。

 

 巣の破壊はこれで終了。駆逐水鬼との戦いは完全に終わった。これでこちら方面に太陽の姫の関係者はいなくなったと信じたい。

 




夕立の空気の読まなさはいい具合に働きます。
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