異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

65 / 284
萩風の鬱憤

 駆逐水鬼の巣を破壊したことで、後顧の憂いを断つことが出来た。後日残党狩りをする事で、その海域は静かな海を取り戻すことになるだろう。

 しかし、この一件により、萩風は今まで持っていたものを全て失ったことになるためか、誰が見ても落ち込んでいるように思えた。存在してはいけないものでも、それが今まで自分の居場所として機能していたものなのだから、複雑な感情が渦巻いても仕方ない事。

 

 それを見兼ねたのか、夕立が叱咤激励するように夜に集まることを提案。割と勝手に巻き込まれた私、陽炎含む異端児駆逐艦だが、萩風に元気になってもらえるのならそれくらい問題無い。

 後遺症のこともあって過度な接触は悪化に繋がりそうなのだが、今の萩風を見ているとそれくらいの集まりはした方がいいと思う。これからの人生を明るく歩けるようにするために、鎮守府が楽しくなった方がいい。

 

「巣の破壊、完了しました! 後は渦潮が引いた後に残党狩りをしたらおしまいです」

「ご苦労さん。怪我人はいないようだね」

 

 無事鎮守府に帰投し、夕張さんが空城司令に報告する中、大発動艇から降りる萩風は少しだけふらついていた。慣れない航行に加え、戦闘に巻き込まれたことで疲れも激しいようだ。

 

「大丈夫っぽい?」

「えぁ、だ、大丈夫です。すごく疲れちゃってて……」

「ハギィも体力無いっぽいね。ここにいる間にみんなと体力作りするといいよ。ゲロちゃんもやってるしね」

 

 それを支えたのは夕立。なんだかんだで積極的に仲良くなりに行こうとしている。それが夕立のいいところだと思う。軽口も夕立の性格を理解していれば一切の悪意が無いことがわかる。

 萩風と駆逐水鬼を同一視している者は誰もいない、私だってそうだ。萩風とはみんなが仲良くしたいし、落ち込んでいるなら慰めたい。一番槍が夕立になっただけで、みんな同じ気持ち。私は少し手が出しづらい立ち位置にいるだけ。

 

「萩風、ご苦労さん。初仕事がこんなことになって悪かったね」

「いえ……お役に立てたのならよかったです」

 

 少し疲れた笑みを浮かべた。まだ心にしこりがあるような雰囲気。吹っ切れるのには時間がかかるか。満面の笑みを取り戻すことは出来るだろうか。

 

 

 

 夜、夕立の言っていた通り、異端児駆逐艦が私の部屋に集まることになった。萩風が来る前から何度もやっていることではあるが、今回は今までと少し違い、お菓子まで用意されている。寝る前の甘いものとか乙女の身体にあまり良くなさそうなのだが、こういう時こそパーッと気晴らしが必要。甘いものはストレス解消には持ってこい。

 

「お、お邪魔します」

「主役の登場っぽーい!」

 

 おずおずと入ってくる萩風を出迎えるのを、夕立が手を引っ張って引き摺り込んだ。

 パジャマパーティーだと言われていたのだから、当然全員寝間着。夕立だけは少しアレだが、まぁ寝るときの姿なのだから問題無い。萩風も例に漏れずしっかりとパジャマである。

 

「まぁほら、これからはみんな仲間なんだからさ、一番身近になるだろう私達から慣れていってよ」

「は、はい」

 

 私の顔を見て身体を震わせるのはもう仕方のないこと。なるべく刺激しないように少しだけ慎重に。

 

「はい、お菓子と飲み物。ジュースで良かったかな」

「えっ、は、はい、ありがとうございます」

 

 沖波に渡されてジュースに口をつけている。まだまだ緊張感が抜けきれていないようだが大丈夫だろうか。

 

「もしかしたら陽炎ちゃんみたいに悪い夢を見ちゃうかもしれないし、今日一晩は一緒にいることにしました。昨日の晩は大丈夫でしたか?」

 

 磯波が心配そうに話しかける。昨日はなんだかんだで部屋を与えられた後にほぼ誰とも顔を合わせずに夜を迎え、そのまま就寝したと思う。悪夢を見たとしても誰を頼ることも出来ず、ただただ魘されるのみというのは確実に辛い。私がそうだったし。

 今朝顔を合わせた時にはあまり違和感はなかった。眠れなかったとかは無さそうだったし、涙目なこともなかった。だが、何かしらあったかもしれない。

 

「……夢、見ました。あのときの夢です。私が駆逐水鬼として敵対しているときの記憶が……」

 

 どんよりとした表情になり、俯いていく。私のような失った記憶を思い出していく悪夢ではなく、今までやらされていた行為を省みる悪夢なのだから、余計に辛いだろう。

 自分の意思でもないのに罪悪感に苛まれ続け、最悪な目覚めを体験している。それを表に出さなかったのは、素直に感心した。出来れば出してもらいたかったのだが。

 

「ハギィは多分溜め込みすぎっぽい。鬱憤ストレス全部ぽいぽいぽーいしよ! 夕立達が全部聞いたげるから」

「そうです。愚痴を聞くくらいしか私達には出来ませんから、いくらでもどうぞ」

 

 夕立と磯波の距離が妙に近い。悩める萩風を心配してグイグイ行く。逆に萩風の方がタジタジ。

 そもそもこの集まりは、萩風の気晴らしがメイン。言いたいことを言って、やりたいことをやって、が目的。当事者が強制的に参加させられたことを除けば、今回は萩風のオンステージである。

 

「そんな、愚痴なんて……」

「意思関係なしにあんなことやらされたんだからさ、文句の1つや2つあるでしょ。私にだって腐るほどあるのに」

 

 こういう場だからこそ、自分を出してもらいたい。羞恥心とか罪悪感とかでそれが出せないのなら、何かしらの呼び水を与えてやる必要がありそうだ。

 なら、私がきっかけを作ってあげてもいいか。私だって鬱憤が大分溜まっているし。

 

「そもそも何で私らが選ばれたんだって話よ。何が目的か知らないけど、人様の人生壊しておいて何様のつもりだっつーの。ねぇ?」

「まぁ……はい」

 

 なんだか酔っ払いの絡みみたいになってしまっているが、気にしたら負け。

 

 だが、少し口にしたら愚痴という愚痴が出るわ出るわ。そういえば今までこういうことを表に出したことって殆ど無かったように思える。話を聞いてくれる空城司令にすら、ちょっとした泣き言くらいしか言ったことが無かったのではないだろうか。

 萩風の愚痴を引き出すために始めた私の愚痴がどんどん激しくなるのは正直申し訳無かったが止まらなかった。そしてそれを誰も止めなかった。

 

「ああもうホント腹立つわ。なーにが日天の前を疾る陽炎だっての。あの厨二病痴女め。今度あったらケチョンケチョンにしてやりたいわ!」

「陽炎ちゃんも溜まってるねぇ……」

 

 沖波にジュースを注いでもらったところを一気飲み。喋り倒して喉が渇く。

 

「そもそも太陽の姫だかなんだか知らないけど、さっさと表に出ろってのよ。やることやってその時が来るまで隠れてるとか日和ってんじゃないよホントに」

「あの姫は表舞台に出たがりませんから……」

「じゃあ最初から出てくるなって話だよね。10年前からすっこんでろって思うわけよ私は。侵略始めておいて後は他に任せるとか都合良すぎでしょ。萩風、そう思わない?」

 

 自分でも止められなかったが、いい感じに吐き出す雰囲気になってきている。だからこそ、このタイミングで萩風に振ってみた。今なら思いの丈を吐き出してくれると信じて。

 悶々とし続ける方が身体に毒だ。ただでさえ常に罪悪感に苛まれるのなら、定期的に吐き出す方が断然いい。その1回目が今になればいいと思う。

 

「……私もそう思います。たまに出てきたら人を陥れてから後ろに引っ込むだけですから」

 

 やはり太陽の姫には思うところがあったようだ。ポロリと本音が出始める。幸せな人生を全て破壊されたのだから、怒りや恨みの1つや2つがあってもおかしくない。

 

「あの人何言ってるか全然わからないんです。話し方が古風というか、言い回しがおかしくて」

「そう、それそれ! 夢の中の話だけど、私もそうだった! 最初に自己紹介するときも『我ハ日』だからね。何が我よ、神様気取りでさ」

「指示もこちらで意図を読み取らなくちゃいけなくて……だから私は暴走したんだと思います。聞き取れたのが日ノ下ニ出ズル陽炎とか、陽炎さんのことばかりなので」

 

 他にもいろいろ指示していたのだろうが、とにかくわかりづらい表現のせいで私の存在のことくらいしか理解が出来なかったようである。

 

「夜が怖くなったのも太陽の姫のせいです。あの人が眩しすぎるせいで、暗いのが怖くなったんです。そうしたら陽炎姉さんも太陽の化身だとか言うので……」

「なるほどね、それが5年間も溜まりに溜まったらああもなるか……」

 

 結果、私の存在のことが深く深く刻まれてしまい、そのまま私への執着心へ変化して今に至ると。ろくなことしないな太陽の姫。

 

「今でも残ってるっぽい?」

「……はい。あそこまでの暴走はしませんけど、悶々と残ってます。5年間溜めに溜めたものなので」

「だったら発散しちゃえばいいっぽい!」

 

 突然萩風の背中を押す夕立。あまりに不意打ちだったせいで体勢を崩し、私の方にもたれかかることになってしまった。お菓子や飲み物が無かったため部屋が大惨事になることはなかったものの、萩風は顔面が私の胸に押し込まれるような形に。

 

「あ、これまずいんじゃ……」

「ストレス溜めるよりも思いっきり出しちゃった方がいいっぽい。だからって誰もハギィのこと軽蔑したりしないでしょ? 変態クソヤンデレみたいに気持ち悪くないもん」

「だけどさ……」

 

 その萩風は、私の胸に押し付けられた顔で何か色々堪能してしまっている。むしろ自分から押し付けに来ている。

 

「ふぁ、か、陽炎姉さんの温もりが……()()()()身体が望んでいた何もかもが……っっ!?」

 

 ビクンと大きく震えた。植え付けられた執着心が激しく刺激され、駆逐水鬼としてやりたかったであろう行為がやれてしまっていることで、大きすぎる満足感が身体を駆け回っているようである。

 突き放すのも何か違う気がするし、受け入れるのも萩風のためにならない気がした。故に、私の視線は助けろと言わんばかりに沖波や磯波の方へ。その2人もどうしたものかと手を拱いてしまっている。

 

 だが、震え方が変わった。()()()()震えではなく、泣いているような震え方。私の胸にも少しだけ水の感触が伝わってくる。

 

「なんで……なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないんですか……普通に平凡に暮らしてただけなのに、全部壊されて!」

 

 この体勢になり幸福感に包まれたことで、いろいろと感情の枷が外れたのだろう。聞いた通り、萩風は私達と同年に見えて実際は5つ歳上。少しだけ大人な分、そういうのに対して我慢してしまう気質があったのだろう。それが外れたことで、心の奥底に溜め込んでいた鬱憤が、あれよあれよと溢れ出てくる。

 

「お父さんもお母さんも死んで! 友達も死んで! 帰る場所も無くなって! 私が一体何をしたって言うんですかぁ!」

「萩風……」

「何なんですかこれ! 何で私が独り身になるんですか! なんで私を選んだんですか!」

 

 誰も何も言えない。多分選ばれたのはそこにいたからとかそういう適当な理由なのだと思う。あの太陽の姫に深い考えがあるのかは私達にはわからないが、なんとなくそれだけは当たっているように思えた。

 

「なんで! なんでなんでなんで!」

「吐き出しな、今日は受け止めてあげるからさ」

 

 今だけは好きに言えばいい。誰も咎めないし、むしろ同情してくれる。

 萩風の止まらない鬱憤をみんなで静かに聞いていた。吐き出すだけ吐き出せば、その分スッキリ出来るだろう。夕立が言った通り、鬱憤ストレスぽいぽいぽーいの時間だ。夕立すら少し神妙な表情だった。

 

 しばらく泣き続け、溜まった鬱憤を吐き出し、幾分かスッキリしたように思えたので今度はこちらから。

 

「萩風……今まで大変だったね。もう苦しまなくていいからさ、私ら頼ってよ。今日から生まれ変わった新しい人生を歩き始めるんだって思ってさ」

 

 軽く頭を撫でてやるが、これは逆効果だったかもしれない。一撫でする毎にビクンと震える。最初の1発よりは控えめかもしれないが、幸福感に震えていた。

 

「そうです、みんな仲間ですから。辛いことも一蓮托生です」

「うん、悩みがあったらすぐに相談してくれればいいし」

「ぽい! 憂さ晴らしなら夕立が付き合うっぽい!」

 

 三者三様だが、みんなが萩風のことを思って近付いてくれていた。そう、この鎮守府は全員が全員を支え合うくらいの一蓮托生な空間。みんなが仲間だ。頼りたいときに頼ればいい。

 

「はい……はい……よろしくお願いします……私の、萩風の新しい人生を……支えてください……」

「任せなよ。私らは全員、萩風の味方だからさ」

 

 もう一撫ですると、一際大きく震えて体重を私に預けてきた。そして泣き疲れたかそのまま眠ってしまった。張り詰めていたものが切れたようである。これで少しでも明るく生きられるようになってくれると嬉しい。

 

 これならきっと大丈夫だ。萩風は吹っ切れることが出来る。

 




萩風って嫌なことでも周りに言わずに溜め込んでしまいそうなイメージがあります。ストレスで倒れそうな艦娘の中でもかなり上位にいそう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。